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27・シリアスからの大ピンチ!

 あたしたちは息を顰めてようすを窺っていた……向かい合っているエーディとシャルロの。

 ここはエストラの古城。そう、すべてゼフィールの予想通りだった。

 シャルロが、エーディをここに呼び出したのだ。


 あまり近づくとエーディはあたしたちの気配に気づいてしまう。だから、今いる隠れ場所からは、二人が何を話しているのかは聞き取れない。だけれども、漂う雰囲気が決して和やかなものでない事くらいは判る。


 あたしは初めてシャルロを見た。あたしのシナリオの中では、名前すらあったかどうか、という、本当にエーディのキャラ設定の為だけに存在していた人物。『あたしのキャラ』だったエーディに、あたしの萌えである可哀相設定(弟の罪のせいで自分を責めている)を盛る為だけに生み出された人物。当然、殆ど思い入れはない。まさかこんな事になるなんて、誰が想像できると思う?

 だけど今、現実となったこの世界では、勿論シャルロは、あたしやエーディと何の変わりもないひとりの人間だ。銀の髪に碧いひとみ……双子かと思うくらいに、エーディとよく似ていた。ただ、纏う雰囲気はまるで違う。


(ほんとうに……理想家で優しいひとなの?)


 お城で聞いたゼフィールの話から想像していたのとはまるで違う……。表情まではよく見えないのだけれど、漂わせる空気は、冷たく硬い……。

 あたしは怖くなる。自分で設定していなかった重要人物。どんな人間なのか、まるで解らない。そのひとが、あたしの大切なエーディと対峙している。こんなに不安を感じたのは、この世界に転生してきて以来初めてだった。


「おい……あいつは本当にあのシャルロなのか?」


 あたしの傍にいたアルベルトが呟いた。兄の言葉に対して、ゼフィールは緊張した様子を隠そうともせずに、


「そう……の筈です……」


 と答えた。

 皆が、違和感を覚えているらしい。アルラだけが、冷静なように見えた。シャルロとは特に過去に接点もなかったんだろう。

 でも、深く考えている暇はない。エーディとシャルロは言い争い始めたようだった。エーディは、剣の束に手をかけたけれど、まだ迷っているのが感じられた。たったひとりの弟に、久しぶりにまみえた弟に、剣を向けることを。罪を償わせる事を一番に主張し、自分までもが罪を被ったというのに、弟に対する情を捨てきれないのが伝わってきて、あたしの胸は痛くなる。

 ぽんと、大きな手が肩に置かれた。アルベルトは微笑み、


「大丈夫だ、心配するな。俺が、あのふたりを助けるから」


 あたしは思わず涙を零してしまう。アルベルトの手の温かさが伝わる。どうしてそんなに優しいの……あたしは貴男を振ったのに。


「おまえもエーディも、俺にとって大事な存在だ……だから泣くな。その……昼間の事は気にしなくていいから」


 そんな事まで言ってくれる。これが、器の広さというやつなんだろうか、とあたしはぼんやり思う。


「もう少し……近づこう」


 あたし達は隠れ場所を移動した。切れ切れと会話が聞こえてくる。普段ならエーディは気づきそうな距離なんだけど、シャルロに気をとられていて判らないみたいだった。


「……さえいなければ! 何故わからない?!」

「馬鹿な事を。そこまで堕ちたか!」


険悪な感じがびりびり伝わってくる。『……さえいなければ』と言ったのはシャルロ。『……』はやっぱり王様の事なんだろうか。やっぱり彼は王様の暗殺一派だったのだろうか。そして、いまも?

 アルベルトとゼフィールも同じ事を思ったらしく、眉を顰めて唇を噛んだ。


「何故……シャルロ」


 と、彼と仲の良かったゼフィールは呟いた。


「やはり心は変わりませんか」

「当たり前だ! わたしはあの方を全身全霊を込めてお護りする!」

「……それは、騎士としてですか?」

「当然だ!」

「兄上は惑わされているのです。何がこの世界に大事なのか、理解しようともせずに、私情に溺れているのだ。堕ちたのは兄上のほうだ」

「私情ではない!」

「私情だ!」


 ……なんだろう、この流れ。王様を護るのは、当たり前の事であって、私情(甥として?)かどうかなんてそんなに重要?

 でも、色々考えている時間はなかった。遂にエーディは剣を抜いた。


「とにかく、おまえに何の反省もないのは良く解った。大人しく捕まればそれでよし、抗うのであれば脚の腱を切り、無理にでも連れ帰る」

「……まぁ、兄上がそう仰るのは、半ば分かっていました。もし私の言葉に耳を貸して頂けたら……最初で最後の機会と思い、お呼び立てしたのですが。私が剣の腕で兄上に敵う筈がない事くらい誰にでも判ること。しかし私は大人しく捕まる気も斬られる気もありません」


 ……シャルロにはなにか策があるらしい。秘密の隠れ場所にでも逃げ込む気なんだろうか? でもエーディが逃がすとは思えない……。剣を抜いた兄に対し、シャルロは懐にゆっくりと手を入れる。


「で、殿下……」


 あたしはアルベルトの袖をひく。アルベルトは力強く頷き、立ち上がった。


「やめろやめろ二人とも! 物騒なものはしまえ。俺が話を聞く!」


 エーディは驚いたようだったけれど、シャルロの方は、まるであたしたちが隠れているのを知っていたかのように動揺を見せない。


「これは、お久しぶりです、アルベルト殿下。益々お父上に似てこられたようですね」

「そんなことどうでもいい。おまえは一体何がしたい? 本当におまえはあの、ひ弱でも心は強かったシャルロなのか」

「アルベルトさま、どうしてここに……?」


 エーディは、こんな無人の場所に伴も連れずに現れた王太子にかなりびっくりしたらしい。自分の失態であとをつけられでもしたのだろうか、という疑問が顔に書いてある。


「ゼフィールの推理だよ。エーディ、ユーリッカに心配かけやがって。何故そうおまえは自分一人でしょい込もうとするんだ。性分なのは判っているが、そんなに俺は相談相手になれないのか」

「これは我々兄弟の問題で、アルベルトさまにご迷惑をおかけする訳には参りません。それより、離れて下さい。飛び道具を持っているやも知れません」


 懐に手を突っ込んだままの弟を、険しい視線で牽制しながらエーディは言う。そしてシャルロに対し、


「アルベルトさまに傷ひとつでもつけようものなら、今この場でおまえを斬り捨てる」


 と告げた。


「べつに、今はアルベルトさまを害しようなどとは思っていませんよ。久しぶりに会った従兄ではありませんか」


 軽い口調でそう言うとシャルロはぱっと両手を懐から出す……まるで、丸腰であるのを示すかのように。

 だけど。あたしは、その手に小さな刃が握られているのを見た。シャルロは右手の短剣をアルベルト目がけて投擲する! 咄嗟にアルベルトはそれを弾くべく腰の剣を抜き、同時にエーディも彼を庇うように動く。あたしは思わず立ち上がり、


「エーディ! アルベルトさま!」


 と叫ぶ。武術は苦手そうなイメージだったのに、いつの間にか技術を身につけていたんだ!


 だけど。シャルロの狙いはアルベルトではなかった。


「ふっ、やはりいたな、魔女め」


 そう呟くと、彼は左手のナイフを、あたしに向けて投げてきた! 彼の狙いは、あたしだったのだ。

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