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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第三話二部 準備

その日の夜、ユーリンはレイカから『夜になったら酒場に来るように』という言いつけを守るためにカトレアを連れて酒場まで歩いていた。


「依頼内容は理解しました。しかし、なぜラルド首相はレイカさん宛てに手紙など出したのでしょう?」

「さあ? わかんない」


昼間はあまりの暑さに体中から汗が噴き出すこの地方も、夜には比較的涼しくなる。

それにしたって、いささか蒸し暑いくらいであるが、昼間の灼熱に比べれば天国である。

チカチカと点滅する木製の電柱の明かりの下を、二人の男女が進んでいく。


「そうですか。では今回の依頼に対する報酬はいかほどに?」


ユーリンの隣で液晶タブレットを持ちながら歩くカトレアは、その報酬をもとに作戦内容を決定しようとしていた。


「まぁ、実質的には四百五十アルクかな」

「……チッ」

「えっ! 舌打ち!? 今舌打ちしたよね!?」

「さぁ? なんのことでしょう」


その後は、いくらユーリンが話しかけてもカトレアは返事さえしてくれなかった。

やがて町内に入り、完全に静まり返ったコンクリートの一軒家を次々通り過ぎていくと、町の広場に一つだけ盛大な明かりを灯す建物に到着した。

ここが、レイカが女将を務める酒場『ジェーン・ドゥ』である。

ユーリン達は人で溢れかえる広い酒場の中に入って騒がしい人混みをかき分けてなんとか酒場の中心辺りまで進もうとした。

元々この酒場のある家が大きいため、町の大人達の大半はこの中に入っている。

残りは窓や天井から中の様子を窺がっていた。

ユーリン達がたどり着いた酒場の中心、宴会などに使われる大きな長方形のテーブルの傍にはレイカがおり、ユーリン達の姿を見ると笑顔で手招きをした。


「やぁ、レイカさん」

「こんばんは、ユー君」


レイカはユーリンとカトレアを自分の隣に立たせると、酒場の外まで聞こえるような大声で話し始めた。


「それじゃ、話すわね! まずはっきりと言うけれど、ここにいるユー君とカトレアちゃんはみんなを助けるためにここに来たの! それを忘れないでちょうだい!」


酒場の内外が大きくどよめいたが、レイカは気にせずに言葉を続けた。


「明日の朝、この町に盗賊団が来るわ! 今はみんなで協力するしかないの!」


盗賊団が来るという話はユーリン達が酒場に着く前にレイカがほぼ全員に説明したので、それは問題ない。

しかし、盗賊団の撃退に町の皆ではなくよそ者の、それも民間軍事会社の人間を使うことに、ミルタの人間達は少なからず不快感を示した。


「静かにしてくれ、みんなっ!!」


窓やテーブルが小刻みに震えるほどのゲンザンの大声に、酒場の内外は静まり返った。


「俺や女将だって、こんなうさんくさい奴ら信用しちゃいねぇ! みんなも不満はあると思うが、まずは女将の話を聞いてくれ!」


よく聞くとイラつく内容だったが、ユーリン達も今はゲンザンに感謝するしかない。

人々の耳目が再びレイカに向けられると、レイカは話を続けた。


「とにかく明日の朝、みんな玄関や窓の扉は閉めてじっとしてちょうだい! 盗賊団はユー君とカトレアちゃんがなんとかしてくれるわ!」


今までの流れを見て、ユーリンはあることに気付いた。


(なんだ、あの目?)


それは、人々がレイカに向ける視線だった。まるで救世主を見るかのような、少なくとも、ミルタの人間はレイカに絶大な信頼を寄せていることが、目線一つで理解できた。

その後は町人達も一応納得したようで、みんなそれぞれの家に帰って行った。


「ごめんなさいねぇ~、あの人達、軍事会社のことよく思ってないから」

「お気になさらず」


カトレアがぶっきらぼうに答えるのを確認すると、レイカはユーリンの方を見た。


「ユー君も、今日は大変だったでしょう? 今日はゆっくり休んで明日に備えてちょうだいね?」

「うん、わかった!」


見た目にマッチした元気な声で返事をすると、ユーリンはカトレアを連れて酒場の外に出た。

中では未だに残っている町人とレイカの話し合う声が聞こえたが、それはユーリン達には関係のないことである。

ユーリン達は盗賊団をどのようにして殲滅するかという事を考えることが、民間軍事会社の人間である自分達の責務であるからだ。

二人はアパートまで着くと格納庫の方に行き、ユーリンはカトレアに遠慮がちに質問した。


「……クリーガーの修理はどんな感じ?」


ユーリンの目の前には、プレハブの隙間から漏れる月明かりに照らされた、外装のほとんどをファイントのパーツで構成されているクリーガー改が直立で保管されていた。

ユーリンと別れた後、カトレアが黙々と修理をしていてくれたらしい。

料理の類はともかく、このような能力はユーリンにとってはとてもありがたいものだった。


「損傷したパーツのほとんどをファイントのパーツと交換したため、通常動作が少し鈍重になりますが、保管していたジャンクのスラスター類を修理して装甲と共に各部に増設したため、機動力は向上しています」

「へぇ~、それで、部隊の内訳は?」

「残念ながら、今回は我々のみとなっています」


カトレアの発言に耳を疑ったユーリンが格納庫の入口の近くにある照明のスイッチを押すと、倉庫の中が明るく照らし出されてた。

倉庫の床には取り外したクリーガーの損傷した外装パーツや配線類などが散乱し、移動式装備ラックには弾薬の補充された百ミリ突撃小銃とプラズマ焼尽式パラングが設置されていた。


「……マジ?」

「はい」

「なんで!?」

「……さぁ?」

「いいの!? そんなんで大丈夫なの!?」

「それから、明日の作戦にはレイカさんも参加する予定ですので」

「話聞いてる!?」

「ちなみに、このクリーガーの名前は『クリーガー改マニューバ』です」

「ぶほっ!?」


相変らずの漫才を披露する二人の奥で、クリーガー改マニューバのカメラアイは不安な表情を浮かべているような気がした。


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