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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第二話三部 かつての栄光

カトレアはクリーガー改が空挺降下するのを確認すると、中央のタッチパネルを操作して狙撃銃の出力を六十パーセント前後に設定し、トーチカに設置されたレールガンに照準を合わせて狙撃した。

赤い光線が暗闇の砂原を突き抜けて砲台に直撃すると、爆発こそしなかったが砲台は加速された重粒子の熱と衝撃で融解し、使用不可能となった。

突然の事態に驚くファイント六機は暗視モードで索敵を開始したが、砂漠迷彩を施し、対赤外線遮断塗料を塗布したマントを被ってうつ伏せになっているイェーガーを見つけることは難しく、たまにモニターに光線が流れるだけで、一機また一機と撃破されていった。


「今回は減重力システムもオート機能も使えるんだね!」


地上に落下するクリーガー改のタッチパネルをいじりながら、ユーリンは喜びを隠せずにいた。


「私が修理しましたから」


六機目のファイントを撃墜したカトレアは、少し自慢げに言い放った。

その声をヘルメットのスピーカーで聞いていたユーリンはモニターに映る基地を見て焦っていた。


「どこだ、どこだ!」


中央のタッチパネルを素早く操作して、クリーガー改の六つのカメラアイをすべて望遠観測モードにしたユーリンは必死で大臣を捜索した。

すると、一つのカメラの画面にスーツ姿のデップリとした体形の男性が映った。

男性がいるのは基地の中央であり、見せしめのためなのか、磔にされて周りは警備の人員が慌ただしく動き回っていた。


「見つけた!」


ユーリンはそう言うと、左右の液晶パネルの兵装覧で百ミリ突撃小銃と、プラズマ焼尽式パラングを装備した。

直後、クリーガー改の後部に装備されたバンツェル用のパラシュートが展開した。

少しだけ体に負荷が掛かったが、減重力システムのおかげで胃の内容物をヘルメットの中にぶちまけるような地獄は経験しなくて済んだ。


「カッチャン、援護お願い!」

「少々お待ちを。砲身を冷却中です」


すでにイェーガーの装備する狙撃銃の砲身は赤く灼熱しており、カトレアは砲身が冷めるのを黙って待つことしか出来なかった。

気がつくと、地面はクリーガー改の足元に迫っており、パラシュートシステムに備え付けられた落下制御用のスラスターが作動してクリーガー改を着地させると、パラシュートはクリーガー改からパージされた。

クリーガー改が着地したのは基地の西側であり、基地の入口に陣取っていた三機のファイントがクリーガー改の姿を見て、戦闘態勢を整えた。


「ヤバッ!」


直後、クリーガー改に向かって百ミリ突撃小銃の弾丸やビーム突撃小銃のビームが雨あられと襲い掛かってきた。

しかし、オート機能のおかげで攻撃を感知したクリーガー改はシールドの付いた右腕をコクピットの前で構えた。

コクピットの中にも衝撃が走るなか、ユーリンは右の操縦桿を勢いよく前に突き出した。

後部のスラスターが勢いよく噴射して、クリーガー改が前方に突進すると共に、ユーリンは右手の操縦桿にある人差し指のスイッチを押した。

百ミリ突撃小銃が照準用カメラでロックオンした標的に次々と弾丸をばら撒いていき、やがて弾を撃ち尽くすと、そのまま突撃小銃を投棄してプラズマパラングで残り一機となったファイントに切りかかっていった。

しかし寸前の所で避けられてしまい、ユーリンはオートからマニュアル操作に切り替えて白兵戦に突入した。

キレイな訓練通りにビームサーベルで切りかかってくるファイントを内側のフットペダルを用いた足さばきでかわし、マニュアル操作で前後左右に動かすことができるようになった左の操縦桿を使って、ファイントの頭部と胴部を焼き裂いた。

ユーリンは崩れ落ちるファイントを確認すると、クリーガー改をオート操縦に切り替えて基地内部に進入しようとした。

基地の入口を頭部の二十ミリ機関砲で破壊して突破し、基地の中央まで来ると二十ミリ機関砲で周辺の建物の中にいる歩兵を排除して大臣の眼前で器用に停止した。

ユーリンは中央のタッチパネルで姿勢をしゃがんだ状態にすると、コクピットハッチを開けて専用の基部にハーネスを取り付けて地上に降下した。


「助けに来た! さっさと乗れ、おっさん!」


地面に着地したユーリンは、磔にされている人質を下ろしながら大声で話しかけた。


「誰がおっさんだ! ワシは―」

「ぶち殺されてぇのか、ジジイ! さっさとこいや!」


ユーリンは、意外と元気だった大臣の体にハーネスを取り付けると、大臣と共にハーネスでコクピットまで上昇して乗り込んだ。


「カッチャン! 人質を救出した!」

「了解。こちらはすべてのバンツェルを排除しました」

「やるぅ!」


ユーリンが喜んでいると、基地内の建物から武装したテロリストがワラワラと出てきた。

急いでクリーガー改の操縦桿を前方に倒したが、スラスターを噴射するヒマもなくクリーガー改は地面に轟音と共に倒れてしまった。


「な、なんだ、何が起きた?」


突然の事態にうろたえる大臣を尻目に、ユーリンは冷静に周囲を観察して状況を確認した。


「足を狙われたかな」


その様子はコクピット内のモニターからでも確認でき、周囲の建物にはロケットランチャーなどの重火器で武装したテロリストがこちらに銃口を向けていた。


「カッチャン! 足を撃たれて動けない! フライトポーターで上空に上がって火力支援要請!」

「了解しました」


カトレアはイェーガーを立たせてフライトポーターに乗り込んだ。

フライトポーターは垂直に上昇し、やがて前進しながら高度六百メートルまで急速に上昇した。

フライトポーターから頭部だけを露出させて、カメラアイで基地の様子を確認すると、カトレアは基地後方に控えている自走砲部隊に指令を出した。


「第一野戦砲兵小隊。こちらべネア・イクス・ロット、目標、敵基地、座標を送る。

 有効射撃、弾種を質量弾にて開始」

「認識完了、砲撃を開始します」


直後、イェーガーの潜伏していた地点のすぐ後方から明かりが見え、基地に砲弾の雨が降り注いだ。

爆音轟く基地の中で、ユーリンの乗るクリーガー改は砲弾の破片や建物の残骸に襲われていた。

その時、ユーリンのヘルメットのスピーカーからカトレアの声が聞こえた。


「社長、現在確認した情報ですが、そちらから一番近くの倉庫の中にランドポーターと思われる熱源を感知しました」

「了解、ありがとう!」


ユーリンはコクピットハッチを開けた。


「き、貴様、なにを!」

「黙ってろ!」


そう言うと、ユーリンは大臣と共にクリーガー改の機外に飛び降りた。


「ぐお!」

「急げ、早く!」


ユーリンは尻餅をつく大臣を連れて降り注ぐ砲弾の雨をかいくぐり、基地の倉庫へ大臣と共に駆け込んだ。

倉庫の中にはカトレアが言った通り、ランドポーターが保管されていた。

ユーリン達がランドポーターに近づこうとすると、その背後から人影が現れた。


「大したもんだぜ、あんた」


ユーリンはこの声に聞き覚えた。

しかし、今は記憶の海を漂っている場合ではない。

ユーリンは大臣の前に立って身構えた。


「あんた、無線の時の……」

「おうよ、しかし意外だったな。

 いくら寄せ集めとはいえ、俺達を追い詰めた奴がこんなガキだったとは」


男はそう言うと懐から拳銃を取り出した。


「ひっ!」


ベタなリアクションでおののく大臣とは別に、ユーリンはいたって冷静だった。


「目的はお金?」

「いや、そいつを殺してその映像を世界にインターネットでばらまく予定だったのさ。

 『国軍なんて保有してみろ、こうなるぞ』ってな」


男はあっさりと目的を喋ると、ニヤついた笑みを浮かべながら拳銃の引き金にかかる指を動かした。

蛍光灯で照らされた倉庫内で、ユーリンは男の左腕に注目した。

男の左腕にはタトゥーが彫られており、大きな鎌に黒いフードを被った骸骨の姿が描かれていた。

そのタトゥーを見て、ユーリンはクスッと笑った。


「てめぇ、なにがおかしい!?」


男は引き金から指を離し、ユーリンをにらみつけた。

男のその言葉を聞いて、ユーリンはどこか懐かしむような目で話し始めた。


「そりゃあ、こんな所で『第八独立遊撃大隊』の元隊員に会えるとは思わなかったからね」


そう言いながら、ユーリンはパイロットスーツの上半身を脱いで自身の左腕を見せた。

そのユーリンの左腕を見て、男は目を丸くして驚愕した。


「そ、そんな……まさかてめぇも!?」


ユーリンの左腕には男と同じ死神のタトゥーが彫りこまれていた。


「ま、もう昔の話だけどね」

「だったら話が早い! あんたも俺を手伝ってくれ!」


銃を下げて両手を広げ、急に友好的になった男に対して、ユーリンは単刀直入に言い放った。


「断る」

「なに?」

「アンタが部隊解散後、どんな人生を送ってきたかは知らない。でも、今の僕にはやるべきことがある」


その言葉を聞いて、男は再びユーリン達に銃口を向けた。


「ふざけんな!

 俺達を見捨てた政府に復讐するのが、俺達『死神部隊』の名誉回復になるんじゃねぇか!」

「言ったでしょ? 僕にはやるべきことがある。それは政府への復讐じゃない。『奴ら』への復讐だよ」


その言葉を聞いて、男はハッとした表情を浮かべた後、ユーリンに冷静な声色で尋ねた。


「本気なのか?」

「うん」

「奴らはいまどこにいるかもわかりゃしねぇ! それでもやるっていうのか!?」

「もちろん」


そんなユーリンの様子を見て、男はしばらく考え込んだ後、銃を下げてランドポーターの傍から離れた。


「いいの?」

「さっきはあぁ言ったが、俺は所詮、雇われの傭兵だ。

 同じ部隊にいた奴が相手となっちゃ、退くしかあるめぇよ」

「……ありがとう」


ユーリンは大臣を起こして後部座席に押し込むと、運転席に移動して倉庫のシャッターを突き破って基地からの脱出を試みた。


「がんばれよ、同志」


誰もいなくなった倉庫の中で、男の独り言が砲撃の轟音の中で静かに聞こえた。

ユーリン達が倉庫を出た時にはすでに基地は半壊しており、あちこちの建物が激しく燃えていた。

ユーリンはクリーガー改の傍までランドポーターを移動させると、助手席に備え付けられたタッチパネルと操縦桿で後ろにある両足の欠損したクリーガー改をクレーンで持ち上げ、ポーターの荷台にクレーンのアームで吊るしたまま座らせた。

砲撃は今も激しく続いており、後部座席の大臣はすでに恐怖のあまりに失神していた。

ユーリンは後部座席に移って大臣の腹を踏みつけて現世に引き戻すと運転席に座らせて、


「今から脱出する! 運転は任せたぞ!」

「ゴホッ、ゴホッ、あ、あんたはどうする!?」

「僕はクリーガーに乗って奴らを蹴散らすんだよ!」


そう言ってユーリンは助手席からポーターの荷台の方へ行き、クリーガー改のコクピットの中に入った。

モニターは一部が破損していたが、カメラアイが無事だったようで、照準も出来るようだ。

ユーリンは中央の液晶パネルを操作してクリーガー改に取り付けられた小型の外部スピーカーを起動させると、大臣に聞こえるように叫んだ。


「いいよ、出して!」


クリーガー改の外部スピーカーから発せられたユーリンの号令を聞いて、大臣は勢いよくアクセルを踏み込んだ。

ランドポーターは加速し、基地の真正面のゲートを突き破って脱出した。

そんな二人を追って、基地からテロリスト達の残党が十数台の装甲車やガントラックに乗って追ってきた。

元々バンツェルの輸送用に開発されたランドポーターは速度が出ない上、今はクリーガー改を乗せているため、敵車両との距離は徐々に縮まっていた。

ユーリンは眼前のモニターを見てカメラアイが車両群をロックオンするのを確認すると、右の操縦桿の親指のスイッチを押した。

直後、クリーガー改の頭部に埋め込まれた二十ミリ機関砲二門が火を噴いた。

二十ミリの機関砲弾を受けて、追跡車両の列はたちまち煙に巻かれてその車体は破壊されていった。

クリーガー改は首の部分だけを動かして次々と車両を撃破していくが、残り三台ほどとなったところで機関砲の銃身がオーバーヒートしてしまい、いくらスイッチを押しても撃てなくなった。


「カッチャン!」

「大丈夫です」


ユーリンの合図を聞いて、カトレアは左の液晶パネルから六連装ミサイルを選択し、敵車両の群れに照準を合わせると左操縦桿のスイッチを押した。

その操作を受け、上空のフライトポーターに搭乗しているイェーガーの後部コンテナが開き、ミサイルが高速で発射された。

ミサイルは地上の目標に向かって突進し、やがて車両に当たると大きな火柱を上げて残存の追跡車両を完全に破壊してしまった。

しばらくして、カトレアから通信が入った。


「敵残存兵力消失しました。追手はいません」


その言葉を聞いて、ユーリンも安心した。


「了解、これより帰投する!」


                             ※


「どっせい!」

「ぎゃあ!」


ギルト共和国の首相官邸にある首相執務室の扉を蹴破って入ってきたユーリンの、阿修羅も泣き喚く形相にラルドはションベンを漏らして床に崩れ落ちてしまった。


「ユ、ユーリンさん、いったい―」


その先の言葉を発するよりも早く、ユーリンの右回し蹴りがラルドの左側頭部を直撃した。


「ぷんねっ!!」

「やい、このボケ首相、てめぇ、危うく死ぬとこだったんだぞ! 金出せコラァ!」


ギャングも震えるタンカにビビったラルドは、大急ぎで一億アルクを持ってくるように電話で指示した。

やがて現金の入ったアタッシュケースを受け取ると、ユーリンはさもそれが当然かのように部屋を出ていこうとした。


「ユーリンさん」

「は?」


苛立たしげに振り向くユーリンに、ラルドは優しい笑みを浮かべながら言った。


「彼を助けていただき、ありがとうございます」

「バ、バカ! 僕は一億アルクが欲しくて依頼を受けただけだっつうの!

 別に、アンタが悲しそうにしてるとか、このままじゃかわいそうだとか、そんなこと全然思ってなかったんだからね!」

「はは、そうですか」

「……それより、大臣のおっさんは大丈夫なの?」


一応気になるのか、遠慮気味にユーリンが質問してみる。


「ご安心下さい。

 多少、奴らにやられたと思われる打撲傷がございますが、命に別状はないとのことです」

「あっそ、それと」


ユーリンは一呼吸おいて話し始めた。


「『死神部隊』の生き残りに会ったよ」

「えっ!!?」


ユーリンの話に、ラルドは目を丸くして驚く。


「まぁ、特に何もなかったけどね」


雪のように白い顔を微笑ませながら部屋を出ていくユーリンを、ラルドは驚愕の表情をしたまま静かに見守っていた。


ユーリンの意外な過去があきらかになりましたが、今後はどうなっていくのか?

そういった部分も書いていけたらいいです!

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