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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第二話二部 空挺降下は恐怖の味

再びヘリでミルタのアパートに帰ると、ユーリンは疲れ切った様子でパイプイスにもたれ掛かった。


「コーヒーをお入れします」

「うん」


カトレアはキッチンへ向かい、コーヒーの入ったマグカップを持って、ユーリンの元へ戻ってきた。

カトレアからコーヒーを受け取ったユーリンは、背筋が凍りつくのを感じてカトレアにある質問をした。


「ヒヤヒヤ?」

「ヌクヌクです」


その答えを聞いて、ユーリンは少し不満そうにコーヒーを啜った。


「あっつ! え、ヌクヌクだよね!? ゲキアツだよ、コレ!?」

「ふ~ふ~すればよろしいかと」

「バカにしてんの!?」


いつも通りの漫才をした後、ユーリンはカトレアの言った通りにふ~ふ~しながらコーヒーを飲み終え、先に依頼に取り掛かる準備を始めていたカトレアのいる格納庫へ向かった。


「それで、今回の作戦は?」


イェーガーのコクピットの中にある配線をパソコンにつないで作業しているカトレアに向かって、ユーリンは格納庫の半開きになったシャッターにもたれかかりながら話しかけた。


「まずアンドロイド歩兵を使って大臣を救出して離脱、その後ロケットや榴弾砲で基地を破壊します。

 それで済めば良いのですが、万が一バンツェルがいる場合は私のイェーガーで殲滅します」

「クリーガーを使っちゃダメ?」


ユーリンは慣らし運転の重要性を理解しつつも、どうしても実戦で生まれ変わったクリーガーの実力を試したかった。


「朝も言いましたが、今のクリーガーに慣れていないようでは―」

「お願いします!」

「……今回だけですよ?」


ユーリンの直角のお辞儀と熱意に負けたカトレアは、その提案を受け入れることにした。


「そうなると作戦を変更することになります。

 アンドロイド歩兵を使って大臣を救出という所までは良いとして、クリーガーとイェーガーはフライトポーターで運搬します。

 クリーガーは基地の周辺でパラシュートを使って降下、イェーガーは基地から北側三キロの丘陵で待機し狙撃支援ということでどうでしょう?」

「うん、それでいいよ」


生まれ変わったクリーガーの実力を試すにはいささか荷が重かったが、そのハンデを技量でカバーするのがプロと思っているユーリンはまったく気にしていなかった。


「それでは、今回の依頼を遂行するための部隊と物資の内訳を確認してください」

「もう出来たの?」

「ヘリで帰る最中にギルト共和国に物資の要請をしたら、すぐに」

「……なるほどね~」


自国の大物政治家の救出となればギルト共和国の役人連中も仕事が早い。

ユーリンはカトレアから液晶タブレットを受け取ると、内容を確認した。


生体歩兵内訳

 特殊作戦仕様歩兵:十六名


軍用ヘリ内訳

 ヘルハウンド輸送ヘリ:四機


火砲内訳

  ソルタム装輪榴弾砲:十二両

イグラ自走式ロケット砲:十二両


人型戦術起動兵器内訳

 クリーガー改

 イェーガー


「え、クリーガー改?」

「修理のついでに改造しましたから」

「いやいや、もっとカッコイイ名前は無かったの!?」

「はぁ、そうですね」


ユーリンのその言葉に適当に返事をすると、カトレアはコクピットの配線につながれたパソコンで作業の続きを始めた。 


「はぁ……はいはい、わかりましたよ……」


ユーリンはそう言うと、出撃の準備を始めた。


「社長……」

「ん? なに?」


ユーリンがクリーガー改の使用する銃器の弾薬を運搬していると、カトレアがパソコンをいじりながら話しかけてきた。


「相手の狙いはなんでしょうか?

 身代金や自らの示威行為のための殺害、それ以外の目的にしてもギルト共和国になんの声明文も出していません。

 今回の依頼はギルト共和国の国内諜報機関が掴んだ情報を元に、ラルド首相が我々に依頼を出してきたワケですが……」

「……まぁ、いずれにしても僕らのやることは変わらないさ!」


楽観的なユーリンの様子を見て、カトレアはため息をついた。

戦闘準備は深夜に終了し、ギルト共和国から送られてきた戦力と共に、ユーリン達は『熱砂の牙』がいるアジトに向かった。

今回の作戦ではバンツェル運搬用に開発された輸送機、フライトポーターをギルト共和国から借り入れた。

上空を飛行することによって、ランドポーターよりも高速で現場へバンツェルを運ぶことが出来るからだ。


「社長」

「ん? なに?」


ブーンと断続的な機械音がするバンツェルのコクピットのなかで、カトレアはユーリンに質問をした。


「失礼ですが、ラルド首相とはどういったご関係で?

 ただの依頼人と民間軍事会社の代表取締役という関係ではなさそうですが?」


このご時世、民間軍事会社に公共工事などの穏便なモノから政治的、突発的に生じた様々な荒事の解決を依頼する国家は腐るほど存在する。

しかし、基本的に両者は相いれる存在ではなく、完全な利害関係でつながっていることがほとんどである。

カトレアにとって、ユーリンが今回の依頼を引き受けたのは大きな疑問だった。

救出作戦は時間が限られているうえ、失敗したら会社の名に傷がつくのは当たり前として、最悪こちらに損害賠償を請求されることもあり得る。

それゆえに、カトレアはユーリンの真意を確かめておきたかった。


「まぁ、親友未満知り合い以上ってカンジ?」

「友人ということでしょうか?」

「そう受け取ってくれても構わないよ」


ユーリンはシレッとした様子で答えた。


「いまさらこう言ってはなんですが、ご友人からの依頼だからと言ってリスクの高い依頼を引き受けるのはいかがなものかと……引き受けたからには完遂を目指しますが」

「まぁ、おっさんは僕に対して借りがあるし、僕もおっさんに対しては貸しがある……それで今回は納得してよ」

「……了解しました」


ユーリンが少し困った声色で話すのを聞いて、カトレアもそれ以上の追及はしなかった。


やがて目標地点の近くまで来ると、クリーガー改はそのまま上空待機。

イェーガーは丘陵地帯にフライトポーターを降下させ、アジトが見える位置まで移動して潜伏した。

特殊作戦用に各部を強化されたアンドロイド歩兵を乗せたヘリは、イェーガーの上空で待機している。


「社長、ご命令を」

「うん。作戦開始、繰り返す、作戦開始」

「了解」


ユーリンの命令を受けて、アンドロイド歩兵達は無機質に返事をすると、アジトに向かってヘリを高速で前進させた。

やがてアジト上空まで来ると、降下用のロープで次々に基地の建物の屋根に降りていった。

やがて各所から爆発が起こり、黒煙が上がっていく。

今回は救出作戦ということなので、ユーリン達は基本的に待機扱いであり、実質的な作戦参加兵力は特殊作戦用アンドロイド歩兵と自走榴弾砲、自走ロケット砲になるものと思われた。

しかし、そんなことに納得のいかないユーリンは爆発の閃光と火の手が上がる様子を見て根を上げた。


「まだ~?」

「救出報告は受けておりません」


イェーガーは丘陵にうつ伏せで待機しており、クリーガー改は基地の上空千メートルを旋回し続けるフライトポーターの上で待機している状態が続いている。

現在の時刻は深夜を過ぎ、そろそろ日が昇る時間帯である。

コクピットのモニターにはカメラアイの暗視機能を介して映し出された緑色の風景が広がる。


「作戦予定時間は長くても三十分だったでしょ? もう四十分は過ぎてるよ?」

「歩兵からの報告が無い限り、我々が動くわけにはいきませんから」

「でも―」


ユーリンがそう言った時、二人のヘルメットのスピーカーから品の無い声が響いてきた。


「聞こえるか! 俺達は熱砂の牙だ! てめぇらが送り込んだロボット共は俺達がみんなぶっ壊したぜ! 三分やる、さっさと降伏して出てこい!」


その言葉を最後に、無線は切れてしまった。


「どうします?」


無線をオープンチャンネルからプライベートチャンネルに切り替えて、カトレアはユーリンの判断を待った。


「そっちから何か見える?」


突発的なトラブルにも関わらず、ユーリンは冷静だった。


「少々お待ち下さい」


その言葉を聞いて、カトレアはうつ伏せの姿勢で待機していたイェーガーを起動し、荷電重粒子狙撃銃のスコープセンサーとイェーガーの狙撃戦用のモノアイを重ねて索敵を開始した。


「ここからでは内務大臣の姿を確認できませんが、基地の北側にファイントが六機、東側に二機、西側に三機、それと北側のトーチカに電磁加速砲台二門が設置されています」

「レールガンか……了解、他には?」


ユーリンは嫌な予感がした。

今回の相手、熱砂の牙はガルムと違ってキューブを保有しているわけではない。いわゆる普通のテロ組織と考えていたが、バンツェルはともかくレールガンを装備しているなど考えてもいなかった。

おそらく基地に元々設置されていたものを熱砂の牙が修理して使用しているのだろうが、ただのテロリストにそのような芸当はできない。


(元軍人でもいるのかな?)


ユーリンの頭の中に一つの可能性が浮上した。

元軍人、それも工兵であったならば固定式のレールガンを修理するなど容易いことだからだ。


「ここからでは基地の南側が視認できないため、これ以上の索敵が出来ません」


カトレアの声にハッとして、ユーリンはいつも通りに返事をした。


「わかった。レールガンの狙撃に気を付けてね」


いまさら考えても仕方ないため、ユーリンはそう言って中央のタッチパネルを操作すると、クリーガー改が掴んでいるフライトポーターの取っ手の部分が後方に下がり、クリーガー改の機体を機外に晒した。


「社長? なにをするつもりですか?」


突然の事態に普段無表情のカトレアが、少しだけ驚愕の表情を浮かべた。


「このまま大臣を救出するのさ」

「よろしいのですか?」

「このまま待っていてもやられるだけじゃん! 援護、頼んだよ!」

「了解しました」


カトレアのその言葉を聞いて、クリーガー改はフライトポーターの取っ手から手を離し、空中に解き放たれた。


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