第十三話二部 接触と精神的敗北
ユーリン達が民間軍事会社の構成員として復活しようとしている時、ギルト共和国首都のゴルゴグラードにある首相官邸の特別会議室では、徹夜での会議が続いていた。
「—以上が、現在の状況です」
すでにギルト共和国内の六割ほどの地域で暴動が発生しており、その対処に当たる武装警察隊や一般警察では、もはや事態の収集が難しいものであると説明を受けた。
部屋の天井から出されたスクリーンに表示された内容を担当官僚が説明し終わった時、会議室の中央の椅子に座っていたラルドが、重い雰囲気の中で口を開いた。
「……まさかこれほどの被害が出るとは……
内務大臣、もう少し暴動の鎮圧や国民の避難は急げませんか?」
ラルドから見て右隣の席に座る例の内務大臣は、眉を吊り上げて答えた。
「お言葉ですが首相。
現在の警察の装備や人員では、これ以上の対処は不可能ですな」
内務大臣は、わざとらしく向かいの席に座っているチョビ髭を生やした財務大臣の顔を見た。
「あなたの出した予算編成は、いささか過剰でしたからな。
その事で私に責任を押し付けるのはよくありませんな」
「フン、貴殿は電卓を叩くだけでよろしいでしょうからな。
実に楽なものだ」
「なにを!?」
「なんだね!?」
財務大臣と内務大臣は椅子から立ち上がってお互いを威嚇し始めたが、普段からユーリン達と接しているラルドからしてみれば、このような状況はなんともない。
「まぁ、とにかく」
ラルドは膝をパンと叩いて、話を始めた。
こうすることで、財務大臣と内務大臣の二人に対して遠回しに『席についてほしい』ということを伝えた。
案の定、二人は何を言うでもなくお互いを睨みつけながら席についた。
二人が席について自分の方に注目していることを悟ると、ラルドは静かに話し始めた。
「これ以上の鎮圧や避難誘導は不可能というのは分かりました。
なので、ここからは民間軍事会社も活用したいと思います」
その言葉に、室内にいる閣僚達の顔が変わった。
「しょ、正気ですか、首相!?
今まで荒事や表に出せない問題で奴らを使ってきましたが、今回の件で奴らを活躍させると、その後の世論の動向が民間軍事会社の方に有利になります!
そうなった場合、我が内務省の立場が—」
「おっと、本音が出ましたね」
財務大臣に突っ込まれ、内務大臣はハッとした顔をして財務大臣を睨みつけた。
「ッ! 大体、民間軍事会社によっては法外な値段を要求してくる輩もいましょう。
そうなった場合、その報酬は我が国の国庫から出すのですか?
答えによっては『余計な巻き添え』を食うことになりますぞ!」
内務大臣のその言葉を聞いて、財務大臣はムッとした顔で眼鏡を直すと、ラルドの方を向いて話し始めた。
「……確かに、連中はいわば合法的なギャングのような存在です。
そのような者達に、我々が金を出すというのは……」
「フン、風向きが悪いと見るとすぐ保身に走るな、貴様は」
その言葉に、財務大臣は歯ぎしりをして頭に血管を浮かばせながら、内務大臣の方を見た。
「……テロリストに誘拐されるあなたよりはマシですよ」
「貴様ぁ! もう一度言ってみろっ!」
財務大臣と内務大臣の第二ラウンドの始まりかと思ったが、ラルドは二人が椅子から立ち上がるよりも早く、提案を行った。
「では、こういうのはどうでしょう?
内務省が業務委託している民間軍事会社や、普段から我々からの依頼を滞りなく、何の問題も起こさずに遂行してきた民間軍事会社に依頼を出すというのは?
これならば、例え彼らがもてはやされる事態になったとしても、『我々の系列』ということで内務省のメンツは立ちますし、財務省としても、そういった会社に資金を供出することは抵抗ないでしょう?」
ラルドの理路整然とした説明に、内務大臣と財務大臣は落ち着きを取り戻して席に着いた。
「ふむ……まぁ、その、確かにその案がよろしいでしょうな」
「こちらも異論ありません」
二人は先ほどの騒動など無かったかのように、紳士的に振る舞ってラルドの意見に賛成した。
二人の様子を見て、ラルドはもう一つ提案をすることにした。
「まぁ、内務省系列の民間軍事会社に依頼を出すのはさっそくやってもらうとして、それ以外の民間軍事会社ですが……私はその中の一つにジークフリート社も加えようと思うのですが、いかがでしょう?」
ラルドのその言葉を聞いて、内務大臣の顔は徐々に青ざめていった。
「や、奴らですか?」
「不満ですか?」
ラルドはわざとらしく嫌味な笑みを浮かべた。
「ふ、不満ということではありませんが……
あの会社の代表とはどうもその……」
そう言ったきり、内務大臣はうつむいてしまった。
「……まぁ、異論がないのであれば、さっそく依頼を―」
そう言ってラルドが近くに置いてある電話機に手を伸ばした時、室内の照明が落ち、会議室は暗闇に包まれた。
「な、なんだ!?」
「なんの騒ぎですか!?」
「落ち着いてください! ただいま電源を!」
室内が混乱するなか、スクリーンにゆっくりと一人の女性が映し出された。
「だ、誰だ貴様は!?」
内務大臣が自身の焦りや恐怖を覆い隠すように大声で問いかけると、女性はフッと笑みを浮かべて話し始めた。
「お久しぶりです、ラルドさん。
お変わりなく壮健なようですが……ずいぶんと年をとられたようで」
「……あなたですか」
女性の姿を見て、ラルドの表情は険しくなっていった。
女性は『奴ら』のリーダー、ティナであった。
「お知合いですか? 首相」
「えぇ、だいぶ前に間接的に会ったことがあります」
財務大臣の質問に、ラルドは淀みなく答えた。
「ま、積もる話もありますが……
まずはあなた方の動きを封じさせてもらいます」
ティナがそう言うと会議室の扉が爆発し、数人の大柄な女性達が入ってきた。
「な、なんだ、貴様らは!? いったい―」
内務大臣が虚勢混じりの大声を上げていると、女性に後頭部を殴打されて失神してしまった。
「……分かりました。
おとなしく従います」
「ありがとうございます」
ラルドは、すべてを悟ったように肩を落とした。
※
港町ミルタでは、ユーリン達が行動を起こそうとしていた。
ユーリンの自室では、ジークフリート社の社員達がそれぞれの準備を終えてユーリンの号令を待っていた。
「準備が終わりました、社長」
「うん、わかった」
ユーリンはカトレアから準備完了の知らせを聞くと、ショットガンの安全確認をした後に窓越しに外の様子を見た。
アパートの裏の暴徒の数はさらに増えており、すでに一階には多数の暴徒が侵入している様子だった。
「よし……行こう」
ユーリンは覚悟を決めて玄関の方へ向かった。
イリスが扉のノブを持って開く準備を始める。
ユーリンは扉の覗き穴から外の状況を伺い、イリスの方を向いてうなずいた。
イリスもうなづくと、勢いよく扉を開けた。
「ガアァッ!!」
扉を開けた瞬間に前にいた暴徒が襲い掛かってきたが、ユーリンのショットガンによって頭を吹き飛ばされ、呆気なく外の廊下に倒れた。
ユーリンはショットガンの排莢を終えると、そのまま目の前にいる二人の暴徒の頭も吹き飛ばした。
そのまま外の廊下に出てもう二人の暴徒を倒すと、続いてニキータとカトレア、テルールが出てきた。
ニキータは二階の廊下の端から、手にした軽機関銃でアパートの下にいる暴徒達を一掃した。
その掃射によって出来た空間を、二階の手すりから飛び降りたカトレアとテルールが縫うように走り抜けていく。やがて二人の姿は倉庫の中に消えてしまった。
ニキータは二人が倉庫に入っていくのを確認すると、ユーリンと一緒に廊下に残っている暴徒達を一掃した。
「よし! 僕らも格納庫に行こう!」
「おうさっ!」
二人は暴徒達を倒しながらアパートの階段を降り、アパート前の道路や格納庫周辺に群がる暴徒達を倒しながら格納庫に入って扉に鍵を閉めると、それぞれの機体の準備を始めた。
「……なぁ、ユーリン」
「ん? 何?」
格納庫の扉が暴徒達によって叩かれるなか、ニキータは冷静に話し始めた。
「あいつら、おかしくないかい?
いくら暴徒だからって、ショットガンとマシンガンを食らったら普通は逃げていくだろ?」
「……まぁね」
その点はユーリンも気にかかっていた。
彼らはユーリン達が他の暴徒達を銃で殺害している間も、何のためらいもなく襲い掛かってきた。
しかも、その中にはすでに致命的な傷を負っている者も何人かいた。
(ちょっと甘かったかな……)
ユーリンは自身の決断を後悔した。
本来なら、暴徒達はすでに散り散りに逃げていくか、自分達に投降しているものと思っていたからだ。
よしんば暴徒達が逃げなかったとしても、戦闘意欲を奪うことは出来るものとこれまでの経験で感じていた。
しかし、格納庫の外にいる者達は意欲を失うどころか、ますます凶暴になっているような気がする。
なんにしても、準備を急がなければならなかった。
「おい、大丈夫か? ユーリン」
気づくと、ニキータはユーリンの方を心配そうに見ていた。
ユーリンは自身の不穏な気持ちを隠すように、明るく振る舞った。
「あ、うん! 早くみんなの所に行こう!」
「フッ……あいよ!」
そうして二人は準備を終えると、バンツェルに乗り込んだ。
ユーリンはパンツァー・クリーガーを起動させて、コクピットの中央パネルを使って無線の周波数を設定すると、ヘルメットに内蔵された通信装置を介してイリスに指示を出した。
「イリス! 遠隔操縦装置は!?」
その声に、イリスが慌てて反応する。
「は、はい! 準備完了ですぅ!」
「わかった!
僕が格納庫から出たら、それに続いて格納庫から出て暴徒達を踏みつぶして!
いい!?」
「はいですぅ!」
イリスのその返事を聞いて、諸々の設定を終えて頭部のバルカン砲で格納庫のシャッターを穴だらけにした。
そのままパンツァー・クリーガーは格納庫の巨大なシャッターを突き破って外に走り出し、格納庫の外にいた暴徒達を踏みつぶしていった。
続いて格納庫から出たイェーガーは、少し格納庫から離れて暴徒達を踏みつぶしていった。
さらに格納庫から出たデスポートは、ミルタの方を向いて頭部のバルカン砲を発射した。
「待って、ニキータッ!」
「なんだい!?」
ニキータはバルカン砲の発射をやめて、ユーリンの搭乗するパンツァー・クリーガーの方を向いた。
「よく見てよっ!
町の建物の屋上にたくさんの人がいるじゃないか!」
ユーリンからそう言われて、ニキータは再びミルタの方を見た。
確かにユーリンの言う通り、ミルタの建物のほとんどの屋上に町人達が籠城していた。
その建物の中の一部には、今ニキータが発射したバルカン砲によって穿たれた穴があるものもあった。
「おっと、危なかったぜ……」
ニキータは自身の行いを彼女なりに反省した。
「それで、どうしたら良いんだい!?」
「まずはここにいる暴徒達を倒そう! ハッチを開けて銃で倒すんだ!」
「わかった!」
二人はバンツェルのハッチを開け、中から身を乗り出してショットガンと軽機関銃で暴徒達をなぎ倒していった。
やはりこの状況でも、暴徒達はまったく退く気配を見せなかった。
ユーリンはハッとして下を見ると、暴徒達がユーリン達の機体をよじ登ってくるのが見えた。
「くっ!」
ユーリンはパイロット席に座って、クリーガーで暴徒達を叩き落とし、格納庫周辺を歩き回って暴徒達を踏みつぶしていった。
「ぐうっ!」
ハッチを開けたままクリーガーを操作しているため、体にかかる重力で胃の内容物を吐き出しそうになったが、なんとか耐えて再び元の位置に戻った。
「大丈夫か、ユーリン!?」
ニキータが軽機関銃で暴徒を薙ぎ払いながら、大声で問いかけた。
見ると、すでに彼女の足元にも暴徒達が迫っていた。
「危ない!」
ユーリンは咄嗟にショットガンで暴徒達を倒した。
ニキータは唖然とした様子だった。
「こいつら……死ぬのが怖くないのかい!?」
「わからないよ! とにかく、さっさと倒しちゃおう!
こいつら、ちょっと普通じゃないよ!」
「わかった!」
その後もユーリンとニキータはバンツェルと銃器を駆使して、アパート周辺の暴徒を一掃していった。
暴徒達の数もだいぶ減ってきたとき、ヘルメットのスピーカーからカトレアの声が聞こえた。
「社長、遅くなってしまい申し訳ありません。
車両の準備が終わりました」
「わかった!
ここら辺の暴徒はだいぶ減ったから、町の方まで行って残りの奴らも倒そう!」
「了解です」
そう言って、カトレアの声は途絶えた。
「聞いたでしょ、ニキータ!
分かっていると思うけど、『派手』なのはナシだよ!」
「分かってるさ! 任せなよ!」
そう言うとニキータはデスポートのハッチを閉め、ミルタの方まで暴徒達を蹴散らせながら走っていった。
(大丈夫かな?)
ユーリンは心の中で町人達が無事であるように祈ると、すでに倉庫から出てきたカトレアとテルールが乗っている車両と速度を合わせてミルタの方まで向かった。
「イリス!
僕らは町の方に行くから、そこら辺の暴徒達は任せたよ!」
「はいですぅ! やってやるですぅ!」
未だに暴徒達を踏みつぶし続けているイェーガーは、パンツァー・クリーガーの方を見た。
パンツァー・クリーガーの前方を行くデスポートは、暴徒達を蹴散らしながら町の入り口まで着くと、その場で停止した。
そして、おそらくニキータがハッチを開けて機関銃を乱射しているのであろうか、次々と町の中にいる暴徒達が倒れていった。
やがてユーリン達が到着して、町中の暴徒達を一掃した。
「……ふぅ、なんとか終わったね」
「はい……少々清掃が必要かと思いますが……」
カトレアにそう言われてユーリンが町中を見渡すと、暴徒達の死骸だらけだった。
「……確かにそうだね。
あまり子供達に見られないようにして?」
「かしこまりました」
その後、ユーリン達は町の男性達と協力してアパート周辺と町中の清掃活動を行った。
清掃が終わった頃には、辺りは暗くなっていた。
「やっと終わったなぁ……くたびれたぜ」
「ふふ、それでしたらお礼も兼ねてウチでお食事でもいかがです?」
ニキータの横で、アデーレは優しく微笑んだ。
「お、いいね!
ちょいと厄介になろうかい、なぁ、ユーリン?」
「うん、そうだね!」
その日の夜、ミルタの住人達と共にユーリン達はジェーン・ドゥで宴会を開いた。
なんだかんだ言ってもバイタリティーに溢れている人達である。
これだけの被害があったにも関わらず、町人達にほとんど被害が無かったのも大きかった。
次の日の朝にユーリン達がアパートに帰ると、イリス、アンドレア、アーニャ、レイカから、なぜこんなに時間が掛かったのかと、非難の集中砲火を浴びてしまった。
「—それで、どうだったの? 町の方は?」
アーニャの質問に、ユーリンが答えた。
「もう大丈夫だよ。
暴徒達の死体は焼却処分にしたし、血とかも海水とかで徹底的に洗い流しといたから」
「そう……こっちは収穫があったわよ」
アーニャは得意そうに腰に手を当てて言った。
その言葉に、ユーリンをはじめとした町に行っていた者も驚嘆の声を上げた。
「ふふ~ん、すごいでしょ?
やっぱりアタシって―」
「これがその情報よ」
アーニャの話を遮って、アンドレアが一台のノートパソコンをユーリンに手渡した。
アーニャがアンドレアに恨めしい視線を注ぐなか、ユーリンはパソコンに表示された内容を次々と見ていった。
「そう……とりあえず会議室で見てみようか。
詳しい説明も聞きたいし……」
「えぇ、そうですね」
カトレアが賛同の意を示した後、ジークフリート社の社員達は一階にある会議室に行ってアーニャが発見した情報というのを改めて確認することにした。
会議室内は暴徒達に荒らされてしまっていたが、まだまだ本来の目的に使うことは出来た。
アーニャは機材を準備してスクリーンにパソコンの映像を投影すると、パソコンを操作しながら説明を始めた。
「まずこれを見てちょうだい」
アーニャがそう言ってスクリーンに映し出したのは、宇宙の映像だった。
その映像の右下には、『ギルト共和国宇宙警察』と書かれていた。
おそらく、宇宙警察の宙域監視カメラをハッキングしたものだろう。
その映像の中央には、何やら軟体の巨大な物体が静止している。
「なに……これ?」
「驚くのはまだ早いわよ」
アーニャがそう言ってしばらくすると、その物体から無数の光源が現れ、カメラの方向やカメラの外の方に向かって散っていった。
やがて光源が画面からすべて無くなった時、アーニャは映像を止めた。
「どう思う?」
その表情はこれ以上ないほど自信に溢れていた。
ユーリンは薄々感ずいていた事を、アーニャの機嫌を損ねないように控えめに答えた。
「……これが原因?」
「フ、そのまさかよ」
そう言って、アーニャは再びパソコンを操作した。
次の映像は真っ暗だった。
アーニャがパソコンを操作すると、パソコンの方から音声が流れた。
「こちら保安指揮センター。
第二分署、内務省より緊急案件が来ています。
至急、こちらが指定する座標に向かってください」
「こちら第二分署、了解。
至急、機動捜査隊を現地に派遣します」
そこまで聞いて、アーニャはパソコンを操作して早送りをした。
映像の左下に表示された時間から推察して、約三十分後の出来事のようだった。
「こちら第八機動捜査隊! 本部、応答を!」
「こちら第二分署、どうしましたか?」
「ぼ、暴動だ! 暴動が起きて―」
機動捜査隊隊員と思われる者からの無線はそこで途絶えてしまった。
アーニャはパソコンを操作して、別の音声記録を再生した。
「こちら第二機動捜査隊! 暴動が起きています!
至急応援を!」
「了解。暴動の報告はすでに受けています。
至急増援の警察官を派遣し—」
「ただの警察官じゃだめだ! 武装警察を呼んでくれ!
奴ら、人を食ってる!」
「は? 第二機動捜査隊、もう一度言ってください」
「だから、奴ら人を食って、ぎゃああ!」
そこで無線は途絶えてしまった。
しかし、アーニャはパソコンを操作せず、そのまま音声記録を再生し続けた。
すると、保安指揮センター内の会話と思われる記録を聞くことになった。
「いったいどうなっているんだ? 何が起きてる?」
上司と思われる男性が、誰に問いかけるでもなく疑問をぶつけている。
「現在、我が国の北方で大規模な暴動が起きている模様です。
なお、未確認ですが暴徒達は空から降ってきた光を浴びて数分で気性が荒くなり、その……人を食べ始めた とのことです」
「ふ~む……」
そのまましばらくの沈黙が流れた。おそらく事態の異常さに閉口しているのだろう。
「よし、惑星統一機構に事態の報告を行え」
「了解」
そこまで聞いて、アーニャは再生を止めた。
「今再生したのは、ハイド共和国内務省の国家保安指揮センターと地元警察の無線交信よ」
「……」
ユーリンは黙りこんで考えてしまった。
自分の聞き間違いでなければ、今回の暴動を起こした暴徒達は銃で撃たれても怯まずに立ち向かい、人々に見境なく襲い掛かり、今得た情報が事実ならば、人を食べることさえいとわない。
そんな集団を相手にしていたと思うと、今になって体が恐怖で震える。
「社長」
「ん? 何?」
ユーリンがそんな考えを巡らせていると、カトレアがかしこまって話しかけてきた。
「これから、どうなさいますか?
一応、我が社への依頼を確認してみましたが、今の所は一つもございません」
「う~ん……とりあえず補給を済ませて……
もし依頼が来るようなら引き受けるっていうので良いんじゃない?
僕らがここを離れている間に、また暴徒達が町を襲ってきたら嫌だしね」
「それはどうかしらね?」
ユーリンの意見に対して、アンドレアが反論した。
「依頼が無くとも、こちらから積極的に暴動を鎮圧するべきじゃないかしら?
それにかかった経費は国に請求しましょ?
交渉は私に任せてちょうだい」
「う~ん……じゃあ、それでいいかな」
「は!? アンタ、自分の意思ってものが無いの!?」
「いや、だってさ~、自分で言っておいてなんだけど、確かにここでジッとしているよりも、こっちから動いた方が良くない?
交渉の方はアンドレアに任せてさー」
その瞬間、室内にいる誰もがユーリンの事を蔑んだ目で見つめていた。
結局その後はゴルゴグラードに行って暴徒の鎮圧をすることになった。
政府のお膝元で暴動鎮圧を行えば、その後の報酬面での交渉で優位に立てるというアンドレアの意見である。
「それじゃ、行こうか!」
ユーリンの号令のもと、ありったけの武器、兵器、装備を保持したジークフリート社の社員達は、ゴルゴグラードへと向かっていった。
※
この惑星中で暴動が起きる数時間前、惑星から近い宙域に停泊していた宇宙船の中は喧騒に包まれた。
「ダメです! 対象の速度は変わりません!」
「ちくしょう! このままじゃやばいぜ!」
その宇宙船の中央管制室では、それぞれの座席に座るユリアとオクサナが慌てふためいていた。
中央の座席にはティナがおり、事態の推移を見守っていた。
彼女達の正面にあるモニターには、軟体質の半透明で出来た巨大な構造物が映し出されていた。
「どうしますかい!? 頭領!」
オクサナが自身の目の前にあるモニターから目を離して、ティナの方を見る。
ティナはオクサナを見てはっきりと言った。
「……仕方ない。奴らの動きは我々の想像以上に早い。
オペレーション・ミッシオーネンは中止。
工作員、収集員、賛同者を使って第二プランを発動しろ」
ティナのその言葉に、ユリアは意気消沈した様子で話した。
「それなんですが……先程からこちらの応答に反応しません。
ほとんどの者からです」
「なんだと? 機械の故障という事は無いのか?」
「はい、機材は正常に稼働しています」
ユリアのその言葉を聞いて、ティナは焦った。
このままでは計画全体が破綻しかねない。
悩んだ末に、ティナはユリアとオクサナに対して指示を出した。
「仕方ない。我々と第一コマンド大隊で直接彼らに干渉する。
我々の手勢が生き残っていればそちらの方を活用しない手はないが……今の状態では何とも言えんからな」
「へへっ、了解!」
「……了解!」
その指示を聞いて、ユリアとオクサナはどこか嬉しそうだった。
(仕方ないか……)
ティナは正面のモニターに映る軟体質の構造物を見て、ため息をついた。
(無事でいてくれよ、ユーリン)
彼女は祈るように、自身の事を憎む相手の無事を願った。




