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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
43/47

第十二話四部 仕事のやり方

「クソッ! どうすんだよっ!

 ポリ公共がウジャウジャいるぜっ!?」

「しょうがねぇ!

 何人かの脳ミソぶちまけてやれっ!」


男の言葉を聞いて、人質の中にいる数人の女性達の悲鳴が上がる。

ここは事件が起きた銀行の中。

吹き抜けになっている広大な空間の中心に、この日運悪くも銀行内にいた者達が集められていた。

周囲には小銃を構えて覆面を被った男達がおり、『融資相談』と書かれた看板の下のカウンターには、リーダー格の男が座っている。


「どうするっ!? リーダー!」

「……クソッ!」


リーダーは焦っていた。この状況は当初の計画とは完全に違っていた。

すでに日は落ちて夜の時間帯になっており、銀行の外は大型のライトで照らされた警察官達が待ち構えていた。


「……二人ほど殺せ」

「よっしゃ!! やったるぜ!」


もはや選択の余地はなかった。

もしここで投降すれば最悪死刑、良くても無期懲役は免れない。

幸い、こちらには機関銃を備えた装甲車と、武装を施したバンツェルが三機もある。

ここで人質を殺して自分達の要求が本気だと警察に思い知らせてヘリで逃げれば、後は悠々自適の生活が待っている。

そんな、ある種憐れなリーダーの言葉を聞いて、一人の男が人質の中から十歳ぐらいの女の子の腕を引っ張った。


「いやぁあー!!」

「ま、待ってください! 娘の代わりに私を―」

「うるせぇっ!黙ってろ!」

「ヒィ!!」


娘のために我が身を犠牲にする母親に対して、男は持っていた拳銃の柄で殴り倒した。

この状況に義憤を感じない者はいなかった。

しかし、目の前にいる残虐非道な男達とアサルトライフルの銃口の前に、誰もが己の無力さを恨んでいた。

男が女の子を連れて外に出ると、警察の用意したサーチライトの一部が男と女の子を照らし出した。


「てめえらに良い事を教えてやるっ!

 俺達を舐めるとこういう目に遭うんだっ!」

「け、警部! どうしますかっ!?」

「……クズ共が。調子に乗りやがって!」


パトカーで作ったバリケードの内側で、スコット警部達は焦っていた。

ここには警察以外にも野次馬や報道関係者が詰めかけている。

もしここで人質を殺されれば、警察としては事実上、犯人達の要求を呑まなければならない。

男はすでにスコット警部達の数十メートル手前まで歩いてきており、その顔は『自分は殺されない』という吐き気を催すような自信にあふれていた。


「ジークフリートの奴らはどうしたっ!?」

「それが、先ほどから姿が見えないんです!」

「……何してんだよ、あいつら……」


憔悴しきっているスコット警部をよそに、男は拳銃の銃口を少女のこめかみに押し付けた。


「あばよっ!!」


男がそう言って引き金に指を掛けた瞬間、拡声器から必死な女性の声が聞こえた。


「ま、待ってくださいっ!」

「なっ!? あんた、なにやって—」


声を上げるスコット警部をよそに、女性は話を続ける。


「我々はあなた達の要求をすべて飲みます!

 ですから、人質の命だけは勘弁してくださいっ!」

「なんだ、てめぇ! さっきまでいたおっさんはどうしたっ!?」

「彼は心労で倒れてしまいました!

 今は私、ミリシア・ユスティーツ警部補が現場指揮を執っています!」

(ちょ、何言ってんだ、あんた!)

(ほっといてください)


そう、このミリシア・ユスティーツ警部補と名乗る女性、彼女の正体はカトレアだった。


「いいだろうっ! よく聞け、姉ちゃん!

 ヘリを寄越せ! 追跡するな! 簡単だろ!?

 三十分だっ! 三十分以内にヘリを用意しろ!

 いいな!? 分かったな!?」

「ま、待ってください!

 確かに三十分以内なら用意できますが、大型ヘリではなく小型ヘリしか持ってこれません!」


実際はそんな保証はない。しかし、カトレアはためらいなく嘘をついた。


「……いいだろう、それじゃ、その小さいヘリを何機か寄越して来い!」

「分かりました!

 それではそちらの人数と荷物を教えて頂けますか!?」

「なんでそんなことを教えなくちゃいけねえんだよっ!?」


男の激昂に怖がるフリをしながら、カトレアは理路整然と答えた。


「もしヘリが足りなくなったら、他の所からもヘリを持ってこなければいけません!

 ただ、事情が事情なだけに、色々と役所やら何やらの許可を取らなければいけないんですっ!

 いざヘリを持ってきて足りませんでしたではあなた方も嫌でしょうし、その時になって上があなた達をその場にとどめるように指示したら、あなた達はためらいなく人質を殺すでしょう!?

 それは我々も嫌なんです! どうか教えてください!」


普段のカトレアからは想像もできないほどの演技力が功を奏したのか、男はその場でしばらく考え込む。


「分かった……俺達の人数は二十五人!

 荷物はでかいキャリーケースに入った金塊とボストンバッグに入った札束だ!」

「分かりました! すぐにヘリを用意します!」

「へっ、最初からそう言ってりゃいいのさ!」


そう言うと、男は少女を引きずって銀行内に戻っていった。


「……まぁ、一応なんとかなったが、大丈夫なのか?」


男が銀行内に入るのを確認すると、スコット警部は少しだけ安堵したように言った。


「……問題ありません」

「……そうかい」


一方、銀行の中は多少の混乱状態に陥っていた。


「なんだっ!? どうして殺さなかったっ!?」


驚愕の声を上げるリーダーに向かって、男はさも自分の手柄のように語った。


「いやそれがよ、警察の奴らの中に妙に物分かりのいい奴がいてよ。

 三十分以内にヘリを寄越せって言ったらあっさり聞いたぜ?」

「……そうか、ご苦労」


リーダーのその言葉を聞いて、男はニヤッと笑いながら少女の母親の元へ向かった。


「へへ、子供のためなら何でもするんだよな?

 ちょいと楽しませろよ」

「ヒッ! い、嫌、助けて!」

「おっ、いいね~」

「へへ、俺も」


ケダモノとなった男達が少女の母親へとにじり寄る。

リーダーにそれを止める気配はない。

この場にいる誰もがこれから起こる悲劇に胸を痛めていると、裏口から人影が出てきた。


「なっ!? 誰だ!?」


その一言で、男達の視線は母親から人影へと移った。


「ふふ、こんばんは」

「ハーイ、お兄さん方」

「な、なんだ、てめぇら!? どこから入ってきた!?」


それは二人の娼婦だった。

正確に言えば、娼婦の恰好をしたアンドレアとレイカだった。


「どこって、裏口からよ」

「ヴァルヴォア地区の『ヘブンズ・ディーヴァ』から来ました、ハナコとカリーナです。

 よろしく」

「な、なんだ、商売女か。でもなんで—」


男の質問が終わる前に、アンドレア扮するカリーナが答えた。


「あたし達、いつもこの辺りで客拾ってるんだけど~なんか今日はあんまり引っかからなくて、しょうがな いから帰ろうとした時に、女の警察官に言われてここにきたのよ」

「待て、その女の警察官はどんな姿をしていた?」


リーダーの質問に、レイカ扮するハナコが答える。


「スーツを着てて、眼鏡を掛けていたわ。

 あと、黒髪を後ろで一つに結んでいたかしら?」

「あっ! そいつだ、リーダー!

 そいつがおっさんと代わったポリ公の姉ちゃんだ!」

「そうか……」


リーダーは考え込んだ。


「お金なら心配ないわよ?

 もうその警察官からもらってるから」

「へぇ~、そうかい。

 そうか……だからあの女俺達の人数を聞いたんだな?

 へへ、ポリ公の中にも気が利く奴がいたもんだぜ」

「……あぁ、そうだな。お前たちは遊んで来い」

「ふふ、こっち来て?」


ハナコの誘いに、男達は歓声を上げて付いて行った。

今この場にいるのはリーダーと、今ついて行った男達とは違う職業犯罪者の男達二人だけだった。


「……こんなことってあるか?」


男の一人が、リーダーに向かって心配そうに話しかける。


「よくわからん。

 いずれにしても、三十分後に分かる。

 その時は人質を始末してくれるか?」

「あぁ、もちろん」


リーダーは悩んでいた。

この状況はうますぎる。

だが、すでに計画とは大きく違っている中でのこの状況は、リーダーが渇望した状況でもあった。


(うまくやれば、もしかすると……)


あきらめかけていたリーダーの心に、再び悪い希望が湧きあがってきた。

先ほどから聞いているテレビやラジオの情報によると、警察はこの事態を打開するために民間軍事会社に内務省と首相を通して依頼をだしたそうで、ついさっき、その会社の物と思われるバンツェルに動きがあったらしい。

しかし、この状況ではバンツェルを使ってどうこうすることはできまい。

警察から、ひいてはこの国のリーダーから公式に依頼を出されるような会社だ。

どうせ元警察なんかの、ぬるいやり方をする会社だろう。

出来たとしても、せいぜい警察の『我々は事態打開のために全力を尽くした』というアピールの材料として貢献するぐらいだ。


(勝ったな)


リーダーは周りに悟られないように心の中でほくそ笑んだ。

しかし、直後にリーダーの中に一つの中に疑念が生まれた。

そう、なぜその会社が『元警察なんかの』と思ったのだろうか。

テレビやラジオを聴いていても、ニュースキャスターはただ民間軍事会社としか言っていない。


(もし、相手が同業だったら……)


この世に民間軍事会社はごまんとある。

元警察どころか元マフィア、元テロリスト、元殺人犯なんでもござれだ。


(いや、ありえねぇ、政府がそんなことするわけが……)


その国の首都でこれだけの騒動を起こした張本人とは思えないセリフだったが、今のリーダーには関係なかった。


(もし、相手がイカレてたら……)


間違いなく殺しに来るだろう。世間体や依頼主である国や警察の事など考えずに。

実際はそうではないのだが、どの時点でこうなってしまったのか、ほとんど疑心暗鬼に陥ってしまった今のリーダーにはわからなかった。


(クソッ! なんなんだ、この胸騒ぎは!?)


リーダーがそう思った瞬間、テレビやラジオから彼にとって最悪の知らせがきた。


「なお、この事態の収拾にあたっている民間軍事会社に関してですが、当テレビ局が独自入手したリーク文書によると、社員はほとんどが快楽殺人犯や死体損壊の罪で服役していた者達だそうです。

 これね、警察の人達は否定しているのですけど、いくら事態解決のためとはいえどうかと思うんですけど、どう思います? オノデラさん?」

「いや、ホントにね、これはある種警察と国の怠慢ですよ。

 その会社員達が、今は罪を償って社会に復帰しているのは構いませんがね、よりによってこのような事態をそういった人達に任せるというのはちょっとね、どうかなと」


その後も様々なテレビ番組で似たようなコメンテーターが似たようなコメントをするのを見て、リーダーの心は打ち砕かれていた。


(……クソッ……)


意気消沈するリーダーのポケットで携帯タブレットが鳴りだした。


(なんだ、こんな時に!)


リーダーが苛立ちながらタブレットの画面を見ると、そこには驚愕の内容が書かれていた。


『奴はスパイだ』


リーダーは、しばらくその場で固まってしまった。

ふと顔を上げると、自身に背を向けた男も携帯タブレットを見ているようだった。

男はタブレットから目を離し、人質を見張る男をチラッと一瞥した後に、リーダーの方を向いた。

男は人質を見張る男にばれないように、その男を指さした。

リーダーは悟った。

自分たちの中に裏切者がおり、今自分の目の前にいる男はそれを知らせてくれたのだと。

それならば、後は簡単だ。

向こうにいるスパイを殺し、警察の前でその死体をさらせばいい。

そして告げるのだ。『俺達を舐めるな』と。

幸い、今の警察側のリーダーは前の男のように質問をのらりくらりとかわすような、いかにもベテラン刑事といったヤツとは違って、どう考えても警察学校を出たばかりの新米のように思えた。

リーダーはゆっくりとうなずいた。

それを見て、男はうなずいて人質を見張る男の前にゆっくりと歩いて行った。


「死ね」

「え?」


男はナイフを取り出して人質を見張る男の喉元に突き刺した。

人質の中からひと際大きな悲鳴が上がる中、首から血を流してリノリウムの床に倒れこむ男を、リーダーは冷たい目で見ていた。


「外に出してくる」

「あぁ、頼んだ」


そう言って、男はすでに死体となった哀れな男を引きずって外に出た。


(ま、これでなんとかなるだろ)


リーダーは安堵した。

しかし、直後に銀行の奥から爆発と銃声が聞こえた。


「リ、リーダーッ!」

「なんだ、どうし—」


リーダーは驚愕した。

娼婦達と楽しんていたはずの男が、全身血まみれになって銀行の奥から出てきた。


「奴ら—」


男がそう言った瞬間、男の顔から上が銃声と共に消え去った。

リーダーがしばし呆然としていると、外からも銃声がした。


「っ!」


リーダーが思わず外を向くと、死体を外に出していた男が地面に倒れていた。

リーダーは考えるよりも早く、無線機に向かって怒鳴り散らした。


「全員聞けっ!

 女達と楽しんでいる奴らは今すぐ戻ってきて人質を殺せ!

 装甲車とバンツェルに乗っている奴はとりあえず撃ちまくれ!

 警察だろうが野次馬だろうが構わん!」


しかし、無線機からはノイズしか聞こえなかった。


「おいっ! 聞いているのか! 誰か—」


その時、銀行の正面に配置されていた二機のバンツェルが轟音と共に崩れ落ちた。

人質の悲鳴が聞こえるなか、もう一度裏口の方で轟音がした。


(向こうもやられたかっ!)


リーダーはホルスターから拳銃を取り出し、先ほどの少女の腕を取った。

その時、銀行内の照明が一斉に落ちて銀行内を闇が支配した。


(構うもんかっ!)



少女の腕を引っ張り、少女と共に銀行の外に出た。

途中首筋に焼けるような痛みが走ったが、今のリーダーにはささいな問題だった。

リーダーは少女のこめかみに拳銃の銃口を押し付けて力の限り叫んだ。


「聞こえるかっ! つまらない小細工をするなっ!

 今すぐにヘリを持ってこいっ! さもないと—」


その時、男の足元に長方形の黒い筒が転がってきた。

リーダーが呆然としていると、突然その黒い筒が爆音と共にまばゆい光を発した。


「ぐわっ!」


男は拳銃を少女からどけ、目を覆ってひるんだ。


「く、くそ、ふざけやがって!」


男は再び少女に拳銃を押し付けようとするが、すでに少女の姿はなかった。


「な、なんだ、どうなってるんだ!」


困惑するリーダーの前には、少女を抱え込んで大型の盾を構えながら後ずさるカトレアがいた。


「き、貴様!」

「残念ながら、交渉決裂です」

「な、なんだよ……なんなんだよ、てめ—」


そこから先の言葉を、リーダーが発することはできなかった。

テレビ局の中継車が猛スピードでリーダーに突進したからだ。

リーダーは数十メートル吹き飛んで地面に転がり込んだ後、クタッと動かなくなってしまった。

カトレアが近くの警察官に少女を渡すと、中継車の運転席から出てきたテルールが自慢げに語った。


「……大勝利!……」

「……まぁ、この際手段に関しては問わないでおこう」

「はわわわ……」


中継車の助手席では、リンが顔面蒼白になっていた。


                              ※


「いや助かったぜ!

 ま、パァーっとやってくれ! パァーっと!」

「おうよ! ジャンジャン持って来い!」


時刻はすでに深夜となっているなか、首都の治安を守る総本山、警視庁の会議室の中では、警察関係者とジークフリート社の全社員、そしてリンの姿があった。

肩を抱き合って笑いあうスコット警部とニキータをしり目に、アーニャの心は荒れていた。


「フン! なによ、アタシだって頑張ったのに……」

「まぁまぁ、そう言わずに。はい、オレンジソーダ」

「あ、ありがとう……気が利くじゃない」


ユーリンにオレンジソーダを手渡されて、すっかりおとなしくなってしまったアーニャの後ろから、イリスが近づいてきた。


「あ、あのユーリン君、コレ—」

「ちょっと! 今ユーリンはアタシと話してるでしょ!?

 順番守りなさいよ、おっぱいオバケ!」

「うぅ、ひどいです!

 ……ユーリン君はおっぱいの大きな人は嫌いですか?」

「いえ、まったく」


ユーリンがそう言った瞬間、ユーリンの顔面にオレンジソーダの入ったジョッキが叩き付けられた。


「すいません、カトレアさん……」

「はい、なんでしょう?」


そんな喧噪とは裏腹に、リンは沈痛な面持ちをしていた。


「そのどういうことなんでしょう?

 正直言って、警察のバスの中で言っていた事は専門用語が多すぎてよくわからなかったのですが……」

「あぁ、そのことですか」


カトレアは手に持っていたカルーアミルクを近くのテーブルに置いて説明を始めた。

リンの右手には携帯型のハイビジョンカメラが握られている。


「まずあなたと別れた後、我々はありとあらゆる装備品を早急にかき集め、突入の機会を伺っておりました。

 その時、テロリストが少女を殺そうと銀行の外に出てきましたでしょう?

 これはまずいということで、その後はすべてアドリブでの行動でした。

 私はスコット警部の代わりに現場指揮者となったキャリア組の新卒警察官を演じ、その隙にアンドレアさんとレイカさんは建物に潜入するために近くの店で娼婦に見えるような衣服を買って、武器を満載したボストンバッグと共に銀行の裏口から潜入しました」


ここまで聞いて、リンは疑問を投げかけた。


「な、なるほど……

 ですが、テロリストの方には不審に思われなかったのですか?」

「正直言いますと、それが失敗するならそのまま強行突入するつもりでした。

 ですが、肝心のテロリスト達は二人の巧みな演技のおかげで、私が気を利かせて送った娼婦と思い込んだ様子だったそうです。

 彼女達は銀行の奥の部屋にボストンバッグを置き、テロリスト達の前に姿を現しました。

 その後は再び部屋にこもり、テロリスト達と楽しむ準備と言い訳をして私達に中の詳細な情報を報告した後、武器や銃器類を準備して、救出の機会を待ち続けてもらいました。

 そして私は警察上層部と政府に対して、報道機関に『警察と政府がこの事態を打開するために民間軍事会社に依頼を出した』という報道をしてもらうようにお願いしました。

 彼らもこの事態を重く見ていたようで、快く引き受けてくれました。

 その後、報道がなされたことを確認した私は、間髪入れずにアーニャさんに対してマスコミ宛に『事情を知っている警察関係者』からのリーク文書という形で、その民間軍事会社に問題があるような内容を送り付けるように指示しました」


そこまで話して、カトレアはテーブルにあるカルーアミルクを手に取って一口飲んだ。

リンにとってその横顔は、まさしく仕事を終えたプロといった精悍な顔立ちだったが、ここでも疑問が生まれた。


「あ、あの、どうしてそのような事を?

 報道機関に情報を渡すというのは一記者としてありがたい限りだとは思いますが、よりによってあんなひどい内容を話さなくても……」

「テロリスト達に揺さぶりをかけるためです。

 彼らは数時間以上警察とにらみ合いを続けていました。

 その中に警察や政府が送り込んだ、この事態における『最悪のアウトサイダー』の存在を、自分達の事を躊躇なく殺してくる可能性のある存在をほのめかすことで、少しでもその心理に揺さぶりをかけたかったのです」

「はぁ~、なるほど。それで、その後はどのように?」


リンの質問に、カトレアはカルーアミルクを一口飲んでから答えた。


「その後はアーニャさんが電話会社に対してハッキングを行い、携帯電話を通じてテロリスト達の位置を確認すると同時に、さらなる揺さぶりの手を考えました。

 運よく、多くのテロリスト達から離れた位置に三人のテロリスト達がいたワケですが、彼らのメールの送信内容や通話記録から、彼らが職業的犯罪者であること、彼らの内の一人は今回の仕事が残り二人との初仕事であったことを突き止めました。

 そして、アーニャさんが彼らの内の二人に時間差で残り一人がスパイであるという内容のメールを送りました。

 その時点ですでに彼らは心理的に動揺していたでしょうし、例え人質にとっての脅威を減らせなくても、彼らにさらなる動揺と疑心暗鬼を抱かせることはできるでしょうから。

 案の定、事態は我々にとって有利になりました。

 彼らは仲間の内の一人を殺し、何を思ったのか、その死体を外に出すために一人が人質の元を離れました。

 その時、社長からの命令でアーニャさんがハッキングによって彼らの携帯電話を電子的に破壊し、あの銀行に対して局地的に電子妨害を掛けました。

 その後、奥の部屋で待機していたアンドレアさんとレイカさんは扉に仕掛けた爆薬を作動させ、生き残ったテロリストを排除していきました。

 残念ながら一人だけ逃げましたが、すぐにレイカさんのショットガンの餌食になりました。

 そして、すでに外に出ていたテロリストを、テルールが警察の狙撃銃を借りて狙撃しました」

「えぇ、それは私も見ていました」


その時の光景を思い出しのか、リンはカメラを持ったまま身震いをした。


「次に敵のバンツェルですが、正面の二体をニキータさんのデスポートに搭載された装甲狙撃砲、私のイェーガーによる重金属粒子狙撃銃による狙撃で鎮圧しました」

「えっ!? アレはバンツェルでやったんですかっ!?

 あの、私そういうのに疎いのですが、バンツェルの武器で攻撃したらやられた方のバンツェルは爆発したりするのでは?……」

「いえ、動力炉に致命的な衝撃を与えない限り、バンツェルは爆発しません。

 ちょうどあの時、通りの向かいにあるビルの隙間から敵のバンツェルが見えたため、我々がバンツェルを隠していた付近で狙撃を成功させることが出来ました。

 もっとも、それが出来なかったらエアポーターで上昇し、上空から狙撃するだけですから。

裏のバンツェルと装甲車は、イリスさんと社長が始末しました。

 イリスさんは今回が初の実戦参加でしたが、その……社長が誘ったら……二つ返事で了承を……」


カトレアは話すうちに、額にアンドロイドでは出るはずのない青筋を浮かべ、持っていたカルーアミルクの入ったグラスを握りつぶして割ってしまった。


「だ、大丈夫ですか、カトレアさん!?」

「も、申し訳ありません……」


カトレアは係りの者がグラスとこぼしたカルーアミルクを掃除した後、話を続けた。


「……とにかく、イリスさんは今回が初の実戦参加ではありましたが、見事に敵の装甲車をロケットランチャーで破壊してくれました。

 バンツェルの方は社長がクリーガーを用いて無力化しました。

 その後、社長は光学迷彩と暗視装置を着用して銀行内に潜入、アーニャさんが銀行内の電気システムにハッキングを行って暗闇を作り出した後、残る一人のテロリストを排除する予定でした。

 しかし、テロリストは偶然にも社長のナイフをかわし、人質を連れて外に出てきました。

 私はテルールにテロリストの排除を指示した後、警察の特殊車両から閃光手榴弾と防弾盾を借りて、それらを用いて人質の安全を確保しました。

 その後はあなたも知っての通りです……ただ、さすがにテルールがテレビ局の中継車であの男を轢くとは思いませんでしたが……」


リンもその考えに大いに賛成した。


「えぇ、そうですね……

 私もその時テルールさんと一緒に中継車に乗車したんですが、まさか人を轢き殺すなんて……」

「あ、あのテロリストですが、生きていたそうです。

 回復を待って事件の概要を聞くそうですよ」

「そうなんですか!?

 よかった~、殺人現場を録画するなんてまっぴらごめんですからね!」

「ふふ、そうですか」


カトレアは微笑み、リンもカメラを持ったまま笑った。

その後、宴会はお開きになり、警視庁の正門の前にはリンとジークフリート社の面々がいた。


「あの……最後に一つだけ聞いていいですか?」


リンは遠慮気味に質問した。


「皆さんは……こんな危険な仕事を、何のためにしているんですか?」

「……ま、色々な理由があるんだよ」


ユーリンを中心としたジークフリート社の面々の後ろには都会の、人工的な明かりが煌々と輝いていた。

それぞれの表情は街灯の光によって妖艶さを醸し出しており、その雰囲気はすでに一般人とは異なるオーラを発していた。


「……いいわ」

「え? なに?」


リンの表情は徐々に豊かになり、羨望の眼差しをしていた。


「いいわ! ラストはコレよ!

 どこか影のあるセリフと共に都会の闇に消えるアウトローヒーロー達っ!

 ウケるっ! 絶対この番組はウケるわっ!」

「あ、あの、リンさん?」

「私、やっぱり民間軍事会社っていうのはかっこいいと思いますっ!

 番組、楽しみにしていてくださいね!?

 ありがとうございました!」


そう言うと、リンは走り去ってしまった。


「……彼女みたいなのは一生、あんな感じなんだろうな……」

「……でしょうね」


ユーリンとカトレアがそう言って、ジークフリート社の面々は街の方まで歩いて行った。

数日後、ジークフリート社の元にプラヴァー社から番組を記録したディスクが送られ、一緒に送られた手紙には、リンの署名で『番組、大ウケでした!』とだけ書いてあった。


                              ※


……いくら仕事とはいえ、こうも毎日デスクワークばかりでは何かの病気になりそうだ。

かといって、仕事を放りだすことは立場的にまずい。

私がそのジレンマに苦しんでいると、スライド式の扉が開いてユリアとオクサナが入ってきた。


「お疲れさんです、頭領」

「あぁ、お疲れさま」


オクサナが近くのソファに座ると、ユリアは私の机の前まで来て状況を説明した。


「報告します。

 オペレーション・ミッシオーネンの準備が完了しました」

「そうか、ご苦労」

「あともう一つ。

 民間軍事会社のジークフリート社ですが、我々が工作して差し向けた犯罪組織との戦闘を分析した結果、構成員同士の連携に優れた組織であることが判明しました」


私はその言葉を聞いて書類作業の手を止めてユリアを見た。


「そうか……オペレーション・ミッシオーネンの障害にはなりそうか?」


私の質問に、ユリアは少し考える素振りをして答えた。


「多少の損害を与えらえることになるでしょうが……作戦全体の障害になるほどとは思えません」

「そうか……しかし不安要素であることに変わりはない。

 もし奴らが邪魔になるようなら、お前たちで処理してくれ」


私のその言葉を聞いて、ソファに座るオクサナが質問してきた。


「良いんですかい? やっちまって?」

「あぁ、構わん」


今度は机の前にいるユリアが質問してきた。


「彼はどうするのです?」

「私達に合流しないようなら、ここで始末するしかない……つらいがな」

「……了解しました」


ユリアの返事を聞いて、私は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。

……相変わらず美しい星だ。これから起こるかもしれない事など、あの星に住まう者達は想像できまい。

しかし、我々はやり遂げる。

これもすべて、大いなる災厄から我らも彼らも守るためなのだから……


人ひとりを轢いても、アンドロイドなら無罪です……ククク

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