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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第十二話二部 民間軍事会社の構成員

「もう、カトレアちゃんったら……」

「はぁ……あともう少しだったのに……」

「……まったく、あなた達と来たら……」


ユーリンの部屋のリビングでは、カトレアに叱られたレイカとアンドレアが文句を言っている。

部屋の中には他にもジークフリート社の全社員とプラヴァー社のテレビクルー達がいる。


「あ、あのぅ……

 よろしければ、取材の許可を頂きたいのですが?」

「え? えぇ、ソレは社長の方に」


リンに問いかけれたカトレアはユーリンの方を向いた。

ソファで両隣を美女に囲まれている少年を見て、リンはおずおずと近づいて口を開いた。


「えっと、こちらがジークフリート社の社長さんということでよろしいでしょうか?

 その、取材の許可を頂けますでしょうか?」

「嫌よっ!」


ユーリンが答えるよりも早く、リビングの壁際に寄りかかったアーニャが口を開いた。

それに続いて、部屋の中にいるジークフリート社社員達も不満を口にする。


「けっ!

 どうせ最後にはアタイ達の事『異常な犯罪者集団』とか言うんだろ!?

 アタイはパスだっ!」

「そうねぇ~、世間じゃ民間軍事会社のイメージがあまり良くないようだし~」


酔っ払ったニキータと陰湿さを携えたレイカの言葉に、リンの顔色が悪くなっていく。


「そ、そんなっ!?

 困ります! コレ、私の初めての企画番組なんですっ!

 これが消えたら―」

「いいわよ」


嘆きの声を上げるリンを救ったのはアンドレアであった。


「ほ、本当ですかっ!?」

「えぇ、もちろん」

(僕の意思はいずこへ……)


そんなユーリンの思いもいざしらず、アンドレアはリンに対して話しかけた。


「ねぇ、リンさん?

 密着取材っていうことは、あたし達は出演者よね?

 それだったら、当然出るもの出るわよね?」

「へ? あ、あの……どういう事でしょうか?」


困惑するリンの傍まで行き、アンドレアは言い放った。


「ギャラよ」

「えっ!?」

(あら、その手があったわね)

(……まぁ、いかにもアンドレアらしい発想だけどね)


そんなレイカとユーリンのやり取りをよそに、リンとアンドレアの商談は進んでいく。


「……おいくらほど?」


リンがそう言うと、アンドレアはニヤリと笑ってソファから立ち上がり、ダークレッドスーツの懐から電卓を取り出してボタンを押した後、リンの目の前に電卓の画面を提示した。


「これほど」


電卓の画面を見たリンの顔色は徐々に蒼白になっていった。


「あ、あの」

「これ以上はビタ一文とも譲らないわ。

 嫌なら出口はあっちよ、さようなら」

「ま、待ってください!

 やります! やらせてください~!」


リンがそう懇願した後、アンドレアは眩しいほどのビジネススマイルを浮かべて、リンの手を固く握りしめた。


「契約成立ね!」


アンドレアはそう言ってジークフリート社の面々に向かい、電卓の画面を印籠のようにかざして宣言した。


「みんな! 今回のお仕事は密着取材だけど、これだけ払ってくれるそうよ!」


電卓の画面を見た一同は、驚嘆の声を上げた。


「ちょ、え? いいの?」

「これは……」

「なにこれ!?

 テレビ局ってそんなに儲かるの!?」

「ヒック、へへ、ちょろいもんだね」

「……お金持ち……」

「はぁ~、これだけあれば今の研究もきっと……えへへ」

「あらあら、良いのかしら、こんなに頂いちゃって」


喜びの声を上げるジークフリート社社員と比べて、プラヴァー社社員の空気は重い。


「良いのかよ、リン?」

「ボスの許可取ってないんだろ?

 ヤバいんじゃねぇの?……」

「は、はは……

 だ、大丈夫よ、任せなさい……」


そう言うリンの目は虚ろだった。


(そうよ、これはやっと掴んだチャンス……何としてもモノにしなくちゃっ!)


リンは心の中で、固く決心した。


「そ、それでは、取材の予定を説明させて頂きます!」


リンはジークフリート社の構成員達に対して資料を配ると、取材の進行内容を話した。


「まずお一人づつインタビューをさせて頂きます。

 仕事の内容、やりがいなどを存分にお話しください。

 その後は各施設の説明をして頂きながら、皆さんの日常を取材させて頂きます。

 大体こんな感じなんですが……いかがでしょう?」


リンの問いに、ニキータとアーニャが反論した。


「なんだかアイドル特集みたいだね。

 ホントに大丈夫なのかい?」

「そもそも、アタシ達なんかで番組になるのかしら?」

「なりますっ! なりますともっ!」


リンは大声で言い切った。

その迫力にニキータとアーニャも呆然とする。


「とても興味深いですっ!

 警察やそれらの系列にある民間軍事会社とは違い、アウトローヒーローのように権力に媚びを売るでもなく、与えられた仕事を淡々とこなし、どれほど高額な報酬であろうと顔色一つ変えずに受け取って立ち去るっ!

 それなのに、普段は場末の酒場で一人寂しくキツいお酒で過去の傷を癒そうとするその哀愁漂う姿!」

(私達……八人……)

(テルール、君は正しい。しかし、今は黙っておこう)


電脳通信を行うカトレアとテルールをしり目に、リンの演説は続く。


「銃弾に穿たれる肉片、吹き出す血潮!

 それらが彼の封印したはずの本能を呼び覚まし―」

(なんかのホラー映画にあったな、そんなの)

(というか、この人どう考えても勘違いしてると思うんだけど……)


段々とズレていくリンの民間軍事会社の姿に、ニキータとアーニャはため息を吐く。

その後もリンの演説は続き、


「—というわけですが、これほど魅力ある職業にも関わらず、未だにどの局も取材を行っていないんです!ウケます! この企画は絶対にウケますっ!

 不肖リン・ヴァレンタイン、誠心誠意取材させて頂きますっ!」

「……」


もはやこの空間に、リンに対して異論を唱える者はいなかった。

結局この日はお開きとなり、テレビクルー達はミルタの宿泊施設で一泊した後、再びジークフリート社を訪問した。

その後もジークフリート社の社員達とプラヴァー社の社員達で打ち合わせを行い、いよいよ取材開始となった。


「おはようございます!

 本日は民間軍事会社特集ということで、こちらジークフリート本社にお邪魔しております!

 さっそくですが、こちらにおります社員さん達に自己紹介をして頂こうと思います!」


アパートにあるユーリンの自室で、リンはアンドレアの方を振り返り、話を続けた。



「それでは自己紹介の方をどうぞ!」


正直、アンドレアは内心ではリンの杜撰な取材のやり方にあきれていた。

しかしここで自己紹介をしないわけにもいかないので、この上ない営業スマイルで話し始める。


「私の名前はアンドレアと言います。

 担当は主に広報、業務内容の詳細や報酬などにおける交渉、会社の物品全般の補充や管理、経済や産業分野における情報収集などです」


アンドレアはまるで練習したかのようにスラスラと答える。

その後も仕事のやりがいなどを視聴者の受けが良くなるように話す姿に、リンを含むテレビクルー達は安堵の表情を浮かべた。


「—と、いうわけです」

「なるほど、ありがとうございます! それではこちらは―」


リンの顔から笑顔が消えた。

彼女はアンドレアの横でしゃがみこんでいたテルールにマイクを向けたのだが、自分にマイクが向けられたとわかったテルールはゆっくりと立ち上がった。


「あ、は……」


リンや取材スタッフが息を飲むのも仕方ない。

テルールは女性としては非常に大柄の部類に入り、その背丈は二メートルを超える。

対して、リン達取材クルーの中で一番背の高い者は集音マイクを持っているスタッフだが、その背丈はアンドレアと同じ一メートル七十ほどだった。

リン達がちょっとした恐怖を感じていると、テルールはゆっくりと上体を動かしてリンの眼前で囁いた。


「……お金持ち……」

「え? あの……」


テルールはそう言って、部屋から出て行ってしまった。

リビングでは重い沈黙が流れる。


「え、えっと……さあ! それではこちらの方にもお話しを聞いてみましょう!」


リンの明るい口調で、取材スタッフはいつもの調子に戻った。

どうやら今あったことは、頭の中からさっぱりと消し去るつもりらしい。取材カメラがアーニャを映す。


「え? あたし!? あ、あたしはアーニャ……」

「なるほど! どのようなお仕事を?」

「コ、コンピューター……」

「……はぁ、仕事のやりがいなどは?」

「特にない」

「……」

「じ、じゃあ、あたし用事があるから!」


そう言ってアーニャも、部屋を出て行ってしまった。


「え~と……さあ! それではこちらの方にもお話しを聞いてみましょう!」


取材カメラがニキータを映す。今の光景も『無かった』ことにするらしい。


「ヒック……あぁ? なんだァ?」


カメラを向けられたニキータは、すでにヘベレケになっている様子だった。


「あ、あの、自己紹介を―」

「うっせーっ!! とっと失せやがれ、コラッ!!」

「ヒッ!」


そう言って、ニキータは酒瓶をリンに向かって振りかぶったが、そのまま後方に倒れてイビキをかいて寝てしまった。

ユーリンがチラリとリン達の方を見ると、三人の額から滝のような汗が出ていた。


「……なるほど~、それではこちらの方にもお話しを聞いてみましょう!」


……もはやここまでくると、彼女達の『無かったことにしよう』精神も立派なものである。

取材カメラはというと、ユーリンの隣に座っているレイカに向けられていた。


「あら、私?」


突然カメラを向けられたレイカに対して、リンを含めた取材スタッフは祈るような面持ちで、レイカから発せられる言葉を待っていた。


「え~と、私はレイカと申します。担当は給養と物資搬送です」


その言葉を聞いた瞬間、リンの顔に再び生気が蘇った。


「な、なるほど~っ!! 具体的にはどのようなことをっ!!」


これ以上ないくらいの大声だった。ユーリンの後ろではカトレアとイリスが呆然としている。


「え、えっと、給養というのはつまり炊事、洗濯、掃除など一般家庭で言うところの家事全般。

 物資搬送というのは武器兵器やそれに関わる物資、あるいは生活に関わる物資を運ぶ事です」


レイカが言い終わる頃には、リン達の興奮は極限にまで達していた。


「なっるほど~っ!! それでは次! そこのあなた!」

「ひっ!?」


取材カメラはイリスの方を向いた。


「さあ! 自己紹介をっ! どうぞっ!」


ジリジリと詰め寄るリンと取材カメラに、イリスは恐怖を抱いた。


「あっ!」


イリスはソファに座るユーリンを後ろから抱きしめた。


「なっ!? イリスさん!?」

「ちょ、ちょっと! 何してんのよ、イリス!」

「へ、へ~、あなた達ってそういう関係だったの?……ふ~ん」


その様子を見てカトレア、アンドレア、レイカの三人が驚いたのも無理はない。

しかし、この状況に狂喜している者もいた。


「おやおや~? どうしたんですかぁ?

 ひょっとして~社内恋愛ってヤツですかぁ~?」


リンだった。

彼女はこれまでの明るい表情から一気にゲスな顔を露わにし、イリスに近づいて行った。

その時、リンのこめかみを銃弾が通り過ぎていった。


「……え?」


リンが突然の事態に呆然としていると、部屋中に殺気が溢れた。


「ねぇ、イリスちゃん? ユー君から離れてくれないかしら?」


リンがゆっくりとソファの方を見ると、レイカはユーリンとイリスにショットガンの銃口を向け、アンドレアはリボルバーの銃口をリン達に向けていた。


「お、おい! 大丈夫か! リン!」


慌ててカメラマンの男性がリンの容態を心配するが、リンは涙を流しながら自分の命があることに感謝するのみだった。


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