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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第二話一部 人生山あり谷あり

こんにちは。民間軍事会社ジークフリート社員のカトレアです。

普段は社長の秘書をしております。

あの方は仕事には熱心に取り組みますが、金遣いは荒いお方。

しかし、そんな社長でも皆様のご慧眼にかなうようであれば、どうか暖かく見守って下さいませ。よろしくお願いします。

「冗談でしょ……」


民間軍事会社『ジークフリート』代表のユーリンがそう呟くのもうなずける。


「ガチです、社長」


その会社の社員であり、ユーリンの実質的な秘書のカトレアがそう言うのもうなずける。

二人は港街ミルタの郊外に建てられた自分達が暮らしているボロアパートの隣にある、これまたボロい格納庫の中にいた。

二人の目の前には、人型戦術機動兵器バンツェルの第二世代機クリーガーが格納庫の天井にあるクレーンで吊るされていた。

その頭部は基部から配線が剥き出しになって欠損しており、右腕部は融解の跡を残して消失、コクピット部分はハッチがまともに閉鎖出来ないほどメチャクチャに破壊されており、右足は膝から下が欠損して関節部の金属が剥き出しになり、内部の配線類がダラリと垂れ下がっていた。


「我ながらよくこんな状態で生き残ったと思うけど」

「ガルムの本拠地を破壊した後、ギルト共和国内のすべてのガルムの拠点を襲撃しましたから。

 途中で修理や整備もしましたが、やはり負荷に耐えられなかったものと思われます」


ユーリンはクリーガーの足元まで来て愛機を見上げながら言葉を続けた。


「ラルドのおっさんはコイツの修理はしてくれないの?」

「私もその件で連絡致しました。

 ですが、『作戦終了後の支援は契約にありません』と秘書官の方が仰りまして……」

「へ~、ふ~ん、そういうこと言っちゃうんだぁ~」


ユーリンの瞳にラルドとその秘書官への憎悪が宿った瞬間である。

クリーガーの隣には同型機を狙撃仕様に改造した機体であるイェーガーが保管されていたが、こちらの方はさほど損傷が無かった。

格納庫の外は昼間で雲一つ無い快晴であり、町の方から子供達の遊ぶ声が聞こえる。


「安心して下さい。

 ガルム殲滅の報酬では当分の固定資産税と食費、光熱費と予備弾薬や燃料などを確保するので精一杯でしたが、彼らが使用していたファイントの部品を大量に入手することが出来ました。

 これらの部品はクリーガーと同一規格の部品のため、問題なく使用できます」

「ふ~ん、それじゃ、さっそく修理しようか」

「はい」


そう言うと、カトレアは格納庫の中にある自走式クレーンや天井に吊り下げられたクレーンなどを使って外装の修理を、ユーリンは工具箱を手にコクピット部分に設けられたアクセスハッチを開き、中の配線を直すことにした。

格納庫の裏手には、ギルト共和国から送られてきたテロ組織ガルムの使用していたバンツェルの第一世代機ファイントの残骸が大量に放置されており、カトレアは格納庫の裏手にあるシャッターを開けて、そこから直接クリーガーの外装の交換、修理を行おうとしていた。

一方ユーリンは、損傷で破損した細かい配線を工具箱の中にある予備の配線と取り換えたり、接続部から脱落した配線を点検して繋ぎ合せたりしていた。

修理は深夜まで続いたため、残りの作業は明日にすることにして、二人はガルム殲滅の依頼の際にちゃっかり水増しして請求した軍用糧食を食べて就寝した。

翌朝、ユーリンはカーテンを閉めた窓からのガバガバ押し寄せる熱気とわずかな陽光で目を覚ました。


「おはようございます、社長」


ユーリンの横たわる、パイプを組んでマットを敷いただけの簡素なベッドの横で、カトレアは整備士などが着用する紺色のツナギに着替えていた。


「ああ、おはよう」

「本日の朝食ですが、トロトロのスクランブルエッグ、カリカリのベーコン、コゲコゲのトースト―」

「コゲコゲ!?」


そこまで何気なくカトレアの話を聞いていたユーリンだが、あまりにも唐突な言葉にベッドから跳ね起きてしまった。


「失礼しました、萌え萌えでした」

「なにそれ!? メイド姿でトースト食べさせてくれんの!?」

「……は?」

「むっかつくわ! なにその顔!? あんた無表情キャラが売りでしょ!?

 なに、その『おまえはなにを言っている?』っていうことを如実に現した顔!?」


ユーリンはカトレアのその態度を見て、朝からイライラしながらリビングの方へ向かって行った。

リビングに置かれた角材とベニヤ板で作られたテーブルには、朝食が用意されていた。

確かにスクランブルエッグはトロトロで、ベーコンはカリカリ、トーストは毒々しいほどに黒焦げだった。


「なんでトーストが……」

「トースターが壊れていたため、ライターで炙り続けていたらこんなことに―」

「でしょうね! そりゃ、そうなるよ! トースト以外の主食は買ってこなかったの!?

 お米とかシリアルとか―」

「私は修理の続きをしてきますので」


そう言って部屋を出るカトレアを、ユーリンは怨霊も裸足で逃げ出すほどの恨み顔で睨みつけた。

その後、コゲコゲのトーストに苦しみながら朝食を済ませると、クローゼットに入っているツナギに着替えて格納庫へ向かった。

すでに修理が終わっていたのか、カトレアが直立不動でユーリンを出迎えた。


「御食事の方はいかがでしたか?」

「……今度からはお米かシリアルにしてね」


カトレアをムッとした表情で見つめたユーリンは、クリーガーの目の前まで行き、その変貌ぶりに驚嘆した。


「コイツ……本当にクリーガー?」

「その通りですが?」


クリーガーの見た目は大きく変貌していた。

最大の特徴であった頭部のゴーグルアイは、第一世代機ファイントのモノアイを六つ装備した姿に変わっており、欠損したクリーガーの右腕部は取り外して、ファイントの腕部パーツをそのまま取り付けて外側に逆台形の装甲板が三つ取り付けられていた。コクピット部分の外装はファイントの胴体をそのまま換装していた。


「動くの?」

「起動は出来ますが、しばらく慣らし運転が必要かと。

 照準用のカメラアイの数は変わりませんが、観測用のカメラを六つに増やしましたので、同時に六つの画像・映像処理が可能となります。

 右腕部ですが、ファイントの右腕パーツをそのまま接続し、シールドはファイントのサイドスカート部分を逆にして三枚繋ぎとしました。

 その結果、右腕がもげる可能性は軽減しましたが、バランスに難があります。

 いざとなれば、シールドを取り外してバランスと機動力を確保することも出来ます。

 ですが、また右腕がもげたら―」

「あれはカッチャンのせいでしょ!」

「……すみません」


未だに根に持っているのか、素早くツッコミを入れるユーリンに対してカトレアは頭を下げて謝罪した。

ユーリンも、これ以上話を脱線するワケにはいかないので、カトレアの説明を黙って聞くことにした。


「コクピット部分ですが、この倉庫にある設備では限度があったため、ファイントの胴体パーツをそのまま取り付けました。

 しかし、タッチパネルの兵装覧などの配列データはすでに破損前の状態に戻しておきました。

 操縦系統に問題はありません」

「へぇ、まぁ、良いんじゃない?」


カトレアの説明に納得したユーリンは上機嫌になり、自走式タラップを登ってクリーガーのコクピットに乗り込んだ。


「それじゃ、さっそく慣らし運転を始めよう。いざ実戦になって使えませんじゃ話にならないからね」


早く動かしたい衝動を抑えられずにいるユーリンに対して、カトレアは冷や水を浴びせるようなことを言い放った。


「残念ですが、依頼がきております」

「……なんですと?」

「こちらへ」


そう言って、カトレアは格納庫から出ていった。

ユーリンもその後を追ってアパートの自分の部屋へ向かい、ツナギから白のタンクトップと茶色の半ズボンに着替えて、リビングのテーブルに置かれたパソコンの前に座った。


「こちらを」


そう言って、カトレアは外出する際にいつも持っていくアタッシュケースから記録メモリーを取り出して、パソコンに差し込んだ。

表示された画面に映し出されたメモリーの中には、一つの依頼内容が記録されており、ユーリンはそのファイルを開いた。

依頼はギルト共和国からであり、誘拐された内務大臣の救出だった。

依頼内容には、『続きはギルト共和国首相官邸執務室にて』と書いてあった。


「カッチャン」

「ヘリを用意致します」


カトレアは黒のスーツに素早く着替えて、タンスから散弾銃を取り出したユーリンと共にアパートの裏手にある即席ヘリポートに置かれたヘリでギルト共和国に向かった。

途中、寝不足でうたた寝をしていたユーリンをカトレアが無言でヘリから突き落とそうとするハプニングが起きたが、なんとか無事にゴルゴグラードのヘリ専用発着所に着いた。

ヘリから降り、首相官邸からの迎えの車で首相官邸に着くと、二人はズカズカと首相執務室の前まで来た。

ユーリンは、カトレアを残して執務室に散弾銃を構えて突撃した。


「……」

「ユ、ユーリンさん!? ま、待って、待ってください! は、話せばわかりますから!」


無言で執務室の扉を開けて、無表情で自分に散弾銃の銃口を向けながら近づいてくるユーリンの姿に、ラルドは発狂しかけた。


「修理代払え~弾薬燃料費払え~」

「は、払います! 払いますから、銃口どけてくださいー!」


自身の近くまで来て、散弾銃の銃口をグリグリと頭に押し付けてくるユーリンに、ラルドはそろそろ失神しそうである。


「……ちゃんと払ってよ?」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!!」


散弾銃の銃口をどけ、ユーリンはカトレアと共にソファの上座にドカッと座った。

ラルドも溜息をついてソファの下座に座った。


「今回の依頼の件ですが、まず報酬はお一人につき一億アルク。

 人質は砂漠の中にある廃棄された軍の基地に監禁されています」

「ふ~ん、わかった。その依頼引き受け、え、一億アルク!? 一億アルクって言った今!?」

「確かに言いました、社長」


興奮するユーリンの横で、カトレアが冷静に言った。

目が完全にアルクマークになっているユーリンに対し、カトレアは秘書が持ってきたお茶をそっと出した。


「わ、わかった。その依頼、引き受けるよ」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


ユーリンのその言葉に、ラルドの顔に安堵の色が浮かんだ。

そうしてユーリンはお茶を一気に飲み干すと、執務室を出て行こうとした。

カトレアが後に続こうとした時、


「ユーリンさん」

「ん?」


ラルドがユーリンを呼び止めた。


「人質、つまり誘拐された内務大臣は私とは違う派閥「保有派」に属しておりまして、政敵の関係にありますが、決して悪人というわけではありません」

「それって、キューブを元にもう一度国軍を保有しようっていうあの?」


第十三次宇宙戦争後、それなりの時間が過ぎていた。

まだまだ戦火の傷跡が癒えないとはいえ、現在の世界情勢は非常に不安定になってしまっている。

ネットの匿名掲示板では国家がもう一度軍隊を保有して、民間軍事会社を掃討せよと過激な発言が目立っている。

しかし、これらの動きは当の民間軍事会社からしてみれば死活問題なため、ありとあらゆる手段を用いて国軍保有の世論を覆そうとしていた。

その手段のなかには、当然不法な手段が多々含まれており、そういった一部民間軍事会社の行動も、最近の再軍備の世論形成に影響を及ぼしていた。


「えぇ、知っての通り、最近は国軍復活の世論が急激に湧き上がっており、彼はその急先鋒でした。

 今回のテロも、国軍保有に反対する民間軍事会社を名乗ってはいますが、事実上のテロ組織『熱砂の牙』がやったという情報が私の耳に入ってきております」

「そう、やっかいだね」


困り果てた顔をするユーリンを真正面に捉え、ラルドは真剣な顔つきで言った。


「とにかく彼の事、よろしくお願いします」

「あぁ、わかったよ」


ユーリンはその言葉を最後に執務室を後にした。

                   

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