第十一話四部 この前とこれから
「いや~、ユーリンさん。
この前は災難でしたね、ささ、どうぞ、どうぞ。
ごゆっくりと、くつろいでください!」
「うん、ありがとう」
ティナとの戦闘から数日後、ユーリン達はギルト共和国の首都ゴルゴグラードにある首相官邸の首相執務室にいた。
あの後、ユーリン達はラルド首相に呼ばれてこの官邸に来た。
応接用のテーブルには所狭しと料理や酒が置いてあり、首相専用のデスクの前ではラルドが上機嫌になっていた。
しかし、そんなラルドとは対照的に、ユーリンはどこか物思いにふけっているようだった。
それに、ここにいるのはジークフリート社の社員達だけでなく、イーヴォなどもいた。
「よう、ユーリン。
どうした、浮かねえ顔して」
「『奴ら』と戦ったよ」
「……首相誘拐事件の時か?」
イーヴォが声を潜めて問いかけてくる。
彼にはレイカを通じて誘拐事件の事を伝えていた。
「ううん、二日ぐらい前に」
「……どうも最近は『奴ら』の活動が活発になっていやがるな。
まぁ、俺は俺でやらせてもらうがよ」
そう言って、イーヴォは酒類の元へ鼻歌を歌いながら向かっていった。
やがて宴会が終わる頃、ラルドは神妙な顔をして一同に向かって話し始めた。
「実は今日集まってもらったのは、みなさんにある事をお願いするためです」
「あら、ラルドさんのクセに神妙な顔をなさるのね?」
レイカが最大限の皮肉を言っても、ラルドはいつものようにうろたえなかった。
「……まぁ、私への批判は良しとして。
みなさん、これからはいわゆる『奴ら』に対するあらゆる接触をやめていただきます」
「えっ!?」
その言葉を聞いて、ジークフリート社の社員達はどよめき、イーヴォはジョッキに注がれたビールの飲みながらチラッとラルドの方を向いた。
しかし、ラルドのその言葉を聞いて一番驚いたのはユーリンであった。
それと同時にユーリンは努めて冷静に、ラルドからワケを聞き出そうとした。
「……なんで?」
「……申し訳ありません、ユーリンさん。
それについてはお話しできません」
ラルドが話し終えた後も、ユーリンはジッとラルドを見据えていた。
ユーリンのその様子を見て、他の者達も固唾を飲んでこの状況を見守っている。
「……もちろん、今までの皆さんの公式、非公式を含む我が国への貢献は今後も忘れませんし、これからも我が国のためにそのお力を貸していただければ幸いです」
「……そう、わかったよ」
ユーリンの意外な言葉に、その場にいる全員が驚きの声を上げた。
「……申し訳ありません、ユーリンさん」
執務室を出ていくユーリンに向かって、ラルドは心底悔しそうにつぶやいた。
その後はとても宴会などやっていられるような雰囲気ではなくなり、他の者達は各々の帰路についた。
その夜、ジークフリート本社、もといユーリン達が暮らすアパートは尋常ではない雰囲気に包まれた。
ユーリンが自室で就寝していると、ベッドの傍でカトレアが立っていた。
「社長、起きてください」
「ん……カッチャン? どうしたの?」
「皆さまがお待ちです」
そう言うと、カトレアはさっさと玄関の方まで歩いて行った。
ユーリンは眠たい目をこすり、ベッドから起き上がってカトレアの後について行った。
カトレアはアパートの階段を下り、チカチカと点灯する街灯の下を歩いて行った。
やがて二人はミルタの町に入り、酒場ジェーン・ドゥの中に入っていった。
酒場には、ジークフリート社の関係者が勢ぞろいしていた。
「みんな、どうしたの?」
「決まってんだろ、ユーリン」
ユーリンの疑問の言葉に、ニキータが即答する。
「ユー君、もういいでしょ?
話しましょう?」
「だから、何を?」
レイカの言葉に、少しキレ気味にユーリンが聞き返す。
「アンタとレイカが昔、何をしてたか……
それから、これからどうするかってことよ」
アーニャがカウンター席にもたれかかりながら言った。
ユーリンはその言葉を聞いてレイカの方を見ると、レイカは困り果てた様子だった。
「……ふぅー、わかったよ。話すよ」
ユーリンはカウンター席に座り、目を閉じて一息つくと、ゆっくりと話し始めた。
「僕、小さい頃から両親の事見たことなくて、養護施設にいたんだ。
十歳頃だったかな……大戦末期の時期で、いつものように施設で暮らしてたんだけど、二人組の男達が来てさ。
その人たちは施設長と何か話した後、僕を軍の施設に連れて行ったんだ。
そこで何日か部屋でおとなしくしていたら、白衣を着た人たちが来て僕を研究施設みたいな所に連れて行って色々な運動とか筆記テストみたいなことをやらされたの。
それからまた数日が過ぎて、僕は死神部隊に配属されるようになったんだ」
ユーリンが話している間、酒場の内外は時が止まったかのように静まり返っている。
「そこでは色んな人達がいた。
僕みたいな子供や若い女性、中年の男性、人種や年齢はまぜこぜだった。
その後、僕らは第一世代のバンツェルであるファイントやそれ以外の兵器を使って各地の戦場で戦うことになったんだ。
基本的には宇宙での作戦が多かった」
そこまで話してユーリンはため息をした。
「ある日、小惑星にある敵施設をバンツェルで襲撃する任務が下された。
僕は偵察隊にいたから、本隊が来る前の事前偵察に出かけて……見つけたんだ」
「……なんです?」
カトレアが静かに聞いた。
ユーリンがカトレアの方を見て、ゆっくりと口を開く。
「……バンツェルだよ。
もっとも、当時僕らが使っていたバンツェルなんかじゃない。
もっと最新鋭の機体や……生き物みたいな機体もあった。
その中には……あの薄紫色のバンツェルもあった」
ユーリンがカトレアを見ながら言うのを聞いて、カトレアは数日前に出会ったバンツェルを思い出した。
「そのことを司令部に報告している時、たぶん無線を傍受されたと思うんだけど、『奴ら』が僕ら目がけて 襲い掛かってきたんだ」
ユーリンの瞳が憎悪と恐怖の入り混じったような輝きを見せた。
思わず一同も息を飲む。
「一瞬だった。
他の人たちはあっという間にやられて、僕もなんとか応戦したんだけど、結局はやられちゃった。
その時、あのティナって奴は『弱い』……たったそれだけ。
僕の大切な仲間を殺しておきながら、たったそれだけ言って他のバンツェルと一緒にどこかへ行っちゃった……僕は生命維持装置とコクピット部分はなんとか無事だったから、そのまま司令部が設置されている航空母艦に戻ったんだ。
でも……無かった。
辺りには母艦の破片のようなものが漂っているだけで、他には何もなかった。
僕はたまたま近くを通りかかった味方の戦闘艦に助けられて、後は色々あって今に至るってワケ!」
ユーリンが自身の体験を語り終えた後、酒場には静寂が訪れた。
やがてレイカが口を開いた。
「当時、イーヴォさんや私は後方の任務やデスクワークだったから生き残ったけど、他の人たちの大半はその母艦にいたから、死神部隊は事実上壊滅。
私はその後、色々あってこの町に酒場を開いたの」
レイカの説明を聞いた後も、酒場内は静まり返っていた。
「それで……これからのことだけど」
ユーリンが口を開いた。
一同も身を乗り出して話に聞き入る。
「会社はこのまま続けていこうと思う。
なんだかんだ言ったって、生きていくには働かなくちゃ!」
「だな、それがいいぜ!」
ユーリンの提案にニキータは快く応じた。
「でも、あの首相の態度はどういう事よ?
おかしいんじゃない?」
「おそらく、『奴ら』に秘密裏に圧力をかけられたのでしょう」
アーニャの疑問にカトレアが答える。
正直言って、ユーリンにはその可能性は薄いと思われた。
ラルド首相は気弱な人物ではあるが、簡単に国内外の圧力に屈するような人物ではない。
そのラルドがこうも単純に、あからさまにユーリン達に圧力を掛けてくるということは、何か弱みを握られた上で『奴ら』に圧力を掛けられたのだろう。
酒場の中に何とも言えないもどかしい雰囲気が漂うなか、ユーリンは社長としての自分の役割を理解しながら社員達に語り掛けた。
「あのさ、僕も正直言って悔しいんだ。
でも、もしここで僕らが引かなかったら、下手したらこの国まで敵に回しかねないと思う。
僕らの思いとは裏腹にね。
大丈夫、幸い何日か前の仕事でまとまったお金が手に入ったから、しばらくは暮らしていけるさ」
「……やった~……」
テルールの空気を読まない発言のせいもあって、再び酒場に静寂が訪れた。
「あ、そうだわ!」
突如、レイカが思い出したように口を開く。
彼女はテーブル席から立ちあがってカウンターの裏に行ってしまい、数分で戻ってきた。
「実は、新入社員を連れてきたのよ」
「え? 誰よ?」
「……新しい人……どんな人?
……こんな人……ぷぷぷ」
「……ワケのわからない冗談はやめろ、テルール」
一同がそわそわするなか、カウンターの裏にある厨房から二つの人影が出てきた。
「あっ! アンドレア!
イリスちゃんも!」
「ふふ……こんばんは、ユーちゃん」
「よ、よろしくお願いしますぅ……」
その人影の正体はアンドレアとイリスだった。
アンドレアの顔色は少々やつれており、イリスの白衣はボロボロで、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「なぜあなた方が?」
カトレアが心底不思議そうに問いかけた。
「実はあたし達、あの後本社に戻ったらクビになっちゃったの」
「え!? クビ!?」
「ケッ! これも『奴ら』の圧力だってのかい!」
アンドレアの説明にユーリンとニキータは声をあげた。
アンドレアの後ろに控えているイリスはぐずり始めた。
「たぶん。
だから、あなた達の会社で雇ってもらえないかしら?
あたしは対外交渉なんかは得意だし、イリスはバンツェルやそれ以外の兵器の研究開発に関しては大きな戦力になると思うけど?」
「確かに我々としても助かりますが……
どうしますか? 社長?」
「別にいいよ。よろしくね!」
そう言って、ユーリンはニコッと微笑んだ。
「ええ、こちらこそ、よろしく」
「よ、よろしくお願いしますぅ!」
二人はそれぞれ挨拶した。
その言葉を聞いて酒場の雰囲気は変わり、ジークフリート社の新たな門出を祝う小さな宴会が開かれた。
登場人物が増えるたびに誰が何の名前だったか思い出せないことがあるのですが、なんとか注意して書いていきたいと思います!




