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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第十一話二部 変人ほど付き合いやすい

ユーリン達が辿り着いたシュタール・パンツァー社の研究施設は非常に大規模なものであり、全面がコンクリートで出来ていた。

空間の中央には見慣れないバンツェルが直立した状態で整備されているようで、機体のあらゆるパーツのメンテナンス用ハッチが開けられ、配線が伸びていた。

広大な空間にはバンツェルを整備するハンガーや武器装備の整備区画、精密機器類の製造施設兼実験室など、バンツェルに関するあらゆる研究開発が行えるようにできていた。

しかし、ユーリンとカトレアは内心ほくそ笑んだ。

この施設は、彼らが新しく建築した研究施設よりは規模が小さかったからだ。

その分、現在は研究員不足が深刻な問題になっているが……

三人が施設の中を進んでいくと、バンツェルの足元に一人の白衣を着た女性が忙しそうに歩き回っていた。


「おはよう、イリス。

 調子はどう?」


アンドレアがせわしなく動く白衣の女性に話しかけた。


「あ、アンドレアさん。

 お、おはようございますぅ……」


アンドレアの声に気付いて挨拶をした女性を見たユーリンは、目が点になってしまった。

その白衣の女性の体はアンドレアやレイカと勝らずとも劣らずのナイスバディであり、特に胸の部分に至っては今にも白衣のボタンがはちきれそうなまでになっていた。

栗色の明るい髪をショートボブにしており、黒いフレームメガネをかけていた。


「こんにちは、イリスさん!

 僕はユーリン! よろしくね!」

「っ!」


ユーリンが鼻の下を伸ばしながらイリスに挨拶をするが、イリスはビクッと体を震わせてまた忙しそうに歩き回り、パソコンなどの機材を操作し始めた。


「……僕、嫌われたかな?」

「ふふ、大丈夫。イリスは人が苦手なの。

 しかも特に男が苦手で、ウチの会社じゃアタシと何人かの女性の研究員としか話そうとしないの」


アンドレアは苦笑に満ちた顔でイリスを見つめた。

確かに、研究職の人間は人付き合いが苦手というのは世間一般でのイメージだが、彼女の男嫌いや内向的な性格などは少し度が過ぎているようにも感じた。

もっとも、初めて会ったばかりの人間に馴れ馴れしく挨拶するユーリンもどうかと思う。


「ま、本人の性格なんだからしょうがないわね。

 それで……イリス! 試作機の調子はどう!?」


そう言いながら、アンドレアはイリスの方へ近寄って行った。

アンドレアに呼ばれてまたビクッと体を震わせて、イリスはユーリン達の方を見て震える声で話し始めた。


「あ、えっと、改良したムーバブル・フレームの耐荷数値は良好です。

 デクリース・グラビディの方ですが、残念ながらこの会社のものだとこれ以上改良の余地がないので、ブッハフング・シュナイダー社の物を元に改良し、前回に比べて二十五パーセントの減少値になり、体感的には推定五十八パーセントまで減少していると思われます。

 モニター類ですが、全周モニターとカメラ機材の開発が予想より早く完了したため、すでにとりつけてあります。

 その他の問題に関しては、テストを通じて洗い出していくしかありません」


イリスが説明を終えた後、しばらくの沈黙が流れて呆然としている三人を見ると、イリスはハッとした表情で作業台の裏に隠れてしまった。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!

 私ったら、またワケのわからない事を言ってしまって!」

「い、いえ、大丈夫よ?

 だけど、もう少しわかりやすく説明してくれる?」


アンドレアに促されて、イリスは作業台からスッと頭だけを出して説明を始めた。


「す、すみません……えっと、改良できる所はすべて出来たと思いますぅ……

 あとはテストをしてみなければわからないですぅ……」

「そう、それを聞いて安心したわ」


アンドレアはユーリンの方を向いて微笑み、軽い調子で言い放った。


「それじゃ、よろしくね?」

「うん、わかった。それで、どうしたらいいの?」

「このバンツェルに乗り込んでくれればいいわ。

 あとはイリスがやってくれるから」

「へ~。よろしくね、イリスさん!」


そう言ってイリスの方を見て笑顔を見せるユーリンに対して、イリスはペコッと頭を下げてさっさとテストの準備を始めてしまった。


(まぁ、仲良くなるのはこれからだよね)


自分にそう言い聞かせると、ユーリンはバンツェルの元まで歩いて行った。

改めてこのバンツェルを見てみると、少し違和感があった。

全体的にはクリーガーに似ているが、全体的にスリムになった気がする。

その姿は、ファイントやクリーガーが機械的であるのに対して、いささか生物的に思えた。

よく見てみると、装甲となる鋼板の中に骨格があり、これらに必要な装備を取り付けているように思えた。

装甲のカラーリングは暗いベージュ色で統一されており、武装などは施されていないように見えた。

とはいえ、工作区画の方には数々の見慣れない兵器が置いてあるため、あれらがこのバンツェルの主兵装なのだろう。

しかも、コクピット部分も刷新されていた。

ファイントやクリーガーはコクピット部分は頭部の少し下に出っ張るように配置されていたため、被弾した際のパイロットの生存性に難があった。

この機体は、コクピットが胴体中央部にあるようで、パッと見た感じでは左右の装甲や展開した二重三重のハッチ類によって守られている印象だった。

ハーネスに関しても、従来は出入りする度に取り付け基部にカラビナを点けて、滑車を取り付けて上り下りしていたが、この機体は外装ハッチの裏側に直接ハーネスが装着されているらしく、ユーリンの元まで一直線に伸びていた。

ユーリンはコクピットから伸びるハーネスに取り付けられた滑車を掴んで足を一番下にあるリングに引っ掛けてコクピットに乗り込むと、真新しいパイロットシートに座り込んでクリーガーを起動する時と同じ要領で、このテスト用バンツェルを起動させる。

外装ハッチがハーネスを収容して閉じ、次に装甲ハッチ、その次は気密ハッチが閉じて、コクピットが明るくなった。


「わぁ~、すごいね!」


ユーリンは感嘆の声を上げた。

コクピットの中はほぼすべてが最新の機器に換装されており、液晶パネルは大型で見やすく、操縦桿やスイッチ類もマイナーチェンジされているようだった。

観測モニターも、従来の物は太い枠によって死角となる部分があったが、この機体に備わっているモニターは正面、左右、上の境目の枠が無くなり、非常に見やすくなっていた。

ヘルメットの方も、今までの戦車兵のような物からフルフェイスの物になっていた。

ユーリンがヘルメットを被ると、中に内蔵されたスピーカーからイリスの消え入りそうな声が聞こえてきた。


「あ、あの、始めます……いいですか?」

「うん、いいよ!」


ユーリンが了承すると、イリスは作業台に据え付けられた画面を操作した。

すると、コクピットのモニターに砂原の景色が映し出された。


「へ~、ファンタズマ・システムか~。

 投影値はどれくらい?」

「あ、えっと八十から九十二の間を行ったり来たりしてます。問題はありませんよ?」


ユーリンからの質問に、イリスは少し明るい口調で答えた。

その様子を見ていたカトレアが、アンドレアに向かって質問する。


「なんです? ファンタズマ・システムとは?」

「バンツェルやその装備を開発するためのシュミレーションシステムよ。

 基本的にあのシステムで良好な結果を残した装備やバンツェルを、実際に使ってみて評価するの」


二人が話している間にイリスはさらにシュミレーションの準備を進め、バンツェルのデュアルアイが赤く光り輝いた。


「あら、始まったみたいね」

「あの……社長は大丈夫でしょうか?」


アンドレアに対して、カトレアが心配そうに質問した。


「ん? えぇ、この場合はあくまで機体動作の確認やらオート機能を使った状態での動作パターンの収集が目的だから、体には問題はないはずよ」

「……そうですか」


そうは言うものの、カトレアは手をこすり合わせて落ち着かない様子だった。

やがてバンツェルのデュアルアイが輝きを失うと、コクピットハッチが開いて中からユーリンが出てきた。

カトレアはバンツェルの足元まで近寄り、ユーリンに問いかけた。


「社長! 大丈夫ですか!?」

「え? うん、大丈夫だよ?

 なんで?」

「……いえ、特に理由はありません」


そう言って、カトレアはスタスタとアンドレアの元へ歩いて行った。


(なんなのさ……)


訝しむユーリンだったが、今は仕事の方を優先することにした。

ユーリンは作業台のパソコンを操作しているイリスの元へ行き、自分が感じた事を話そうとした。


「ひっ!? あ、えっと、すみません……あの―」


どうやらイリスの人間に対する苦手意識は相当なものがあるようだ。

ユーリンはなるべく、ゆっくりと優しい口調で話し始めた。


「あのさ、たぶんムーバブル・フレームだと思うんだけど、関節部分とアクチュエーターをほとんど電磁作動にしてあるよね?

 確かに今の物より耐久性はあるかもしれないし、動作も滑らかだけど……なんというか、感覚的に腕や足が抜けるような気がするから、もう少し抵抗を強めに設定してくれる?

 ドラクール・パルスの変換値は七十から八十の間にしてさ。

 そうすれば消費エネルギーも少なくて済むしね。

 関節部分は今のでいいと思う。

 デクリース・グラビティに関しては、正直言うと実地試験をしない限りはわからないかな」


ユーリンの質問を、イリスは目を輝かせながら聞いていた。

イリスの様子に気づいて、ユーリンはイリスに話しかけた。


「あの、大丈夫?」

「ふぁ!? あ、あのすみませんですぅ!

 す、すぐに取り組みますぅ!」


そう言って、イリスは再び忙しそうに作業を始めた。

ユーリンはカトレアとアンドレアの元に向かった。


「ここにはイリスしかいないの?」


ユーリンは辺りを見回しながらアンドレアに質問した。

見たところ、この研究施設にはユーリン達以外にはイリスしかいない様子だった。

軍事産業専門の大企業の研究施設で、研究員一人というのはどう考えてもおかしく思えた。


「えぇ、そうよ」

「なぜです?」


カトレアがアンドレアに聞いた。


「あの子、性格や見た目はあんな感じだけど、かなりの天才らしいの。

 他のバンツェルに関する研究開発を専門とする研究員でも、あの子からして見れば子供みたいに見えるらしくて……しかもあの性格が災いして、他の研究員達とあまりコミュニケーションが取れないの。

 そんなワケで、あの子以外の研究員は他の研究施設に異動させて、ここはあの子一人に任せることにしたワケ。

 あの子もそれを望んでたしね」

「ふ~ん……そうなんだ」


ユーリンはイリスの方を向いてつぶやいた。

イリスは再び慌ただしい様子でバンツェルのアクセスハッチの傍で作業をしている。

しかし、その目はユーリン達と話していた時のようなオドオドした目ではなく、バンツェルに対する愛情と研究開発に対する喜びが入り混じっているような眼差しだった。


「とにかく、今日はありがとう。

 明日は実地試験をするから、北の方にある砂原まで来てくれる?」

「うん、わかった」


そう言って、ユーリンはカトレアとアンドレアと共にエレベーターに乗り込んだ。

ユーリンが見つめる先には、相変わらず作業をするイリスの姿があった。


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