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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
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第十話四部 摸擬戦

ユーリンがカトレアの部屋へ謎の訪問をしてから数週間後。

ジークフリート社の施設は、当初とは見間違うほど発展していた。

アパートは木造からコンクリート製に建て替えられ、室内の設備も一新された。

格納庫の方は規模が拡大され、研究施設が隣接されて前の二倍ほどの広さを誇っている。


「ま、初めて来た時は実家に帰ろうかと思ったけど、なかなか良い所になったじゃない!」

「はは!

 当然だよ、お金をかけてるからね!」


アーニャの感心した様子に、ユーリンが相槌を打つ。


「本当ねぇ~、エアコンが無くてつらかったわ。

 ありがとうね、ユー君」

「はは!

 当然だよ、お金をかけてるからね!」


レイカの感謝の言葉に、ユーリンが相槌を打つ。


「……マスター……大好き……」

「はは!

 当然だよ、お金をかけてるからね!」


テルールの告白に、ユーリンが相槌を打つ。


「いや~助かったぜ!

 どうだ、ユーリン! 一緒に祝い酒でも飲もうぜ!」

「はは!

 当然だよ、お金をかけてるからね!」


ニキータの誘いに、ユーリンが相槌を打つ。


「社長、一度ニキータさんと格納庫の方まで来て頂けますか?」

「はは!

 当然だよ、お金をかけてるからね!」


カトレアの提案に、ユーリンが相槌を打つ。

その後、ユーリンは社員全員の訝しむような視線に晒されながら、ニキータとカトレアと共に格納庫の方へ向かった。

改良、増築を行った格納庫は当初のプレハブと違って壁や床が特殊な鋼板製になっており、バンツェルやその他の兵器を整備する機材などは最新の物が取り揃えられていた。

正面の、バンツェルが余裕で通り抜けられるほど巨大なシャッターから見て少し進んだ先の右側には、研究施設への入り口となる鉄製の扉が備わっていた。

三人はパンツァー・クリーガーとイェーガーの横を通り抜けて格納庫の奥まで行くと、このたびジークフリート社の新しい戦力となった新型バンツェルの前まで来た。


「こいつか?

 アタイの乗るバンツェルは?」

「うん、そうだよ」


ニキータの質問にユーリンが答える。

三人の目の前にあるバンツェルは、クリーガーであった。

しかし、ユーリンが使っているパンツァー・クリーガーとは違い、その機体はあきらかに重装甲で様々な重火力兵装を搭載しているようだった。

全体的に増加装甲に覆われており、頭部の形状はユーリンの使っているクリーガーと同じような頚部装甲をしているものの、頭部は完全に装甲に覆われており、特徴的なゴーグルアイのカメラが装甲に埋まっているように見えた。

胸部はユーリンのパンツァー・クリーガーに装着された増加装甲や姿勢制御、加速移動のためのスラスターやブースター、各種装備を装着するハードポイントの代わりに、角ばった装甲の中に多弾頭ミサイルや簡易誘導方式のグレネードランチャーを収めた装備がされていた。

背部のバックパックは製造初期のクリーガーと同じように見えたが、左右にハードポイントが取り付けられ、左側には砲身を二つ折りにした兵器があり、右側には長方形の、脚部まで届きそうな巨大なコンテナが斜めに装備されていた。

そのコンテナの周囲にはレールのようなものが増設されている。

両肩にも、正方形のコンテナが装着されていた。

左腕にはドラムマガジンを装着したガトリング砲を腕に直接装備していたが、ベルトリンクがなく、ドラムマガジンを直接ガトリング砲の基部に取り付けているようだった。

右腕には巨大な砲身を持った銃器のようなものが、腕に直接取り付けられていた。

左右の腰部にはスラスターなどの代わりに、膝までの長さがある斧が二本装着されている。


「……見事なまでのシュタール・パンツァー色に染まっているね……」

「おうよ、しびれるぜ!」


対照的なテンションの二人をよそに、カトレアが説明を始めた。


「こちらのバンツェルは社長がお使いになっているクリーガーを基本として、より高火力、重装甲をコンセプトに改造されています。

 まず頭部ですが、頚部に関しては社長のクリーガーと同じ装甲を装着しております。

 頭頂部に関してですが、通常の装甲よりも大型にし、レーダーをアンテナ式からフェイズドアレイレーダーに変更しました」


ユーリンがよく見てみると、頭頂部付近にそれらしい装置があるように見えた。


「全体としてもそうですが、特に胸部は脱着方式の複合装甲でカバーし、中に多弾頭ミサイル等の武装が施されています。

 背部の兵器に関してですが、左側は装甲狙撃砲と言われる新商品らしく、戦車の装甲貫徹弾と似た形状の実弾を用いた、超遠距離における人型機動兵器の狙撃に使うそうです。

 右側に装着されている武装コンテナは新しい兵器体系を具現化した商品らしく、中身には巡航ミサイル、防空ミサイル、対地ミサイル、多弾頭ミサイル、クラスター弾を内蔵したミサイルなど、多種多様なミサイル兵装が装填できるほか、規格が合えば機関砲や電子戦兵装なども内蔵出来るそうです。

 左腕のガトリング砲ですが、アレは実弾をベルトリンクを通して発射するものではなく、ドラムマガジンに封入された液体金属をあの装置の部分で弾丸として生成し、そのまま電磁加速を用いて発射する仕組みになっているそうです。

 右腕に装着されているのは榴弾砲だそうで、その威力は通常兵器の榴弾砲と同程度だそうです。

 腰部に装着二本の斧ですが、見えますでしょうか?

 あちらの手元にあるスイッチを入れると、数秒ほどで刃の部分が千数百度まで熱せられ、切断力が上昇するそうです。

 それと両肩の部分ですが、こちらは牽制用とのことで対人、軽装甲などのほか、バンツェルなどに対してもある程度の損傷を負わせることができるクラスター弾が封入されているらしいです」


カトレアの説明を聞いている間、ユーリンは頭を抱えていたが、ニキータは目を輝かせながら自身の愛機を見つめていた。

説明を終えたカトレアがユーリンの様子に気付くと、背中をさすりながら話しかけた。


「社長? 大丈夫ですか?

 気分が悪いようでしたら少しお休みになっては?」

「……いや、大丈夫」

「そうですか、ではこちらへ」


そう言って、カトレアは格納庫の右側にある扉の前まで歩いて行った。


「こちらになります」


そう言って扉を開けて中に入るカトレアに続いて、ユーリンとニキータが扉を通ると、全面が白で統一され、左右上下の壁に小さな穴が無数に空いている、廊下のような長方形の部屋だった。


「しばしお待ちを」


そう言ってカトレアは近くにある赤いスイッチを押して部屋の中央に移動した。

部屋の中からビーッと音が聞こえ、何かが作動した機械音が聞こえる。


「どうぞこちらへ」


カトレアに促されてユーリンとニキータが部屋の中央に行くと、部屋全体から猛烈な風が吹いた。


「うわっ!?」

「な、なんだこりゃ!?」


ユーリンとニキータがしばらく風に驚いていると、やがて風は止んで静かになった。


「これで除染の第一段階は終了です。

 こちらへどうぞ」


そう言って、再びカトレアは先に進みだした。

ユーリンとニキータが乱れた髪を直しながらカトレアの通った扉を通過すると、中の光景に驚愕した。


「す、すげぇ……」

「……ここは?」


その部屋、大きさから言えば格納庫に匹敵するほど巨大な施設を見て、ユーリンはやっと言葉を絞り出した。


「私独自の判断で建設させて頂いた、研究訓練施設です」


カトレアはどこか誇らしげな様子で答えた。

その施設の右端には、おそらく外に出るための扉と卵のような装置が四つあり、それを取り囲むようにして様々な種類の雑多な装置や機械が設置されていた。

中央には数々の工作機械が林立しており、その規模から見て、小火器からバンツェルまでほとんどの兵器の部品をカバーできるほどだった。

左端は何かの建物のような区画になっており、左側の表面はガラス張りで、右側はコンクリートで出来ていたが、窓枠があって中の様子が見えるようになっていた。

中はいくつもの配管や装置、部屋などに分かれている様子だった。

その光景は、施設の中に別の施設があるようなものであり、この施設に掛かった費用の大きさを物語っていた。


「まずはこちらから説明します」


そう言って、カトレアはユーリン達を連れて左端の建物のようになっている区画の前に来た。


「こちらの施設は研究棟になります。

 化学物質などの研究のほか、兵器や武器類に必要なうち、気密性などに配慮が必要な物質の研究開発などに使用するつもりです。

 もちろん、装甲や弾丸などの研究開発にも使用できます」


次に、カトレアは中央の工作機械の前まで向かった。


「こちらは主に工作区画であり、研究開発によって製作できた物を実際に組み立てていきます。

 化学物質などは研究棟の方で研究開発、製作まで出来るのですが、先程申し上げた装甲や弾丸、その他の部品に関してはこちらの区画で実際の制作を行うことになります」


その次は右端の区画に案内される。

ここまで説明されて、ユーリンはいつぞやか破壊してしまったクレジットカードが気になり始めてが、光の速さで記憶から消去した。


「こちらは新しく仕入れた訓練装置やそれらの支援機材になります。

 諸々の説明は省かせて頂きますが、ようはこの装置に入ると仮想現実の世界に入り、そこではあらゆる環境を用いて生身、通常兵器、バンツェルを用いた戦闘訓練ができます」

「へぇ、すげぇじゃねぇか」


装置を手の甲でコンコンと叩きながら、ニキータは言った。


「せっかくですので、二人で摸擬戦を行ってみてはいかがでしょう?

 バンツェルのデータでしたら既にインプット済みです」

「お、面白そうだな!

 やってみようぜ、ユーリン!」

「うん、いいよ!」


そう言って、二人は装置の中に入り込んだ。

装置の中は暗く、中央に歯科病院にあるようなイスがあったので、ユーリンはその椅子に座った。


「まずはスイッチを押して、装置を起動して下さい。

 しばらくすれば仮想現実の中に入れます」


装置の外からカトレアの声が聞こえる。


「うん、わかった」


ユーリンがそう言って右側にある端末のボタンを押すと、しばらく起動音が聞こえた後、ユーリンの意識は徐々になくなっていった。


「……ん……あれ?」


ユーリンが意識を取り戻すと、そこは暗闇の空間だった。

よく見てみると、ユーリンの目の前にはバンツェルの端末があった。

ユーリンが端末を起動すると、目の前にあるモニターに外の風景が映し出され、コクピットの中が明るくなった。


「ここは……ミルタ?」


モニターには見慣れた風景が広がっており、その先には見覚えのある町の景色が見えた。


「よう、ユーリン。後ろ向いてみな」

「ん? あ、ニキータ姉ちゃん!」


ユーリンがフットペダルを使って後ろを向くと、先程格納庫で見た重装甲のクリーガーがいた。


「どうやらアタイ達は、仮想現実とやらに入れたみたいだぜ?」

「うん、そうみたいだね」

「へへ……だったらよぅ」


そうヘルメットから声が聞こえると、重装甲のクリーガーは身構えた。


「いっちょやり合おうぜっ!」


ニキータの声に同調するかのように、重装甲のクリーガーからミサイルや弾丸の嵐が襲い掛かってきた。


「くっ!」


ユーリンはそれを間一髪で避けた。しかし、それはあり得ないことだった。


(速いっ!)


ユーリンの動体視力は常人よりもはるかに高い。

普段、そこらのゲリラやテロリストが操るバンツェルの攻撃などは余裕で回避することができる。


(電磁加速って言ってたっけ!)


ユーリンは戦慄した。

ミサイルは避けられたが、火薬を使う弾丸と電磁加速を用いる弾丸では速度が違う。


「オラオラ、どうした!? その程度か!?」


ユーリンの頭の中が混乱している間も、ニキータの攻撃は止まらない。

一瞬攻撃が止まったと思ったら、ユーリンのパンツァー・クリーガーの真横を榴弾砲の砲弾が音を立てて通り過ぎていき、後方で爆発した。


「ははは! こいつはいいぜ!」


そう言って、ニキータは目の前の液晶パネルを操作すると、背部、全身に装着されたミサイルとグレネードランチャーが、ユーリンめがけて発射された。


「くっ! 調子に乗るな!」


ユーリンは機体操作をマニュアルに切り替え、百ミリ突撃小銃でミサイルなどを撃墜しつつ、迫りくる弾幕を増設されたブースターやスラスターでかいくぐっていった。


「これでどうだっ!」

「ちっ!」


ユーリンのパンツァー・クリーガーが弾幕の嵐を抜けてビームサーベルを手に取ると、ニキータのクリーガーは右腕のガトリング砲と左腕の榴弾砲を投棄し、腰に装備された二本の斧を構えた。

スイッチを入れると、斧の刃の部分が赤くなり、草原の草を焦がし始める。


「ふっ、甘い!」


ニキータのクリーガーの様子を見ても、ユーリンは余裕の態度を崩さなかった。

ユーリンのパンツァー・クリーガーは速度を上げ、ビームサーベルを振りかぶった。


(とった!)


ユーリンが勝利を確信した目の前で、サーベルのビームで形成された刀身に斧の刃が溶かされる。


「ちぃ!?」

「おりゃっ!!」


ユーリンはそのままビームサーベルを振り抜こうとしたが、甘かった。

ニキータのクリーガーは斧では勝ち目がないと悟り、斧を捨ててパンツァー・クリーガーにタックルした。


「うわっ!?」


仮想現実とはいえ、現実世界と同じように地面に倒されて昏倒したユーリンは、正面のモニターにニキータのクリーガーの存在を知ると、反射的に操縦桿を操作してニキータのクリーガーの脇腹にパンチを浴びせた。


「ぐわっ!? な、なんだっ!?」


ニキータが慌てふためくなか、ユーリンは装甲で覆われたニキータのクリーガーのコクピット部分に渾身のパンチをお見舞いしようとした。


「決まった!」

「させるかよっ!」


しかし、ニキータのクリーガーは一歩引いてパンチをギリギリで避けると、パンツァー・クリーガーの頭部にパンチを浴びせた。


「しまったっ!」


パンチで頭部が破壊されたため、観測用のモニターの大部分を破壊されたユーリンは焦った。

必死に回避行動を取ろうとするが、カメラが破壊されたせいで、相手がどう動くかがわからない。


「もらったぜっ!」


ニキータは操縦桿に力を込めて、クリーガーでパンツァー・クリーガーのコクピット部分を殴った。

その時、パンツァー・クリーガーのコクピット部分が大爆発を起こした。

その衝撃は、殴りかかったニキータのクリーガーが後ろに吹き飛ぶほどだった。


「ぐおっ!? クソッ! 何が―」


ニキータが悪態をついていると、甲高いブザー音が鳴り響き、ユーリンとニキータの意識が遠のいて再び視界が暗闇に包まれた。


「……お疲れ様です。お二人とも」


ユーリンが目覚めると、カトレアがユーリンの顔を覗き込んでいた。


「何があったの?」

「そうさ!

 どっちが勝ったんだい!?」


何があったのか分からない、といった様子で装置からユーリンとニキータに対して、カトレアは説明を始めた。


「まず、私はこちらのモニターと装置でお二人の戦いを見ておりました。

 この装置は訓練環境のあらゆる場面を測定し、勝敗の原因を探る装置なります。

 この装置によりますと、社長のクリーガーがニキータさんのクリーガーの脇にパンチを浴びせた際、ニキータさんのクリーガーのエンジン部分が一部破損しました。

 その後、ニキータさんのクリーガーが社長のクリーガーのコクピット部分を殴った際、社長のクリーガーのコクピット部分に装着された爆発反応装甲が作動し、ニキータさんのクリーガーは中破。

 その影響でエンジンの破損個所から被害が拡大し、ニキータさんのクリーガーはエンジン爆発によって戦闘不能に陥り、社長のクリーガーも反応装甲の爆発の衝撃に耐えられず、頭部の損傷個所から被害が拡大し、エンジン破損によって起動不可となりました」

「……つまりは引き分けってことかい」


カトレアの話を聞いて、ニキータが悔しそうに言う。

ユーリンも意気消沈していた。


「残念ながら。しかし、今回の訓練で問題点を見つけました。

 まず、ニキータさんのクリーガーに装備された斧はビームサーベルに対して不利な事、バンツェルは頭部を破壊されるとその戦闘能力が著しく低下すること、そして社長のクリーガーに装着された爆発反応装甲は爆発の指向性に難がある事です」

「うん、それは僕も感じたよ」

「アタイも、色々思うことはあるな」


ユーリンとニキータは、カトレアの問題提起に素直に賛成した。

実際に戦闘を行った二人にも、今回の訓練は貴重なものなったに違いない。

ユーリンは改めて、カトレアの有能さに感謝の意を示した。


「ありがとう、カトレア」

「っ!? は、はいっ!

 お褒めの言葉を頂きまして大変光栄でありますっ!!」


急に慌てふためくカトレアをユーリンはクスッと笑うと、三人は研究施設を出て格納庫の方まで戻った。

格納庫まで戻ると、ユーリンはニキータのクリーガーの前に近づいた。


「ねぇ、ニキータ姉ちゃん。

 このクリーガーの名前はどうするの?

 カトレアのは狙撃仕様だからイェーガーにしたんだけど……」

「あ? そうだなぁ……」


ユーリンに聞かれて、ニキータはその場で腕組みをして考え込む。


「よし、決めた!

 コイツの名前はデスポートだっ!」

「うん、良いじゃない?」

「へへ、だろう?

 明日は忙しくなるぜ!」


そう言って、ニキータは格納庫から出て行ってしまった。

別に明日は何の用事もないのに、とユーリンは思ったが、心の中に秘めておく。

その後、ユーリンは他にやる事があると言って格納庫に残るカトレアを置いて、格納庫から急いで出ていき、自分の部屋に入って鍵を閉めるとわずか数十秒で深い眠りについた。


新しい戦力がジークフリートにもたらされ、今後どのように活躍していくのか、必見です!

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