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鋼鉄のゾルダート  作者: 印西たかゆき
31/47

第九話四部 再会

「ん……ここは?……」

「よぉ、起きたか」

「遅かったわね。

 もう起きないんじゃないかと思ったわ」


ユーリンが目を覚ますと、ニキータとアーニャが思い思いの言葉を口にする。

しばらくして意識がはっきりしてくると、ユーリンは辺りを見回した。

そこは二段ベッドが二つある雑居房であり、床はコンクリートがむき出しになっていた。

ユーリンはだるい体を起こすと、自分の身に起きた出来事を再確認し始めた。


「えっと、確か……

 あの後奴らに目隠しされてから車に詰め込まれて……

 変な薬飲まされて……あれ? それからどうしたんだっけ?」


どうやらユーリンの記憶は、そこで途切れているようだった。

ユーリンが必死に自身の記憶を呼び起こそうとしていると、アーニャがユーリンに向かって腕組みをしながら教えてくれた。


「あたしとニキータは飲んでないわ。

 あの後、しばらく車で運ばれて……そう、たぶんそんなに遠くまでは来てないと思うわ。

 二、三十分ぐらいしか経ってないと思うから」

「あぁ、アタイもそう思うぜ」


二人がお互いに頷き合いながらユーリンが寝ている間の状況を説明をし終えた後、雑居房の重苦しい鉄製扉が錆び付いた音を立てて開けられた。


「来な」


扉の先にいたのはニキータの首を絞めた女性だった。

女性はそれだけ伝えると、廊下を歩いて行った。


「付いて行こう」

「……ちっ、しょうがねぇな」


ニキータは不満タラタラだったが、とりあえず三人は先をズカズカと進んでいく女性に付いて行くことにした。

やがて廊下を抜けると、非常に広い大聖堂のような場所に出た。

女性はその奥にある祭壇の方まで行くと、祭壇の右側に立った。

左側には右側の女性とは対照的に、細身のモデル体型をした女性が同じように立っていた。

そして祭壇の中央には、ユーリンと同じような白髪に白い肌をした人物が、手を後ろに組んで祭壇に飾られた旗を、じっと見つめていた。


「来たか……」


聖堂内に女性の声が響く。

その声は、言うなればハ〇ーン・カーンを彷彿とさせる、威厳を帯びた声だった。

ユーリンは視線を女性から旗の方へ移した。


「っ! それは!?」


ユーリンには、その旗に描かれたエンブレムに見覚えがあった。

女性は、まるで数十年の時を経て巡り合えたかのような口調で話し始めた。


「長かった。あれからそれほど時は経っていないのだが、私からすれば充分に永い時間だった」


女性は一息つくと、揺らめく蝋燭の中で再び、ゆっくりと話し始めた。


「このエンブレムを、君は覚えているだろう?

 私も覚えている。

 このエンブレムを目にするたびに私は、いや、私達は胸が張り裂けそうな思いだった。

 私達が唯一狩り損なった獲物達。

 大抵は狩ったが、そのうちの何人かはまだこの星にいる」


そのエンブレムは、大きな鎌を持った黒いフードを被った骸骨というものだった。

知っている。ユーリンはこのエンブレムを知っている。

決して忘れることのない思い出。仲間達の笑顔、死線の匂い、厳しい訓練の日々、そしてそれらの思い出を一瞬で奪い去ったあの出来事……

そのエンブレムはまさしく、ユーリンやレイカがかつて所属していた部隊、『死神部隊』の象徴たるエンブレムであった。


「……おまえか……」

「ちょ、どうしたのよ、ユーリン?」


ユーリンの只ならぬ様子に、アーニャは少し後ずさる。


「私達は来た。

 そのうちの何人かを狩り尽くすために。

 まぁ、その何人かというのは、当時あの場にいなかったために生き延びた幸運な者達に過ぎない。

 問題は君なのだよ、ユーリン。

 君だけが、私達と刃を交えて唯一生き残ったのだ」


女性は腕組みを解くと、ゆっくりと振り返り始めた。


「狩人よ、我らは今こそ貴様を―」

「貴様かぁあああっ!!!」


女性が振り返ると、眼前には咆哮するユーリンの人差し指と中指が刺し込まれようとしていた。


「頭領!」

「っ! 貴様!」


いきなり起きた事態に、両隣にいた二人の女性は仰天した。


「ふふ、やはりか」

「やっと会えたよっ! やっとっ!」


ありったけの憎悪をぶちまけるユーリンとは対照的に、目を抉られそうになった女性は片手でユーリンの全力攻撃を受け止めており、その表情には余裕さえ見える。


「まぁ、予想していたことではあるが、いささか拍子抜けだな」


女性はユーリンの手を掴んだまま、両隣にいる二人の女性に命じた。


「彼奴らをここへ」

「……あ、はい……かしこまりました」


モデル体型の女性が指笛を鳴らすと、物陰から見慣れた四人の姿が見えた。

ユーリンもゆっくりとそちらの方を見る。


「お、おっさん、カッチャン、レイカさん、それにテッチャン!?」


そう、そこにいたのは行方不明だったラルド首相と、モデル体型の女性に投降したカトレアとレイカとテルールであった。


「お、お久しぶりです、ユーリンさん……」

「面目ありません、社長」

「ごめんね、ユー君」

「……ごめん、マスター……」


四人はいずれもバツの悪そうな表情を浮かべており、いささか疲れが見えた。

周りにいる女性達に促されて、四人が祭壇へと続く階段の前に膝立ちで座らされると、女性はユーリンの手を払って、落ち着いた口調で話し始めた。


「君が抵抗するのは大いに結構だが、彼そして彼女達の生命に危険が及ぶことになるぞ?」

「……僕にどうしろって言うのさ」


女性を睨みつけながら、ユーリンは半身に構える。


「別に死んでくれとは言わない。

 こいつらは今すぐにでも開放しよう」


女性がパチンと指を鳴らすと、周りにいる女性達がユーリン以外の人間を聖堂の外へ連れて行った。

その行列に続いて、モデル体型の女性と筋肉質の女性も出ていく。


「……さて、これで実質的に私と君だけになったわけだが……」


女性はユーリンの横を通り過ぎて祭壇を降り、聖堂の中央まで来てからユーリンの方を振り向いた。


「どうだ……我々の仲間にならんか?」

「はっ!? 何言ってんの!?」


女性の口から意外な言葉を聞いて、ユーリンは思わず女性の方を振り向いてしまった。


「ふ、驚くことも無理はないか。

 しかし、あの時は確か……バンツェルといったか?

 あの巨大な機械人形での戦いだったが、私達はあの戦いを通じて君を高く評価しているのだぞ?」

「……ふざけてるの?

 だったら今すぐやめて。

 そして口を閉じて黙って僕に殺されなよ」


そう言いながら、ユーリンは女性の目の前まで歩いていくと、女性の赤い目をじっと見据えた。


「……どうしても無理か。悲しいことだな」


女性はうつむいてそう呟いた。その目はどことなく悲しげな色を浮かべていたが、今のユーリンには関係なかった。


「実を言うと、私達はずっと前からこの星に来ていたんだ。

 ギヨタンとの出来事を覚えているか?

 君はすでに気づいていると思うが、あの時、君たちに追加の目 標を指示したのは我々だ。

 あらかじめ採取しておいたギヨタンの声紋を用いて、そこらにいるテロリストに金を渡し、君達を捕まえようと思った。

 もっとも失敗してしまったがな。

 海洋プラントの時は焦ったよ。

 あそこは元々は私達が使っていた海中プラントがあったんだが、あそこで働いていた従業員に見つかってしまってね。

 その時のトラブルでオルールとテルールが目覚めてしまったのだが、まぁ、我々が撤退準備をしている間に調査部隊を全滅させてくれたのは助かったがね」


女性はユーリンから距離を取り、再び祭壇の方を向いた。


「今回の騒動にしても、君が疑われるような状況を作り出した上で、ラルド首相が誘拐されるところを隠し撮りしたかのような画像をネットの海に投げ入れたら、案の定引っかかったよ。君の部下がね」


「っ! いい加減に―」


ユーリンが再び女性に襲い掛かろうとした時、ユーリン達の頭上から爆発音が聞こえ、聖堂の天井からパラパラと埃や瓦礫の破片が落ちてきた。


「ふむ、やはりか」

「な、なにっ!? 何が起こったの!?」


慌てふためくユーリンとは対照的に、女性は比較的落ち着いていた。

ユーリンが女性の方を見ると、すでに女性は聖堂の入り口まで走っていた。


「あ、待て!」


女性を逃がすまいと、ユーリンも全力で後を追いかけていく。

石畳で作られた螺旋階段を上っていくと、やがて地上に出た。

どうやらこの場所はゴルゴグラード郊外らしく、ユーリンの目の前には見慣れたゴルゴグラードの建物の群れが、周囲をグルリと囲むように設置されたゲートの照明に照らされていた。

ユーリンが周囲を見渡すと、すでに女性の姿はなく、代わりに四機のバンツェルが対峙していた。

それはユーリンの愛機であるパンツァー・クリーガーと、カトレアの搭乗するイェーガー、そして二機の見慣れたバンツェルの目の前には、黒みがかった紺色と黄土色のカラーリングを施された二機のバンツェルが戦闘態勢をとっていた。

その二機の武装は対照的であり、一機は機体中に着脱式の装甲を取り付けており、両肩には巨大な三砲身のガトリング砲とビーム砲が搭載され、両手には六砲身の、おそらく加速粒子式のガトリング砲と、長方形のコンテナを外腕部に装着していた。

もう一機は全体的に細身であり、装甲は生物的であり、一際異様な雰囲気を醸し出していた。

両肩にはおそらく装甲兼増加ブースターであろうか、格納された状態のバックパックを装着しており、両手に百ミリ突撃小銃を構えていた。


「カトレア! 大丈夫!?」


イェーガーに向かってユーリンが叫ぶと、イェーガーの頭部がユーリンの方を向き、外部スピーカーを通してカトレアの声が聞こえた。


「社長!? ご無事でしたか!?

 申し訳ないのですが、こちらのコクピットはラルド首相とテルールとアーニャさんで一杯です!

 クリーガーの方へご搭乗下さい!」

「わかった!」


そう叫んでユーリンはクリーガーの方へ走っていった。

その間も、四機のバンツェルは頭部カメラを通じてにらみ合いを続けており、周囲には不穏な空気が流れていた。

ユーリンがパンツァー・クリーガーの前まで行くと、パンツァー・クリーガーは眼前の重装甲のバンツェルから目を離さずに膝立ちになった。

パンツァー・クリーガーのコクピットが開き、中からニキータがハーネスをユーリンの元まで降ろし、ユーリンはそのハーネスを掴んで、パンツァー・クリーガーのコクピットまで行って乗り込んだ。


「大丈夫か、ユーリン!?」

「ケガはない!?」


ユーリンがコクピットに乗り込むなり、ニキータとレイカが心配そうな目つきで問いかけ、レイカがパイロット席から降り、代わりにユーリンが座った。


「うん、大丈夫。

 ありがとう、レイカさん、ニキータ姉ちゃん!」


ユーリンは自分の左右で中腰になったレイカとニキータにお礼を言うと、三つの液晶パネルを操作する。


「……なんかずいぶん、イジられてるんだけど」

「だってユー君の機体操縦とかのクセが強すぎるんだもん。

 手直ししちゃった!」


あっけらかんと答えるレイカを無視して、ユーリンは大急ぎで自分に合うように機体設定を行うと、ヘルメットを被って両方の操縦桿を強く握りしめた。


「死ぬ覚悟は出来たかよ?」


ヘルメットのスピーカーから、ニキータの首を絞めた女性の声が聞こえた。


「……あいつはどこに行ったの?」

「あいにくだな、頭領はもうここにはいない。

 貴様の相手は我らだ」


ユーリンの質問に、細身のバンツェルに乗っているであろうモデル体型の女性が答えた。


「それじゃ、行くぜっ!!」


そう声が聞こえた瞬間、パンツァー・クリーガーの目の前に立つバンツェルは左手を前に構えた。

直後、コンテナの前部の扉が開き、中から多弾頭ミサイルが白煙を上げて無数に発射された。

パンツァー・クリーガーはブースターやスラスターを全開にして回避機動をとると、右手に装備された百ミリ突撃小銃を重装甲のバンツェルのコクピットに、向かって発射した。

しかし、小銃から発射された徹甲弾はコクピットに装着された追加の装甲に火花を散らせるだけで、さしてダメージを与えているような印象は受けなかった。


(硬い!)


ユーリンは戦慄した。

パンツァー・クリーガーと重装甲のバンツェルの距離はそれほど遠くはない。

普通のバンツェルならコクピットを穴だらけにできるはずだし、装甲を付けていたとしても、すぐに穴だらけにしてしまう。


「ひゃはははっ!

 オラ、どうした!? こいよっ!!」


重装甲のバンツェルの右手がユーリン達の方へ突き出され、六砲身のガトリング砲から紫色の加速粒子をパンツァー・クリーガーに向かってばら撒いた。

ユーリンが劣勢に立たされるなか、カトレアの方はというと、重装甲のバンツェルに乗った女性の掛け声を聞くと同時に、四つの砲身を備えた異形の重粒子加速狙撃銃を構えて発射した。

しかし、細身のバンツェルはそれを横っ飛びで避けると、両手の百ミリ突撃小銃を発射した。


「来るわよっ!」

「わかってます!」


アーニャに促されてカトレアが弾丸の雨を避けて岩陰に隠れ、狙撃銃のボルトを上げて銃身を回転させると、レーダーを確認した。


「そこか!」


カトレアはレーダーに映る影で相手の居場所を確かめると、イェーガーは岩陰から飛び出し、その位置にいるであろう相手に向かって狙撃銃を発射した。

銃身から赤く光り輝く光は、そのまま草原の草を焼き払いながらその位置にいるであろう細身のバンツェルに向かって飛んで行った。


「っ! どうして!?」

「な、なによ、どうなってんの!?」


テルールとアーニャが驚くのも無理はない。

なぜなら、その場所にいるであろう細身のバンツェルは、影も形もなく消え去っていた。

カトレアがレーダーを見てみると影は三つ、つまりイェーガーとクリーガー、そして重装甲のバンツェルしかレーダーに映っていなかった。

カトレアがコクピットのモニターを確認すると、そのうちの一つに映ったイェーガーの近くの地面が突然深くめり込んだ。


「そこかっ!!」


カトレアは狙撃銃を構えて、めり込んだ地面の上に向かって光り輝く重粒子を発射した。

すると、めり込んだ地面のすぐ横に、細身のバンツェルが姿を現した。


「やるな。しかし、私には勝てんぞ?」

「やってみやがれです」


カトレアがそう返事をすると、カトレアの被っているヘルメットから鼻を鳴らして笑う声が聞こえ、直後に細身のバンツェルから百ミリ突撃小銃の弾丸が発射された。


「くっ!」


かつて自分が経験したことのない戦闘に、カトレアは苦戦を覚悟した。

一方ユーリンの方は、こちらも岩陰に隠れながら、重装甲のバンツェルからもたらされる弾幕の洗礼を受けていた。


「クソっ! どうすんだよ!」

「待って! 今考えてるから!」


コクピットの中ではニキータとユーリンが言い争っていた。

その間も弾幕はやむことなくパンツァー・クリーガーの隠れる岩を削っていった。


「だぁああっ! もう、いい! 代われッ!」


ニキータはユーリンの襟首をつかむとパイロット席から持ち上げ、自分が席に着いた。


「あ、ちょっと!」

「いくぜ、おらぁあっ!」


ニキータは咆哮を上げると、岩陰から飛び出して、ブースターを全開にしてパンツァー・クリーガーを重装甲のバンツェルに向かって突進させた。

中央の液晶パネルを操作して左手にビームサーベルを持つと、弾幕の雨を避けながら重装甲のバンツェルの目の前まで接近し、ビームサーベルを大上段で振りかぶった。


「ちっ!」


筋肉質の女性は操縦桿とフットペダルを体格に似合わず巧みに操作し、攻撃を避けようとした。


「させるかぁ!」


しかし、ニキータの操縦するパンツァー・クリーガーは、自身の左側に避けようとした重装甲のバンツェルのコクピット部分を蹴り上げた。


「ぐおっ!?」


コクピット部分の装甲をへこませて地面に倒れ込む重装甲のバンツェルに向かって、パンツァー・クリーガーはもう一度大上段にビームサーベルを振りかぶった。


「死ねぇっ!!」

「させるかよっ!」


しかし、パラングは重装甲のバンツェルの左腕とミサイルコンテナに食い込んだだけで、直後に放たれた肩のビーム砲によって、パンツァー・クリーガーは頭部と左肩の一部を吹き飛ばされて地面に倒れてしまった。

カトレアのイェーガーは、姿を消しては自機の付近から放たれる突撃小銃の弾丸を、ギリギリでかわし続けていた。


「そろそろ終わりにしよう」


ヘルメットからそのような言葉が聞こえた瞬間、イェーガーの周りを高速で移動していた細身のバンツェルは姿を消した。


「また来るわよ!」

「わかってますってば!」


しかし、細身のバンツェルが消えた場所には、二丁の百ミリ突撃小銃だけが残されていた。

カトレアがその小銃を見つめてしまった瞬間、


「っ! しまった!」


カトレアは意識を小銃から目の前のモニターに移したが、すでに遅かった。

狙撃銃を持っていた両腕を切り落とされ破片が舞うなか、イェーガーは地面に叩きつけられてしまった。

やがてコクピットの正面モニターに、細身のバンツェルの姿が現れた。


「ここまではよくやった、誉めてやろう。

 しかし……ここで終わりだ!」


細身のバンツェルの両手には、突撃小銃の代わりに二本の剣鉈が見えた。

カトレアが自身の疑似生命活動の終焉を悟ったその時、ヘルメットから女性の声が聞こえた。


「そこまでだ、ユリア、オクサナ」

「え!? いいんですかい、頭領!?」


すでにクリーガーに六砲身ガトリング砲の砲身を向けていた重装甲のバンツェルに搭乗している女性は言った。

細身のバンツェルに搭乗している女性も、納得していない様子だった。


「今回の騒動は我々が戻ってきたことを知らしめるためのものだ。

 そして、その目的はすでに達した。

 もう退くぞ」

「……了解しました」

「おい、ユリア! いいのかよ!?」


ユリア、と呼ばれた女性はイェーガーの上から細身のバンツェルをどかせると、高速で森の中へ入ってしまった。


「ちっ、しょうがねぇ……命拾いしたな」


おそらくこちらはオクサナだろうか。重装甲のバンツェルはガトリング砲の砲身をクリーガーから外すと、細身のバンツェルが入っていった森の中へ進んでいった。


「クソがっ! 覚えてろよ! デカブツ!」

「ハッ! 好きにほざいてな! 負け犬がっ!」


ニキータに答える形でオクサナはそう叫ぶと、重装甲のバンツェルと共に森の闇の中へ消えて行ってしまった。


                      ※


「いやぁ~、本当にありがとうございました!」


ここは首相官邸迎賓館。その一階ホールにて、ラルドを取り囲むように数人の男女が手に飲み物を持ちながら、ラルドの話を聞いていた。

しばらくしてラルドの話が済んで乾杯の音頭を取った後、みんなはそれぞれの料理の元へ走り去っていった。

ユーリンは天然オイルをゴクゴクと呑み込んでいるテルールとカトレアのもとに近づいていった。


「ねぇ、カッチャン」

「あ、社長。お疲れ様です」


高級天然オイルの入ったロックグラスを片手に、カトレアはユーリンの方を振り向いた。


「うん、お疲れ様。

 ところで、あの時上で何があったの?」


ユーリンからその質問が飛んでくると、カトレアは神妙な顔をして答えた。


「私にもよくわからないのですが、我々が地上に出たとき、そこには完全装備のクリーガーとイェーガー がありました。

 奴らは『ここで待て』と言って、見張りも立てずにどこかへ行ってしまったので、私はチャンスだと思い、イェーガーにテルールとアーニャさんとラルド首相を乗せました。

 レイカさんも同じように考えたようで、ニキータさんを連れてクリーガーに乗り込みました。

 その時に、例の二機が森の中から現れたのです。

 まるで我々がそのような行動をとることを予測していたかのように……」

「そう……とにかく、お疲れ様!」

「はい、お疲れ様です」


そう言うと、カトレアはテルールと共に高級天然オイルをゴクゴクと飲み始めた。

ユーリンはその場を離れ、ニキータとアーニャを探した。

彼女達には今回の騒動で大変に世話になったため、一言でも直接にお礼を言いたかったのだ。

幸い、ニキータはすぐに見つけられた。

彼女はホールの出口に隠れるようにして、首相官邸と繋がった廊下の先を見ていた。


「ニキータ姉ちゃん!」

「……おぅ、ユーリン。あれ、見ろよ」


ユーリンの問いかけにそっけなく答えると、ニキータは右手の親指をクイッと廊下の方へ向けた。

ニキータが指を向けたその先の廊下には、アーニャと見慣れた二人組がいた。


「あれは……タモンとシャーロット?」

「なんだ、知り合いか?」


ユーリンはアーニャと話す人影を見るなり驚いた。

それは、今朝ユーリンに豚汁を御馳走してくれたシャーロットとタモンであった。


「覚えてない?

 僕らが初めて会った公園にいた人達だよ」

「ん、そう言えば……

 女の方には見覚えがある気がするぜ」


ニキータが自身の記憶を掘り起こしていると、タモンはアーニャの腕を引っ張っていこうとした。


「ちょ、ちょっと待って!」


その様子を見て、ユーリンは物陰から飛び出した。


「な!? 君はあの時の!?」

「ジ、ジーク君!?

 どうしてこんな所に?」


ユーリンの姿を見て、二人は心底驚いている様子だった。


「ユ、ユーリン……」

「なんだ、アーニャ。

 お前の知り合いだったのか」

「ちょうど良いわ!

 これからアーニャとお家で夕食をとろうと思ったの。

 ジーク君も一緒にいかが?」

「……いえ、遠慮しておきます」


そう言って、ユーリンは三人の前まで近づいた。


「誘って下さるのは嬉しいのですが、今はパーティーの最中です……

 無理やり女の子を連れ出そうとするのは良くないと思いますよ?」


ユーリンはアーニャの腕を掴むタモンの手を見ながら言い放った。


「はは、これは心外だな。

 僕は娘を、僕達の宝を家まで連れて帰ろうとしただけだよ」

「え、娘!?

 そうなの、アーニャ!?」


ユーリンは急にひょうきんな態度になって、アーニャの方を見て質問した。


「えぇ、一応」


しかし、アーニャの返答は実にそっけないものだった。


「そういうわけだから、いくらジーク君でも、家族の事に口出しするのは良くないわ。

 さ、アーニャ。帰るわよ」


シャーロットがそう言った瞬間、アーニャはタモンの手を振り払ってユーリンの後ろに素早く隠れた。


「コラ、アーニャ!

 ジーク君に迷惑をかけるんじゃない!」


タモンがユーリンの後ろにいるアーニャを厳しく叱責する。


「いいえ、決めました!

 私はこの人に付いて行きます!」

「はいっ!?」


状況が理解できない人が見れば、愛に生きる男女の駆け落ちの場面に見えるが、この場合は違う。


「何を言っているの!?

 せっかくハッキングやら何やらの罪を取り消してもらって自由になったのに!

 馬鹿な事を言っていないで、早く帰るわよ!」

「嫌です!

 私はこの人と一緒に……民間軍事会社ジークフリート代表取締役ユーリン・ヴォルフさんと一緒に、自分の得意なことで生きていくつもりです!

 もうお父様やお母様のお世話にはなりません!」


その言葉を聞いた瞬間、タモンとシャーロットの顔はこれ以上ないほどの驚愕の色を見せた。


「そんな、まさかジーク君が、いやユーリン君が、民間軍事会社の社長?」

「こ、こんな、こんなことが……」


呆然自失となった二人に向かって、ユーリンは申し訳なさそうに話しかける。


「あの、騙しててすいませんでした。

 あの状況では嘘でもつかないと何をされるかわからなかったので……」


そんなユーリンを見て、二人は怒りとも困惑ともつかない表情をして、その場を黙って後にした。

二人の姿が廊下から首相官邸、やがて首相官邸の入り口の門の向こうまで行くと、不意にユーリンの後ろから声がした。


「その、両親の前ではああ言っちゃったけど……あたしの事、雇ってくれる?」


ユーリンが後ろを向くと、そこには普段の勝気な態度は打って変わって、今にも泣きだしそうなアーニャの姿があった。

そのアーニャの姿を見て、ユーリンは決心した。


「うん、いいよ。

 これからもよろしくね!」

「っ! うん!」


年相応のカップルに見える二人に向かって、巨大な影が突進してきた。


「おりゃあ!」

「うわっ!」

「きゃあ!? ちょっとニキータ!

 なにすんのよ、痛いじゃない!」


抗議するアーニャを無視して、ニキータはユーリンを思いっきり抱きしめた。

もっと的確に言うと、背骨を折らんばかりの力で抱きしめた。


「ぐ、ニ、ニキータ、離して……」

「へへ、そういうワケにはいかねぇなぁ?

 こっちはてめぇのせいで散々な目に遭ったんだ。

 この落とし前、どうつけてくれんだよ?」

「わ、わかった雇う、雇わせて頂きます!」


ユーリンからその言葉を聞くと、ニキータはユーリンを離して両肩をバシバシと叩いた。


「ああ! これからもよろしくな!」

「よろしくね!

 あ、ちなみにあたし、肉体労働とかは無理だから。

 そこんとこヨロシク!」


二人の女性の笑い声を聞きながら、ユーリンが辟易していると、ホールの中からレイカが出てきた。


「ねぇ、ユー君。

 私もユー君のお世話になっていいかしら?」

「え!? レイカさんも!?

 でも、レイカさんにはお店があるんじゃ―」

「えぇ、でも、あのお店はアデーレさんとマキナちゃんにしばらく任せるわ……

 あいつらが戻って来たとしたら、このまま大人しく酒場を切り盛りしている場合じゃないもの」

「そう、わかった。よろしくね!」


ユーリンはそういうと、レイカの前に右手を差し出して握手を求めた。


「えぇ、こちらこそ!」


満天の夜空に、一人の男子と一人の女性が固く握手をする音が響き渡った。


これからもちょっとずつですが、『奴ら』の事を書いていけたらなと思っています!

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