第七話一部 何の変哲もない依頼
今回はテルールが仲間が加わったことにより、その結果としてどのように依頼が遂行されていくのかを話にしてみました。(ただマンネリ化してるだけです。すみません)
常夏たまに灼熱の国、ギルト共和国の首都にある首相官邸の執務室で、二人の女性と一人の少年、そして一人の初老の紳士が商談をしていた。
商談と言っても商品の取引や企画の立案などではなく、反政府ゲリラの潜む砂漠の廃墟に向かい、ゲリラを掃討するというエリート商社マンもびっくりの内容を話し合っているのである。
初老の紳士であるラルドは、目の前にいる商談相手に向かって柔らかな口調で話した。
「ゲリラは先週からゴルゴグラードに向かってロケット弾まで打ち込むようになりまして……
幸い、ロケット弾は北側の数キロ手前に着弾して被害はありませんでしが、奴らの武装は日を追うごとに強力になっているんです。
とうとう警察では対処しきれず、こうしてユーリンさんにお願い申し上げたということなんです」
「そのゲリラって強いの?」
高級そうな黒光りを放つ木材で作られたテーブルに置かれたチョコケーキを頬張りながら、見た目が少年のユーリンが質問した。
「以前から我が国の情報機関がその存在を確認していたらしいんですが……
報告によると彼らは武装が貧弱な上、その思想が破滅的なアナーキズム一色のために統率が執れていないということだったので、我が国の警察でも対処できると思っていたんです。
ですが、どういうワケか最近になって急に武装が強力なものになり、我が国の警察が奴らのアジトを強 襲したんですが、逆に撤退に追い込まれまして……」
「どこかから支援を取り付けたと?」
黒のビジネススーツに身を包み、腰まである黒髪を後ろで束ねて青色の眼鏡を掛けた女性、カトレアが液晶タブレットの操作を中断してラルドの方を見ながら質問した。
「いえ、どうやら奴らは新規出現した野良キューブを手に入れたようなのです」
「なるほどね~、そういうワケか」
それを聞いて、ユーリンは納得した。
あらゆる物質を生み出すことが出来る装置キューブ。
この巨大な正方形の物体は大戦後にそれぞれの国家の管理下に置かれているが、現在でも頻繁に突如として出現することがあり、そういったどの国家の管理下にも置かれていないキューブは『野良キューブ』と呼ばれ、辺境の小さな村々では「万物を生み出す神の化身」として崇められている。
しかし、そういった野良キューブは本来は出現した場所の国家の所有物となるのだが、その他にもテロ組織やそれに近い民間軍事会社、果てはマフィアなどの犯罪組織の手に渡ることもある。
そういった場合、速やかに警察の武装鎮圧部隊を送り込むのが国際常識となっているのだが、ラルドが首相を務めるギルト共和国はその点での常識を心得ていなかった。
「というわけで、我々も手をこまねいてるワケでして……報酬はお一人五千万アルク。
燃料弾薬や輸送などの経費はこちらが持ちます。なんとかお願いできませんか?」
「別にいいけど、キューブはどうするの?」
キューブ自体はバンツェルの武装で破壊できるが、まがりなりにもギルト共和国内に現れた物なので、その決定権はその国の代表、この場合はラルドにあることになる。
「可能であれば破壊して下さって結構です。どのみち移動させようにもあの砂漠地帯では……」
ラルドがそう言うのも無理はない。
野良キューブが現れた砂漠地帯は、かつてユーリンがギルト共和国の内務大臣を救出した基地もある場所だが、あの砂漠地帯は、当然であるが他のギルト共和国の土地である熱帯の草原地帯や山間地帯と違って、非常に過酷な環境下にある。
仮にギルト政府があそこを管理しようにも、その維持運営には莫大な経費が掛かる。
それぐらいならば、ユーリン達を使ってキューブを始末してしまおう、というのがラルドの考えだ。
幸い、現在ギルト政府が管理しているキューブは増えて、その数は二十個になった。
わざわざ国内随一の辺境地帯である砂漠地帯に現れたキューブまで管理する必要は無いということだ。
「そう、わかった。それじゃ、行ってくるね」
「報酬は依頼完遂後に電子送金で、いつもの口座にお願いします」
「……くたばれ、じじぃ……」
ユーリンが依頼を快諾したにも関わらず若干一名、全国の初老の紳士を敵に回す発言をした者がいるが、ラルドは構わずお礼の言葉を述べる。
「ありがとうございます! これで我が国も安泰というものです!」
執務室を出ていく三人を、ラルドはソファから立ち上がって暖かく見守っていた。
三人は首相官邸の最上階に設置されたヘリポートまで行くと、自前のヘリで自分達の本社兼自宅に帰り、自らが担当する役割に応じた準備を始めた。
ユーリンは自身の搭乗する人型戦術機動兵器バンツェルの第二世代機クリーガーを改造した機体の準備を始めていた。
幾多の改造によってすでにその性能を第三世代機の領域まで昇華させた自らの愛機は、ユーリンにとっては愛着の湧く存在となっていた。
カトレアはクリーガーを狙撃支援用に改造したイェーガーの準備、そしてユーリンの経営する民間軍事会社ジークフリートの新たな社員となった、このクソ暑いなかを黒いコートを着込んで黒いフードを目が見える程度に被った長身の女性テルールは、自身の担当する威力・隠密偵察任務のため、新たに建設した資材置き場の倉庫に保管してある、ロケットランチャーやアサルトライフルなどの火器の整備をしていた。
ユーリンはパンツァー・クリーガーを格納庫の裏手に保管してあるフライトポーターに載せると、アパートの方へ歩いていき、なんとなくカトレアの部屋の隣にあるテルールの部屋を見た。
部屋のリビングにはカトレアも使っているアンドロイド用の休眠装置が床に置いてあり、それ以外は以前から設置されていたキッチンぐらいしかなかった。
「……どうかしたの?」
「え、いや、なんか殺風景だな~ってね」
いつのまにか自身の後ろにいたテルールに対してユーリンはなんとなく答えたが、正直言ってアンドロイドがこんなに殺風景な生活空間に居るかと思うと、少し寂しい気持ちになった。
ユーリンは自分の部屋に行って作戦前の軽食にカシューナッツを食べていると、カトレアが液晶タブレットを持ちながら部屋に入ってきた。
「社長、今回の作戦で使用する戦力一覧です。ご確認を」
「は~い」
歩兵内訳
機械化歩兵:百六十名
空中機動歩兵:六十名
装甲車内訳
三六式装軌歩兵戦闘車:二十両
軍用ヘリ内訳
オスロ中型輸送ヘリ:六機
ジャカレイ武装ヘリ:四機
航空機内訳
ヴァルカン戦略爆撃機:二機
スポール近接航空支援機:二機
「いかがでしょう?」
「うん、まぁ、いいんじゃない?」
今回はキューブで強化されているとはいえ、単純な敵対勢力の殲滅のため、実質的に作戦を行う戦力としては申し分なかった。
ユーリンが社長を務めるジークフリート社は民間企業のため、あまり多くの戦力を連れて行ってその経費で赤字になったりしたら、目も当てられない。
ましてや、今回の作戦では燃料弾薬費はギルト側が請け負うにしても、兵器のレンタルには馬鹿にならない経費が掛かる。
その費用はすべてジークフリート側が払うため、あまり大規模戦力は持てない。
そういう意味では、カトレアの経理能力はジークフリート社になくてはならない存在だった。
キューブの存在が気がかりだったが、ラルドから破壊の許可をもらっているため、見つければ壊すだけでいい。
二人がリビングでくつろいでいると、テルールが入ってきた。
「ここは私と社長の部屋ですよ?」
テルールが部屋に入ってくるなり、無表情のままきっぱりとした口調で話してテルールを睨むカトレアの視線を気にも留めず、テルールは言い放った。
冷蔵庫から持ってきたビールを飲みながら、二人の行く末をユーリンは静かにボロいパイプイスに座って見守っている。
「私は……マスターの女だから……」
「ゴハァっ!? ちょっと~!? テルールさん!? なに言ってんの!?」
「ほー……この私に向かって、よくそんな口がきけますね?」
眉間にシワが刻まれたカトレアは
「シワァ~!?」
な、なにもない虚空を睨みつけるカトレアを、ユーリンが全力で制止する……
「えっ!? いやいや、ムリムリ! 絶対無理だから! 頭の中身フローリングにぶちまけられちゃうから!」
ユーリンが全力で制止するっ!!
「正気かこの野郎! 主人公殺す気か!?」
ユーリンは意を決してカトレアを制止しようと奮い立った!!
「アホンダラ! 死んだら何も残らねぇだろ!?」
「さっきから誰と話しているのですか? 早く準備に取り掛かりますよ?」
「……ケンカ……良くない……」
カ、カトレアとテルールは何事も無かったようにユーリンの部屋を出て行った。
「はぁ~危なかったぁ~……ちょっと~、この埋め合わせは必ずしてよね?」
ユーリンは何もない空間に向かって独り言をつぶやくと、食事の後片付けを済ませて準備の続きを始めた。
結局その日は深夜まで準備作業が続き、三人は話し合った末に作戦時間を翌日の深夜に変更した。
翌日、ベッドや休眠装置から起き上がった三人は装備の最終チェックを済ませると、ギルト共和国のキューブから取り寄せた戦力を引き連れて、ゲリラの潜む廃墟へと向かった。
ギルト共和国の首都上空を通過し、草原、丘陵地帯を抜けると、砂漠地帯に出る。
時刻はすでに夕方になっており、地平線には綺麗な夕日が美しく輝いていた。




