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番外編『魔×使いの青年』  作者: 由条仁史
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第3章 逆転魔女裁判

冬の研究所。『魔法殺し』の真の正体。

 第3章 逆転魔女裁判



 魔法の研究なんていわれたところでそれが一体何であるかが想像できる人はほぼいないだろう。というかいるはずがないだろう。魔法だぜ魔法。例えば物理学の研究なんていわれたところで、どのくらいそのイメージを厳密に持てるというのか。いやまあただ単純に俺が研究というものをまるで知らないだけかもしれない。

 しかし、魔法だぜ?

 存在は否定してはいなかったが研究とは一体何をするのか? 人体実験でもするのか? 薬草を煮詰めるのか? 魔法を知らない人には分からないだろう。

 魔法を認めない人ではなく――知らない人。

「はぁん………………ここがそうなのか」

 地図のとおりに行った先には一つの小屋があった。小屋にしては大きいサイズだと思うが、やはり小屋以外の呼び方がわからない。そしてやはりここを研究施設と呼ぶのには無理があるだろう。学術的な施設の敷地内でもない。工業的な施設の周辺にあるというわけでもない。多くの人や物を運び出すための道路さえ近くには見当らない。

 実の所外れかと思っていた。適当な住所をでっちあげて、「どうだい? 楽しい運命だったかい?」とでも言われるのではないかと、面倒臭さと、いくばくかの冷や汗を感じていた。

「森の中に研究施設………………これぞ魔女ってことかよ。くだらねー」

 「魔法行」にも森が存在する。当然だ。息苦しいのは、嫌だろう? そのへんも魔法でどうこうできてしまうから恐しいのだが。

 景観のためだ。所詮魔法使いなんて言っても、人間なのだから――人間でしかないのだから。

 自然を欲するのは当然だ。

「しっかし、よくぞこんな辺鄙なところに建てたもんだよなぁ……でもまあ、分からねえでもないか」

 あまり躊躇わず、俺は――マコトは――その小屋の扉をあける。

 ボロボロに見える看板にはこう書かれている――『ELSE研究所』と。




「お忘れかな? あの濾過ちゃん――いや、当時『CPS』が唯一苦戦した相手のことを。そうだよ。『魔法殺し』の『ELSE』――彼女は彼を倒すために、およそ2章を費した。

「え? 何の話かって? 単純な話さ。

「『ELSE』がどうやって倒されたか知っているかい? そう。『SPC』――『スリーピングコンシャスネス。『魔界』へと送り出すことによって、『ELSE』は倒された――

「しかしこれは実は特殊なケースなんだ。

「そのあとの『CPS』の行動――そこに少しばかり疑問が生じる。

「あのあと、『CPS』は――目についた人を片っ端から『SPC』の世界に取り込んだ――まあ、遊びみたいなものだけどさ。

「ちゃんと生きて返してるんだもん。遊びみたいなものじゃないか。

「そう……そしてその生還者の一人が、あの子をひきとった平等轆轤くん。彼と魔界でなにがおこったのか? そういうのは些細なこと。

「問題は、どうして生還できたのか――

「もう少し分かりやすく言おう。どうして生還させることができたのか。

「もっと言えば――なぜ、『ELSE』は死んだのか。

「『魔界』は全ての物質がエネルギーとなり、何一つとして存在できないから? それじゃあ轆轤くんも死んでいるべきだよね。しかし、彼は生きている――ああこれは『CPS』と遭った直後のことだよ。あなたが今どこまで読んでいるかまでは、流石の私も測れないからね。

「ひょっとしたら彼はもう、死んでしまっているのかもしれない――

「っと、話がそれたね。そうそう。彼が生き残って、そして彼が死んだ理由だ。

「非常に簡潔に説明しよう。

「『魔法殺し』は魔法ではないけれど――魔法の根本を利用した現象だ。

「同じように『SPC』も、魔法の根本を利用している。

「根本と根本――この二つが、『ELSE』を死に至らしめた。いや、死にやすくしたと言ったほうが正確かな。

「触媒というのとは厳密に違うかな。

「活性炭……なんて表現はどうかな?、

「かえって分かりづらくしちゃったかな? まあ、全部語っちゃったら意味ないしね。

「『CPS』に対抗する唯一の手段を、みすみす手放すわけにはいかないしね。

「というわけで封じておこう――【今私が話したことは、すべて残りはしない】、と。

「ところで最後の問題だ。

「私はだれでしょう?」

「何言ってんですか、『A』。最初っからあなたしか喋ってませんよ」

「てへへー。言ったでしょ? 独り言は趣味だって」

 俺はそのとき、そいつが何と言っていたのかは分からなかった。




「どうも『魔法行』直属の研究らしくてね」

 と、そこにいた男性のうち一人はそう言った。

「魔法使いを人工的に作り出す。という研究はいかなる『部』にも内緒だったらしいんだ」

「今はそれを、私たちが引き継いでいるわけですよ」

 もう一人の男も言う。

「なるほど、そういうわけだったんですね。ありがとうございます――『MWM』さん、『HRB』さん」

 『MWM』は『CPS』と戦い、敗れたそうだ。一端の研究者が戦闘なんて出来るわけないだろ――というのは魔法には通じない。それをいうなら『CPS』も一端の研究者だ。魔法の戦闘は知識の深さで勝敗が決まる。

 この人もその例外ではない。

 『CPS』との知恵比べに負けた――

 『HRB』はある脱走者四人組の一人、というか主犯で、こちらは『MA』に敗れている。こちらの戦闘は仕方あるまい。なにせ『MA』は『戦う部隊』に所属している。一端の研究者、それも専門は肉体。敵うはずがないだろう。

 だからこそ、強力な砲台を手に入れたという話だが――

 そういうようなことがこの二人にはあったと、報告書で見た。

「いやぁ、そちらこそだって、『else』くん。しかしまあ、うまい話だねぇ――『CPS』への対抗兵器の開発を任されて、その兵器の名前が『CPS』が唯一苦戦した『ELSE』の名前をとった――きみなんて」

 『MWM』は年上として、教えるように話している。そういえば彼は元教授だったとかなんだとか。癖という奴だろうか。

「そうですねえ。そうですねぇ。確か私が監禁されていた部屋の主があなたなんでしたよね? いやあ不思議な縁もあるものですねぇ」

 ……と、こちらが妙に擦り寄ってくるようなしゃべり方をしているのが『HRB』だ。うっとうしいが、表には出さない。

「別に、どうってことないですよ。ただ魔法を使う意思がないってだけで重宝されるようなことじゃないですよ。魔法の強さが知識の深さなら、俺は勉強したくないとわめく、ただの落ちこぼれなんですから……。あと、『else』って……」

 呼び方もやめてください、と言おうとしたが、それはないな、と思った。

 ここは『魔法行』。魔法名で呼び合うのが常識である。自分がどんなに魔法名を嫌っているからといってそれをここで言うわけにはいかない。それが常識というものだ。

 そんなことは『A』にだけ言えば良い。

「そう。兵器の名前。『魔法殺し』の最終形さ」

「もっとも、人体兵器ではないんですけどね」

 『HRB』が少し悲しそうな顔をする。しかしよく見たら気持ち悪い顔してるなこいつ。悲しそうな顔が全然共感できない。『MA』が瞬殺できたのもそのおかげかもしれない。

 いやまあブサイクが良いなんてそんなことはないのだけれど。

「人体兵器……じゃない? 確か『ELSE』はその体本体が『魔法殺し』だったのではないですか?」

「ははははは!」

 と、『MWM』は笑う。

「肉体に『魔法殺し』? そんなもったいないことするわけないじゃないか。『魔法殺し』は諸刃の剣だ。いや、廻天と言ったほうが良いかな。相手に大きなダメージを与えられるけれど、それで死んでしまったら意味がないじゃないか。忘れたのかい? 『ELSE』の最期を」

「『魔界』に送られて死亡――もれなくそうなるでしょうね。もれなく! まったく。大切な肉体を蔑ろにするなんて、あなた――人間ですか?」

 ――これまで読んだ資料の中で、一番残酷、残虐な人間がそれを言うかと思った。『HRB』――頭がイカれている、こいつは人間じゃない、と俺が一番始め生理的に嫌悪した人間。嫌悪――そう。嫌悪。

 だってさあ。

 『DghT』の両親を誘拐して、人質という形で監禁し――キメラに変えてしまった。そして、驚くことはここからだ。結果論になってしまい、それを彼自身が目論んでいたのかは定かではないが――彼は、『DghT』の両親を、『DghT』に殺させたのだ。『DghT』の両親、というのはキメラに改造――改造。改造されてしまった、それを指すのだが。

 残酷という他ない。

「でもまあ、そうですね――魔法には消耗戦は似合いません。特にこの『魔法殺し』では。なにせ『魔法殺し』。魔法を――殺す魔法」

「――ん? 君は知らないのかな。『魔法殺し』がどんなものかが」

「誤解ですねぇ。『魔法封じ』とは違うんですよ。『魔法封じ』は魔法ですが、『魔法殺し』は――魔法ではないですよ」




「『魔法殺し』――まあ確かに魔法と見ればこれは魔法だね。魔法第一法則の最終応用とも言える。というよりも――その前提を直接利用している。魔法の発動条件――知ってるよね?」

「『ゲート』を通して『魔界』から『魔力』を引き込む……」

「そう、ただまあ、『ゲート』というのは『CPS』の考えた呼び方で、私達はこれを『魔法子』と呼んでいるがね」

「『魔法子』……」

 なるほど、安直な横文字よりも、もっと厳粛な――物理かぶれした言い方の方が良いということか。広大な物理現象の、その強大さを、言葉の上でも取り込もうというのか。単なる妄想のような、子供の妄想のような言い方ではなく――もっともらしい言葉に。

「その『魔法子』からは、我々の思考に基き、適量の魔力、及び物理力への変換が為される。もっとも、変換の過程は100パーセントではない。幾分かは『魔力』として残る……まあ、これは本当に僅かだから、気にする必要もないんだけどね。どうせ最後は熱に変わるさ」

「しかし、これが『魔法殺し』の鍵になるんですよ。何でだと思います?」

「――さあ、さっぱり。その僅かに残る『魔力』ってのは、本当にどうしても残るんですか?」

「ええ――ペットボトルから水を取り除くのに、ペットボトル内の空気が外に出るのを止められないように。水のなかから物を取り出すときに、腕に水滴が付くように。微々たるものですが――これが、『魔法殺し』の鍵になってくるのです」

「……ふむ。そんな誰も気にしないようなどうでもいいことが鍵だなんて……やはり、魔法らしくないですね」

「ええ、ところで『else』さん、『魔界』ってどう思います?」

「どう……って言われても。魔力を供給しつづける世界……ですね。知っている知識の限りでは」

「そのような世界――魔法使いが増えすぎるとどうなると思うかい?」

「……エネルギー不足による、終焉……もしくは冷却ですかね」

「冷却はないかな。なにせそんな世界だ。エネルギーがエネルギーとしてしか存在できない。そう、前者のようになるはずさ……しかし実際は違う。おそらく、恒久的に『魔界』は存在しつづけるだろう。なぜか?」

「……どこかから大量のエネルギーを受け取っているから」

「そう、そしてその仮説のうちの一つが正しいとされた――『魔法子』は通常、『魔界』にエネルギーを『回収』している――とね」

「……『回収』? 初めて聞く言葉ですね。『吸収』なら聞いたことありますが。話を聞く限り、そっちが適当だと思いますが――」

「いや、『回収』だね。『魔力』を物理力へ変換する。この方向を『魔法』というのなら、逆に、物理力を『魔力』に変換する――いや、ここには意思は介在しないか。そうだね、物理力が『魔力』に『変質』する、そして『回収』されると言ったほうがいいね」

「つまり、『吸収』は意図的な――魔法であって、『変質』や『回収』は誰の意図も介在しない――そういうシステムがあるということですか」

「そしてその『変質』は『魔力』によっても高められる……」

「現実の世界には普通存在しない『魔力』……それが『魔法子』に触れるとどうなるか?」



 『魔法子』が常に物理力の『分解』、『回収』を行っているのだとするならば、『魔法子』に力を与えればどうなるのかは明白である。通常の物理力ならば、1パーミルにも満たないほどの微量しか『分解』されないだろう。高度な物理力を、単純以上に単純な『魔力』に変えるのはそれだけで難しい。しかし、そのわずかな量だけであっても、それは『魔界』へと『回収』される。

 『魔力』ならばどうだろうか? もともとの『魔力』が『吸収』されるのは当然、そこには触媒的な作用が働く。『魔力』を水ととらえる発想であれば――魔力はシャボン玉のように物理力を包み込み、それらごと『回収』される、と言える。物理力は魔力の傍では変質しやすいのだ。魔力が物理力になるのならば――魔力は物理力の母といえる。母親のもとへ子供が向かうのは、一種の当然――

 なんて、そんな概念論では納得できないだろう。しかし、あるものはあるのだ。弱い核力の存在理由が分らなくとも、そこにあるように。当然のようにニュートリノは地球を貫く。

 そもそもだ。

 意思の介在する魔法というものを、理論や理屈だけで説明し、納得しようとするほうが間違っているのだ――とは考えられないだろうか。人間の意思なんて曖昧で定義しようもないものを、理論立てることなんて――




「……なるほど、そういう風に『魔法子』をばら撒けば――『回収』の速度が急激に上がる。――それが『ELSE』の仕組み、というわけですか」

 なるほど――いやはやなるほどという他ない。どうして『ELSE』は『CPS』との戦いで『消滅』したのか。『魔法子』の分だけ、エネルギーが――抜けていたから。『魔法子』のぶんだけ、穴が空いているから、そのぶんだけぼろぼろになりやすい。『魔法子』が『魔力』を『回収』しようとお互いが引き合う――その力は、『魔界』では通用しない。『魔界』では、『魔法子』など――存在しない。『ELSE』本体は物理力で出来ているため、それら自身で引力を保つのが基本だ。しかし、そこに『魔法子』同士の引力が働くことで――物理力での引力の一部が、要らなくなる。結果、『魔界』においての引力が足りなくなり――崩壊する。体の構成を、『魔法子』に頼ってしまった結果だ。

 さらにもう一つ納得ができた――なぜ『ELSE』が生まれたのかという話だ。

 魔法使いを生み出すための実験で、どうして『魔法殺し』が生まれたのか。彼等は単純にこう考えたのだ――『魔法子』の数を多くすれば、その分だけ強い魔法使いが生まれる――と。実際はそうではなく、多過ぎては逆に魔法は発動しにくくなる――それだけ多くの『魔法子』を操れなければ!

「流石の『CPS』も、これだけ多くの『魔法子』で撃たれれば――もう為す術はないだろう。自己の蘇生もできなくなるのだから! まさに『魔法殺し』だよ。これほど魔法使いを殺すのに適した方法はないだろう」

「これなら、どんな魔法使いでも殺せます――ああ、いいですよねぇ……人が鮮やかに死んでしまうのは。生命の最も輝かしい部分ですよ……」

 ……因縁めいたものを燃やす『MWM』、そしてやはり頭がおかしい『HRB』。そんな中、俺は――

「しかしこれ――かっこいいですね」

 その凶器に見蕩れていた。

「スナイパーライフル――ってやつですか? あまり詳しくはないんですけど、やはり魔法使いと戦うときは――気付かれてはいけないんですね。気付かれてしまうまえに――撃ち殺す」

「現代の科学技術を結集した、いわゆる軍事兵器だ。命中精度だってすごいものだよ」

 原理は――まあ単純なのかどうかは、そちらの方面には疎いのだけど。対象物に当たった瞬間に、『魔法子』を周囲にばらまくというものだ。そうすることで、対象物を殺し、そして蘇生を不可能にする。

「ソ連のVSSという種類の銃らしいよ――ほぼ音がしないらしい。しかも持ち運びにうってつけだ。折り畳みができるらしくてね」

 それから、この二人はその銃についていろいろと実演してくれた。射程距離に少し不安があるが、隠密性としては十分な効果を発揮してくれるだろう。




 この時点で、もうある程度決意は固まっていたようなものだ。



                   第3章・終

                   第4章へ続く

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