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番外編『魔×使いの青年』  作者: 由条仁史
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第2章 自らの気分

冬の『魔法行』。『A』との重大な会話。

 第2章 自らの気分



 『魔法行』という場所に来たのには、いくつかの理由がある。まあ、それを理由と取るか原因と取るかは判断の難しいところだ。いやいや、変わりはしないか。では、こう言うとしよう。この俺、砂衣真――名前が変わる以前当時の砂衣誠が、『魔法行』に来たいきさつを、語ろうとしようか。




「なーんて、書くのかなーって。ね」

「書きませんって」

 そんな軽口をしている――ように見えるだろうか。この俺の一人称で文章を書き始めるようなことを言った人物を見る。彼女はソファーに座りら本を読んでいる。その本に熱中しているというわけではないだろうが、本から目をそらしていない。ちなみに日本語でも英語でもないので俺には読めない。

 俺はお茶を運びに来ただけなのだ。このふんぞりかえった彼女――年齢は俺と同じくらいか。1

9歳。こんなやつにお茶を運ぶのはプライドも潰れようものだが、何、もう慣れた。

 そもそも、こんな状態になったのは――

「鞠――一応書類上の魔法名『MA』。なんとも運命的だよねー。MAGIC、MARIA、MAD。魔法に聖母に狂気。飛び抜けて良いネーミングだと思うけど、どう思う?」

「知りませんって」

 魔法名――というのはアルファベットや数学などで構成された、魔法使いであることを認識された者に与えられる、そのことを強調するための名前である。ちなみに俺にも魔法名がある。しかし勘違いはしないでいただきたい。魔法名を持つものは全員『魔法行』の人間だが、それは逆も成立する。俺は魔法が使えない。使ってみたいとは思うが、その必要性が見当たらない。そんなものを勉強しようという気も起こらない。

「ま、彼女がきみと出会ったことで、きみは晴れて私の部下として働けるようになったわけだ。どうだい? 『魔法行』の居心地は」

「そうですね――まずはこの、魔法名ですけど


 取っ払ってもらいたいですね」


「だめだよー『else』くん。そういう反抗的な態度は。ま、鞠から――『MA』から受けたことを考えれば当然か」

 『else』――それが俺の魔法名だ。和訳して『~ではない』。魔法使いではないなんて洒落ているとでも言うのか。この名前もこいつにつけられた――名前を言っておこう。名前――魔法名を『A』という。まさにトップであることを主張するような名前だ。

 そしてそれは、事実である――『A』は『魔法行』のトップである。

「『魔法行』からの逃亡禁止。これは『魔法行』にいる人間、つまり――魔法名を持つ者に課せられた規則だよ。きみも例外じゃあないよ」

「……まだ俺は、『魔法行』から逃亡することについて、何も言ってないですけど」

 脱走禁止。まさに秘密結社らしい。そして、そんな組織に――

「俺は、拉致されたんですけどね」




 夏の日のことだった。

 俺は彼女(名を「ゆみ」という。関係ないか?)とデートを終え、家に帰る途中で――魔法少女に会った。

 魔法なんて、馬鹿らしいと思うだろうか? そう思う人もいるだろう。しかし俺にはそうは見えなかった。未知のものがあるのは当然のことだし、それがもともとファンタジーだったことなどたくさんある。人はかつて空を飛べなかった。しかし今は飛ぶことができる。それが魔法に置き換わっただけだ。

 彼女――名前は鞠というらしい――の手のひらの上の炎を見た瞬間に、俺は現実でこれを見ているのだと実感していた。そう、魔法を、俺は認めたのだ。

 ――ここで否定し、魔女が現れたとでも叫び、狂い、逃げればあのようなことにはならなかったかもしれない。

 俺はその魔法少女を、家に上がらせてしまったのだ。




「きみだって、その一点張りだね。そんなにここが嫌なのかい?」

「……当たり前でしょう。あなたみたいに、何もしていないようなやつに仕えていたって、一銭の得にもならないんですよ」

「食事は保障しているはずなんだけどね。そんなに、ここが嫌?」

「まあ――そうですね」

 俺が何かに反感を抱くというのは滅多にないことだ。しかし、俺はすべてを残してしまった。

「HDDから本、雑誌、ゴミ箱にあったレシートから、全部回収したんだけど、それでも不満だった? ま、そういうことじゃあないんだろうね。でも、さすがに家族は回収できないよ。そんなことしたら――運命を変えきれない。それにね、きみが『魔法行』に来てくれたおかげで、私にとって良いことがあとひとつ、あるんだよね。ああ、お茶注ぎって意味じゃあないよ?」




 魔法少女が魔女となったのは、その日の夜だった。

 少し買い物に行くといった彼女が戻ってきた――一人の女性を連れて。

 その女性の姿は、はっきり言って異様だった。目隠しをされ、体全体を縛られてしまっていたのだ。

「な――」

 何も、声が発せなかった。当時夕食を作っていた(この魔法少女の分も、あわせて二人分!)俺は、部屋のドアを閉められたとほぼ同時に、床に額をつけていたからだ。

「……ごめんなさい。でも殺したりなんかはしません。でも、知られてしまった以上、こうするほかないんです」

 ただただ、恐ろしかった。わけがわからなかった。

 少女を保護した――寝食に困っていそうだから助けたというだけなのに、どうしてこんなことに。どうして俺がこんな理不尽を。

 そこから先の数日は、何も考えなかった。

 数人増えて、連れ出されて、何も反応せずにトラックに乗せられた。

 あの少女がいったい何をしているのか俺は知らず、知ったところではなく、そんな場合でもなかった。俺にとって、その数日は、地獄の生活であった。

 そしてすぐ、魔界での生活が始まった。




「だからこそ君は魔法が嫌いだ――それなんだよ。真くん。私が欲しているのは君のような存在だ。魔法を使おうとしない人間……それが唯一――『彼女』に対する私の武器になる」

「『彼女』? ……誰のことですか?」

「そりゃあ、『彼女』さ――『魔法行』を壊滅できる力を持った『彼女』だよ。きみを生かしておかないといけない。理由がわかったかい? 『魔法行』は絶対になくなってはいけない。そう、私と――世界のために」

「…………」

 世界? なんだそれ――クソ食らえだ。

 世界平和でも唄うつもりか? そんなこと、俺とは何の関係もない。世界が壊れる? 『魔法行』がなくなる?――ついていけない。こいつも、あいつも、頭がおかしいんじゃないか? こんなやつに、どうして、俺の生活が――

 どうして、俺がゆみと離ればなれに――!

「失礼します」

 部屋を出た。『A』は何も語らず、ちらっと俺を見た。俺はそれを無視し、扉を閉めた。




 ……この時点で、『A』は間違いを犯してしまったことはもはや言うまでもないことだろう。『魔法行』を壊滅に陥れんとする『彼女』に対する抑止力であるのが真であるということを――真自身が気づいてしまった。気付かせてしまった。

 このことが『魔法行』を本当に壊滅させてしまうことになるのだが――それはもう、すぐの話。

 『A』がこのことに気づくことがあれば、何ができるだろうか。すでに起こってしまったことについて、『A』はどんな対処ができるだろうか。

 運命を変えれば、この崩壊は起こらないかもしれないが――どこから変えなければならないのだろうか。




 そして、『魔法行』の裏で行われていた、魔法より超科学的な戦いもまた――再開しようとしていた。



                   第2章・終

                   第3章へ続く

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