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番外編『魔×使いの青年』  作者: 由条仁史
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第1章 青年哲学

夏の公園。あるカップルのおかしな会話。

 青年哲学


「あーそっか、そういうことなんだね」

 と一人で勝手に納得したということはいつもの自問自答があったということなのだろう。デート中だというのにも関わらず無言タイムの多いこいつのこんな行動は既に何回も経験済みだ。今はもう慣れた。

「何が、どういうことだ?」

 俺は聞く。

「やっぱり、人間には限界ってもんがあるんだなって話」

 何やら壮大な話が繰り広げられていたらしい。というよりいつもどおりというか相変わらずの理論の飛躍。話の吹っ飛び方だ。まさに意味不明とはこいつを体現するためにあるような言葉だ。

 ……いや、こんな意味不明と付き合っている俺も意味不明と言われればそうなのだけれど。

「順を追って、一から説明してくれ」

 だから、付き合える一番の理由としては、その意味不明さを取り込めてしまえる俺の人格にあるのだろう。興味を持ちやすい……という感じか。

「まず私が思ったことはね――『少女マンガでの恋愛の多さ』なんだよね」

「……? 普通じゃないのか? 少女マンガってそういうもんだろ?」

 読んでいなくても大体知っている。目がやたら大きいという奴だ。ベタベタで、もしくはぶっ飛んでいるとも聞く。それもまあ、今話を聞いているこいつほどじゃあないだろうけれど。

「いやいや、一般的な少女マンガじゃなくて、どちらかといえば――小学生向けの少女マンガを考えていたんだよね」

「小学生向け?」

「あー、つまりりぼんとかちゃおとか、古いかな。まだあるのかな」

「さあ? そのへん知らないけど。で? それがどうしたって?」

「小学生のころさ」

「うん」

 顔をじっと見られる。彼女に見られることは別に嫌なことではない。ただ単純に、自分の話を聞いて欲しいと言う目だ。

「恋愛したことある? 実際」

「無いな」

 別に即答する必要はなかったが、とりあえずそう答えた。

「小学生って、そもそも恋愛感情が存在するのかすら怪しい――かくいう俺もそうだ。せいぜい中学生で芽生えた記憶がある」

「うん、私もそのくらいかな。だけど、小学生女子は――今どきの、だけど――恋を知ってるんだよ」

 そういう少女マンガで――と言った。

「これってなかなかおかしくない? 小学生で恋愛感情は芽生えないのに、それは無視して、小学生の恋愛を描く、ってのは」

 確か似そうだ、小説でもマンガでも、読者に感動を与えるのはリアリティーなのだ。その点、小学生の恋愛というのは、リアリティーに欠ける――現実的ではない。

「ではどうして書くのか。ここで人間の限界の話になる」

「おおう、それでもまだ飛躍していると思うが」

「まだ話は途中。つまりね、小学生ってのを考えたとき、確かに未来性や成長性ってのはあるものだとは思うけど――それでも、まだ未熟なんだよ。端的に言えば、『何もできない』。さて、これを人間の限界と言わずして、なんと呼ぼうか――?」

「……なるほど、そう落ち着くのか」

「まだオチじゃないんだよな、これは」

 と言って、公園のベンチから腰を上げ、俺の真正面へと立った。白ワンピに茶ロング。分かりやすい可愛さ。内面は意味不明な、俺の彼女である。

「そしてもう一つ思ったのが――『日本の創作界における少年少女の特異性』だよ。ラノベとかそんな感じ。マンガだとさらにそうだよね」

「ああ――つまりかれか。スタンドか」

「ジョジョでもってくるか。まあ波紋や鉄球でもそうだけど、つまり特殊能力、そう言うものを持った子が、よく『作品』には登場するじゃない?」

「ああ」

「でも、現実はそうはいかない」

 くるり、と俺に背を向け、空を見る。

「現実に波紋を使おうとしても、そもそもそんなもの存在しない。鉄球をどう回転したところで、ただの物理に還元される。それだけのことなんだよね。つまりね――どれだけ頑張ったところで、無理なものは無理なんだよ。できないことに向けた努力は、一つ残らず水泡になる。これが現実。だからこそ、現実や日常を変えたいと思っても、特殊能力なんかを頼りにしちゃいけないんだよ。そもそもそんなもの無いんだから。人間には――限界があるんだから」

「……なかなか。辛い意見だな。だが納得できる――人間は、日常という平和ボケした空間から逃れることは、できない。少なくとも、この日本では」

「ま、そんな感じだけど。私の結論としては」

 そこで言い切り、彼女は再び俺と向き合い、流れるようにキスをした。

 一瞬。右頬に。

 ああ、そういうことか。と理解した。

 心で、理解できた。

「恋愛感情こそが、この日本という国で日常を変える、ただ一つの方法――ってことか」

「だからこそ、少女マンガは恋愛が多い。超現実ではない超現実。そのラインを小説家やマンガ家って人達は、歩んでいるんじゃないか――な」




 と、そんな会話のおよそ2分後に、このカップルの片割れ、砂衣誠は魔法使いというなんとも超現実的な存在を目にするのだが、それはまた別の話。しかしそう入っても、この2人の論には穴があると言わざるを得まい。少女マンガや少年マンガでは当てはまるかもしれないが、ほかのタイプには当てはまらない。賭博マンガ、推理マンガ、官能マンガ――恋愛要素が皆無ではないだろうが、それでも、日常が非日常になり、非現実が描かれる。要するに――反社会的、犯罪的なことをやってしまえば、日常は崩れ落ちるのだ――それは日本という国では最も強い落差を味わうことになる。そして砂衣は、鞠とであった数時間後に思い知る。

 そして、理解し直すのだ。人間は、日常だとか非現実だとかではなく単純に、幸せになりたいだけなんだ――と。

 え? 彼女のほうの名前? 砂衣に聞けば分かるんじゃない? ああ、彼は、確か――。



                   第1章・終

                   第2章へ続く

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