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あの自由な人をどうにかして!ときっと思っているプロローグ的な感じ 

作者: そらまめ

プロローグ的な感じなので、続きはないです。こんな感じのが読みたいと思って。

でも、読んでくれたら嬉しいです。

「ちょっと!!!これはどーいうこと!?」


とある洋館らしき建物の裏側で少女が怒鳴るように叫んだ。

その手に持つ電話をギリッと音がしそうなほど力強く握りしめ、目は真剣だ。


・・・少女はとてもとても困惑していた。



少女の名前は天野まつり、今年で16歳になる少女である。

通うのは花城学園高等学校。

その学園の隅の方に建つあまり人が来ない古びた洋館らしき建物の裏の方で、まつりは電話の相手ーーー母に怒鳴るように話しながら、記憶の糸を探り思い出していた。


地元から離れたこの学園を最初に勧めたのは、母だった。

私は家を出たかった。でも別に冷え切った家庭とか特別複雑な事情があるわけでは無いけれど、・・・しいて言うなら自立。そう、憧れの一人暮らしをしてみたかったのだ。

でも、中学では無理だと思っていたし、親の説得もできなかった。

だから、高校でと思っていた。

心配性の父と兄弟への必死の説得中、母が進めてきたのは寮付きのとある学園。


「・・・ここはどう?」


何か歴史とか格式とかが詰まった由緒正しき学園、安全なのは間違いなじゃない、と。

しかも母や父が通った学園でもあるし、信用がおけるのも確認済みじゃない、と。

何より急に一人暮らしさせるよりかは、衣食住も全て揃ってるし、集団生活的な場所で暮らさせた方が安全度が高いんじゃないのかしら。・・・とか何とか。

・・・やけに楽しそうな顔で熱心に勧めてくると思った。

試験に合格したあと、その後の手続きを母に任せたのが思えば間違いだったのだ。

学園に母の知り合いがいるとか何とかで、まかせて!とやけに張り切る母に全て任せっきりにしたのが悪かったのだ。


楽しそうなことが好物な母の事をもう少し疑っておくべきだったのか。

でもまさかこんなことになっているとは思ってもいなかったし。

実の娘に何たる仕打ち。


入学式前日の今日。

此処ですよ、と案内してくれた親切な人を思わず二度見してしまった。

案内されたのは何故か男子寮で。


「・・・え、あの?」

「どうかされましたか?」


・・・何故に?

呆然としながらも案内された部屋の標識には間違いなく『天野まつり』とある。

とりあえず部屋に入り鍵を閉めて、机の上に置いてある男子用の制服と願書に気づいた。

まさか、と読んでみれば。

ーーー氏名・天野まつり、性別・男。

・・・はあああああ!?


そして冒頭に戻るが、頭の中を埋め尽くす疑問符をおそらく一番承知であろう人物に電話をかけたのである。歩き回って見つけた誰もいなそうなところで。



「・・・どーして男ってことになってんのよおおおお!!!」


そう叫んでみたものの、ケラケラと楽しげな笑い声が電話口から聞こえる。

イタズラが成功して嬉しいような、そんな様子の母に、あのねと無意識に低い声が出た。


「・・・私、女なんだけど。」

「やあねぇ、私まつりのおかーさんよ?知ってるわよぉ。」


やけに呑気な相槌にカチンときた。


「知ってるならこれはどういう事」

「やあねぇー怖い声だして。しょうがないでしょ、男の子用の寮しか空いてなかったんだから。」

「何がしょうがないの。何で今気づかなきゃなんないの。入学式明日なんだけどっ」


慌ててる私にまあ落ち着きなさいよぉ、とまた呑気な声が聞こえてくる。

何がどう仕方なくて、どうしたら落ち着けるのかしっかり説明してほしい。

しかもそもそもの原因はあんただよと思う。


「決まったことにぐちぐち言わなーい。いいじゃない。男の子と偽っての入学なんてロマンじゃない。楽しそうだと思うわぁ。」

「・・・いや。いやいや、どこがロマ・・・」

「大体、もう入学資金払っちゃったのよ。今更よぉ、まつり。」

「そおよ今更!だからどうしたらいいのか電話したの!」


「無理よぉ」


少し間を空けたあと聞こえてきたのはまたもや呑気な声。それも否定の言葉。


「今更、違うとこを受けるお金なんてないわよお。親のお金で入学しといて文句言わないのよお?衣食住完璧に用意されたところで生活できるなんて素敵じゃないのよ。だからいい?まつりがすべきなのはその学校で3年間男の子として過ごすことよ。・・・ふふふいいわぁ青春ねえ。ロマンねぇ。それと・・・」


(なんてことっ・・・!)


あまりの母の自由さに脱落し腰が砕けてついでに携帯も落とした。

壊れてないことを願う。

ちなみに、落とした携帯からはまだ母の声がしていたが、もはやまつりの耳には届いていなかった。




******




同時刻、自由な人と実の娘から決定づけられているその人は先程からウンともスンとも言わなくなった電話を前にどうしたもんかと思いならも話しかけていた。


「・・・あらら?まつりー・・・まつりちゃーん。あらやだ大丈夫かしらあの子。まつりーー」


うーんと唸りながら手に持ってた受話器をカチャンと置く。

くわっと欠伸をしながら時計を見ればまだ午前10時を指したところ。この時間、いつもならまだ夢の中にいる時間である。・・・ああ、眠い。わざわざいつもよりも早く起きて電話の前にスタンバイしたのは娘から来るであろうこの電話のためである。


うふふと先ほどの電話を思い出して笑う。


傍から見れば全く笑ってないこの顔で笑い声だけ聞こえるという不気味な現象が起きてるはず。

いつもなら表情筋を総動員して無理やり笑を作るが、ここは家だ。無理にそんなことをする必要もないだろう。自分の顔はいつだって無表情。笑おうが泣こうが対して変わらないのは未だに謎だ。しかし、30年間も付き合ってきたので、この顔のことは、もう気にしてはいない。

君が好きだと言ってくれた愛すべき夫もいる。


ここからがスタートねぇと思いながら先程娘からかかってきた電話をもう一度見る。


我が家に馴染んできた黒光りする中世ヨーロッパ風の電話は夫と結婚したばかりの頃ひと目で気に入って購入したもの。使いにくそうじゃないかい?とあの人は眉を寄せ苦笑してはいたけれど「これじゃないとだめです。これがいいのです。」の一点張りでこの電話に決めたのを懐かしく思い出す。


むかしから、表情の少ない自分の顔にはどこか見覚えがあると思っていた。自分の顔にそんな事を感じるのは少々可笑しい話だけれど何故だか常に”見覚えがある”と思っていたのだ。

それが何故だか分かったのは、花城学園高等学校に入学した16歳の春の頃。

そう、今まさに自分の電話で打ちひしがれてるであろう、まつりが通うことになった学校の中にある洋館らしき建物を見た時に。


それは唐突に自分の頭の中を駆け巡った。それはもうすごいスピードで。


なるほど前世の記憶かーーー冷静にそう判断はしたが、内心パニック状態だった。表情は無表情でも。

でもわたしはわたし、そう思えたのは間違いなく前世で生きていた時の人格や諸々の人生を引き継がなかったおかげだ。思い出したのは、とある乙女ゲームの内容だけ。

そう彼女は転生者だった。そして知った、ここがそのゲームの世界でその主人公の母親におそらく自分がなるであろう未来を。・・・ええ、ちょっと面白くないわね、と。

まだ見たこともない少女のための世界かと、どこか反抗的な感情があったのは愛する夫に出会うまでの話。今では大切な愛娘。


さてとお、とゆったりと腰を上げて立ち上がる。


「・・・お腹も空いたわねぇ、たまには作ろうかしらぁ。」


きっとそのうち愛する夫が目覚めて来るだろうから。久し振りに作った朝ご飯を目の前にしてきっと驚くだろうから。ーーーどんな顔をするのかしら。ふふ、楽しみ。

自分とは違ってくるくる回るその表情が楽しくて、魅力のひとつ。

その顔を隣でずっと見ていたいと思ったから。

思ったのは自分であり、決めたのも自分である、ゲームなど関係ない。

参考にはして生きてはいるけれど。




思い出してから決めたことはいくつもあるけれど。

前世のことは娘に話していない。信じてくれないだろうとかではなく・・・その方が面白そうだと思ったから。ゲーム通りにしてみるのもよし。違ってもよし。選択は多いほうが人生、面白いじゃない。

しかも前世という名の参考書付き。



そして、電話を気に入り欲しくて購入するのを決めたのは私。

一人暮らしに憧れる娘に、「ここはどう?」と勧めたのは私だけれど、試験を受けると決めたのはまつり。

男子寮しか空いてないと言われて、あら、楽しそうと感じたのは私。

でも、寮に行きたいとどうしても一人暮らしをしたいと言ったのはまつり。

あの娘のことだ、本当に嫌なら帰ってくるだろうし。

だからこの後、今でも短い髪をさらに切って男の子のようになって、学校生活を送ると最終的に決定するのはまつり。


あの娘がこれから出会う人たちと何があっても決めていくのはまつり自身であり、ここからはまつりにしか出来ない事。起承転結があるのはゲームも現実もそう変わらないと思うのだ、違うのはそこから続くか続かないか。

今のところゲーム通りかもしれないけれど、全て選んできた結果である。


主人公ではなく、まつりの物語。




「ふふ、楽しみねぇ」



この後の自分が楽しみなのはこれを知った時の夫の表情ーーーかしらぁ。







   




   それは始まり。


『ちょっと!!!これはどーいうこと!?』


ちょっと表情の乏しい主人公の少女が洋館らしき建物の裏で困惑し悲壮な声をあげながら電話を掛ける。

そして、悲観に暮れる主人公に言うのだ。


『親のお金で入学しといて文句言わないのよお?衣食住完璧に用意されたところで生活できるなんて素敵じゃないのよ。だからいい?まつりがすべきなのはその学校で3年間男の子として過ごすことよ。』


ーーーと、黒光りする中性ヨーロッパ風の電話を持ち同様に表情に乏しい母親がそう言いはなってプロローグは終了。




ーーーさあ、物語の始まりだ。



設定はあんまりない。

まつり・・・乙ゲーの主人公だけど、前世の記憶などないので自覚はない。母に振り回されている。

母・・・まつりに瓜二つ。前世持ち。幼い頃からなんか誰かに似てると思ってた。

面白くて楽しいことが大好き、おそらくきっとゲーム通りの人格なんだろうなと本人も気づくがもう気にしてない。

娘のことはしっかり愛している。



ありがとうございました!!

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