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舞台裏と暗躍という出目がでました

プライベートがひと段落。

今回はサイコロ判定無し。

あれから俺は気絶し、目を開けると空まで届いているのではと思う程に高い大木の葉の間から漏れる日光とねこたまのアップが目に入った。


『やあやあ、起きたね』


ぴょんぴょんっと俺の体からねこたまが跳ねるように退け、俺は体を起こした。

地面に手を付いて気づいたが引きちぎれた左腕が繋がっていた。

それどころか体の傷や汚れが全て無くなっていた。

まるで先ほどの出来事が夢であるかのように。


巨大な魔物


貫かれた左腕


葵と魔物の戦い


血塗れた、変わり果てた、幼馴…


「ウゲェエ…、おえっ…」


吐いた、すでにしない筈の血のむせ返る臭い。

綺麗な肌色の、血に染まった両手。

ありもしない、血の臭い、色、味が幻のはずなのに俺を責め立てる。

葵が死んで、俺が生きている事を。

葵が死んで、俺が助けれなかった事を。

葵が死んで、俺が死んでない事を。


「もう、大丈夫かい?ほら、背中擦ってあげるよ」


次に聴覚がありもしない幻聴を、葵の声で俺を責め立てる。

いつも俺に何かあればこうやって心配してくれたのだ。


「ほら、そっちに川があるからそこで顔と口をゆすいできなよ。僕はダグラスさんにタオルを借りるから」

「わかった」


数メートル先に小さな小川があり、そこで顔と口をゆすぐ。

そして、後ろを見ると根っこの上で欠伸をするねこたまとダグラスがタオルを差し出し、それを受け取る少し色の抜けたショートヘアーの男子制服を着た女の子がいた。

俺は小川にざぶざぶと足から入り、一抱えはある巨石を両手で掴む。

それは大して力を込めずとも持ち上がり、それを大きく体を反らし、その反動であいつらに投げつけた。


「何…で生きてるんじゃぁぁああああッ!?」


それは車並みの速度で奴らの方へと飛んでいった。


「きゃぁぁああああッ!?」

「クソッ!?」

『…ぇ?(ぐしゃっ)』


阿鼻叫喚の一幕である。


さて、それから葵を正座させ、事情を聞いた。

実は俺が死んだと思っていた葵は虫の息ではあったが生きていて、その状態であればねこたまの技術で瞬時に治療できるとのことだった。

そして、俺が血まみれで魔物と戦っている時もこいつは大木の陰に隠れて見ていたそうだ。

それを聞いて、俺はため息を吐きながら頭をかかえた。


「いや、ねこたま君の指示で観戦までと言われていてね。僕としても君が泣きながら、血まみれで戦っている所に乱入というのもね。しかし、君が僕が死んだ事にあんなに取り乱し、泣きながら魔物と戦うところに愛を感じて、こう胸がドキドキとぉぉおおおおおおおおおッ!?」


近くの先ほど投げた巨石の破片、推定30キロほどを膝に乗せた。

しまった、どうせなら石の上に正座させればよかったな。


「ねこたま、焼けた鉄板を準備してくれないか。1メートル四方ぐらいの真っ赤に加熱された物を至急」

「まった、本当に勘弁してくれ。照れ隠しにしてはいささか過激な愛情表げんンンンンッ!?」


追加、推定20キロ。

さて、とにかく不本意ではあるが無事に生き残ったという事だし、色々と事情を聞こうと思う。


「さて、文句ぐらいは言ってもいいよな」

「まぁ、お前のそれは当たり前の権利だ。…ボス、追加の酒を頼む。さっきので瓶が地面に飲まれちまった」

『ダメダメ、帰ってからね』

「畜生、煙草もさっき切らしたんだよ。あれらがねぇと頭がまわんねぇ…」


ボリボリと頭をかくダグラスは重々しく口を開いた。


「まぁ、何だ。方法としては荒っぽいが近道ではある。雑魚をチマチマと処理するおままごとでは味わえない、殺し合い、戦場、命のやり取り。幸い、治療は今回に限り、死ななければ治療は可能だからな。まさか、少年兵相手に戦車持ち込むとは思わなかったが」

『ちなみにちなみに、僕は2人とも為す術もなくやられると思ってたんだけど』


というかお前、さっき巨岩に潰されたなかったか。


『それはそれは、僕の残機は後98もあるから平気だよ』


頭上にねこたまのデフォルメされた顔のマークに98と数字が浮かんでいた。

まるでどこぞのレトロなアクションゲームのような。


「残機ってぇぇえええええええッ!?」

「お前の疑問はもっともだが俺はお前に発言を許した覚えはない。ねこたまも考えてる事を読むな」

『だってだって、顔に書いてるもの』


20キロ追加。

というか積み上げた石で顔が見えなくなった。

というか乗せといてなんだがよく膝が潰れないな。


『まぁまぁ、積もる話は向こうでね』


そう言って俺たちは再び転送された。

場所はダグラスと会った最初の部屋である。

俺たち3人はねこたまの勧めでテーブル席に座ると目の前に透明の画面が表示された。


『さてさて、説明するよ。この世界は地表の大陸に住む知的生命体と僕たちの様に大地から離れた場所に住む知的生命体。まぁ、暫定的に地上人と天空人とでも言うよ』


画面にはこの星の世界地図が表示されている。

地図上には、この飛行城塞都市がデフォルメされたマークが点滅していた。


『ではでは、まずは地上人。これは人間、エルフ、ドワーフ、獣人とかの種族だね。魔物が蹂躙闊歩する隙間で生きる住民。それと、天空人は古代人の子孫って言われてるよ』


画面が切り替わると次々と人間の男、耳の長いエルフ、かなり小さい髭もじゃのドワーフ、狼男、妖精などと表示される。

しかし、『言われている』…か。


「ねこたま君、この世界は君が作ったとは言ってなかったかい?そのわりには伝聞みたいな口調だったけど」


葵も俺と同じ疑問を持ったようだ。

あいつが他の星から持ってきたと言っていたのに住民がこれだけファンタジーなのは出来すぎである。


『実は実は、これはこの星の住民の伝承で事実は別。まぁ、君たちには余計な予備知識は与えたくないから秘密。知りたかったら遺跡でも調べてみなよ』


そう言って画面が切り替わると今度は俺たち3人のデフォルメキャラが画面でピコピコ動いている。


『それでそれで君達は①冒険者ギルドで登録する ②宿を見つける ③仕事を得る という事をまずやってもらうよ』


昔のレトロゲームのように画面でキャラが動き出した。


『あとあと、ある程度安定したら転職も有りだよ。農家、貴族、商人、犯罪者であっても構わないよ。今回は色々サービスしているけど、僕も仕事があるから今後は基本は不干渉になるね』

「ボスはこの艦の船長兼王様だ」


ダグラスの言葉に驚き、視線を上げるとねこたまは王冠、マント、髭と王様ファッションにいつの間にか着替えられていた。


「マジか」

「いかれてるだろ?」


俺とダグラスはそろってため息を吐く。


『でもでも、艦は僕の所有物なんだから当たり前だよ』

「大家さんかい?」


葵、何か違う。


『まぁまぁ、詳しい事はダグラス君に聞いてくれよ。他に質問はあるかい?』

「言語の問題はどうすればいいんだい」


ああ、そういえばそうだな。

星が違うから日本語が通じるはずがないか。


『ごめんごめん、忘れてたよ。君達の言葉はもちろん、読み書きもできるように設定してるから』

「俺も同じ処理がされてる。まぁ、最初は戸惑うがじきになれるさ」


さて、俺も質問をしよう。

もしかしたら聞かないほうがいいかもしれない事だが。


「…俺達に何を求めてるんだ。初回からイージーモード過ぎて、ペナルティが怖いんだが」

『それはそれは、善意…って言ったら』

「神様なんだろう。事実なら宗教にでも入って毎日祈ってやるよ」


ねこたまはそれはもう愉快そうに、痛快に、高らかに笑った。


笑って


嗤って


ワラッテ









【世界が止まった】


世界が蒼く染まり、音が静止し、光が止まる。

俺はなぜかその不可思議な現象を受け入れた。

何も感じず、何も恐れず、何も考えず。

目の前にねこたまがいる。

今までと同じ見た目で重量というか何かの重みが増した。

そこには今までのふざけた言動はなかった。


『君は本当におもしろい』

「それはどうも」


ねこじゃねぇよ、こいつ。

タヌキとかキツネ、アヤカシの類じゃねぇか。

いや、神だっけか。


『そもそもの原因は星喰いの輝石、ネックレスの大本だね。あれが君達の星に落ちた事だ。あれは星を作るのに材料を回収するために僕が蒔いた生命体だ』

「寄生虫ってことか?」

『そうだね。あれは星に寄生し、僕の合図の元に規定範囲毎をこの星に転移、吸収される。言ってみればこの星は本体だね』


つまりは蟻のような生態だな。

女王蟻である星のために働き蟻が餌を持ってくる。

こいつはその指揮官か。


「まぁ、それはいい。本題だ」


それは小さな問題だ。

そんなことよりそもそもの前提から問題があったのだ。


「俺達が転移されたのはお前の差し金か」


そんな技術のあるお前が俺達を偶然巻き込んだ事自体に違和感があった。


『正解。よくわかったね』

「俺達の文化を知りすぎてるんだよ。声のサンプル、何度かネタを振ったらちゃんと理解できるぐらいなら時間があったはずだ。石の場所、ネックレスの在り処を調べる時間が」


時間も技術もあるねこたまが偶然、俺達だけ転送したのだ、他の人間を除いて。


『すばらしい文化だよ。娯楽がここまで発展してる星はそう無い』


その言葉に偽りは無いだろう。

会ってから今までの言葉にどれだけの偽りがあったのかはわからないが。


『これは端末だ。僕本体は遠い宇宙に、これ含めての端末複数も仕事がある』

『僕らは長寿だ。発展した技術は死を限りなく遠いものにした。それでもどうしても改善できない死因がある』


ああ、昔何かの本で読んだ気がする。

不死身の化け物を殺す、共通する劇毒。


『【不変】だよ』

『退屈は心を疲労させ、孤独は魂を摩擦させる。これはどんな兵器より恐ろしいものだ』


例えば、俺が今の時が静止した、不変の世界に放り出されたら果たしてどれだけ生きていられるだろうか。

数日でさえ、俺は自信がないのだ。

こいつのような長寿にとっては生き地獄なのであろう。


「ああ、そうかい。つまり俺達は…」

『そう君達は…』

「『娯楽』」


こいつは俺達を、俺達の人生を第三者として見る事を楽しむために呼んだのだ。


『この星の住人は元々は他の星の住民の子孫、輝石に喰われ、この星に取り込まれた餌の子孫。これは僕のガーデンなんだよ』

「何がガーデン(箱庭)だよ。そういうのはな蟲毒っていうんだよ」


こどく(孤独)を怖がるあまりにこどく(蟲毒)を生み出す。

最低のギャグだよ。


『さて、では神から君にクエストをあげよう』


手元に羊皮紙のような紙が煙と共に現れた。

そこにはねこたまのクエストの詳細が書かれていた。


『君の世界から七つの輝石が餌を本体に捧げた。仕事には対価が必要だ』

『あれはこの星の何かに寄生し、餌を得る自由を得た』

『独自に進化をする寄生虫が七体。どうするかは君の自由だ』


つまりは、勇敢に寄生虫を殺すか、賢く平穏に暮らすかだ。


「どっちに進んでも俺は地獄行きか、クソ野朗」


つまりは、自身の命を賭けた戦いの日々か他者を見捨ててタイムリミットまで生きるか。


『勇者か賢者かの違いだよ。勇者の剣を与えた、お姫様も与えた、お仲間も与えた、冒険の舞台も揃っている。何が足りないんだい』


エラーなんて無い。

全てがシナリオ通りなのだ。

相手は神で、GMなのだ。

ああ、足りない、決定的なものが足りないよ。


「お前だよ、魔王様。エンディングがないゲームはバグ、エラーなんだよ」


神で、GMなら俺がシナリオを壊せばいい。

ねこたまはそれはもう愉快そうに、痛快に、高らかに笑った。


笑って


嗤って


ワラッテ


『いいね、君は最高だ。なら、僕はこう返そう』

『勇者よ、我が野望を阻止したくば七体の我が配下を打ち倒せ。さすれば、我が世界の全てを賭けて、貴様の相手になってやろう』


羊皮紙に記載が増えた。

そこには輝石を集めると望みの報酬を与えるという文が記載された。


「なら、俺はこう返そうか」


俺はその羊皮紙に自身の名を書きなぐった。


「魔王よ、俺がその野望を止めるために全力で貴様を倒す」


ここに、俺とねこたまの契約(宣戦布告)は結ばれた。


『ではでは、もう質問はないね。僕も仕事があるからほとんど会うこと無くなるから君たち自身で乗り越えてね』

「ああ、ありがとう。ねこたま君も元気でね」


いつのまにか時間が動き出し、ねこたまと葵は笑顔で別れを告げる。


『そうそう、しばらくはダグラス君を教育係として動向させるからわからない事は彼に聞いてね』

「まぁ、代金分は働くさ」


そして、俺達はダグラスを先頭に部屋を出た。

俺が一番後ろで、部屋にねこたまを残して。


『楽しみにしてるよ』


ドアが音を立てて閉まる瞬間に俺だけが聞こえる大きさの声でねこたまが呟いた。

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