消滅という出目がでました
十話まではストック有り。
最初は三話ぐらい出してから様子見。
週一投稿ペース予定。
俺には幼馴染がいる。
それも筋金入りのとびっきりの奴だ。
互いの両親が大学の同じサークル仲間で友人同士であり、同時期に子供を妊娠。
4人のダブルデートで近くの公園でピクニックをしていると俺の母親が陣痛、それを見た幼馴染の母親もなぜか陣痛。
そろって同じ病院に搬送され、ほぼ同じ時間に出産という仕組まれたかのような偶然であった。
そして、俺は【弁慶】、あいつは【葵】と名付けられた俺たちはそういった縁もあって、幼稚園から高校まで腐れ縁が続いている。
あいつは幼い頃から人気者だった。
今までの人生であいつよりかわいいと思った女子はいない。
アニメもスポーツも歌も、ありとあらゆるものに興味を持ち、学び、理解していった。
おかげで会話の話題に事欠かず、男女関わらずにあいつに好意を持ち、友人も多い。
運動すれば全国レベルの足の速さを持ち、勉強もトップレベル。
皆があいつを褒め称えた。
皆があいつを尊敬した。
そんな、あいつを俺は…
………
……
…
俺の寝起きが悪いのは父親譲りらしい。
俺の父親は目覚ましを3つは必ずセットする。
それでも起きない場合は母親が起こす。
というか、母親が起こさないと基本起きない。
つまり、その男の息子の俺もその血を引いているのだ。
【AM 6:00】
BGM:オルゴール
携帯のアラームにセットしてるオルゴールの音色と共に一応は目が覚める。
携帯を確認し、アラームを止め、すぐさま2度寝を開始。
なぜに2度寝というものはこれほど心地よいのか。
俺が長年愛用しているこのベッドはもはや俺の半身と言っていいほどに俺に安らぎを与えてくれるのだ。
そういった微睡の中でしばらくすると無粋なベルの音が耳元で響く。
そして、携帯を確認する。
【AM 6:10】
BGM:鐘
アラームを止め、仕方なく起きる…事もなく3度寝開始。
この贅沢はまさに黄金の価値。
しかたないのだ。
俺の半身が離してくれないのだ。
愛する2人を引き離すことなど誰にもできないのだよ。
【AM 6:20】
BGM:○ADAKOのテーマソング
携帯からとあるホラー映画の曲が流れた。
映画は見たことないが確か、髪の長い女性がテレビから出てくる映画だ。
そうだ、急いで起きなければ【あいつがくるのだ】。
しかし、俺の半身が離してくれない。
おいおい、そんなに俺と離れたくないのかい?
また、夜になったら会えるさ。
しかたないなぁ、次のアラームまでだぞ。
なんか、寝起きのためかテンションがおかしい気がする。
まぁ、そんな疑問よりも睡眠のほうが大事なのだ。
そして…
【AM 6:30】
BGM:…僕の声♪
「というわけで朝だよ。おきてくれないかい?」
ポフゥッと仰向けの俺の腹の上に柔らかく何かが乗った。
…思い出した。あいつが【くる】からあの曲をセットしたんだった。
仕方なく、限りなく重いまぶたをゆっくりと開けた。
「君はいつになったら自力で起きれるようになるのかな?」
幼い頃よりも成熟し、大人っぽくなり始めたあいつ、葵の顔が至近距離であった。
吐息が掛かるほどの距離であいつのややブラウンに近いあいつの瞳の色さえ分かるほどだ。
「それとも、僕に起こしてほしくてわざとしているのかな?」
くすくすと笑みを浮かべるこいつは俺が長髪が好きだと小学校の頃にフッと漏らした一言で髪を伸ばし始めた。
朝と晩に2回入るという風呂できちんと手入れもしているらしく、あいつから俺の顔の横まで下がる髪は触らなくとも宝石のような質の良さがわかる。
「もし、そうであれば…」
目を薄め、色っぽく微笑む葵は慣れている俺でさえ、不覚にもときめく時が…
「これからは毎朝、僕のキスで起こすという…」
「…死ね。お前にキスするくらいならそこらの野良犬にキスする」
「起床早々に罵詈雑言は酷いよッ」
ときめくなんて事は一切無いのだ。
さて、まずは目の前でショックを受けている葵の顔を鷲掴みにし、ベッドの外へ放りだした。
ワワッと慌ててベッドから転がり落ちた昴を無視し、早々に着替える。
パジャマを脱ぎ、制服に着替える。
俺が通う高校は実家であるこの家から近く、近隣でも上位の進学校だがそれほど無理なく合格できた。
ちなみに、姿見の鏡から見える俺の後方で顔を真っ赤にし、顔を逸らしている我が幼馴染様はそれより上の最上級お嬢様学校の推薦を蹴って、わざわざ俺と同じ学校に入学した。
葵と幼馴染の俺に嫉妬していた中学校のロリコン先生から考え直すように説得するように脅され、しぶしぶ説得したがガチで泣かれたので諦めた。
後日、俺の説得失敗の報告を受け、俺に罵詈雑言とビンタを浴びせた教師はなぜか失踪した。
噂によると葵と葵のファンクラブの執行部隊が動いたと聞いた。
もう一度言うが俺が中学生の話である。
着替えを終えた俺は階下に降り、用意されている朝食を食べた。
両親は共働きで俺が起きる前には仕事に出るが俺が帰る頃にはすでに家でいちゃついている。
つまりは朝早いが終業時刻も早いのだ。
まぁ、今は両親共に出張に行っているので葵のお手製のトーストを食べている。
両親が頼んだらしく、葵は身の回りの事をアレコレとしてくれるのだ。
ちなみに葵はその間に俺のベッドメイキングをしている。
頼んだわけではなく、あいつが自主的に行っている。
しかし、一度だけ部屋をこっそりと確認したがあいつは俺のベッドに寝転がり、枕に顔を真っ赤にして顔をうずめていた。
そして、しばらくすると証拠隠滅のために過剰ともいえるベッドメイキングと掃除をしていた。
まぁ、嫌がらせを受けているわけでもないので知らないふりをしている。
さて、俺が朝食を食べていると自動的にテレビがついた。
これは心霊現象とかではなく、父の友人が改造したらしいテレビ電話機能付きとかいう無駄機能付きなのだ。
『やっほ~、弁慶君は起きてるかなぁ?』
こういうふうに朝からテレビでテンションの高い父の顔のアップを見る羽目になる。
「カメラから離れろ。朝から何のようだ」
『朝の挨拶に決まってるじゃないかぁ~。ここがドイツじゃなければおはようのキッスを…』
「死ね」
『HAHAHA~!』
つくづく思うのだが母はなぜにこの人格破綻者と結婚しようと思ったのだ。
昔聞いたが曰く
『飽きないというか何が出てくるかわからない所というか…』
理解できなかった。
ビックリ箱に惚れたのか、母よ。
その母も父と一緒に暮らしている。
専業主婦として俺を置いて2人で海外だ。
まぁ、俺が海外暮らしを拒否したからなのだが。
『そうそう、弁慶君に聞きたいことがあるんだよね』
「学校があるからさっさとしてくれ」
登校の事を考えると30分が限度だな。
それ以上は遅刻する可能性があるのだ。
トーストを飲み込み、テレビ前のソファーに座った。
目の前には見慣れた父親の姿となぜか背景に移る白衣を着た外国人達が慌しく動いているのが見えた。
『前にさぁ~。水晶の欠片みたいの送ったでしょう』
「ああ、拾ったからとかでドイツ土産と一緒に段ボールで送られたやつか?」
父は研究者と本人は言っていたが話を聞くとアマゾンで遺跡探検したとか中国で軍と戦ったとか研究者とは思えない話を昔から聞いている。
冗談かと思えば写真や軍のお偉いさんが家に訪問したり、テレビのニュースに出たりと証拠もある。
まぁ、小学校の時に父の事を理解するのをやめた。
あれはそういうものだと達観したのだ。
ちなみに、歴史文化が好きで俺の名前を武蔵坊弁慶からとってつけたらしい。
『あれってさ、拾ったは拾ったんだけど…水晶じゃないんだよね』
「へぇ~」
まぁ、水晶にしては綺麗というか下手なダイヤモンドより光沢があったから予想はしていた。
ドイツ菓子と一緒にダンボールの隅っこに指輪を入れるようなケースに入っていたのを覚えている。
箱には【拾った水晶?】と記載されていた紙切れが入っていたがこういう意味不明なお土産はいつもの事なので特には気にしなかったのだ。
「それで、毒との有害物質ではないんだろう。」
さんざん触っていたのでたぶん大丈夫であろう。
それにもらったのは随分と前だ。
『オーパーツなんだよね。地球上では未知の鉱物だったり』
頭を抱えた。
そんなもの送ってくるなよ!?
めちゃくちゃ貴重な物じゃないか!?
『いやさ、とある遺跡で小ぶりのスイカぐらいの球体の鉱物が割れた状態で見っけてね、というか見つけたのは僕なんだけどね』
あっ、オチが読めた。
伊達にこれの息子してないし。
『その中で一番小さいの…パクッちゃった♪』
「何やってんだよッ!?」
『だって、欲しかったんだもん。それでさ、いざ持ち帰ってホテルで眺めてもさぁ、しばらくしたら飽きていらなくなったから段ボールの中にポイッとね』
あほだ、真正のあほだ。
子供が公園の丸い石とか家に持ち帰るのと同じ行動をオーパーツでやらかしやがった。
頭を抱えていると後ろのドアが開く音が聞こえた。
見るとドアから入ってきた葵が微笑みを浮かべ、テレビを見ていた。
「やぁ、お義父さん。おはよう」
『やぁ、おはようさん、葵ちゃん。今日も綺麗だねぇ』
「葵、お義父さんはやめろ。親父も口説くな」
テーブルのポットからコーヒーを入れた葵が俺の隣にすっと座った。
葵は俺によしかかる様に密着し、腕に葵の柔らかな感触が伝わる。
というか押し付けられている。
「うっとおしい、離れろ」
俺は葵の体を押して、自身の体を少し葵から離した。
「いけず…」
『青春だねぇ』
確かにこいつは美人だ。
完璧超人と言ってもいいし、ファンクラブもある。しかし…
「だが男だ」
そうなのだ。
あいつは幼い頃から人気者だった。
だが男だ。
今までの人生であいつよりかわいいと思った女子はいない。
だが男だ。
アニメもスポーツも歌もありとあらゆるものに興味を持ち、学び、理解していった。
だが男だ。
おかげで会話の話題に事欠かず、男女関わらずにあいつに好意を持ち、友人も多い。
だが男だ。
運動すれば全国レベルの足の速さを持ち、勉強もトップレベル。
だが男だ。
皆があいつを褒め称えた。
皆があいつを尊敬した。
だが男なのだ。
「愛の前には些細な問題だよ」
そして、ホモだ。
「ちがうね。愛した人がたまたま男だっただけさ」
「心を読むな」
『僕は面白いから許可♪』
「死ね」
女であれば話は別だが男でこれはないだろう。
「とにかく、親父は話を続けろ。俺の貴重な朝の時間をこれ以上削るな」
「あっ、逃げた」
うっさい。
『あ~と、そうそう。とりあえず、これ見てよ』
そういって映像が切り替わると何処かのクレーターの映像が映し出された。
しかし、クレーターの周りにはビルが見える。
これは何処かの町の中心部であろうか。
そのビルも特に壊れている箇所は見当たらない。
あらためてクレーターを見直すと隕石や爆弾みたいな衝撃で出来たというよりはそのまま円形に消滅したような感じだ。
周りに土砂とかが飛び散った様子が見られないのだ。
『これね、今から5時間前のアメリカ都市の一角』
「合成?」
『日本のニュースでもすでに放送されている現実なんだよね』
再び、画面が切り替わると俺がいつも見ているニュース番組であわただしくキャスターの人が話していた。
『それ以上に驚きなのがこの被害で死者が0。負傷者は避難で転んだ人ぐらい』
「はぁ!?」
いや、ありえんだろう。
例えばこれが爆弾だとしたらこの映像はかなりの被害が見て取れるはずなのだ。
『いや、あり得ない事を言っている自覚はあるんだけど事実なんだよね。証言によると一瞬、周りが光ったと思ったらこれだって。ちなみに、ビルの上階にいた人含めてすべての人、動物や観賞用の熱帯魚に至るまでの生物がクレーターの中に無傷でいたって。ああ、魚は水が無かったから死んじゃったらしいからこれが唯一の死者かな』
「これはこれは…」
隣で葵がクスクスと笑っているがおれはそう呑気になれない。
言葉もでない。
『それでこれの現象の中心部なんだけどね…あの鉱石の一部を持ち帰った研究所なんだ』
「あ~…」
やばい。
すごい、嫌な予感がする。
「いや、でもあの鉱石が原因と決まったわけじゃ…」
そう、もしかしたら別の原因とか。
『あそこの研究所…というか国ね、一番大きい欠片を持って行ったんだ』
まぁ、国が国だからそうであろう。
画面が切り替わった。
『これが二番目、四時間前だね』
クレーター。
『ちなみに三番目、四番目も一時間ごとに消滅してるんだよね』
クレーターは先ほどと同じく周辺に土砂が飛んだ様子も無く、強いて言えば心なしか先ほどよりもクレーターの大きさが小さい気がする程度だ。
『たぶん、そろそろ…』
テレビのスピーカーから誰かの叫び声が聞こえた。
おそらく…
『いま、五番目の欠片の在処も消滅した。後、一つ』
…おいおいおいおいッ!!?
『後一時間あるはずだ。あれは何処だッ、いや、それを置いて出来るだけ遠くへ逃げろッ!』
初めて見る父の真剣な顔だ。
しかし、それどころではない。
「葵ッ、あれって確か…!?」
そう、あれは前に葵が欲しがったので葵に渡し、それをネックレスにした物を見せてもらったことがある。
「ちょっと待ってくれ、ネクタイが…」
慌てているせいか制服のネクタイを解こうとしているのに絡まっている。
時間がない。
「ボタンを外すぞ」
俺たちの制服はYシャツに近いボタンシャツとネクタイのタイプでネクタイに悪戦苦闘している葵のボタンを俺が外していく。
「ちょ…、それは流石に恥ずかしいよッ!?…ってわぁ!?」
「ぅをッ!?」
恥ずかしがった葵は急に立ち上がったが、俺がボタンを取るのにシャツを掴んでいたので俺に覆いかぶさるように倒れこんできた。
「痛ぃ…、ぃくらなんでも乙女…では残念ながら違うけど胸を君の前で肌蹴るのは…ってぁぁああああーーーーッ!?」
どうやら、掴んだ拍子に葵のシャツのボタンがはじけ飛んだらしく、葵の薄い胸っていうか男だから当たり前か。
つまり、葵の胸からお腹まで丸見えになった。
そして、首から下がったボンヤリと光るネックレス。
…おいおいおいおいッ!?
「親父ッ、鉱石が光ってるぞ!?」
『今までと違って早すぎる、急げッ!?』
ネックレスを取ろうと俺がそれに触れた途端に…
………
……
…
『弁慶ッ!?……弁慶ーーーーーッ!!』
俺の、いや、俺たちの意識が途絶えた。