魔王さまの楽屋裏
吾輩こと――魔王ベルケンドは、今日も今日とて何時になったら来るともしれない勇者を玉座の上で待っていた。
すると家来の一人が前に現れてとある報を告げた。
「ベル様。突然ですが財政がピンチです! 今直ぐにでも今期の予算案の見直しが必要です」
「何で!?」
おかしい。
城やダンジョンの維持費や家来の魔族たちの人権費、軍事費やその他もろもろの諸経費がまとめられた前期の決算を確認したばかりだが、例年通りで切羽詰まるような数字はでていなかったはずだ。
「ええい! 財務の連中は何をやっている! あの無能どもめ」
世界侵略に向けて来たる勇者を待ち構える準備をしていたのに、財政難で魔王軍が潰れるとか洒落にならない。
「お言葉ですが、ベル様。むしろ、財務の連中はよくやっております」
「吾輩に口答えとは珍しいな。何があったのか話せ」
普段から無駄な言い訳はいいから事実だけ述べさせている家来が、やけに財務の連中の肩を持つ。これは、要対処しなければならない可能性があるかもしれない。
「原因はあの勇者一行です。昨年度、王国を発った勇者一行を懸念して行っていた偵察魔族による五日に一度の定期報告ですが、前回の報告では何事も無かったのですが、その間に勇者一行による魔族討伐が活発化しておりまして……」
「……状況が、なんとなく読めてきたぞ」
思わず溜息が出てきそうだ、頭も痛くなってきた。
途中から耳を塞いで聞きたくなくなってきたが、話せと言ったのは他ならない自分である手前、最後まで聞かねばならない。
「――勇者たちの現在の拠点を中心とした雑魚モンスター狩りが頻発。それによって有り金と身ぐるみを剥がされた上に傷ついた魔族たちの保険金や見舞金で金庫の現在進行形でお金が融けています」
思わぬところからの勇者の かいしんのいちげき だった。
家来を護るための補償制度が、このような所で両刃の剣と化すとは。
とういうか、人類の救世主たちが何を追剥の真似事をしているのだ。連中には他の仕事やアルバイトをして稼ぐ方法が頭の中に無いのだろうか。
「あと、何でこの世界の通貨はゴールドなんだ……」
「なにせ金貨ですからね。最低賃金ですら金貨一枚からとか、とんだ鬼畜な世の中ですよね」
どうして、銅貨とか銀貨とかもっと言えば紙幣が流通させられんのだ。
「勇者達の活動が活発化した原因は、村の武器屋に置いてあるありえない程高い金額の最高級武器『黄金の剣』を手に入れるためと、最近MAP兵器を習得したので大勢を相手しやすくなった為と見られています」
黄金の剣とかアイツらは馬鹿か! そんな物は直ぐに歪んで使えなくなるのは目に見えて分かるだろ普通! お鍋のフタとひのきの棒の方がまだ経済的な上に丈夫にできているぞ。
「しかし、モンスターは雑魚であっても、決して今の勇者達のレベルからしたら弱くないはずだろう? 報告でも何度か全滅させることができたとあったではないか」
そうすれば勇者たちの所持金の半分を奪うことができ、少しはお金が戻ってきているはずだ。
「それがですね。勇者たちはある程度お金が貯まると、道具やで持ち物に変えているのです。これにより常に持ち金を最小にし、我々による全滅の被害を最小に止めています。
持ち物を換金する際は手数料をある程度取られることになりますが、全滅時の被害に比べれば少ないものです」
おのれ、無駄に小賢しい財テクを披露しおってからに、腹が立つ。
なにがどうしてのかはよく分かった。現状の問題における解決策は……。
「これは急場しのぎにでも、財源の確保が必要だな。どうしたものか……」
しかし、てっとり早くお金を手に入れる方法が中々思い浮かばない。
「ベル様。僭越ながら、このような案はどうでしょうか? ごにょごにょ――と」
互いに考えに耽って黙りこんでいると、口を先に開いたのは家来の方だった。
「………ふむふむ。しかし、それで本当にそれで上手くいくものなのか?」
確かにその方法はアリに思えたが、果たして成功するのかは怪しい気がする。
「ダメ元の精神で、まずはやってみましょうよ」
「そうだな、リスクがあるのではないし、まずはやってみるか」
家来の言葉に押され、その案は決行された。
………………。
「上手く行きましたね。ベル様」
「ああそうだな。しかし、あっさりしすぎて怖いぐらいだ」
数日後。家来の案を実行に移し見事に成功。一時ピンチに陥っていた財政は、建て直ってなんとかなった。
あの日、家来の言っていた案、それは……。
『あの勇者にエロイ紐ビキニを法外な値段で売りつけましょう。数着買ってもらえるように様にデザインとカラバリも変えた物を用意して』
部下の案を採用した吾輩は、変化の魔法を使い、紐ビキニの購買意欲をそそるエロいねーちゃんの姿に変化、そのまま商人を装って勇者に接触した。
その結果。
エロは強し!
VHS、インターネット、オタク文化、そのいずれにも普及にはアダルトコンテンツの影があった。
勇者はなんの躊躇いもなく財布の紐を緩め紐ビキニの全買いを決行したのだ。その額占めて十万ゴールド。この世界における男爵や子爵らの個人資産レベルに値する。
勇者がスケベで助かった。
しかしなぜだろう。将来的あの勇者は吾輩のライバルとなる訳で。
できるなら、どこを隠すのかそもそも着用させる理由が分からないくらい露出度の高い紐ビキニを手にしてはしゃぐ勇者の姿は見たくなかった。
あの時の、勇者に向けたパーティーの女性メンバーが下種を見るような視線と、それを向けられてもHEIZENとしている勇者は、第三者でありながら見ていて痛々しかった。
紐ビキニ勇者に売った翌日、勇者一行の中で勇者一人だけがこっそり死んでいて翌朝になってから蘇生させられたことについては考えないでおこう。吾輩のした事とは、きっと関係の無いことだ。
深く考えない方がいいだろう。