変人(変態)を好きになった私
小説初心者の書く稚拙な文章です。あらかじめご了承ください。
あと、ヒロインの名前が私の書いたほか作品のものとかぶってますが、おそらくこれからはこの名前を使っていくと思います。
「(すぅぅぅぅ)俺! 葉山光樹は! 佐川彩音を世界で一番愛してる!」
「何やってんのバカっ」
「ぐふっ」
朝の校門前でなぜか大声で本人いわく愛の告白をする光樹。そんな光樹を放置するなんてことはせずにみぞおちにこぶしを一発入れる。
「すみませんお騒がせして」
愛想笑いをしつつ早口にそう言い切って光樹の後ろの襟首をひっつかんで引きずっていく。
後ろからウグェッ、といううめき声が聞こえるけれどスルーして、そのまま校舎裏のあたりまで引きずって、あたりに人がいないことを確認してから、そこらへんに光樹を放り投げる。
「ちょっと光樹! あんた何あさっぱからあんな馬鹿なことやってんのよ!?」
「そりゃ、愛の告白っしょ!」
先ほどまで首が閉まって苦しい思いをしていたとも思わせない元気な声と、さわやかな笑顔を見て殴り飛ばしたい衝動に駆られた。
もちろんその衝動を我慢せず、光樹を前に私はこぶしをふるわせつつ上にあげ光樹の頭に振り下ろした。
ゴンっといういい音が鳴り少しすっきりした気分のまま頭を押さえて呻いている光樹を見る。
「うぅー、いいじゃん。俺たち付き合ってんだし。愛の告白くらい」
最後のセリフのところは横座りをして片手をほほに添えて流し目でこちらを見ながらいった。何やってんだこのバカ。
「そういう問題じゃないでしょうがっ、なんであんな公衆の面前で、そんなことをする必要があるのよ!?」
「はっ、なるほど、彩音は二人きりの時に俺に耳元でささやいてほしいんだね! 行ってくれたらいいのに、もぉっ、彩音ってばぁ、て・れ・や・さんv」
またもやふざけたことをぬかす光樹の頭に拳骨を食らわせる。
「誰もそんなこと言ってないわよ!(確かに二人きりの時のほうがいいのはそうだけど)」
でも、殴ったのが効いていないのかすぐに立ち上がり、目を輝かせながら私の両手をつかんできた。
「よしっ、そうと決まったら今から俺んち行こ! そしてたっぷり愛の営みを」
最後までそのセリフを言わせずにドロップキックを入れた。
「バカじゃないの!? どこをどうしたらそうなんのよ! それにあと20分もしたら始業よ? 今から家になんて行けるわけないじゃない!」
「素晴らしいっ、今日のパンツは縞々ピンクなんだね、かわいい! ごめんお願いもっかい見せて?」
光樹の言葉を聞いてすぐに片手でスカートを抑え、もう片方の手で光樹の腹にこぶしをたたきこむ。
ぐふっ、とか言ってても気にしない。今更だし。
「見せるか! っていうかお前は人の話を聞け!」
「あぁ、今は俺の家に来れないから、放課後俺の家に来ていちゃいちゃしようねって話? ちゃんと聞いてたに決まってるじゃない!」
「誰もそこまで言ってねーよ! お前の頭はどうなってんだ!」
「どうもこうも普通だよ?」
不思議そうな顔をしてそう聞く好機に思わずぽかんとなりほんの少し頭が冷えた。
「はぁ、あんたの頭が普通だったらこの世は終わりだよ」
頭を押さえて疲れたように言葉を吐き出す。
「何言ってるの彩音、俺の頭は普通の人間の頭だってば」
「……あんたと話してると宇宙人と話してる気になるよ。あんたなら宇宙人といわれても信じるよ」
どこか遠くを見ながらそう呟いて、光樹を教室に行くように促し途中まで一緒に行った。ちなみに、私は光樹とは別のクラスどころか、むしろ端と端というかなり離れたところにあるので、途中で私の教室に入りそうになった光樹の背中を蹴り飛ばし、自分の教室に行くように促した。
「相変わらずラブラブねぇ」
「結衣ちゃん、今のどこを見てそんなことを思ったのかな?」
にやにやとした笑いをしながら、明らかにからかったような口調でそういう親友の結衣に顔をひきつらせつつ言葉を返す。
「いいじゃない、あんなにストレートに愛情表現してくる男なんて今時珍しいよ?」
「……普通ににストレートだったら私だって文句ないわよ」
「……まぁ、普通というのはいささか難しいけれど」
「いささかどころの話じゃないって。というかあれをストレートと表現していいのかすら謎だけど」
「いいじゃないの細かいことは」
「……私の前でそれを言うのはケンカを売っているととっていいのかしら?」
「やっだー、冗談よ。じょ・う・だ・ん。もう、カルシウムとったら?」
「とってるよ。毎日朝一に牛乳コップ一杯飲んでるよ」
「あぁ。ごめん、私が悪かったよ。あんたもちゃんと対策とってたんだよね」
憐憫のまなざしを向けるな! なんかむなしくなるでしょうが!
そう大声で言いたくなったけれど、さすがにこんなところでまで目立ちたくなかったから心の中だけにとどめておいた。
それでもさすが親友というべきか、私の気持ちをくみ取ってくれたのか私にお昼にジュースをおごってくれる約束をしてくれた。なんていい親友なんだ、ちょっと人をからかうのが好きなところはあるけれどこういう気遣いは本当にうれしい。
「イチゴ牛乳でいい?」
憐れみを込めた目で見つめているように見えるが、その眼はどこか楽しそうに見える。
「……遠まわしにカルシウムをもっととれって言ってるの?」
訂正、かなりの人をからかうのが好きなようです。
昼休み急用ができたとかで結衣は昼ご飯を一緒に食べられなくなり、ごめんっ、といってからジュース代といわれてお金を渡された。
そして暇になった私は昼休みは長いんだし、と思いゆっくりと歩きながら学校にある自動販売機へ向かって歩き出した。
学校にはいくつか自動販売機がありその中で食堂に近いところにある自動販売機は昼はかなり混む。けれどイチゴ牛乳があるのは食堂と、学校の裏庭付近にある自動販売機だけ。
別にイチゴ牛乳にこだわる必要はないけれど、でもなんとなく飲みたくなったし、それに今は時間があいてるから、と思ってそっちのほうに足を向けた。
「は、葉山君」
「……」
「わ、私、葉山君のことが、好きなの」
「ごめん」
「え!?(即答!?)……な、なんで?」
「俺、恋人いるし」
「恋人って、2年の佐川彩音先輩?」
「なんだ知ってるじゃん」
「で、でも、あの人いつも葉山君に暴力振るってるし、私、葉山君が心配で」
どくどくと早鐘を打つ心臓と、立ち聞きなんてよくない、という心の声に早くこの場を立ち去りたい気持ちになるけれど、それでも足は動いてくれなかった。
ジュース買いに来ただけなのに何でこんなことに……
今、私の前で繰り広げられているのはいわゆる告白というやつで、その告白されている相手は私の彼氏の光樹。
気になって思わず足を止めて、物陰に隠れてしまい気が付いたら立ち聞き。
そういえば、あの変人、いや、変態ぶりに忘れてしまいそうになるけれど、光樹は結構顔がいい。
178という長身で体は太いわけでも細いわけでもなく無駄なく筋肉がついていて、顔は整っていて、いわゆるイケメンといわれる部類のもので、そんな容姿をした光樹が(あんな性格でも)モテないなんてことはなく……
たいてい学校で光樹を横にしていると、周りから生温か目で見られるか、憐みの視線を向けられるか、あまり多いわけではないけれど嫉妬のまなざしもむけられる。
光樹がモテるっていうこと、忘れてたわけじゃないけど、でもこんな現場に遭遇してやっと実感した気がする。
モテるってことはやっぱり告白もされるわけで……今までそんなこと全然匂わせてなかったから気づかなかった……情けない。
しかも相手の子はすごくかわいい子でそしてその子の暴力という言葉に私は思わず胸を抑えた。
そりゃ、確かに暴力は日常的に振るってるかもしれない。
光樹が馬鹿なことするたびに私は殴ってる気がする。
あいつが馬鹿なことしない日なんてないから、それだとほぼ毎日、結構な回数殴っていることになるわけで……
自分でやったことなのにすごく胸が痛くなった。
「彩音は優しい奴だ」
今まで聞いたことのないような冷たい声だった。
「で、でも」
「彩音の悪口いうやつは誰だって許さない。女だからって容赦しない」
怖い顔してその女の子を睨み、女の子がおびえているのも気にせずに威圧感を出している。
あの光樹が威圧感出して冷たい声で……それが普段見ている光樹からは到底想像のできないものだった。
でも光樹が言ってくれた言葉がうれしくてその女の子が傷ついた顔をしているにもかかわらず私の顔はほころんだ。
「っ」
一歩その女の子のほうへ足を踏み出した光樹にその子はおびえたように息をのみそしてすぐさまどこかへ走り去っていった。
「彩音、いるんでしょ?」
その声に心臓がドクリと音を立てて血の気がさっと引いた。
どうしよう、まさかばれてたなんて……
光樹は怒る? なんでこんなことしてんだって……それとも軽蔑する? こんなやつだと思わなかったって。
混乱した状態で嫌な想像が次々と頭の中をよぎり目の前まで来ていた光樹に気づかなかった。
「彩音」
静かな声にハッとして気が付いたら目の前に感情がよく読めない顔をした光樹が立っていた。
「あ、ご、ごめ。わ、わざとじゃなくて、その、とおりかかって」
とぎれとぎれに言葉を話すけれど、それでもそれはただのごまかしにすぎなくって、なんとなく光樹もそれをわかっているんじゃないかって思う。
光樹が私のほうに手を伸ばしてきて反射的に目を瞑って、気が付いたら抱きしめられていた。
「怒ってないよ」
優しい声だった。落ち着いていてそれでいて優しい声。その声を聞いて。知らずに入っていた肩の力が抜け、光樹に少しよりかかる。
「ごめんね彩音。あんなところ見せて……嫌な思いさせたよね」
「違うっ!」
悲しそうな声でそういう光樹にすぐにその言葉が出た。
「彩音?」
「光樹は、悪くないよ。私が勝手に立ち聞きしちゃっただけで、光樹は悪くない! 悪いのは、私で……」
自分で言ってて悲しくなって自然と目に涙がたまっていき、頬を伝った。
「彩音、それ以上言わなくていいから」
そういって私の涙をそっと拭う光樹にびっくりしてギュッと目を閉じだ。
なんで? 私が泣いてるってわかったの? 私を抱きしめてて私の顔が見えない状態で……。
「わかるよ、彩音の事なら、なんでも」
「……」
優しい声にまた涙があふれて、なんだか無性に光樹に抱きつきたくなって。その衝動のまま光樹の背に腕をまわしてギュッと抱き着いた。
「俺は彩音が大好きだから。初めて会った中1の時からずっと、その時から彩音ばっかり見てたからね」
そっと優しく私の背をなでて、そう語る光樹は今までの光樹とは別人みたいに大人っぽい雰囲気だった。
「一目ぼれってやつかな? それで、彩音のことが気になって、ずっと見てて、そして彩音と近づきたくて、たくさん話しかけて、いろんな彩音を知っていくうちにもっともっと好きになった。もうこれ以上無理って思って告白したら彩音からOKの返事がもらえて、飛び上るほどうれしかった。それこそ今なら本当に空を飛べそうって思えるくらいに……」
穏やかな口調でそうつづける光樹に、私はただ黙って耳を傾ける。
「付き合えたら、付き合う前よりもっともっと好きになって、もっともっと彩音に自分の気持ちを伝えたくて、たくさん迷惑なかけちゃったけど、でも全部本当の気持ちだから。今朝、校門前で言ったのだってそう。彩音を世界で一番愛してるって……本当はそんな言葉じゃ足りないくらいもっともっと大好きで愛してる。でも俺バカだから、どうやったらそれ伝えられるかわからなくって、みんなの前で大声で行ったらそれが広まるから彩音にも俺の気持ちの大きさ、伝わるかなって」
光樹の背に回している腕に力を込めた。
「とっくに、伝わってるよ、光樹の気持ち。ありがとう、あんなことしなくても、ちゃんと私だけに言うだけでいいから、それで伝わるから」
涙声になっているのはわかったけれど、それでもちゃんと言いたくて頑張って言葉を紡いだ。
何も言わない光樹に焦れて、涙でぬれた顔になっているというのをわかっていながらも顔を上げた。
すごく優しく微笑んだ光樹の顔に驚いている暇なく、顔を近づけられキスをされた。
チュッというリップ音を立てて離れた唇を目で追ってから、やっと自分に何があったかを理解して勢いよく光樹から離れた。
「なっ、なっ」
顔を真っ赤にして口をパクパクさせる私はさぞかし滑稽だろう。
でも、混乱しすぎてどうすればいいかわからない。
「ぷっ、かわいいっ」
吹き出す光樹に失礼な! と思ったのもつかの間、優しく、けれど離さないようにぎゅっと抱きしめられたから、怒りはどこかに吹っ飛んだ。
「あれ? 殴らないの?」
機嫌がよさそうな光樹の声を聞いてイラッときたけれど、それでもさっきの女の子の言葉が尾を引いてるのか殴ろうとした手は動かなかった。
「別にいつもいつも殴るわけじゃ」
「……彩音、もしかして、さっきの言葉、気にしてる?」
心配そうに私の顔を覗き込んできた光樹に息をのむ。
「……」
「彩音はあんな言葉気にしなくていい。俺が彩音にそういうことさせるようなこと言ってるのが悪いんだから」
自覚あるんだ、なんてさすがに声には出さなかった。いや私だって空気読めるからね?
「やめる」
「え? 彩音?」
「むやみに光樹殴るのやめる。痛い思いさせて、ごめんなさい」
いくら光樹の言動に原因があろうとも殴っていい理由にはならない気がして、素直に謝った。
本当は、いつも殴るたびにちょっと罪悪感があったから。
「ありがとう」
まぶしいくらいの笑みを浮かべてそう言った光樹に不覚にも胸がときめいた。
「べ、別にお礼言われるようなことじゃ」
私も悪かったんだし……
「俺を気遣ってくれたんだね? やっぱり彩音は優しいね。俺はそんな彩音も大好きだよ」
そういって抱きしめてきた光樹に、ちょっと恥ずかしく思いながらも背中に手をまわして「私も好きだよ」って言った。
私がそういった瞬間の光樹の反応が面白くて声をあげて笑った。そんな私に「え? 今なんて? あ、いや、そのちゃんと聞いてたから! ごめんなさい、でももう一回聞きたいですお願いします、もう一回言ってください!」って言ってきて光樹に「いや」と返してから光樹に背を向けて当初の目的の自動販売機まで足を向けた。
だって、これからちゃんと私も愛情表現するからね。
***
「そういえば光樹」
「ん?」
「なんで私がいるってわかったの?」
物音立てた覚えはないんだけど……
「え? そりゃあもちろん! 彩音のにおグッ」
何やら不穏なことを言いかけた光樹の腹にこぶしを一発決めて、うめいてうずくまっている光樹を背にさっさとその場から去った。
誤字脱字やアドバイスなどがあったらぜひ感想にお願いします。