8、お出かけ。
「おはようございます、魔王様、姫様。」
「おはよう。」
「おはようございます、みなさん。」
激しい夜から …翌朝。
ふらふらする体を魔王様に支えてもらって、何とか自分の部屋で着替えを済ませた私は
大魔王様と奥様の待つ大食堂へむかっています。
さりげなく腕をつかんでくださる魔王様に、心がほかほかしています…
魔王様は今、マントを羽織らず腕にかけたままで、スーツ姿です。
とにかく格好いいです。
「おはようございます、親父、母さん。」
「おう、おはようさん。」
「おはようございます、二人とも。」
「お、おはようございます、お父様、お母様…」
「やーだぁもう! お母様ですって! きゃーー!」
「お、お、お父様ときたか! なんだかうれしいな、母さん!」
「本当にかわいいわ!グラスちゃん!」
「きゃぁ!?」
「ははは、ほどほどにな、母さん。」
「早く、子供作って頂戴ね!うれしいわー。こんなにかわいいお嬢さんがうちの娘になってくれるなんて! ソーケンは、お婿にいっちゃったからさみしくてー。うふふ。」
「ソーケン…?」
「俺の弟だよ。 先に結婚して、今はお嫁さんとこの婿養子だ。」
「え?でも…」
「長男の俺がいるから問題ないさ。 嫁さんできたし…」
顔を赤くしながら黒茶を飲んでいる魔王様。
…どうしよう、うれしい…
「あ、ありがとうございます…」
「ふん…」
「ところで… (どうだったんだ、馬鹿息子?)」
「ふん…! (最高に決まってるじゃねーかよ!馬鹿親父!)」
「わははは! そーかそーか!はっはっは!」
「けっ…」
「?」
「あらあら。うふふ…」
早く離してほしいです、お母様…
こ、腰が! 腰が痛くて仕方ないです…!!
朝食はシンプルに…
魔界の豚肉でつくったベーコンと。魔界鶏の卵でスクランブルエッグ、とれたての野菜サラダ。
漆黒麦のサンドイッチは野菜とハムがたっぷり。
お母様が好きだという魔界牛のミルクとチーズは絶品です。
どれもみんなおいしい!
…誰かと一緒の食事って子供のころ以来ね…
あったかいな…
ペレットさんとリリナさんが給仕をしてくれてます。
「ねぇ、グラスちゃん。 今日一緒にお出かけしない? 旦那たちはお仕事だから、私が街を案内するわ!」
「いいんですか!?いきたいです! …あ、でも、お仕事お手伝いしたほうがいいですよね……」
「手伝ってもらうほどの仕事はねーよ。自分でできる。」
「そうだねぇ、書類ばっかりだから、わしらでちゃんとやらんと… 母さん、グラスさんを頼むよ。」
「じゃ、決まりね! 早速準備しなくっちゃ!」
もう、決まり決まり! とでもいいたげなお母様…
すーーーーっごく、きらきらした瞳です…
「よ、よろしくお願いします…」
「やったー!」
・・・・・・・・・
「そっちの森が、うちの息子と一緒に来た、人間界との境目とつながってる森。こっちのアーチを抜けるとすぐ街よ。基本的に、どの魔界も城主のお屋敷が人間界と魔界の境目ちかくになってるわ。結界の役割もしてるの。」
「〔どの魔界〕…? 魔界ってたくさんあるのですか?」
「そうよー。 ほら、こっちこっち。」
そういって指差すのは、二つ並んだ大きな岩。
それぞれに何か文字が刻まれている…
「商魔界、冥魔界…?」
「人間界や異界との商業を生業とする商魔界と、回復魔法を得意とする冥魔の住む冥魔界よ。 この岩は、それぞれの異界へ移動するためのワープ装置よ。商魔界からなら、さまざまな場所へ移動できるから、ここ剛魔界にはこの二つだけで十分なの。」
「そんなにたくさんあるんですか?…覚えるの大変そう… あ、もしかして、この冥魔界は、お母様の…」
「そうよ。冥魔界は、私の故郷があったの。ずっと昔に私の住んでた村は滅んでしまったけどね…」
「滅んで…?魔界にも戦争があったのですか?」
「…そう。 たくさん痛い思いをしたわ。 そこから救ってくれたのが、旦那なの。」
「わぁ… 素敵ですね。大魔王様… ダンディーだしカッコいいし、おまけに正義漢だなんて、言うことなしですね!」
「うふふ。 さぁ、お買い物しましょう! 魔界牛の牛乳とチーズは晩酌に欠かせないわよ!」
「お酒、お強いんですか?」
「うふふふ! 私も旦那も大好物! なーんで弟は飲めるのに兄は飲めなくなっちゃってるのかしらねぇ… うふふ。」
「そうなんですかー… (魔王様だけ飲めないんだ…)」
・・・・・・・・・・・・・・・
そのころの 職務室…。
「ちくしょー…なんでこんな… う゛~~~~…」
「唸るな、さっさと手を動かせ。書類は山ほどあるぞ。」
「だってよー…」
「格好つけたんだからあきらめろ。馬鹿息子。」
「ちえー…」
がしがしとガラスペンを動かす。
火であぶった細いガラスをたくさんねじって焼き切り、細い溝をたくさんつけた付けペンで、羽ペンよりずっと使いやすい。どの向きでもすいすいかけるのが便利で、インクもよく伸びる。
ただ、まぁ…おとしたら割れるけどな。もちろん。
今使ってるのは転がり防止の長めの出っ張りがついてるから割る本数は減ったけど、たまーにこっそり街へ出て、自分で買いに行って補充しているのは親父には内緒だ。
「ん、ペレット、入ってきていいぞ。」
「は?」
親父がきょとんとしている。
がらっ
「よくわかりましたね、魔王様… お話中だったようで待っていたんですよ。」
「ペレット!?いたのか。」
「はい。 白茶をお持ちしました。」
「わかるさ。 グラスから『気配を感じ取る』能力をもらったから。」
「え、あの子まさか… 交配魔力、あったのか!?人間なのにか!!?」
「どーやらそうらしい。 よくいままで無事だったよ…」
「ま、まさか… 魔王様、そんな理由でグラス姫をさらおうとなさったのですか!?」
「んなわけないじゃん。 本当に偶然! そこまで性根くさってない!」
ばん!!
「…ハッカ…」
「大丈夫だよ、親父。 母さんと同じ目にはあわせねーさ。 必ず守る。」
「……あぁ、そうだな…よろしく頼む。 わしは、ハッカを守るのに手一杯だ… 情けない男ですまん…」
「いいんだよ。 親父は母さんを守ってりゃそれでいいの! ペレット、お茶くれ!」
「は、はい!」
次回、大魔王様と奥様のお話です。番外編。
交配能力魔法についても書きますので…
一応番外編ではありますが、本編に関係あるお話ってことで。。。
ちょっと悲しいお話ですが、そこまでひどいことは書かないので読んでいただけるとうれしいです…
それでは、次話まで少々お待ちください。