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5、温泉と妖精と初めての殿方

「お願いですから!お独りでのご入浴がばれてしまったら、わたし、殺されてしまいますぅぅ!」

「わ、わかりました…お願いします…」

「はい!」


うわーん、そんな顔されたら断れないよう!


土下座でもされそうな勢いで、頭を下げるリリナさんを、あわてて押しとどめる。

それだけはやめてぇ!

…青い髪をきっちりとまとめあげて、不思議な光沢とグラデーションのリボンでふんわりむすんだ、いかにもメイドさんです!という雰囲気の女性。

青い瞳が、思いっきり安堵して、うるんでいる。

同い年くらいにしか見えないけれど、きっと魔族さんなのだから、ずーーーっと年上なのでしょう。

私についてくれるメイドさんは、このリリナさんともう独り、緑色の髪をした後輩のポーラさんが来てくださるそうです。リリナさんがお休みの日には、ポーラさんがお風呂へ一緒に来てくださるとか…。



…服の背中が破けて赤く血の滲んだ上半身がはだけかけた魔王様を、ペレットさん率いる数名の従者達が医医務室へ連れていくのをはらはらしながら見ていたら、私もちょっと…というか、かなり強引に、浴場へ連れていかれました…

で、最初のやり取りがあって、リリナさんに湯浴みを手伝ってもらうことに…

一人で出来ますって言ったけれど、魔王様からの命令である以上、私のせいで逆らったことになり、リリナさんが辛い思いをするのは嫌。




  じゃっ…しゅる…


「あっ! …も、申し訳ございません…」

「いいんです。私には全ての傷が、努力の証です。」


思わず、声が出てしまったことへの謝罪なのでしょう。


剣術の稽古での怪我やアザ。

技を披露するためとはいえ、本来の剣術も学んだ。

重い剣に振り回されないための筋力、かわして弾く動作のために、体中あちこち模造刀で叩かれた。

師範は厳しかったけれど、上手く出来ればその分褒めてくれた。


姫の体に傷を付けた、として首になりかけた師範を守るため、

抜かれた父上の剣を止めてそのままへし折って見せたことがある。


今思えば…

あれが、父が私を娘としてではなく、所有物として見始めたきっかけかもしれません…



浴場は、人一人には大きすぎるほどの洗い場と、こんこんと湧きだす大きな温泉。


キラキラもゴテゴテも無く、清楚に整った印象…

お湯からは、花のような香りがする。

ここは、王族だけが入れる専用の浴場。

脱衣所から直接専用通路を通って大魔王様御夫婦のお部屋や魔王様のお部屋に通じているそうです。





  しゅくしゅく…


「痛くございませんか?」

「あ、と…はい…」

「随分、髪油を多めに塗り込まれていますね…地肌に優しいパックトリートメントやコンディショナーをなじませてありますから、このまま一度湯におつかりください。長めになじませてからお流しします。」

「はい…」



促されて、湯につかる。


「花のような香りがするのね…」

『そうよー。花香岩地帯からわきだす温泉だもの。』


「え?」


『ようこそ、私の温泉へ。』


「あら、フローゼナ。こんばんは。」

『リリナー、この子が魔王様の一目ぼれなの? なんだか普通の女の子じゃない?』

「だめですよ!魔王様に聞かれたら殺されてしまいます!」

『私はそう簡単に死なないもーん。』

「フローゼナ!」


「あの…」

「も、申し訳ありません。 こちら、グラス姫様です。 姫様、この妖精はお屋敷の温泉を管理しております泉妖精で、フローゼナでございます。」


『ま、よろしくねー。  …こう見えても500年くらい現存きてるからね。うやまいなさいよー!』

「500年! 妖精さんって長生きなのですね。」

『んふふふー、扱い方わかってるじゃないの。イイコイイコ。 あの大魔王夫婦でも300年ちょっとだし、魔王子は199歳よ。弟くんなんてまだ180歳になったばかりだったわね。』

「…ぇぇええ!?」

『あら、そんなに驚く? 秋二月には200歳よー。』

「驚きます! というか、まず 弟様がいらっしゃるのですか!?」

『そうよー。 つーかウケるのが、弟くんのが先に結婚しちゃってんの!プッフー!先越されちゃってショック受けてる顔がもう可笑しかったわぁ!』

「ご結婚なされているのですか…」

『二方とも結構そっくりよ。 たしか、お子さんが生まれたばっかりだったけど、アンタたちの結婚式には来てくれるんじゃない? 弟くんのお嫁さんの実家が仕立て屋さんだから、そっちの家業受け継いでんの。ウエディングドレスとか一式そろえてくれる予定みたいよ! 楽しみにしてなさいな。』

「………」

『あれ? どした??』


「フローゼナ!もうそのくらいにしてください! 姫様は大魔王様と魔王様の喧嘩に参戦されて、お疲れなんです。のぼせてしまいます!」

『あらら! そうならそう言ってよ! ごめんねー。 大丈夫?意識ある?』

「は、はい…」

「失礼いたしますよ、フローゼナ。」

「また、今度… 元気なときに長風呂しにきます。またお会いしましょう。」

『ていうかー、明日もまたシャワーじゃなくてこっちの温泉に来てよ!また違う香りの温泉用意しておくからねー!』

「わぁ、楽しみにしてます。 さよならー」

『またねー!』





「なんだか、いっぺんに不思議な体験をしました…」

「申し訳ありませんフローゼナは、おしゃべりが大好きで…」

「いえ、楽しかったです。」


いつの間にか用意されていた、湯上がり用ふっかふかのバスローブとふわふわの下着。

あったかい…


「お水でございます。」

「ありがとう。」


脱いだ洋服は、全部すでに洗濯室へ回収されているそうです。


  がちゃ!


「ちくしょー、くそ親父!今年こそぶっ飛ばすつもりだったのに!」

「引き分けただけでも十分な進展ですよ。」

「け! 大してほめてねーくせ…に……」

「…っ!」




「「きゃぁぁああああああ!!」」

「お着替え中ですよぉおおーーーー!向こう向いててください!!!」


「す、すみません!!」

「~~~~~~~っ!!??」


「姫様! 早くこちらへ!!」

「は、はい!」



「み、見られちゃった… 思いっ切り前はだけちゃってたままだったよう…」

「申し訳ありません、姫さまぁ…!!」




・・・・・・・・


「大丈夫ですか、魔王様!」

「…すまん、鼻血がとまらない…」


次々紙を真っ赤に染めている鼻血。

マジでやばい。


バスローブ姿でこんなことになる状態で、グラスにあったら俺、どうなっちまうよ!?


「魔王様…今日はおやめになったほうが…」

「いや…無理。むしろ、あいつをどうにかしてやる。俺以外考えられない体にしてやるって決めてんだ。  …親父と殴り合ってから、たぎりが抑えられないんだよ。」

「…どうか、姫君に嫌われないようにお願いいたしますよ。」

「へん! ペレット、お前だってさっきのメイドのこと…」

「!!??? な、なんでご存知で…!!?」

「これ、なーんだ。」

「~~~~~~!!!!!! か、かえしてください!その姿絵、宝物なんです!!」

「きししし。 久しぶりに見たな、冷静さ失ってるお前の姿!」

「やめてください! かえしてください! あやまりますからぁ!」



『(男ってやーねぇ…)』


ぱしゃっとフローゼナがひとりごちたのが聞こえた気がしたが、無視だ無視!




・・・・・・・・・


「こ、こちらが魔王様のお部屋でございます… 姫様のお部屋はこちらのピンクの飾りのついたドアから入れます。 何かご入用でしたら、いつでも私に声をかけてくださいませ。」

「ありがとう…」

「お食事は軽食が用意されておりますので、魔王様がお戻りにになられましたらそのときにペレットさんがお運びいたします。」

「はい。」

「…あの…」

「え、はい?」

「…魔王様から伝言です… 『絶対寝るな』と…」

「!」

「失礼いたします。」


「ちょ、ちょっとまって!!」



ささーっと逃げるようにいなくなってしまうリリナさん。

ど、どうしよう…


つ、つまり、そういうことよね…

い、一応…お母様から教わってはいたから。

結婚した男女だけがする、夜の作法…

本も読んだ。

愛し合う、絡み合う


魔王様は、私に「妃になれ」といったわ。

つまり、子供がほしいって言うこと。



ど、どうしましょう…!!


とにかく…

逆らっただけで殺す、と脅すことはやめていただかないと…(現実逃避)







「何を赤くなってる?」

「きゃぁ!」


「魔王様…ったく、はぁぁ…」


「ま、ままままま魔王様!!?」

「そのほてった顔、かわいいな。」


余裕しか感じない顔。

私一人がこんなにどきどきして…


やっぱり、長く生きてらっしゃると、経験も豊富なのでしょうね…




「さ、食事にしよう。 ペレット、もう行っていいぞ。」

「はい、失礼いたします… 魔王様、くれぐれも…」

「わかってる。」

「はい。」



座らされたのはソファーの左側…


「酒は飲めるのか?」

「い、いえ…弱すぎて…17の成人式でちょっとだけ飲ませていただいて…すぐに倒れてしまいました…」

「そうか。じゃぁ、二人ともパージオレンジのジュースだな。 (…酔って倒れたのをってのも悪くねーな…でも、さすがに今は…)」

「え、魔王様も…」

「おう、いまだに下戸だ!」

「ぷ、くく… すみません、いただきます。」

「ふん! まぁ、こればっかりは合う合わないがあるからしかたないんだ! ほら、ちゃんと食え。」

「はい… あ、このパンおいしいです…」

「…(がつがつ…)」


なんだか、本当に魔王様なのか、疑ってしまう。

恐ろしい魔物だというイメージは全然ない。


漆黒の闇のような髪、真っ黒な瞳。ほんのわずかとがった耳。   額の青い魔石。

そして、お兄様といくらもかわらない様にさえ見える、年不相応な容姿。

お行儀なんてお構いなしな言動に行動。


暴力的なところさえのぞけば、ごく自然な青年に見える…


もっと、凶暴な見た目だとばかり想像していた。



「…ん?どうした。」

「いいえ、なんでもありません。」

「…そうか…」


ごしごしと、バスローブの袖で口元をぬぐうしぐさが、お兄様と似ている気がした。

お兄様も、気を抜くとついうっかりお洋服の袖で口元を拭いてしまう癖があった…


「…グラス。」

「はい?」


難しいことを考えるようなお顔をしていた魔王様が急にこちらを向いた。


「そ…そなたは、あの…婚約相手の子を孕んでいるのか?」


「…ぇえ!? そ、そんなわけありません! わ、わたくしは、そ、その…だ、男性にふれられたこともありませんでした! お、お兄様と、ま、ま、魔王様以外…!!」

「そうか、安心した! いや、急な結婚式に見えてな…あの兄の戴冠式とかねていたようだったから。」


盛大にほっとした安堵の顔を見せる魔王様。

なぜそんなことを急に… と思っていた私の耳は



とんでもない言葉を聞き取ってしまった。








「もし、腹に子がいるのなら、どうやって殺したものか、悩んでいたんだ。俺の子供以外産んでほしくなかったのでな!」


うれしそうな魔王様とは裏腹に








  がたん!  ばしゃ!




手に力が入らず、木のコップが滑りおちる。


「グラス!?」







私はショックを隠しきれなかった。




あーぁ。

魔王様、本性いきなり出しすぎ。

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