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2、欲張りな王様

昔々ある国に、とても欲張りな王様がいました。

綺麗な物でお城の外と中を飾り、贅沢な御馳走に囲まれ、沢山の奴隷を使い、お金を溜め込み、また贅沢のかぎりを尽くす。

ずっとそんな暮らしをしていました。


王様にはお妃様と小さな二人の子供がいましたが、お妃様は娘を産んでから三年後、亡くなりました。

兄妹は、そんな父親を悲しげに見つめて暮らしていました。

か弱い自分達には何もできないことを知っていました。

お城を抜け出しては、重い税金や徴収に苦しむ国民を見ていました。

その度に、何度も泣いていました。


自分達が逃げ出したところで、何も変わらないこともわかっていましたが、小さな二人は耐えられなかったのです。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






約十五年後…



「マンガンお兄様…」

「大丈夫だよ、グラス。僕は立派な王様になるよ。」

「はい、グラスはお兄様を信じております。」



今日、マンガン王子が、戴冠式を迎える。

二十歳になり、結婚し、新しい王様になるのだ。


優しい王の誕生によって、ようやく人々は苦しみから解放されるはずだった。


ところが…





「グラスを結婚させる!?」

「そうだ。大臣のカーネンが妻を欲していてな。あてがってやることにした。」

「まさか、ここしばらくグラスが大人しかったのは、このせいですか……!!」

「さぁ、なんのことかね。」

「あの子は18歳になったばかりだ、こんなの…グラスをイケニエにでもするつもりですか!」

「つつしめ、マンガン。わしはアルカリ・ウール。貴様の父だ。」

「う………」


「かわいい娘だ、大いに役立ってもらう。わしの所有物むすめだからな。歳なぞ知らん。」

「……!!!」



 ばたん!





「父上…あなたは間違っている…でも駄目だ…何もできない……」


 力無く膝から崩れるマンガン…


「力のない兄を許してくれ…グラス…」






お城の大前庭には、大勢のお客様が集まっている。

皆、マンガン王子が王様になるのを祝い、勇退するアルカリ王をたたえる『優遇されている』立場の人々ばかり。

中には過激な考え方の人間もいて、王様を暗殺しようとしていた犯罪未遂者もいるが……


その人だかりの中には、苦しんでいる人々を隠すかのように『民』の姿は見つからない。





「姫様、準備が調いました。参りましょう。」

「…はい……」


姫の黒い瞳は、全く光を通さず濁った灰色のようにぼやけた。

ベールに覆われた赤い髪も艶がなく、ひどく荒れていて、髪油をぬってごまかしている。



軽快な音楽が、結婚式を告げる。


『グラス姫、カーネン殿、ご着座ー!』


カーネン大臣は、本当に喜んでいた。

自分と姫が結婚することで、まさか…

マンガン新王の立場がゆらぎ、アルカリ前王が力を戻し支配できるようになるために、利用されているとは知らなかったのだ。



「姫様ー!」

「きゃーきゃー」

「姫様ばんざーい!」

「カーネン殿ー!」


グラス姫の長いウエディングドレスが丁寧に椅子にかけられたとき。

姫のベールが風に舞い、落ちた。


「…?」


侍女たちは大慌てで拾いあげ、新しいベールを用意するようひそひそ話している。


「そのままでかまいません、かけてください。」

「し、しかし…!」

「では、必要ありません。」

「わわっわか、わかりました!」


やむを得ず、侍女たちはそのベールをかけ直そうとした。



   ぶおっ

  どっすーーーーーん!!



その瞬間。

突風と共に、何かが空高くより落下してきた。

土煙をあげて人々を巻き込む。



「「「!!?」」」



「キャァァァァ!」

「何か、落ちてきた!」

「いやぁぁ!」

「助けてくれぇぇ!」



庭は、大パニック。


姫は侍女たちの制止を振り切り、バルコニーから身を乗り出した。




「いたたた……しまった、着地を考えていなかった…」



立ち上がった男に、周りの人間達は悲鳴をあげた。



「ま、魔王だぁぁぁぁぁぁ!!」

「魔石が………!」

「石にされるぞ!!」









「静まれ!」



漆黒の髪をかきあげ、額をさらす。

額には、青い石が埋め込まれている……




「我輩は 剛魔王ごうまおう!  この国一番の生娘をさらいにきた!!」




悲鳴をあげた人々は、庭の中央に若い娘達を追い込む。






「カーネン殿!私が参ります、手を離してください!」

「いいいいいけませんんん!!ここ殺されてしまいまますよよよよ!?」

「しかし、このままでは皆さんが……!!!」





視線に気がつき、そっと下をのぞくと…

じー、と魔王が姫を見上げている。


しかし、その視線に殺意は微塵もない。

否、むしろ……熱っぽくさえある。





  ダンッ!!…


   …どすんっ!!


魔王は、一蹴り一飛びで、バルコニーに飛び乗った。

黒いマントをひるがえし、深々と頭を下げる。



「ひ、ひぃぃぃ!」


「そなたは、この国の姫か?」

「…はい…ウール家第二子、グラス・ウールでございます。」



「そうか、ではそなた…グラスをわが妃としよう。一緒に来い、父上に会え。」


「ま、まて!!」

「…貴殿は?」

「グラスの兄だ!マンガン・ウール!覚えておけ!!」

「逆らってはいけません、お兄様!!」

「おお、マンガン王!お願いいたします、どうか…!!」



魔王が掌をマンガンに向けた。


「や、やめてぇ!!」





「どうぞ、妹を幸せにしてやってください。 それが、条件です。」

「…?」


「この国では、妹は幸せになれない。 僕が助けたかった。  けれど、その役目をあなたが果たしてくれるなら… 魔王殿にお任せしたい。」

「な…なにを言っている…?」


さらいにきたはずの魔王が思わずたじろぐ。



「マンガン王様!? まさか、魔王めに操られておられるのですか!!?」

「カーネン殿… 今、父は…前王はどちらに?」

「え、あれ?!」



いまさっきまでそこにいた前王がどこにもいない。


「自分の娘の危機にもかかわらず、逃げ出すような男を父とは思えない… もう、我慢の限界だ…!!!!!」





マンガン王は、乱暴に魔道拡声器を壁から取り上げた。


『全国民に告ぐ!!!! たった今から、前国王の過去の経歴を暴露する! すべて!洗いざら!! 全部!!! あなた方の現実を、虐げられてきた全て、要人の皆様がいる今、この前でぶちまけてやる!!  異論のあるものは、私を殴りにこい! 私は前国王と徹底的に戦ってやるぞぉぉおおお!!!!!!』




わぁぁあああああ!!!!!!!!!








ざわつく庭園…



しかし、集まってきた平民たちの、一様に痩せ細り、気力を振り絞ってやってきた彼らを見るなり


息を切らせて叫んだ 新しい国王に対して、頭をさげた。











「…妹をよろしくお願いします。」

「………全身全霊をかけて、幸せにする。」


「あ、あの…」

「案ずるな、我輩はこう見えても約束は守る。 魔族にとって、約束は絶対だ。」





「だから、もうひとつ、約束を残していく。」

「えっ…?」









「妻の母国を、守ろう。   大切な唯一の肉親から、引き離してしまうのだ、このくらい当然のことだろう。」



「………ありがとう、ございます…!」








あっけにとられているカーネン大臣や、侍女たちをおしのけて


魔王は王女の手を引くと バルコニーの柵の上に立った。



「失礼する、兄上殿。」

「グラス、幸せにな!」

「お、お兄様!どうか、お元気で……っ   グラスは、お兄様の妹で幸せでございました! もっともっと、幸せになって、いつかまた、ここへ戻ってまいります…!!」

「ああ、待っている!」










突如現れた大きな竜の背に 何の躊躇もなく魔王は飛び乗り


あっという間に見えなくなった。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



昔々、あるところに欲張りな王様がいました。


王様は、わがままがすぎて、とうとう王子様の逆鱗に触れてしまいました。


お姫様を人質にして、若い大臣をだまして、新しく王様になるはずだった王子様を意のままに操ろうとしていたのです。


王様になった王子様は、妹をお嫁さんにほしがった魔王様を味方につけて

前国王を懲らしめるために

国民みんなを立ち上がらせました。



ほどなくして、前国王は捕まりました。




王子様だった王様は、心も体もたくましくなり

国民みんなに好かれる


優しい王様になりましたとさ。



めでたしめでたし。







最初と最後を、昔話風にしてみました。

もちろん、まだ続きます!

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