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呪われた魔王と剣舞の姫君 ~陽光版~  作者: Taka多可
4章、誕生月祭と呪魔襲撃編。
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26、失いかけたもの。(イラストURLつき)





           …ざぁぁ…っ……




「……………?」


「え…」

「あれ…?」



ぽつぽつと、小さな声があちこちから零れる。



確かに、爆音と轟音が聞こえたはず。

でも、その場にいる全員が、直前まで立っていた場所に無事でいる。



「………」


へなへなと、何方かの呪魔達が座り込んでいるのが見えた。



「……グラス、怪我はないか?」

「魔王…様……はい、大丈夫です…」


頭の上からほーっとため息が聞こえる。

温かい腕の中。

…………生きている。


もうもうと煙る土埃。

吹き飛ばされる芝生。

目に砂が入ったのか痛い…



……首輪…

ルージュさんが言っていたそれの中身は…

二種類の液体がそれぞれ入った薄くて柔らかい、細い二つの金属缶。


無機物でありながら、ほんの少し意識を集中するだけで気がついてしまうほどの存在感。

液体の正体は…火薬。

強い衝撃を与えて、二種類の火薬が混じり合うことで爆発を引き起こし、さらに飛び散る細かい金属片が誘爆をまき起こし、大きな金属片が体に裂傷をつくる……


………この詳しい解説は、ずいぶん経ってから本を読んで調べたことです。

この時わかっていたのは、仕組みは詳しくわからないものの、とにかく危険だという気配がびしびしと伝わってきたことだけです。………






「いやぁぁぁぁ!!モロ様ぁぁああああ!!!!」

「「モロゴハノンキィ様ーーーー!!!」」



「! 魔王様、あそこ……!」

「まさか…!?」



    …ざざっ……ぱたぱた、パンパンッ…


「…ふぅぅ……、防ぎ切れなかったか…流石、薬魔の液体火薬。 むっ?…頑丈なはずの合金魔杖が割れてしまった。まさかこれほどとは…ふむ、改良が必要だな…」


  ぽいっ カランカランッ…


「…しかしまいったな、もう疲れた…まさか、魔力を四分の三も消耗するとは…」


「モロ様ぁぁぁぁああ!!」

「……ルージュ、皆無事か?」

「はい!はい………!!」

「そうか…」


駆け寄ったルージュさんが、ノローさんにしがみついてボロボロ泣いている…


「……どうして、どうして私達をかばったのですか…!!」

「…………本当に、何故だろうな…」

「え…?」


ルージュさんの頭を軽く叩いて、ゆっくりその場に座り込む…

ノローさんは、頭を抱え込んでなにかぶつぶつ言っている…


ふいに、こちらを見上げたかと思えば


「……まさか、な…いや、だが…わからない…何故…」


ずたずたになったローブで顔を擦る…

そして、ゆるんだ包帯が解けて…


「………ああっ……!!」

「うわっ…!」

「あ、しまった……」

「わわっ、だめ!見ちゃ駄目ぇ!!」



「……その傷が、反乱軍に切り付けられたというやつか?モゴハノンキィ。」


いつの間にか、お父様がノローさんの横に立っていました…


「……あぁ、額の石が砕けるほどの一撃だった、普通なら死ぬだろうよ。頑丈に産んでくれた母に、それだけは感謝している。…あぁ、そいつなら二度と顔を見たくなかったから、粉末にして隣の牢に捨てといたんだったな。」

「…えげつねーな、ぉぃ…」


砕けた小さな石が、刺さったまま傷口に埋まり、がたがたになった刃傷。


「もちろん防御したが、杖も無いままでは不完全だしまだ未熟だったからな…刃先が結界を抜けてしまったんだ。」

「手当は…」

「…止血だけ自分でやって、あとはルージュが必死にやってくれた。 まぁ、その結果がこれだ。当時はまだ子供の外見だったし掃除以外はあまり器用じゃなかったからな…治癒の魔術なんて無かったし。  …そういえば、兄の杖は適合できずにすぐ砕けてしまったな。まったく…何も進歩していないということか…情けないな、私は…」




たっ… たたた……


「グラス!!母さんから離れちゃ駄目だ!」

「あらあら大変。」

「ハッカ様!!」

「魔王様!姫様ぁ!!」


…ばたばたどたどたてくてくたたた……





私は、そっとノローさんの真正面に膝をおり座りました。


「……あの、いくつかお伺いしたいのですが…」

「…答えられるなら。私も人間であるあなたに聞きたいことがある。」

「はい。…不躾で申し訳ありませんが、こちらから……」

「かまわぬ。」



「…今、なにがおきたのですか?何故ノローさんが、ボロボロに…? ルージュさんたちの首輪型の爆弾は、ノローさんの指示では無いのですね?」


「……順序が前後するが、答えよう。…まず、ルージュ達に爆弾を持たせる指示は出していない。そうだな、ルージュ?」

「……はい。私達が自分達で決めました……」

「次に今起きた事と、私の怪我か。……簡単な事だ、ルージュ達に事前に設置していた、黒水鏡板の受信の器を全て解除し、送信の器に変えた。そして私の周りに受信の器を並べて爆発を吸引、全ての攻撃を私が引き受けただけだ。難しい事等無い、魔法があれば簡単だ。…あとは、魔法の発動中、魔杖が物理攻撃を無効化するはずだったのだが、何せ全員分の爆弾だ。…処理能力を越えてしまい、魔杖はあの通り砕けてしまった。おかげで久しぶりに傷だらけだ。気に入っていたローブもずたずたになってしまった…まったく、体力落ちたな。」


「か、簡単って…マジかよ……」

「……明らかに勝ち目無いじゃないか。それだけの行動を、一瞬で済ませてしまったのか…」


「もう、戦うつもりは無い。…どうしても、解決しなければならない疑問が生じた。殺してしまえば永遠に答えは解らない ……やはりダメだ……私は知りたい。壊すのが急に惜しくなった…弱いな、本当に……」

「なぁ……ぶん殴っていいかな、親父?」

「…やめとけ、ケタが違う。むしろよくわしらがここまで抵抗できたな……はあぁ、一気に疲れた…」


どすんっ とあぐらをかいて座るお父様…



「さて……私の質問にも答えてくれ。」

「はい。」




「何故私は……、ルージュ達を助けた?」


「「「 ……はぁ?!」」」

「……」



「気がつけば、勝手に体が動いていた。何故かわからない…おまえ達人間は、他者の心を感じ取れるのだろう?"空気を読む"、と言ったか?それで、わからないか…?」



「……いいえ…心は読めません。空気を読むというのは、その場の雰囲気を感じとる、という…周りに合わせるコミュニケーションのことです。」

「……そうか…違うのか……」


あからさまにがっかりした顔をみせるノローさん。


「でも、何故助けたのか、という問いに答えを出すことは出来ます。」

「なにっ…」


心底驚いた顔。

こんなにも表情には現わなのに…

どうして、気がつけないのでしょうか…


「賢すぎるノローさんのことですから、あの首輪が爆弾だということは瞬時に理解できたはず…そのとき、どう思いましたか…?」

「……?…確実に死ぬだろうと…。」

「その先です。死んでしまうかもしれないと思ったことについて、どう思ったのですか?…そこに、あなた様が本当にほしかった答えがあるはずです。今、どう考えるかでもいいんです。……それに気がつけないかぎり、ノローさん、あなた様はずっと独りぼっちになってしまいます。」

「…………」


下を向いたノローさんがもう一度静かに顔をあげた先には……

目の回りのお化粧が落ちて、黒い涙になってしまっていたルージュさんが、お母様に促されて慌てて化粧直しに取り掛かっている後ろ姿…


振り向けば、若い呪魔の兵士が泣きじゃくっている姿が見える。



「…ひぐっえぐぅっ………」

「馬鹿、泣くな…!」

「だ、だっで…死にだぐながったんだよぉ…!怖ぐで…!!」

「んなもん、俺だって…!」




「剛魔王様、大剛魔王様!!」


遠くから届いた大声。

ボロボロのヨレヨレになった剛魔の騎士や兵士達が、ようやく駆け付けた。


「!!…おまえら、大丈夫なのか?!」

「はい!死者は今の所確認されておりません!」

「よくやった!えらいぞ!!」

「グラス様!!我々は約束を守りましたよーー!!どうかご安心をー!」

「ありがとう、皆さん!!」

「グラス姫様ーー!」

「よかった……」





「………ぁ…」



「ノローさん…?」

「……ふむ…そうか…これが……『寂しい』…か…」

「モロ様…」

「兄が死んだときも…一瞬だけ…肺の奥が痛くて辛かった…すぐに憎しみに襲われ、忘れていた…それが、答えなのか…姫?」


「…………そうですね。でも、まだありますよ。今度は、剛魔王様と大剛魔王様に対する感情。これは憎しみじゃないはずなんです。…多分、難しいですから…」

「…?」



「『羨ましい』と、感じませんでしたか?」

「?!」

「ご両親の愛情を受けられなかったあなた様にとって、お二方は、不思議な存在だったと思います。」

「うら、やむ…?」

「…どうして自分に無いものが彼らにあるのか。…どうして自分には欲しかった者が居ないのに、あんなに身近にいるんだろう。…喧嘩をしている姿すら、楽しそうに見えたり。 ……こんなこと、思ったりしませんでしたか…?」

「…………!!!」


「羨ましい気持ちから、憎しみに変わることはよくあります。手に入らないものを、奪おうとする行動は、憎しみだけじゃなくて羨ましさからもくるんです。 ……補填できない寂しさを、微塵も感じない剛魔王様達に羨ましさから苛立ち、憎しみに変わり…そこから破壊衝動にかられたのでしょう。……だから…ルージュさん達が自害しかけた時に、思わず体が動いたのかも知れません。 死んでしまう、という確定事項を反射的に恐れたんです。」

「恐れ…」

「ルージュさんは、ノローさんを大切にしていますもん。それはノローさんだってわかっていらっしゃいますよね?」

「ちょっ…!!」

「あぁ…」

「大切な方が死んでしまうのが悲しいのは、誰だって同じです。ルージュさんや兵士さん達が今泣いているのは、あなた様のためなんですよ? もう、わかりますよね。…あなた様は、ずっと、勝手に独りぼっちになろうとしていたんです。こんなに…大切な方々がいるのに…!」


顔を赤くしているルージュさんはいったん置いておいて。

まぁ、先程の若い兵士の方は…

死にたくなかったのに、恐怖に勝てずに流された、という側でしょうけれど。

この際なんでもいいんです。

嘘はついてないんですから!





…………ザシャッ!!


「モロ様?!」



急にノローさんが立ち上がった。



「……撤退だ。」

「えっ」

「聞こえなかったのか、総員撤退だ!!」

「は、はい!!」


「ちょっと待たんか、そんな傷だらけのまま…!」





「ダイオード…いずれまたくる。首を洗って待ってるがいい!!」

「…………は?」



「「ぶぷっ!?」」



「きっ貴様ら、笑うな!!悪役の去り際はこう言い去るものなのだろう?!」


「だっははははは!!」

「小説でしか読んだことなーい!!あはははは!!」

「ぐ、ぐぬぬ……!!」

「モロ様ぁ……」

「早く帰るぞ!」

「「セイザー!!!」」




「あっノローさん!」

「?」

「今度はちゃんと、遊びに来て下さいね!お茶とお菓子用意して待っていますからー!!」

「………っ!? え、ええい、調子が狂う!黙って帰らせろ!!」

「はーい!」




「くすくす…」

「グラスちゃん…」

「ぶははは!グラスらしいや!」

「えー、どういうことですか?」

「いや、いいんだ。……あー、もぅ…疲れたぁ…… やっと終わったぁ!!」




魔王様が、仰向けにばったりと倒れたのと同時くらいに…

私が探知できる範囲から完全に呪魔の気配は消えました。







お待ちどうさまでございました。

ようやく投稿できました。


最後、どうしようか悩みに悩んだんですが…

当方はあくまでもほのぼの小説ですから。

あんまり深く悲しい内容にはしたくなかったので…こんな感じになりました。

拍子抜けしてしまったお姉さま方には申し訳ないです。


さてさて。

今回も素敵イラストいただきました。

ありがとうございます。鴉さま!!

今回はモロゴハノンキィ大呪魔王とルージュさん…24話の回想シーンの過去編と、25話のシーンです。

臨場感満載です!!


http://3965.mitemin.net/i37290/

http://3965.mitemin.net/i37291/


ホームはみてみんさまです。

コピペで移動お願いします。

本当にありがとうございます!


…反乱軍の攻撃があったときは、モロ様が99歳で、ルージュさんは70歳前後でした。

自身の額の出血と反乱軍の返り血、で血みどろになった…まだ青年の域を出ない魔王子。

ちょっとだけ大人びたくらいの幼い、大怪我を負ったお嬢メイド。

ルージュさんはもうちょっとだけ成長してるイメージですが(私の中では。)、惨事の状況はあんな感じだったはずです…


今後番外編で、二方の出会いと反乱軍との攻防を書こうと思ってます…


(月光版掲載時 2011年 12月17日)

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