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呪われた魔王と剣舞の姫君 ~陽光版~  作者: Taka多可
4章、誕生月祭と呪魔襲撃編。
25/28

24、観察 (イラストURLつき。)

夕方近いはずなのに、部屋を昼間のように明るく照らす光る球…


…私は今……

椅子なんてないはずなのにその場で腰掛ける姿で脚を組んで、(多分魔法なのでしょう…)懸命に灰色の紙になにかを書き込んでいくその男魔を、不快な気持ちで眺めている…



「……ふむ、…ルージュと比較するまでもないな……胸部とでん部は薄く、腕と脚は筋肉質、腹部は…ルージュより細い。……剛魔王の趣味はこういうのか…ふー…赤い髪も地毛だな……眉も睫毛も赤い……ふむ…瞳は茶褐色と黒、か……」


せかせか動くガラスペンと宙に浮くインクのびん。


まじまじと観察されている。

そのわりに…拘束されては、いない。


時折ルージュさんを眺めて見比べたり、腕に触れたりしている。

ルージュさんは顔を赤らめているが、振り払ったりはしない。

…恐ろしく高い忠誠心…あれ、セクハラになるわよね……




眼鏡を外して拭いている姿をみつめていると…


「……何か聞きたいようね。おおかた何をしてるのか解らないだろうし考えるだけ無駄よ。 大呪魔王様は、わからないことがあるのが許せないの。人間をこんなに間近に見るのは初めてだからよく観察したいのよ、我慢しなさい。」

「………(こくん)」

「賢い選択よ。」



窓らしい木枠から外を見ると、御屋敷がそう遠くない距離にあるように見える。

けれど…

逃げ出せるとは思えない。


脱がされた騎士団の制服の上着を返してもらい、袖を通す…


……多分…ここは、魔法で隔離されているはず。

そうでなければすぐに見つかるはずの位置。

だからこそ、こうして悠々と観察されている。


大呪魔王、モロゴハノンキイ・ノロー…

感じ取れるのは魔王様やお父様と少し違う畏怖…

恐怖すら感じる勤勉さと頑固さ。

華奢な身体で筋肉も薄く、お父様よりも年上に見える…

小さなシワのよる黒い眼光は、ひと睨みするだけで心臓が凍てつく。


き、キス…されたとき…

ものすごく苦い味がして…

なにか薬剤を流し込まれたのに気がついて、吐き出そうとしたけど、何も出てこなかった。

そのあとすぐに、ノローさんはビンに入った緑色の錠剤を飲んでいた。

たぶんあれが解毒剤…

だとすれば、声を取り戻す可能性は二つ…



薬を強奪するか、時間経過による効能切れ…

でも、どの薬かわからないと危険だし、どのくらいで効果が無くなるのかわからないし…

結局は、可能性でしかない。下手に動けない……


それに…気になるのは額の包帯…

初めて出会ったとき…白髪姿のノローさんのときには気がつかなかった…

白い色糸髪で隠していたのでしょう。

魔王様たち親子と同じように王族なら…その額には魔石があるはず…


なぜ、隠す必要が…?




じっと包帯を見つめていると、聞いてもいないのにルージュさんが、自慢げに話し始めた…



「モロ様は魔王子であったころに、ご両親様と祖父母様、双子のお兄様が亡くなられたため、百歳という若さで魔王を経ずに大魔王になられたのよ。…翌日が戴冠式だったわ。お兄様が魔王になり、モロ様は科学班総隊長となられるはずだったの。」

「……?」

「ほら、椅子用意したから座りなさいな。 …内乱が起きたのよ。勤勉で温厚な前・大呪魔王様に反発するものは多かったわ。すばらしい魔力を秘めていて、その魔法をもちいればどんな大国もたちまち血の海にできるほどの恐ろしい力。…それを一切使わず、知識と話術で戦を食い止めて来たの。それが反対制力の気に食わなかったのよ。……私たちメイドもたくさんの呪文や銃火機器の扱いを覚えてた

し応戦した。…でも…間に合わなかった。王族で唯一助かったのは、皮肉にも幽閉されていたモロ様だけ。」

「…!」

「ふふ…驚いたでしょ。双子というだけで、権力争いの火種になるからって地下牢に閉じ込められたのよ?そんな連中だもの。何度もモロ様は殺されかけたわ。そのたびに私たちがたたき出して来たの。モロ様をお守りするのが私たち戦闘メイドの役目だもの。 …たしか二十歳位のときにメイドとして雇っていただいてすぐに、モロ様の護衛メイドとして育てられたわ。その時のモロ様は四十歳で、お身体はすでに大人だけどまだ弱弱しい魔王子様で…魔族は人間に比べると精神的も肉体的にも成長が遅いの。

まして閉じ込められていたモロ様の精神面は私より幼かったわ。おどおどしてびくびくしてて…まだ子供にしか見えない私にすら怯えて……ただ、お兄様には心を許していたわ。会いにすら来ない両親と違って、毎日様子を見にいらしていた。何とか助けたかったみたいなのよね…」

「…………!」


口が聞けない今の身体がもどかしい。


ノローさんは……

生まれてすぐに、忌み子とされて………

そんなの、ひどい……!!



「そんなビビりなモロ様が……反乱軍全員をたった御一方で、一晩で、全滅させたわ。」

「!!」

「一度も会いに来なかったとはいえ…ご両親を殺されたと伝えに、そしてモロ様を逃がそうと、助けに来たお兄様が目の前で殺されて…私のほうは心臓は外れていたけれど胸を突き刺されて気を失いかけてた。けど、その光景、場面はまだ覚えているわ。……あれこそが、モロ様の実力。…黒覆面の男魔が三方、ほんの一瞬で挽き肉になった。 力尽きたお兄様の亡きがらをだき抱えて、私に突き刺さっていた剣を引き抜いて駆け出し、城内にいた反乱軍を次々爆破、消し炭にした。私が聞いたかぎり呪文は一度も唱えていなかったわ……あれこそが真の呪魔。今では廃れてしまった、『呪文の黙唱』。口を閉じたまま喉の中だけで呪文を唱えて発動するから音として聞こえないのよ。代々王族しか使えない技だったから、今ではモロ様だけね。」

「………っ」


「格好よかったわ…私の右胸の傷は、モロ様に塞いでいただいたし、貧血でふらふらになってたけど、モロ様お一方に出来なくて…必死に追い掛けたわ。」

「……っ!………!!」

「くすくす…不謹慎だって言いたいんでしょ。残念だけど、私はそう思わないんだもの。モロ様の勇姿をこの目に焼き付けられた。とても光栄だわ…」




「ルージュ、しゃべりすぎだ。それ以上情報を与えるんじゃない。いいね?」

「! も、申し訳ありません……」

「まったく、君はよくしゃべる。何が楽しいんだか…その姫は剛魔王の嫁で、憎い大剛魔王の 義娘むすめ。いずれは殺す必要がある。」

「…………っ」

「…モロ様、やはり、殺すなんて…このコはただの人間…」

「もしそうならば。」

「?」





「なぜお前が用意した椅子に座っていない?」





「……え?ここにいますけど…………あれ?!」

「気配が椅子自体に置かれて残されている…しゃべられないようにしていたのも助けになったな。わざと置いて逃げたんだ、気配だけを置き残して。」

「…な……なにそれぇ!?」

「まさか、この私まで騙されるとは迂闊だった。魔力があるのはわかっていたが、まさか気配を操る魔法だったとは…調べが足りなかった。よく探せ、恐らく気配を操作しているなら気配を殺すこともできるはずだ…ここからはでられないはず。まずは結界を強化する、姫は頼んだぞ。」

「はいっ!」








ど、どうしよう…

思わず逃げようとしちゃった…


『いずれは殺す必要がある。』



怖い……



助けて、ゾディロ……っ!!













  ばちんっ!!


「(違うでしょ、 グラス(わたくし)……!!)」



何、助けに来てもらうことだけが前提なのよ!

自力で逃げる方法探さなきゃ!

もう一回ばちんっと頬をたたいて、気合を入れる。


でも…

このままじゃ結界が…

どうしたら……





コロンッ

  「…!」




……………………………………………………………………







「あ、いた!もう、勝手に動かないでちょうだい!!」


   ドガッ!

「きゃぁ!」

「ルージュ!?」

「………っ」


   ひゅっ


「…………っ!」

「ひゃぁ!?」


武器は全部置いてこさせたはず、一体…!?


「あっそれ、さっき割れたわたしの爪!いつのまに…!!」

「なるほどな、ルージュの爪、か…。武器ではないから、検知の魔法にひっかからなかったのか…」

「関心してる場合では…!」


   ヒュパァンッ

 ぱしん!


「しまった、杖を……!!」

「モロ様!」


  ボキッ!!!


「な、な……なんてことするのよ!モロ様に切り掛かったあげく、杖をへし折るなんて!!」

「よせ、ルージュ!!」






「(……ふー、…ふー………)」


「!!!」


呼吸音…?!

まさか、もう薬が切れかけて………!!



「モロ様!!薬の追加を……!」

「なにっ、もう効能切れなのか?!」


  びゅんっ!


「…………!」

「し、しまっ……!」

「モロ様ぁ!!」






   ザジュゥッ……!!






「な、なにしてるのよ………!!!!!」

「自害する気か!?」


「………っ!!」



モロ様に振りかざされた爪は、グラスの左腕を貫いている。

一体何が起きたの……!?




「……!…!!」


がくんっと、ひざから体が折れるかのように倒れていく。


「ばっ、馬鹿じゃないのあなた!?私の爪はマヒの効果付きなのよっ!動けなくなるに決まってるじゃないの!!」

「…………、……、………………!!!」


「……えっ…」







『しねないの、わたくしは、まおうさまのつまなんだから…!!!』






「…な………」





     ………ずずっ…どくどく……


「ぬ、抜いちゃダメ!本当に死んじゃうわ!!?」





   ガンッ!



「え?」



ドゴーーーーン!!!

「「「どりゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」」」


 ガラガラガラガラ……!

どざ… がこんっ








「きゃぁぁ!?」

「け、結界が……!!」


「姫様ー!!」

「グラスーーー!!!」

「………!!」




剛魔王たち…!

結界の内部にあった隠し部屋を、探しあてた…!!??

魔術も使えないくせに、いったい何が…っ



いや、それよりも。

このままじゃ、呪文が間にあわない……っ!!




「モロ様に近づかないで、雑魚共ぉぉ!!」


  バギュギュギュギュンッ!


「どわわ!?」

「ま、魔法銃だ!」



   ざざざっ


「ルージュ、もういい、やめなさい!」

「は、はいっ!」

「ふー……成る程…犬魔の嗅覚がこの女の血のニオイで居場所を特定したか…臭いまでは結界では遮断できないんだな…そうかそうか…勉強になるよ。まったく…」



足のホルダーに銃をしまう間、またモロ様は思考に気を取られ続けている…


「冷静に分析してる暇あるのかよ。モロゴハノンキィ・ノロー…」

「いやいや、これでも焦っているさ。まぁ、感情と表情が合わないのはしかたあるまい。…感情の出し方等、習ったことがないからな。身近にいたのはルージュだけだ、笑顔と怒り顔しか知らん。」

「………は?」


「……、………」

「グラスっしっかりしろ!……んなこたどーでもいい!グラスをこっちにかえせ!!」

「……ふん。」


     とんっ

「!」

「無茶しやがって…でもありがとう…!ごめん……もっと早く気がついてやれれば…」

「………(ふるふる)」

「グラス…」


「ありがとうございます、グラス様。血のニオイを嗅ぎ取った瞬間、本当に死ぬほど恐怖しましたが…本当によかった……!!」


剛魔王と姫の前にひざまづくのは、壁をぶち抜いた犬魔。

傷の治療にあたる剛魔王は隙だらけ。

いとも簡単に仕留められるはず。







それなのに。


お顔をゆがめたモロ様は、歯を食いしばり唇の端が切れて、血がにじんでいる…

ローブの胸元を握りしめている。

攻撃しようとしない。



理由はわかっている。

それでも………


私達は、モロ様の命令に逆らわない。

………あの日………

皆と共に決めた。


どんな命令も、命懸けで遂行すると。







ひゅっ

  どすんっ!!


「ったく、不幸自慢かよ。」


ぶち抜かれた壁からのそりとあらわれたのは、大剛魔王・ダイオード…



「お、親父!!」

「よーう息子、無事だったか。 ……198年ぶりか?モロゴハノンキィ・ノロー。」

「意外と早かったな、ダイオード。結界が切り替わってからここまで来るのにかかった時間がちょうど二時間だ、予想では三時間くらいかかると見込んでいた。なかなかやるじゃないか。」

「…相変わらず、学者目線の上に高圧だな。」



しゃんと背筋を伸ばすモロ様には先ほどまでのあらわにした感情があっさり消えている。



「私は歳を重ねる以外、何一つ変わらない。…貴様への怨み、怒り、憎しみ。 家族が増えれば増えたぶん、私の怒りの矛先が増えるだけだと何故気がつかない?貴様を殺したい欲求は膨れるばかりだ。…民草を殺さなかったのは、単なる気まぐれ。」


壁を殴り付ければ、一瞬で簡易部屋はモロ様の掌に収まるサイズに縮む。


「……私の研究は完全を求めるもの。過程で失敗しようが間違いがあろうが無かろうが、結果はいつだってころころ変わる。そこへ完全を求めるのが私の研究だ。」

「あ?」



「私の感情を完全に殺すこと…それが私の求める完全だ。感情さえ無ければ、完全な魔王になれる。全てを壊し無くし、私自身も無くなればいい。そのための研究だ、この探求心さえも私には苦痛なのだ……全てを、無くしたい。  貴様らへの怨みも、憎しみも、怒りも……!!」









「すべてが無くなった時、私の研究は完了する!! 完全なる無こそが、新規を起こす礎! 私はすべてに絶望している!!   愛だの恋だのに惑わされる貴様らが、わからないんだ!どれだけ時間を費やしても、一向に理解できないんだ!!」








「わからないということほど、絶望に値するものは無かった!! もう、何もいらない! すべて壊してやる!!!!!!!!」




素敵イラストをいただきました!!

毎回毎回ありがとうございます鴉さま!!

本当に萌えさせていただいております!!!


http://3965.mitemin.net/i34809/

みてみんさまへコピペでおねがいします!


執事のペレットさんと、メイドのリリナさんです!

この、じれったさがたまらないです!!

見るたび鼻血祭りです! (ひとりでやってろ)


(月光版掲載時 2011年 12月02日)

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