23、考察と絶望と、かき集めた希望 (イラストURLつき。)
今回かなり長めです…
区切る場所が無くてすみません…
グラス視点、ゾディロ視点、ハッカ視点 (屋敷内)、ソーケン視点 (屋敷外)です。
「てんめええぇぇぇぇええっっっ……………!!!!!」
だめ、危ない、来ちゃだめ……!!!
「---------!!!!」
ドスッ…!
…ビキビキビキ……ッ
「ぐぁっ……!?」
「アハハハ!!馬鹿な男魔ね!…大魔王様の大胆な挑発にあっさりかかるなんて!!」
ぼた、ばたたたっ…
魔王様の左肩に突き刺した爪が引き抜かれる。
血が伝っていく。
唇が震える。
うまく声がでなかった。
はやく、はやくルージュさんを先に止めなきゃ、冷静さを失った魔王様一方では勝てない…!!
私がしっかりしなきゃ……!!
なんとか、ルージュさんの意識をこっちに……!!
「----!!--っ… ……!?」
「…ぐら、す……?」
スーツの上着で腕をしばろうとした手が止まり、固まっている。
…こえ………
声が、でない……?!
「……、……!!---!?」
「拍子抜けだな。そんなに困惑することか?」
「!!」
ゴスッ…!
「がはっ…!?」
「-----ッ!!」
「やはり、剛魔は学が無い。古い習わしに縛られる、身も精神も。…なぜか『その行動が必要な理由』を、考えない。本能のままに動く、原始的な怪物そのものだ。」
「……なん、だと…?」
「剛魔の王族は、ツガイを重要視する。複数の異性を同時に愛せる人間の王のような側室を、一切持たない。これは一般の住民にも言える傾向だ。浮気や不倫は剛魔界にて一切浮上していない。」
「……は?」
「そして、平均的にみると、…独身の剛魔よりも、結婚した者もしくは恋仲の相手がある者のほうが、爆発的に身体能力が上昇する。……以上、サンプル調査、私自身が実際に戦闘して得た20組の夫婦の観察過程から…一つ、仮説を立てている。」
「さっきから、何を言ってんだ……!!」
「以下に述べるのは、あくまでも憶測だが……『剛魔は、愛する者に名前を呼ばれることで、能力を高めることが出来る可能性がある。これは太古の昔に絶滅した、最古の魔族……鬼魔族に多く見られた 言魂騙の技術に類似している。つまり、剛魔とは鬼魔に近しい魔族であると推察される。どちらも、有り余る魔力を魔法に変えられないという点が共通する。』」
「………ことだまし…きま族……?」
「言語による即効型催眠術だ。無理矢理体を騙して一気に身体能力を高める技術……恐らく、貴様ら剛魔の本質、つまり、本来『剛魔』と呼ぶべきなのは鬼魔族と類似する遺伝子を保有する魔族達を指すのだと推測される。…さて、ここまで説明すればいいかげん解るだろう。貴様の愛しい姫に何が起きたのか…?」
……ぎちっ…
「……………っっ!」
髪をつかまれているだけなのに、動けない…
全身が痛い…っ
「まさか、……その馬鹿みてーな予想を確かめるためだけに、グラスにき、…キス、して声を奪ったのかっ?!」
「名前は呼ばれずとも、貴様の場合は『魔王様』と呼ばれるだけでも効果はあるようだからな。……まぁもっとも、先の考察が正しいならばの前提の元だが…」
「んなもん、知らねえよ…… 鬼魔なんか聞いたことも無い!!」
「ああ、かまわないさ。貴様から得られる情報は僅かだ。むしろこの娘を餌に、大剛魔王を脅したほうが効率がいいだろうな。」
「!!」
「無駄な時間だった。」
「ま、待ちやがれ……!!」
ぶしゅうっ!
「う゛ぐ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………!!??」
どざっ…
「……………!!」
「な、何だ…?」
「背中から、血が吹き出してっ……!!」
「……魔力が尽きたのか…?何だ、一体…」
まさか……っ
『姫様、もしも…魔王様の背中…肩に、見慣れないものがあっても、見ないふりをして差し上げてくださいね。』
『……?それって、肩のタトゥーのこと?ワイシャツから透けて見えてましたが…』
『あわわわ、それ以上おっしゃらないで下さい!』
『えっと…聞かないほうがいいのかしら?』
『えーーと……』
『…もしかして、私の薔薇の印のせいで、何か…!?』
『だ、大丈夫です!姫様は何もありません!魔王様が勝手に嫉妬にかられて正しい手順を踏まずにいたしたせいですから!姫様は何もありません!!』
『……ペレットさん、それ、言っちゃまずかったのでは…?』
『ぁ゛。』
『……魔王様に、良くないことなんですね…』
『…ハイ……』
『わかりました、なるべく平静を保ちます。』
『………申し訳ありません…』
『くすっ……』
『…?』
『魔王様って、本当に抜けてる方ですね…』
『えぇっ?!』
『可笑しいわ…、そんなドジな所も好きだなんて。変ね、私って。』
『ど、ドジだなんてレベルの話ではないのですが…』
『詳しく話せないのでしょ?だったらとりあえずそう思っときます。』
『は、はぁ……』
魔王様…………!!
ゾディロ様…!
どうして、私は…っ
何も出来ない人間なの……!!!
「----!!…………!!!!」
「何か知っているようだな。ますます口を聞かせる訳にいかないな。…こういう場合は、連れ去るのが王道だろう。いくぞルージュ…」
「は、はいっ」
「(ゾディロ様っ、ゾディローーッ!!!)」
どんなに叫んでも叫んでも……
私の声は戻らない。
ぐったりと動かない魔王様……
届かない悲鳴は唇を動かすだけで、口の中から出ていかない…
…………………
「……さま、魔王様っ!!」
「…う、ぐ……?」
「よかった、生きてた!!」
「ああぁぁぁぁぁ、マジ焦った!心臓痛い!!よかった!」
「…お前ら……マゼンドに、プラクチス…だったか…?」
「「はい!」」
「倒れてる騎士達をたどってきたんです!…敵が何を考えてるんだか解らないんですが、一般兵たちは全員無事なのに、有力な騎士達は軒並みボコボコにされています… 民衆も既に無事に逃がされた後で今の所怪我等の報告もありません。」
「……げほっ…本当に何を考えてるんだ……あの野郎…!」
「まだ動かないで下さい!手当て終わってません!」
「いらん、ほっとけば治る…」
「治ってないから言ってるんです!」
「……てめぇ………第一、お前らなんでここにいる!オイル隊長はどうした、さっき偽者に会った。誰の命令でここに来た!?」
「隊長命令の、命令違反っす。」
「?!」
「う、うぅ………テグス副隊長が…偽者で…オイル隊長がやられて……ぐず……」
「なん、だと……!?」
「……た、隊長は大魔王様の元へ行けっておっしいました。でも、副隊長は生きてるはずだから……!今探さないと死んじゃうって思って……!!ひぐっえぐっ……」
「……こいつの説明だと、容姿を真似る変装型の魔術は、対象が『生きている間だけ効能がある』らしいんすよ。だから、命令違反覚悟で探してたんす。テグス副隊長は生き埋めにされてて、危なかったっす。……勿論、無事救出しましたよ。オイル隊長も気絶してただけですし、あと騎士達は全員その辺に延びてます。」
「………な、…」
「「延びてねーーよ!!」」
「! お前ら、その傷……ッ」
一目みてわかる。
立っているのがやっとのくせに、なんでそこまで………っ
「我々はぎりぎり生き残りました。テグス副隊長他、重傷者は宿舎に運んであります。他の動ける者達は屋敷へ向かっています。……魔王様、御命令を!!」
「オイル…」
「もうこの際だからガツンと言わせていただきます! あんた、一方で抱え込みすぎなんだよ!!もっと俺達を信用しやがれ!!」
「!?」
いきなり胸倉をつかまれた。
「そうですよ、いつも、一緒に馬鹿やってもふざけてても…俺たちを見ることがなかった。」
「そりゃ、魔王様なんだから威厳とか畏怖とか…必要ではありますが、それでも…魔王子の頃からやんちゃでやりたい放題だった魔王様です。そーいうのが向いてないのもなんとなくわかってます!」
「僕達は魔王様親子に命を預けた。魔王様達を守る盾で、戦う剣!」
「もっと我々を頼ってくれて良いんですよ!こんな、ズタボロになってる魔王様を…御守りできない自分達は、どれだけ役立たずだと……!!」
「お、まえら……」
「俺は隊長も副隊長も、魔王様も嫌いです。ただ…大魔王様に両親を救っていただいた。だから、ここにいる。あんたの命令なんか聞かない。…頼みならきくけどさ…」
「……わかった。グラスを探す、必ず助けてくれ……!!」
「「セイザー!!」」
「まだ魔力が残ってるやつは、少し分けてくれ…あの馬鹿、ぶっ飛ばしてやる……!」
「はい!」
「もちろんですっ!!」
「それから、マゼンド、プラクチス!」
「「はい!」」
「お前らの命令違反は俺がのんでやる!そのかわりあとでたっぷり扱いてやるからな!それでいいよな、隊長!」
「はい。」
「「げげぇーー!」」
「覚悟しろよ、プラクチス。騎士団仕込みの訓練だからな!」
「へ…?」
「いくぜ!」
「「はい!!!!」」
「ちょ、え、待ってください!僕一般兵なんですけど!?」
「今はもうどーでもいいって!早く!」
「ひいぃぃぃ……!?」
…………………………
「結界はまだやぶれないのか!?」
「いまだ、微塵たりとも…っ」
「ダイオード様…」
「す、まん…迂闊だった……」
「申し訳ございませぬ…ペレットに連絡さえできればこんな事態は…」
「仕方、ない…ことだ。こんな結界に魔法陣…わしらには…縁が無い…」
「……」
「…ダイオード…さま……」
打ち合わせのためにお屋敷へ戻ったとき。
ダイオード様は足元に展開された魔法陣を踏んでしまった。
とっさに護衛騎士達が魔力を補填していなければ……
大魔王様は残魔力の三分の二以上を失って、立つ事どころか呼吸さえ出来なくなるところだった。
お屋敷に張り巡らされていたのは、『入ることは出来ても出られない』結界。
ビンカーさんから事情を聞いたときには既に、結界の種類が切り替わって、完全に外から遮断されてしまった。
ゾディロから屋敷に戻るよう言われてきたタスタ君もいる…
ビンカーさんの通信系魔術も全て結界に遮断されていて外部への連絡の取りようがない。
私達をお屋敷に戻るよううながしたのは、事務方の一方に化けていた偽者……呪魔。
彼は一度取り押さえたが…口に含んでいたらしい毒を飲み込み自殺してしまって、詳しいことはわからない。
「すまんハッカ、もういい…これ以上はお前が…」
「大丈夫。」
「ハッカ…っ」
「私はあなたの妻よ。これしきで魔力が枯渇したりしないわ。…あの子だけじゃ、ノローには勝てないの。ダイオード様が必要よ!気にしないで回復に専念なさい!」
「すまん…」
私の膝の上で、青ざめた顔を大きな手で隠している…
泣きそうになっている。
……仕方ない事だわ。
魔力を分けてくれた相手の感情も、ほんのわずかだけど感じ取ってしまうのだから……
恐怖に耐える心、不安、苛立ち、絶望。
大魔王ダイオード、魔王ゾディロにたくすわずかな希望……
一遍に受け入れれば、普通パンクしてしまう。
それを、今……私によって…私のせいで苦しめている。
助けるために、辛い思いをさせている。
その、私の葛藤さえも、旦那に伝わってしまう。
平静を保たなければならないのに…
「お屋敷にのこってたメイドの皆から、沢山魔力をわけてもらってきたんだから。心配いらないの、ね?」
「……すまん…」
「ハッカ様!大魔王様を担ぎます、少しだけ離れてくださいまし!」
「どうしたの!?」
「なにか、こちらに猛進する物体が……っ!」
ドゴーーーーーン !!!!!
「「!!!!???」」
…………………………
「うっだらぁぁぁぁぁああああ!!!」
ジャギジャギギギギッ……!!
「「ぎゃぁぁぁ?!」」
「………あ?」
がしゃ、がらがら、ごろろん……
「「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「「うわーーー!!!」」
「な、なんで裸にぃ!!??」
「だーッははは!!こっちが 女魔だらけだったのが災いしたな、男ども! 殺しゃぁしねー、生き恥さらしてなぁ!!」
「ひ、ひぃぃぃ……!!」
「仕立屋婿養子の鎧さえ切り裂く、武道ハサミ裁きだ!冥土の土産に喰らってけぇぇぇええええええ!!!!」
一抱えはあろうかという、巨大なハサミ。
仕立屋"シザードレス"の名を剛魔界中に轟かせた… 鋼切鋏。
服屋でありながら、刃物も扱う。
戦場で使われた巨鋼切鋏は、鎧ごと敵を切断したといわれている…
「皆、踏ん張れよ!!ペレットなら絶対結界をぶち抜ける!!もう少しだ!!!」
髪固剤でバリバリに固めて立てた髪はぐしゃぐしゃ。
もはや兄さんと見分けが付かなくなっているだろう。
ついさっきまでの接客モードの俺からは想像できまい。
そんなもん気にしてられない。
俺がソルトや子供らを守る……
じい様も騎士達も戦ってる。
俺が戦わなくてどーすんだっ!!
「今じゃ!!カーソル照射!!」
「セイザー!!」
屋敷全体に張られた結界。
周りの木々を薙ぎ倒しながらの戦闘……
このままでは、街にまで影響する。
とにかくはやくおわらせるために選んだ方法……これしかない!
緩んだ部分の結界に、赤いポイントを当てる。
「ペレット、つっこめーーーーー!!!」
『はい!!』
ドゴーーーーーン !!!!!
「「!!!!???」」
「よっしゃ!結界ぶちぬいた!!」
壁に大穴あいたけど、気にしてられっか!!
はーい。
髪の毛おろしたソーケンさんは魔王様とそっくりです。(描写かきわすれてた)
普段はバリバリにおったててます。
その格好で物腰やわらかい、若干気弱なそぶりなので、もてたり嫌われたり忙しい方です(笑)
でも奥さん大好き。結婚指輪見せびらかすのが趣味。
話し変わりまして・・・
またまた素敵イラストをいただきました!!
ありがとうございます鴉さま!!
http://3965.mitemin.net/i33648/
みてみんさまへコピペでおねがいします!
パパ様との喧嘩シーンイメージなので、そっちにUPしようかどーするかなやんだんですが、こちらにUPしました。
(月光版掲載時 2011年 11月06日)




