14、敵襲
ひゅっ
スパァン!
ごとんっ
ふわ… すたっ ヒュッ!
シュババババッ
ざくっ!ゴッ…
ズバッ …ぼとっ。
「はぁ、はぁ…」
輪切りにされて転がる麦柱。
太刀筋が荒れて、藁屑が剣にまとわりついてしまう。
まだまだお師匠様のように、美しい舞は出来ない…
まだまだ教わることは沢山あったのに…病で亡くなってしまった…
辛いけど、忘れてしまうほうがよっぽど嫌。
反復練習を続ける。
これが、私なりの心の整理の仕方。
「すごーい!!」
「姫様、お疲れ様です!」
「あ、ありがとうございます………力が全身に行き渡っているみたいだわ。小さな力で跳ね回れるの。 不思議…」
「流石魔王様、こんなにすばらしい奥様を見つけてくるなんて!」
「いやぁ、ハッカ様に叶う奥様はいないだろう!」
「グラス様は人間だぞ!すごいことじゃないか!!」
兵士達の鍛練場。
一角を借りて週に一度、運動をさせてもらっています。
もちろんリリナは付き添いとして、そばに居てくれてます。
……魔王様にはもっと太れ、だなんて言われてしまいましたが…
剣を握り、舞うのはやめたくない。
太ってしまっては、動けなくなってしまいます。
やはり、体重は気にします!
お食事は美味しいし、我慢したくない。
運動大好きですもの!
「あー、間にあわなかったぁ…!」
「魔王様。」
「お前らだけずるい、俺も見たかったのに…」
お仕事を中断してまで、見に来て下さったんだ……
「我々の特権ですよね!」
「姫様の御勇姿、鮮やかでございました。」
「男臭い鍛練場が洗われるようですな。」
「本当に。清涼感あふれます。」
「一応、女性陣もいるんですが?」
「すまんすまん!」
「「あはははは!」」
どうやら…
兵士たちに気に入られていることが、魔王様には面白くない様子…
ただ、今は…
そうしてヤキモチを焼いてくださることが、なぜかうれしい。
不謹慎だけれど…
「部屋には俺が送る!」
「はい、わかっております魔王様。」
「……ふんっだ!」
「くすっ…」
「(むすー……)」
本当に、不思議。
お屋敷中では、身分に関わらないやや砕けた付き合いが多い。
魔王様といっても、普通の青年にしか見えない。
笑って、じゃれあって、怒って、すねて…
…人間達は、魔族と悪魔を混同しがちだけど、こうして触れ合えばわかる。
生きている。
温かい、命……
私がここにいられる事実。
……大丈夫。
私は間違えたりしない。
いつか、教えてもらえるはずだから……
「……そうか、力加減もだいぶできるようになったみたいだな。」
「はい!もー、最初はびっくりしました…」
魔界で初めて練習をしたとき……後ろに跳ねたとたん、壁に勢いよく激突してしまった…
肩の骨が折れたかと思うほどだったけど、たいした怪我はなく、それも不思議な点…
「魔界へきてから、本当に驚くことばかりです…」
「否、来てからではない。…俺に抱かれてから、だ。」
「……?」
「くくっ、そんなに赤くなるな。抱きたくなる。」
「う、あ、その…」
「交配能力魔力、聞いたことはあるかい?」
「いいえ…」
「異種魔族間で性交し、子を成すことが出来る伴侶である場合のみに起こる、魔力の交換だ。性交を繰り返すことで少しずつ魔力をわたすことができる。」
「…魔力……?」
「俺は、親父と母さんの力を受け継いだ。子供が二人分の力を持てるのも特徴だな。……この性質を利用して、女魔に乱暴する事件も多かった…」
「………そうですか… そ、その、何故そんなお話を…?」
「そなたに、危険があるからだ。」
「えっ…?」
「人間であるそなたから、俺に魔力が渡された。同時に俺の魔力はそなたに伝わっている。……つまり、交配能力魔力の性質が備わっているそなたは、良からぬ連中に狙われる危険が高い。」
「魔力…?!わ、私は人間ですよ!」
「そうだ、……普通の人間では魔法を使えない。魔族の血を飲み、三日三晩の高熱と嘔吐、吐血、激痛にたえて、初めて得られる。 苦行の果てに、結局死ぬ人間ばかりだ…だいだいが、欲にかられて強い魔族を倒し、その血を飲もうとするからな。」
「そ、んな…私はそんなことしていません!」
「…可能性がある。」
「私は…!!」
「調べさせた、あの前国王に、得体の知れないものを飲まされたことがあるな?」
「……あっ……!!」
覚えている…
2日、寝込んだ。
熱で脳が溶けそうになって
咳き込めば血を吐いた…
しかし3日目の朝…
何事もなかったかのように私の体は回復していた。
本当に何事もなく。
父がうなだれていたのを覚えている。
理由がわからなかった。
「まさか…」
「高位の魔族、薬魔の町娘が何人も誘拐される事件があった時期と一致するんだ。 あくまでも可能性だが…おそらく、実験台の一人にされたのだろうな。 失敗だと思われたろうが、2日で回復したとなると…そなたの『気配を読む』能力が、そなたが得た魔力なんだろう。前国王が望むような魔力では無く、というか魔力を得られたこと事態気がついていなかったろうな。それだけが不幸中の幸いか…」
「…父上……」
「そなたをどうこうするつもりは無い。 俺にとっては妻だ、どんなことがあっても。」
「し、しかし…わ、わたし、は…」
「かまわない。 手放す気はない。 愛している。」
「…はい…!」
「そうやって、笑顔でいてくれ。 ほら、ついたぞ。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、また仕事に戻るから。汗を流してゆっくり休め。」
「はい… 早く戻ってきてくださいませ。」
「~~~~~! は、早く戻る!!」
だだだだだだだだだっ!
「やっぱり…好きです。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふー、びっくりした… はやくおわらせなきゃな。」
職務室に戻る間、多分かなり赤い顔をしていたはずだ。
まったく情けない…
…つか、あんな顔で言われたら 興奮するだろうが!!!!
「…おい、いつまで隠れている? 襲う気なら今だったろ…?」
「あら、残念。 どうしてばれたのかしら…」
「むき出しの殺気、気がつけといわんばかりだろう。」
なぜか攻撃してくる気が無いようにみえる女。
露出度の高い服。
たわわな胸。
色気、態度。
「襲われたいのかって言いたくなる風体だな。」
「まぁ、お色気担当ですから。」
「…その気配は呪魔か…?」
「ええ、ノロー様からのおつかいですわ。伝言がありますの。 …お聞きになりたい?」
「一応聞こう…」
「でしたら、抱いてくださいな。」
「じゃぁいい。」
「あ、あら?」
「さっさと帰れ。 妻以外に興味は無い。」
「ちょ、ちょっと…伝言は!?」
「いらん。貴様のような女魔を抱くぐらいなら直に大呪魔王のところまで聞きにいく。」
「そんな!!今まで私が落とせなかった男魔はいなかったのよ!人間なんて男女関係無く奴隷にしてきた私の魅了呪を跳ね除けるなんて…そんな馬鹿な…!!」
「どうとでも言え。 俺は妻にしか欲情しない。 …今すぐ帰れ、そうすれば見逃してやる。 すでに貴様は包囲されていると知れ。 妻との約束だ、殺しはしない。」
「くっ…! 仕方ないわ、伝言は伝えなきゃいけないもの。一度しか言わないわ。聞き漏らさないことね!」
「意地でも言う必要があるのか…まぁいい、言ってみろ。」
「…『名を呼べぬ剛魔王に捧ぐ、夢を奪われた研究心の恨みを込めて。
貴殿の首のあざはわが怨み、姫花を手折るは貴殿の弱さ。我は貴殿の心を壊す。』 …以上よ。」
「姫花…………?! まさか、グラスになにか…!!」
「もうすでに遅いわよ。 じゃ、さようなら!」
「ま、まて…!!」
待機していた兵士たちが飛び掛るが、一歩遅い…
一瞬で姿を消してしまった…
「すまない…グラスのことに気を取られすぎた…遅かった…」
「申し訳ありません、魔王様…」
「仕方ないさ。 それより、まずいな…急いで親父に伝えてくれ。大臣クラスも召集だ、あと術者を。結界をもっと強くしなけりゃ… 仕事は後だ、急ぐぞ!」
「「はい!」」
会議室…
「どういうことだ!!」
「結界が無効化しているだと!?」
「…怒鳴るなよ、息子の嫁さんに聞こえちまう。」
「だーもう!悠長にしている場合じゃないでしょう!大魔王様!!」
「結界は張りなおせばいいだろ。 それより意味がわからない…大呪魔王は、何をしたと…?」
「いんや…わかんねーよ、それは。 『姫花を手折る』…多分、グラスに接触したのは間違いないよな… なんとか聞き出してくる。」
「そうか…」
「なんつーか、すまない…親父、人間界の戦争のこととか、色々あるのに…」
「気にするな。 早く会ってやれ。」
「…ああ。」
「仕事は終わらせろよ!」
ずどぉぉっ!!!
「ま、魔王様ぁぁ!!」




