一 身だしなみ
静まり返った夜の中、森の中でたき火をしていた。
少女はココアを飲んで、安心した。次第に、今までの自分を話すようになっていった。
「私…、バンパイア。」正体を、すらっと話してしまったが、男性は何食わぬ顔でそのまま話を聞いていた。「人間に捨てられてしまったの。バンパイアと一緒にいると、殺される…。そんな理由で私を捨てたの…。」
話し終えると、男性は立ち上がり、かばんの中をのぞいた。
「バンパイアって言っても、当分人間の血を飲んでいないようだね。はい」
と、血が入ったボトルを少女に投げて渡した。それを、一気にゴクゴクと飲んだ。
「実はというと、僕もバンパイアなんだ。同じ理由で、捨てられたよ。君と僕とは話が合いそうだ」
フフっとわらうと、それにつられて笑った。
「私の名前、望月美花。一六歳で捨てられて、今は一九歳。」
「僕は我成雷亜。一二歳で捨てられ、今は二四歳。」
左手で握手をした。
雷亜は髪に気付き、美花の前髪を触った。
「髪を切っていないようだね。僕が切ってやろうか?」
「ありがとう…」
くしとはさみを出して、美花の髪を切り始めた。
「こんな感じでどうかなぁ?」
鏡を見せると、美花は恐ろしいほど変わっていた。黒がかかった青い髪。彼女の自慢の色。
太ももまであった長い髪を、腰までに切り、前髪が右目を隠していたが、目の上まで切り、さわやかになった。
「わぁ…ありがとう…。」
ここにきて何回ありがとう言ったんだろう…。美花はそう思った。
「服もぼろぼろだね。店で買おうか。」
「うん。」
カラン…
とある服屋に入った。
そんな感じがよいだろう…。必死に悩んだが、女の子っぽくした。
ピンクのワンピースに、黒の薄い上着。下は黒いズボンに青いブーツをそろえた。
「ありがとうございました。」
店を出ると、すぐそこに壁にもたれた雷亜がいた。
「ど、どうかなぁ…?」
「似合うんじゃない?」
平凡な感想で少々気に食わなかったが、心ではすごく似合ってると言いたかっただろう。
「そろそろ夜明けだ。寝ないと死ぬぞ。」
「そうだね」
再び暗い森の中へと消えた。