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異世界切符―異世界に転生したかったけど定員オーバーでした―  作者: 東山かなた


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プロローグ

このお話はネタありきで書いた小説です。

お話の方向性が固まっていない部分もありますので、更新頻度は遅くなると思います。

まずモチベーションを保つためのプロローグを書きましたので、感想などもらえればめっちゃうれしいです。

よろしくお願いいたします。


※この物語は当然ですがフィクションです。

実在する国名が出ていますが、特定の国を非難や抗議する意図は全くございませんので、不快にさせた方がいらっしゃったら申し訳ございません。

 もし、異世界に行くことが出来たら、なんてたまに思うんだ。でもそんなことできるはずもなく、今日も僕は、この地獄のような世界を生きている。


 2030年――。

 世界のどこかで、今日も戦争が起こっている。アメリカが、ロシアが、中国が、己の国の力を誇示しようと、資源や領土などを理由に力を振るう。

 世界がそうなのだ。この高校という小さい世界でも『戦争』は起こる。


 その小さな世界の片隅で、僕は本を読んでいた。誰にも干渉されず、自分だけの世界に浸っていたい。そう思い、いつも読んでいる異世界転生の本。『死んだら最高の勇者になれた件』。この本を読んでいる間は自分が【そちら側】にいるような感覚になれた。だけど強引に連れ戻される。


「今日も相変わらず楽しそうな本を読んでいるね。じゃあいつもの通りちょっと来てもらっていいかな」


 この学校の中で、力を持つ者からの呼び出し。その力とは一体何なのだろう。人望?成績?それとも運動神経?何かが秀でた者が力を持つのなら、何も秀でていない者は『力』を持たないのか?

 学校の3階にある誰もいない教室には、僕と、取り巻きを従えた力持つ者が、薄ら笑いを浮かべている。

 そして弓矢の如く、引き絞られた体から拳が放たれ、鈍い音を鳴らす。それからひたすら殴る蹴る。痛い、やめてという言葉は相手には通じない。住む世界が違うからだ。


 あいつらは魔物だ。世界の人々を脅かす、魔物なのだ。


 だけど、僕には魔物と戦う力を持っていなかった。



 しばらく暴行を受けた後、満足したのか、あいつらは戻っていく。仮面を被り、学校の中に潜む。教室に戻れば、優等生で人気者に戻るのだ。


「八神くん。早く戻らないと、次の授業始まっちゃうよ」


 戻り際に振り返った魔物は、そう言葉を残し、立ち去った。


 悔しいとかいう気持ちはもうなくなった。でも――


 痛みをこらえながら、体をゴロンと、回転させ、仰向けになった。真っ白なジプトンの天井を眺めながらポケットから本を取り出した。さっきまで読んでいた異世界転生の本だった。その本は、ある少年が死をきっかけに別の世界に転生し、現世の知識と、異世界で授かったスキルを使い、無双し、遂には勇者となるというストーリーだった。


「俺も、死ねばそっちにいけるかな……」


 そう思うと、体中の痛みは自然に感じなくなっていた。そして起き上がり、窓の方へ向かった。


 窓を開け、顔を窓の外に出す。体は頭の支配下から離れ、足は自然に窓のレールに足を乗せていた。そして、静かに、自然に窓から空に導かれた。


「あっ」


 せめてもの体の抵抗だったのか、口が開いて単音を発した。その音を空に残し、上塗りをするように、殴られたときとは比べ物にならないような鈍い音が周囲に響いた。




 ――静寂の中。目を開けると、そこには異世界が広がっている……。


 そんなわけもなく、ベッドで横になっていた。


「あれ、生きてる……。いてっ」


 点滴につながれて、頭に包帯を巻かれている。足はギプスを付けられていた。痛覚があるという事は、残念ながら、生きているという事だ。今まで通りの地獄の中で。


 後悔と残念な気持ちが渦巻き、どうしようもない気持ちでいると病室のドアが開いた。そして一人の女医が入ってきた。


「お。目を覚ましたね」


 女医はベッドの脇に置いてあった椅子に腰かける。


「意識が戻ってよかった。でもさっそくで悪いんだけど、あなたの名前と、こうなった状況を聞かせてくれる?」



「八神……レイジです。僕は教室の窓から飛び降りて……」


「うん。そうだね。記憶もありそうだね」


 女医はカルテに書き込んでいく。そして問診が続き、一通りの確認をし終えたのか、カルテを机の上に置き、僕の方を向いた。次は何を聞かれるのか警戒していたが、発せられた言葉は思ってもみないものだった。


「君、異世界に行こうとしたでしょ」


 …異世界?この女医の口から出る単語ではないと思った。そのまま続けた。


「今、異世界は転生者を制限しているの。定員オーバーなの。だから、安易にそちらへ行こうと思わないで」


「は?えっ、なんで……どういうことですか?」


 痛む体なのに、お構いなしに言葉が出てしまう。


「だから、異世界に来ようと思わないでってこと。今の現世が最悪の方向へ向かっているのはわかっているけど、だからと言ってみんなが転生すると、向こうのバランスが崩れるの」


 わけがわからない。異世界転生者を拒んでいる?実在するのか?あちら側が……。


「まぁ、向こう側としても、こうやって異世界がありますー。死んだら転生しました―。なんて本を出してしまっているから、こういう状況になってしまっているんだけどね」


 女医は白衣のポケットから、異世界転生のラノベを取り出した。それは僕が読んでいるものと同じ本だった。


「それ……」


「そう。これは『死んだら最高の勇者になれた件』だね。略して最勇。あなたも読んでいるんでしょ?」


「はい。ずっと読んでいました。小さいころから。最勇は僕の憧れです」


「でも死んだらダメ。全員が勇者にはなれないし、あなたはロイではない」


 ロイとは最勇の主人公だ。なんて話を女医としているが、まだからかわれているのか、なんなのかも、まだ理解できていなかった。


「あなたは一体……」


 僕は女医が持つ最勇を見ながら尋ねる。


「私の名前は、クレアっていえばわかるよね」


「クレアって、勇者ロイとパーティーを組んでいた癒術師(ヒーラー)の?」


 クレアと名乗った女医はうなずく。そしてクレアは一瞬光り輝き、身にまとっていた白衣は白いローブに代わる。僕はそれを知っていた。高位神官(ハイビショップ)のローブという闇の魔法を防ぐと言われる防具だったため、僕はさらに混乱した。ここにいるのは、まさしく最勇の挿絵で見ていたクレアだったからだ。


「……ここは現世なんですよね?異世界ではなく」


「そうよ。ここはあなたが飛び降りた現世。異世界には行けず、本来なら死んでいた。だけど、最勇のせいでの行動だから、助けたの。私の療術で」


 確かに3階から飛び降りて、このケガで済んでいるのは幸福だけとは言いがたい。まさか本当にクレアが助けてくれたのか?


「とにかく、異世界は今、転生者を受け入れていないの。だから、馬鹿な真似はしないで。あなたは苦しくてもこちらの世界で生きていかないといけないの」


 クレアは僕に、真剣なまなざしを向けながら伝える。


「すみませんでした。でも僕は【ホーリーランド】へ行きたかったんです。こんな地獄はもう嫌だ……」


 ホーリーランドとは最勇に登場する異世界の名称で、魔物や精霊が存在する世界で、勇者ロイが救った世界だ。


「その気持ちは十分に伝わったから。でも何回も言うけど、あなたはこちらで生きて」


 クレアは立ち上がり、両手を前に突き出し、両方の掌をレイジに向ける。


「光よ、彼の者に生の祝福を。ヒール!」


 それは最勇で読んだ、魔法だった。光に包まれた僕の傷や痛みはすべて完治してしまった。


「すごい……。本物の魔法だ……」


 ふぅ、とクレアは一息つき「これで直ったから。どうか、絶望せずに生きてね」と言い、病室から立ち去った。


 クレアが病室から出た瞬間、僕の目の前がぐにゃりと一回転するような感覚に襲われ、気が付くと自宅のベッドの上で横になっていた。もちろんケガも何もしていない。


「あれはなんだたったんだ」


 僕は考えてもわからないことを考えていた。だけどはっきりしたことがあった。それは……。


「異世界があるんだ――」


 異世界は確かに存在していた。そしてクレアも確かに存在していた。あれは夢ではないんだ。



 これが僕の日常が非日常に変わっていくきっかけになった日であった。


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