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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

地獄の捕物帳

第一話:祝言の泥アワビ

最新エピソード掲載日:2026/03/08
泥と執着、そして「理屈」が支配する戸越の地獄の幕開けです。

第一話:祝言の泥アワビ(あらすじ)

慶長五年。関ヶ原の戦火が収まり、徳川の法が江戸を覆い始めた頃。品川宿の西に広がる**戸越(とごし)は、その法すら届かぬ「泥の迷宮」だった。そこは、名主・徳右衛門が神のごとく君臨し、土地の境界から人の生殺与奪までを、名主の腕足である「泥の三尊」**が支配する閉鎖的な異界。

村一番の働き者・伝次と、隣村から嫁いだお花の祝言。貧農の娘であるお花には不釣り合いな**「白装束」は、名主が貸し与えたものだった。それは慈悲ではなく、これから始まる略奪と蹂躙を引き立てるための、残酷な「死に装束」**。年貢を納めきれぬ伝次への「追徴」として、お花を村の男たちの「共有物」へと落としめるための見せしめが始まろうとしていた。

産婆のお兼がお花の白い足首を値踏みするように撫で回し、山割の権蔵が棍棒を突き立て、帳付の佐兵衛がその肉体を年貢の代わりに書き換えようと指をかける。村人たちの下卑た歓声が響き、お花が絶望の淵に立たされたその時、座敷の影から一人の男が立ち上がる。

江戸から流されてきた末端の役人、久我源三郎。

彼は刀を差さず、代わりに土地を測る重厚な鉄の定規**「差金(さしがね)」**を腰に突き刺していた。源三郎は、名主たちの「村のしきたり」という名の暴挙を、役人の「理屈」で冷徹に遮る。

「役人の目の前で、こんな生臭いアワビの皮剥きを見せつけられたんじゃ、筆が汚れてかなわねえ」

源三郎は差金の鋭い角で三尊の指を払い、強引にお花を連れ出すと、藪に潜んでいた伝次へと投げ返した。それは「善意」などではなく、単に名主たちの勝手な振る舞いが自分の職務を馬鹿にされているようで不愉快だったという、極めて「乾いた気まぐれ」に過ぎない。

「次は、俺がこのアワビを食う番だ」

捨て台詞を残し、一人長屋へと戻る源三郎。だが、名主たちの面子を潰したその「情け」が、かえって伝次とお花をさらなる奈落へと引きずり込むトリガーとなる。戸越の乾いた赤土が、酒と涙で濡れ、底なしの泥濘(ぬかるみ)へと変わり始めた夜の出来事であった。
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