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家族のいる家

集められたのは、街の代表たちだ。

治療所の長セヴァルを始め、

森での狩りと街の武力部隊を統括している

リューカ家の現家主のレン、

農産物販売所のボスであるサラ、

二年に一度行われる武術大会の

現チャンピオンのムーファ、

大魔術士ソマリの子孫で

占いを生業としているラトリ、

彼女の店では何でも揃うと有名な

超大型アイテム店の店主スイナ。

ベオムールには実質的な責任者がいないため、

この6人がベオムールの代表だ。

有事の際には6人で集まり、

街の平穏を維持するために

街の皆で協力し合っている。

今回の議題はもちろん、

街に入り込んだ害虫の話だった。

彼らはたったの一時間で情報共有と

今後の対応などを話し合い、

その結果を街の隅々まで流布する。


「───街会議でのやりとりは以上だ。

しばらくの間、皆の安全を第一に考えるために

急患を除きこの治療所は閉鎖状態に入り、

辺りに警備網が敷かれることになった。

故に私とフィレーテ以外は家へ帰り、

可能な限り外へは出るな。」


セヴァルのフィレーテ以外の者を

全員家に帰すとは、代表たちは

随分とこの事態を重く受け止めているようだ。

だが、それも仕方のないことだろう。

手配書の男の目的がこの治療所にあるという説が

現段階で最も有力なのだから。


「エレーナ、しばらくの間ノーナを

匿ってやるといい。

ヒラードがいる家であれば安心だろう。」


「ええ、分かったわ。」


ノーナが遭遇したという男。

その時ノーナは一人で

必要な薬の材料の買い出しをしており、

外のあまり人目のつかない場所で

ひっそりと声をかけられた。

お嬢ちゃん、この街の治療所はどこだ、と。

男の顔に見覚えがなく、

また男の纏う空気に背筋が凍るような

寒気を感じたノーナは、

すぐに何も言わずその場から逃げた。

大人の足であれば子どものノーナに

追いつくことは可能だったはずだが、

男はノーナを追いかけるようなことはせずに

静かに姿を消した。

その後は男の気配もなく、

大事な治療があるということもあって

ノーナは誰にも話さずに黙っていたのだが、

治療後のシャワー室にいる時に

やはり誰かに話しておいた方がいいかと

メアに話を切り出した。

しかし、乱入していたライカたちによって

その話題を中断せざるを得ず、

その後でセヴァルから

まさにノーナが遭遇した男の話が出ると、

あの時もしも逃げていなかったら、

という考えがノーナの頭に浮かび、

恐怖が込み上げてきた。

そして、ノーナのその心配は

不幸にも的中してしまうことになる。

街会議の中で、現時点において

3人の負傷者が出ていると報告があったのだ。


「ノーナちゃん、一緒に帰ろっか。」


「……はい、よろしくお願いします…。」


ノーナには親も兄弟もいない。

兄弟は元からいなかったが、

彼女が産まれた時にはすでに

父親はこの街から姿を消しており、

母親はある時森に出かけてから

帰ってくることがなかった。

捜索隊が一年にも渡って

ノーナの母親を探したが見つからず、

未だ消息不明リストに載っている。

森を抜けて帝国を目指したのか、

あるいは他に目的があったのか。

その真相は誰にも分からない。


「行こ、ノーナ。」


メアがノーナの手を引いて、

3人は治療所を後にした。

治療所の全員が家に帰るのを

街の武力部隊が見守りながら、

手配書の男が現れないか警戒する。

だが、ここまで大袈裟に

警戒体制を敷いているからなのか、

男の姿はどこにもない。

どうやら一筋縄にはいかないようだ。


「さぁ、あがってノーナちゃん。」


治療所から歩くこと十数分。

特に何も起こらないままに

メアたちはレーヴァンネ家に辿り着いた。

二階建てレンガ造りの一軒家。

特に突出したところのない普通の家である。


「お邪魔します。」


挨拶をしてから玄関で靴を脱ぎ、

屋内用の軽い履き物に足を入れる。

ノーナがここに来るのは

今日が初めてではないのだが、

どうやら起こっている事が事だけに

少しばかり緊張しているようだ。

履き物の左右が逆になっている。


「ノーナ、あまり気を張らなくていい。

私と母さんはいつも会ってるし、

うちの男たちはバカでお節介だから。」


「メア、パパとお兄ちゃんを

そうな風に言ったらダメよ。」


「なに、メアの言う通りなんだから

別にいいじゃないか。」


ノーナの緊張を解すために

軽い冗談のつもりで言ったのだが、

エレーナに咎められてしまう。

しかし、その一連のやり取りを

聞いていたらしいヒラードは

咎めるどころが肯定してきた。

そしてメアの頭をわしわしと撫でて、

ノーナの頭には優しく手を置いた。


「久しぶりだなノーナ。

話はレンさんから聞いたよ。

随分と怖い思いをしたそうじゃないか。」


髪の毛が乱れてしまうのが嫌で

メアはヒラードの手から逃げるが、

今度は肩に手を回されて

逃げられないように捕まってしまった。

その数秒の攻防の中でさえ、

ヒラードはノーナの頭から手を離さない。


「ぜひ安心するといい。

この家には俺がいるし、カルムだってついてる。

皆には傷一つ負わせないと約束しよう。」


まぁ、少しくらいのケガは

君たちならすぐに治せるだろうけどな。

と最後に付け加えて、

ヒラードは笑顔を浮かべた。

さすが、武力部隊の中でも

特に優れた者にしか与えられない通り名持ちだ。

安心感も説得力も大したものである。


「あ、ありがとうございます…。」


ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、

ノーナの表情が少し明るくなる。

こうなるなら最初から、

口下手なメアがあれこれ言うよりも

ヒラードに任せておけば良かった。


「さぁ、もう陽が沈む時間だ。

カルムも帰ってくる頃だろうし、

皆で夕飯でも食べようじゃないか。

エレーナ、今日はとびきりのご馳走にしてくれ。

悪い空気を吹き飛ばすくらいのな。」


「はいはい。」


腕っぷしだけでなく、

明るい雰囲気を作れるのがヒラードだ。

ノーナを匿うのにセヴァルが

この家を選んだのも、彼の存在が大きい。

いつも一緒にいる父親としては

少しばかり鬱陶しく思う時もあるが、

いざという時には頼りになる。

ヒラードが活躍する機会が

訪れなければそれが一番なのだが、

今後この街がどうなっていくのか。

見守っていくしかない。

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