手配書の男
「一体、何をやっていたんだ。」
「ごめんなさい…先生……。」
本当ならメアとノーナの
シャワーが終わり次第、
セヴァルの所に来るはずだったのだが、
思わぬ乱入者のおかげで
想定以上に時間がかかり、
かなり来るのが遅れてしまった。
お説教などという行為は
ロボットであるセヴァルには
よく分からないことのようだが、
嫌味ったらしい小言は言われる。
なんでもセヴァルの師であるマリアに
似たようなことをよく言われていたらしい。
ロボット相手に小言とは、
マリアは医術以外も大した人物だったようだ。
「すぐにでも共有したいことだったのだが、
治療の後ということを考慮して許そう。
この件において重要なのは
その危険性を理解することだからな。
ではまず、お前たちにこれを渡しておく。」
今セヴァルと共に部屋にいるのは
メアとノーナ、ライカの三人とフィレーテだ。
フィレーテは他三人とは違って
この治療所で働いている訳ではないので
一緒にここにいる必要はないのだが、
無理に追い払う必要もないので
三人の横にちょこんと座っている。
そして、セヴァルは三人に
どっさりとした紙の束を渡す。
紙には人間一人の似顔絵と
いくつかの文字が記されていた。
「今日からしばらくの間、
ここを訪れた人間にその紙を配れ。
警戒レベル3の怪しい人間が
この街に入り込んでいると言ってな。」
その紙に描かれていたのは男だ。
ボサボサになった頭に
覇気のなさそうな瞳。
黒いコートに身を包んでおり
具体的な背格好までは不明だが、
見かけた街民によると
剣を持っている可能性が高いとのことらしい。
「大きな被害はまだ出ていないが、
情報によるとその男はタールズの店で
食事の代金を払わずに逃走したようだ。」
「タールズさんの店で食い逃げ!?
すごい勇気の持ち主じゃん!」
治療所から北へ真っ直ぐ進むと、
この街で指折りのレストランがある。
そこは元々帝国の貴族御用達の
レストランでシェフをやっていた
タールズという女性が切り盛りしているのだが、
料理の腕前もさることながら、
とても気が強く喧嘩の腕っぷしも
相当なもので有名だった。
街の男で彼女に勝てる者なんて
数人しかいないとさえ言われる程に。
そのタールズの店では、
無礼を働くと二度と立ち上がれないまでに
痛めつけられることもあり、
よほどのバカでない限りは
真っ当に食事をしてお腹を満たして帰っていく。
そこで食い逃げとは、この紙に描かれた男は
まず間違いなく街の外から来た人間だろう。
でなければそんなことをするはずがない。
おそらくは土地勘もないだろうに、
よくタールズから逃げ切れたものだ。
「お前たちも知っての通り、
タールズは無礼者を決して許さん。
もし彼女の機嫌を損ねるようなことをすれば、
切り刻まれるか丸焼きにされるだろう。
それでも逃れているということは、
おそらくこの男はただの流れ者ではない。
お前たちも、もしこいつを見かけたら
すぐに逃げて近くの大人に知らせるんだ。」
話は以上だ、と言わんばかりに
セヴァルは何も言わなくなった。
メアはこの後おつかいを頼まれているので、
用件が終わったのなら
もう帰ろうと思っていたのだが、
メアの隣りで紙を見つめているノーナの
瞳がゆらゆらと震えているのを見て、
声をかけずにはいられなかった。
「ノーナ?どうしたの?」
ノーナの指が触れている部分に
シワが集まっている。
更にはノーナ自身の肩も震えている。
怯えているのだろうか。
メアの呼びかけが届いていないようだ。
「ノーナ?」
「……っ!」
メアが再度声をかけながら
ノーナの肩にそっと手を置くと、
彼女は体をビクリと震わせて
その拍子に紙を床にばらまいてしまった。
息は荒く、瞳孔も開いている。
ここまでノーナが取り乱すなんて、
少なくともメアは見たことがない。
「どうしたんだよノーナ。
紙落としてるじゃんか。」
ライカもノーナの異変に気づき、
落とした紙を集めてくれる。
フィレーテも普段のノーナと
何かが違うことに気がついたのか、
尻尾も使ってライカと共に紙を集める。
「ノーナ、こいつに覚えがあるのか?」
紙の一枚を拾い上げて、
セヴァルはノーナに聞いた。
変わらず怯えている様子のノーナは、
紙から視線を逸らしながらも
コクリと確かに頷いた。
「……メア、さっきシャワー室で
話してたこと覚えてる?」
そう言われて、メアは記憶を辿る。
メアとノーナが話していたこと。
ライカとフィレーテが乱入する前に、
一体何の話をしていたのか。
「街の外から来た人の話……っ。」
内容としてはとても単純なことだ。
この街、ベオムールの外から来た人間と
関わったことがあるかどうか。
それをノーナの方から聞いてきた。
そして、ここで知ったのは
外から来た男の犯罪性についてだ。
奇しくも二つの話題が関連している。
ここから導かれる結論なんて、
そんなものは決まりきっている。
「……私、この人に会った。」
この瞬間、セヴァルの手配で
緊急街会議が開かれることになった。




