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シャワー室

「ねぇ、メアってさ。」


4つ並んだ個室式のシャワー室。

メアの隣りからノーナが話しかけてくる。

僅かに向こう側が透けて見えるガラスを

一枚隔てたこの場所では、

ただ余った時間の暇を潰そうと

何の中身もない会話を交わすことがある。

特にライカのような頭のネジが

数本足りていない人間にとっては、

ここは一種のお楽しみの場だ。


「んー?」


ノーナはここにいる人間の中でも

メアと近しい性格の持ち主で、

あまり感情の起伏という物を表に出さない。

無駄なことを言うこともなく、

無駄に時間を浪費することもない。

自分自身を高めるために勉強と修行を重ね、

一人でも多くの患者を救うために

ここで住み込みで働いている。


「街の外から来た人と話したことある?」


ただの暇つぶしの会話なので

内容はいつも唐突で脈略も何もないのだが、

今回ノーナが振ってきた話は、

唐突に振る話題にしては

いくらか現実味に欠けていた。

この街は帝国の首都から離れ、

世界各地からも遠ざけられているような場所だ。

わざわざここに来るような人間は

よほど自分の人生に退屈しているか、

全てを失ったような流れ者くらいだ。

それでも年に一度いるかいないかの頻度で、

しかも気がついた頃には街に馴染んでいるか

他の場所に旅立っている。

だから『外から来た人間』という意識を持って

接することなんてほとんどないのである。

更には、外から来た人間がこの治療所を

訪れる時はいつもセヴァル一人で

問診や治療を行っているので、

まだ14歳のメアが関わったことはない。


「見たことならあるよ。

私が小さい時のことだからよく覚えてないけど。

ノーナは話したことあるの?」


ただ、メアは過去に一度だけ、

外の人間を間近に見たことがある。

父親のヒラードに連れられて

シニーツィン大森林で薬草を探していた時、

街で作られている服とは

明らかに違う服装をした人間が

木の陰で休んでいたのだ。

そして、その人間が武器を持っているのを見て、

ヒラードはメアを抱えて街へと戻っていった。

まだ5歳にも満たなかったメアは

その時のことを鮮明に覚えている訳ではないが、

ヒラードが浮かべていた焦りと危機感が

混ざったような表情はよく覚えている。

いつも明るく優しいヒラードが

メアの前であんな表情を見せたのは、

それが初めてのことであった。


「実はね───」


「バーン!と元気に私が登場!」


ノーナが口を開いたその瞬間、

シャワー室の扉が勢いよく開いて

台風のような少女が飛び込んできた。

メアが苦手意識を持っている少女、ライカだ。

せっかくノーナが興味深そうな話を

しようとしてくれていたのに、

全く空気の読めない奴である。

今すぐ文句を言ってやろうと思ったが、

シャワー室にやってきたのは

ライカだけではなかった。


「ばーんと私も登場〜。」


それは少女というにはあまりに

人間離れしている少女だった。

頭の左右から生えた二本の角と

ぴょこぴょこと揺れる尻尾が

何よりも目を引いている。

名前はフィレーテ。

古来より空を支配する存在として

歴史に語られるドラゴンと人間の間に生まれ、

ある時森に捨てられていたのを

セヴァルが拾ってきた。

彼女自身に医術や薬の知識はないが、

ドラゴンの血や爪は

医術と錬金術においてかなりの

希少性を持っているので、

この治療所で養っている代わりに

定期的に彼女の血などをもらっている。


「メア!ノーナ!洗いっこしようぜ!」


「洗いっこ〜。」


そして何の因果なのか、フィレーテはライカの

ことを姉のように慕っており、

よくライカの言動を真似している。

ドラゴン故にフィレーテの年齢が

いくつなのか分からないが、

教育に悪影響を及ぼしそうなので

ライカの真似だけはやめて欲しいと

メアは常々思っていた。


「ライカ…私たちは治療終わりで疲れてる。

それに、洗いっこなら昨日もした。」


「えー、いいじゃんかー!

洗いっこしようぜー!」


これだ。このやりとりだ。

メアがライカを苦手としている理由は。

基本的に話が通じず、脈略がない。

それに、考えるより先に行動する所も

メアには解せない要素である。

医術という特に知識や思考力を

必要とされる分野に属していながら、

なぜ考えることを後回しにしてしまうのか。

メアよりも一つ歳上なくせに、

なぜこんなにも合わないのだろうか。


「あ、こら!入ってくるな!」


「へへー!隙あり!」


メアの抵抗も虚しく、

メアのシャワー室にはライカが、

ノーナの所にはフィレーテが入ってきた。

四人の少女…一人は純粋な人間ではない…が

二人ずつシャワー室に入り、

お互いの体にお湯やら洗剤をかける。

まだ発達途中の少女たちの裸体が

泡と湯気に包まれていく中で、

メアは抵抗することをやめるしかなかった。

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