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心臓の治療

「メア、ノーナ、緊急の患者だ。

第四治療室で私の助手を頼む。」


メアが奮闘した祭りの日から数日経って

いつもの仕事に追われていると、

セヴァルに懐中鏡で呼び出された。

製造の過程で埋め込む宝石に

特殊な細工を施すことで、

離れていても特定の鏡同士で

会話を交わすことができる。

これも大錬金術師クレアが残した

偉大な作品の一つである。


「ノーナ了解しました。」


「メアも了解。」


二人はそれぞれ別の場所にいたが、

呼び出しに応じて走り出すと

ほぼ同じタイミングで第四治療室に到着した。

十分に手の消毒を行い、

清潔な治療服を身にまとう。

だが、身支度が済んでから部屋へ入ると、

そこにはベッドに寝そべる患者と

エレーナの姿しかない。

どうやら応急処置をしていたようで、

エレーナは必要なことだけを告げると

すぐに急ぎ足で別の場所に行ってしまった。

大きな事故でもあったのか、

治療所内が少しだけ騒がしい。


「患者の容態はどうだ。」


患者の様子を観察しながら、

すぐに治療を始められるように

メアとノーナは準備を進める。

エレーナから聞いたことを踏まえて、

何が必要なのかを的確に判断した。

そこへようやく到着したセヴァルは、

患者の顔を見ながら

6本もある指を動かしている。


「エレーナさんの応急処置のおかげで

呼吸と血圧、どちらも安定してます。」


「ノーナ、麻酔は効いているか。」


「問題ありません。」


「メア、指先の用意はできているか。」


「刃と管、どちらも揃ってます。」


「よし。」


全ての準備が整い、

いよいよ治療が始まる。

メアはセヴァルの正面、

患者を挟んだ反対側に回り込み、

高さを合わせるための踏み台に乗る。

一方のノーナはセヴァルの隣り、

こちらも踏み台に乗った。


「では治療を始める。

二人とも、決して気を抜くな。」


今回治療が行われるのは45歳の男性。

今日の昼前頃に突然倒れたと

治療所に運ばれてきたのだが、

診断の結果、心臓に悪い菌が侵食して

機能を妨害されていることが分かった。

普通ならここまで侵食されるまでの間に

様々な体の不調が出るはずなのだが、

この男性は元々の血圧が不安定な影響で

心臓の不調による体の異変を掴めなかった。

男性の心臓はすでに4分の1程度が

機能を完全に失っており、

このままでは数日も経たないうちに死に至る。

心臓という人間の体の中でも

特に重要なパーツのため、

セヴァル自らが治療台の前に立った。


「「はい。」」


セヴァルが右手を掲げると、

指の一本が小さな刃物に変化する。

微弱な魔力を流しながら

患者の胸部に左手を添えて刃先を当てると、

何の音もなく肌を裂いた。

一滴の血さえ流れないのは、

セヴァルが持つ医術者としての手腕と

繊細な魔力操作による技術の結果だ。

やがて刃先が体の中まで切り開いて

心臓部まで到達すると、

メアは切開部分がよく見えるように

専用のフックで固定した。

ノーナが灯りの位置を調整して

本格的に準備が整うと、

セヴァルは刃物になった指とは違う指先から

針のように細い管を出した。


「グラス。」


「ここに。」


セヴァルは一番外側にある指を

ノーナが用意したグラスへ伸ばし、

心臓の機能の停止している部分へ管を刺す。

すると、心臓の血液が管とセヴァルの手を通って

グラスへと移り始めた。

真っ黒になった血液が運ばれると、

麻酔が効いていることもあって

心臓は少しずつ縮み、

次第に一回りも小さくなってしまった。


「管。」


「はい。」


心臓内の血液を大方抜き終えたセヴァルは

管を抜き、その先をメアに向ける。

メアは向けられた指先の

第一関節を躊躇なく引っこ抜き、

僅かに血で汚れた指先を置いて、

代わりの指を新たにつける。


「擬似心臓。」


「きちんと温まってます。」


ロボットに感覚という概念があるのかどうか、

それは本人もよく分かっていないそうだが、

セヴァルは新しい指の感触と

用意された擬似心臓の具合を確かめてから

再び小さな刃物に魔力を流す。

男性の心臓の中でも特に黒く変色し、

完全に細胞が死んでいる部分。

元気な細胞がいる所を傷つけないように

悪い所だけを丁寧に切り離して、

左手の指から伸ばしたピンセットで拾い上げる。

それをノーナが構えていた入れ物に置いて、

その横にあった擬似心臓を掴む。

ここまでの間、心臓から漏れた血液が

散らばってしまわないようにメアは魔力操作で

簡易的な心臓の役をこなしていた。


「糸。」


内臓や血管を繋ぐための糸は

肉眼で見るのが困難な程に細い物を使う。

細胞の弱い所に太い糸を使ってしまうと、

不可に耐えられずに血管の方が

破けてしまうからだ。

一方、骨や肉を繋ぐための糸は

肉眼で問題なく見えるような太い糸を使う。

血管などとは違い大きな動きが

日常的に起こる所は

細い糸だと切れてしまうからだ。

糸の選択を間違ってしまうと、

それだけで致命傷になりかねない。

だから糸を渡すときには、

それがどんな細さの糸なのか

明白に確認する必要がある。

そしてこれらの糸全てには

微弱な魔力が込められており、

より早くに傷口が治るようになっている。


「針糸です。」


「よし。」


十分に人肌になった擬似心臓の一部を

切り離した部分に繋ぎ合わせる。

糸の太さを助手と執刀医の二人が

きちんと確認してから、

両手の指をピンセットに変えて

素早く綺麗に糸で縫う。

再び男自身の血液で心臓が

正常に動くことを確認しながら、

ゆっくりとメアは魔力操作をやめる。

僅かに漏れ出た血液を清潔な布で染み取り、

肌まで全てを縫い留めることができたら

今回の治療は完了する。


「呼吸と血圧、どちらも異常ありません。」


「治療は成功だ。二人ともよくやった。」


「「お疲れ様でした。」」


セヴァル自身も患者の様子を確認して

何も問題がなかったら治療は終わりだ。

使用した指を取り外して新しい指をつけ、

着ていた専用の治療服を脱いで

手をしっかりと洗う。

治療の後は病原体を広めないように

徹底的に体を清潔にする必要があるため、

メアとノーナはシャワー室に向かった。

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