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ベオムールのために

「これで私たちの役目も終わりですね。」


戦争が終わり、世界各地の

復興作業に追われている所へ

4人の天才は出向いていた。

様々な物が破壊され、

明日からどう生きればいいのか

分からなくなっている人間に

いくつもの道を示して回る。

医術、錬金術、武術、魔術。

その全てを基礎から叩き直し、

人々の新しい生活の基盤を作ったのだ。

魔族を追い払って戦争を鎮めた天才たちに

人々は神を崇めるような目を向け、

その功績を後世に残すべく名を聞いた。

大医術者マリア、大錬金術師クレア、

大武術家マーシャ、大魔術士ソマリ。

復興作業の中で彼女たちを模した銅像を立て、

人々はその姿を未来への希望とした。


「さすがに疲れたわ〜。」


そして、やっと世界が安定してくると、

彼女たちは世界から姿を消す。

正確には、帝国から見捨てられた

ベオムールの街へと帰った。

魔族からの侵略を最初に受け、

その後はどこからか逃げてきた

流れ者の溜まり場となった街だ。

それはもう荒れ果てていた。

世界各地が復興作業をしている中で、

この街だけはまだ戦争の火が

燃え尽きていなかったのだから。

戦争が終わったという知らせも届かず、

僅かな物資を奪い合って争う。

もはや法も秩序も機能していないし、

皆自分が生き延びるために必死だった。

だが、ここは彼女たちが産まれ育った街。

そして世界から切り離された場所。

彼女たちが余生を過ごすのに

ここ以上の場所はないだろう。


「やっと、帰ってこれた……。」


まず、マーシャとソマリの二人は

魔族の残党に戦争が終わったことや

魔力問題が解決したことを告げ、

魔大陸へ帰るよう促した。

そのついでに、争っていた人間たちを

軽く吹っ飛ばして制圧し、

街の中央の広場へ集まるように言った。

その間にマリアはまだ息のある人間を

徹底的に探し出して救出、治療しては

ロボットたちに運ばせて

これも街の中央に集める。

そしてクレアは街の中央付近で

瓦礫の山を砂状に分解して

即席の広場を作った。

3人のおかげで続々と人間が集まってくる中、

そこで待っていたクレアとセヴァルを見て

彼らは夢でも見ているかのような顔をする。


「こんな廃れた街に広場なんて物が

あった覚えはないんだが、

一体何がどうなってんだ……?」


「女の横にいる『あれ』は人間…なのか……?」


「まさかあれはクレアか…?

あ、あんなに立派になって……!」


彼女たちが街に到着してから約2時間。

即席の広場には2万人程の人間がいた。

元々街にいた人間も想像以上に

力強く生き残ってくれていたおかげで、

マリアの治療が間に合ったのだ。


「皆さーん!注目してくださーい!」


生きている人間を集め終えたら、

ソマリの魔術で声を拡散する。

周囲が山と森に囲まれているので、

声が風に流されることもなく

(あまね)く範囲に声が響いた。


「もう戦争は終わりましたので、

これ以上ケンカしてなくて大丈夫ですわー!」


彼女たちを代表して説明を始めたのは、

彼女たちの中で最も言葉が柔らかく

明るい印象を持つマーシャであった。

マリアはぶっきらぼうで荒く、

クレアは軽薄で、ソマリに至っては

こんな大衆の前ではそもそも喋れない。


「そっか…終わったのか……。」


「なら、俺は故郷に帰れるのか…!?」


「お前、再びシニーツィン大森林を抜けて

帰る自信があるのか?」


「そ、それは……。」


マーシャの説明が終わると同時に、

彼らの間に様々な想いが過ぎる。

元々街にいた者は安堵し、

外から来た者は逃げ出した故郷へ

帰ることができることに歓喜した。

だが、このベオムールを出て

産まれ故郷に帰るには、

死の森とさえ言われるシニーツィン大森林を

無事に通り抜けなければならない。

戦争の最中にあった時は、

森にいる魔物が外敵を恐れて

大人しくしていたので

無事に抜けることができたが、

戦争が終わった今となっては

隠れている理由はない。

無事に森を抜けるのはほぼ不可能だ。

そして、そういう理由もあって、

一つの提案が成立するのである。


「元々いた方も外から来た方も一緒に、

このベオムールの街で暮らしませんか?」


元々この街にいた人口は約10万人だ。

街のほとんどの人間が死んで、

更に今ここにいる外の人間まで去るとなると、

復興作業はとても難しくなる。

よそ者を嫌う人間もいるだろうが、

背に腹はかえられない状況だ。

どれだけ4人の天才が尽力しようと、

街一つを元通りにするには

年単位の時間が必要になる。

それに、そんな方法で元通りになった街は

もはや彼女たちの産まれ育った街ではない。

温かみも何もないただの箱だ。

そんなベオムールはいらない。


「今隣りにいる人間と殺し合った過去や因縁は

戦争によって引き起こされた不運だ。

誰が悪いということはない。

もしここに悪人がいるとすれば、

戦争が終わったと知った今とこれからに

悪事を働こうとする者だけだ。」


人々がお互いに顔を見合わせる。

戦争なんてものがなかったなら、

今彼らの隣りにいるのは

家族や友人、恋人など大切な人だろう。

だが、起きた過去と今は変えられない。

それが人間の運命というものだ。

どれだけ知識があって、魔力があって、

工夫できることがあったとしても、

起きたことは誰にも変えられない。

ただそれでも、未来は掴み取れる。

自然災害や帝国の気の迷いなど

どうしようもないことだってあるが、

現状を打破するために努力することは

誰にだってできることである。

その希望が目の前にある。


「…私たちだけの力では、

この街を元通りにすることはできない。

だから頼む。私たちの故郷のために

力を貸してはもらえないだろうか。」


街に元々いた人間であれば、

彼女たちのことをよく知っている。

多少当時より成長しているが、

あれだけ活躍していた彼女たちのことを

忘れてしまう人間はそう多くない。

そして、彼女たちが才能と自尊心に溢れ、

何にも屈しない人間だということも

彼らは十分に知っていた。

帝国から一方的に存在を抹消されようと、

街や世界のことを想って

笑顔で街を去って行った彼女たちを

どうして忘れることができようか。

否、できるはずがない。

だからこそ、今の彼女たちの行動に

胸を打たれない訳がなかった。

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