和平交渉
彼女たち4人の天才とロボットたちが
戦場に現れてからは、
実にあっけない幕引きであった。
マーシャとソマリはセヴァルたちと共に
戦場の最前線で魔族を討ち、
マリアは後方でケガ人の治療をして、
クレアは様々な武器を作って
人間たちに戦う術を与えた。
彼女たちの活躍によって戦況は一気に覆り、
瞬く間に魔族の軍勢を押し返した。
そして、人間側に彼女たちのような
秘密兵器があると知った魔族は、
自分たちに勝機がないと見て
早々に尻尾を巻いて逃げていった。
「さ〜て、最後のお節介焼こっか。」
魔族の軍勢は彼らの地である
魔大陸へと帰っていったが、
魔族の寿命というのは人間よりも長い。
彼女たち天才が死んだのを見計らって
また人間の地へ攻めてくる可能性がある。
だから、その可能性を潰すために
しなければならないことがある。
「人族を下に見ているのは今も変わらん。
我らよりも脆く弱いからな。
…だが、貴様ら4人は違う。
我ら魔族が全勢力を挙げたとしても、
貴様らに敵わんことはすでに自明の理だ。
すなわち、貴様らの命尽きた後で
再び攻め入れば我らに敗北はない。
人族の地を我らが支配するまで
しばし力を蓄えておくとしよう。
……とでも言うつもりだったのだがな。
全く、人族の分際で狡猾なものよ。」
クヌシカ帝国やブローゲルドがある
中央大陸の西の端。
空まで届くような巨峰が連なる
ローア山脈を越えた先に、
魔族の住処である魔大陸は広がっている。
人間が持っている地図では
その具体的な広さは分からず、
ただ恐ろしい魔族が住んでいるとしか
伝えられていない。
そして、その魔族が人間の住む土地を侵略して
4人の天才によって退却させられた後、
過去3000年以上続く歴史の中でも
前例がない出来事が起こった。
そう、人間が魔大陸にやってきたのである。
「我らの地に足を踏み入れるばかりか、
交渉まで持ち出してくるとはな。」
やってきたのはもちろん、
4人の天才と一体のロボットであった。
彼女たちは魔族の長である魔王を前に
気圧されるどころか、
強気な交渉を持ちかけていた。
「そう驚くことでもないだろう。
私たちは人間。同族の未来のために
力を尽くすのは当然のことだ。」
「無論、そんなことは我も承知している。
だがしかし、頭で分かっていたところで
行動に移すことのできる者はそうはおらん。
それが人族という存在であり、
今この場所にいるのが貴様らのような
少女しかおらんのがその証だ。」
魔族を押し返して
人間たちが国や地域の復興を始めた時、
当然彼女たちはそこに呼ばれた。
戦争を鎮め、人間に勝利をもたらした英雄として
その名を轟かせて欲しいと。
戦争を回避するために存在を消された彼女たちに
とってはなんとも皮肉な話だったが、
彼女たちはその誘いを断った。
今はよくても、魔族はまた攻めてくる。
だから未来の人間たちを守るために
魔族と話をつける必要があるのだと言って。
そして、これからの未来を守るために、
魔大陸へ行き魔族と人間の橋渡しを
する者はいないかと募った。
だが結果として、ここには彼女たちしかいない。
愚かな人間たちは、戦争の行く末を
たった4人の少女に背負わせたのだ。
自分たちの命と土地を守ってもらった上で、
その先の未来まで押し付けたのだ。
そしてその傲慢な考えこそが、
魔王の言う弱さだ。
一度本当に滅ぼされでもしない限り、
彼らは自らの思想を変えようとしないだろう。
「私たちとてただのお人好しではない。
必死で守った命や国を
自分たちで滅ぼしてやろうかとも考えた。」
一方的に存在を抹消され、
戦果を挙げれば祭り上げられる。
手を差し伸べれば感謝されるが、
決して自分たちの足で立とうとはしない。
なんて自分勝手な生き物なのだろうと、
心の優しいソマリでさえ
怒りの感情を露わにしていた。
「ただ…それでも私たちは人間だ。
それもとびきりに優秀な。
私たちには彼らを導く義務があり、
互いの未来のために大きな
責任を果たさなくてはならない。」
見捨ててしまうのは楽だ。
もういっそ全てを投げ出して
森の日常に帰ったところで
誰にも文句は言わせない。
その方が人間のためにもなるだろう。
だが、それでも彼女たちは見捨てない。
4人がそれぞれの想いを口にした時、
それが運命だと言わんばかりに
意見が一致してしまったのだから。
「君たちの真の目的は私たちの土地ではなく、
こちら側でしか採れない魔石だろう。
君たちは人間でいう食事として
魔石などが持つ魔力を欲している。
魔石は大陸のどこでも採掘できるが、
おそらくはすでにここの魔石が尽きかけている。
だから新たな魔石の採掘場として
新たな土地が必要だった。」
「我らの土地の魔石は採り尽くした。
今や階級の低い者はただの小石に
齧りついている。
奴らを救うためならば、
我は侵略者にも殺戮者にもなろう。」
「だがもし、魔石を必要とせずに
魔力を得る方法があるとすれば、
君は何者になるだろうか。」
「なに…?」
この世界において、
魔力というのはあらゆる物に
宿っていると言われている。
そしてそれは事実だ。
大なり小なりはあれど、
あらゆる生き物、植物、金属などには
魔力が含まれている。
錬金術で様々な物を材料にできるのも
それが理由である。
なので手段の話であれば、
魔族は魔石からでなくても
魔力を摂取することは可能だ。
効率はすこぶる悪いが。
「じゃ〜ん。」
つまり、魔族が求めているのは
効率よく魔力を摂取する方法だ。
今まではそれを魔石を食べるという形で
やっていたのだが、
魔力そのものを生み出すことができれば、
魔石を得る必要がなく、
土地を広げる理由もなくなる。
そして、肝心の魔力を生み出す方法だが、
すでにクレアが実現している。
「なんだ…これは。」
「魔力供給反転時計だよ。」
それは手のひらに乗るくらいの砂時計だった。
ただ、それが普通の砂時計と違うのは、
砂が上から下へ落ちるのではなく、
下から上へ砂が昇っている。
更に、上下に存在する砂の量が
全くと言っていい程変化していない。
「この世界には魔力が溢れてる。
それを集めて留めることができるのが、
この小さな砂時計ってこと。
これを置いておくだけで
世界中から魔力を集めて、
欲しい時に放出できるんだ〜。」
セヴァルに搭載されている機構の一つに
魔力を無尽蔵に生み出す所がある。
それは周囲の魔力を吸収して
自分の魔力に変換することができるのだが、
砂時計はその仕組みとほぼ同じで、
より広範囲の魔力を集めて
周囲にいる者に配ることができる。
これを使えば、魔石を食べずとも
魔力だけを摂取できるという訳だ。
「こんな物を作る人族がいたとは……。
やはり貴様らは底が知れぬな。」
「これがあればもう戦争なんて
面倒なことしなくていいでしょ。」
「あぁ、その通りだ…。」
魔王はなにやら思案顔だ。
だが、仕方のないことだろう。
何の手間をかけずとも魔力を
得る方法が道具一つで解決するなんて、
一体、今までの苦労は何だったのか。
そして、こんな便利な物を手土産に
彼女たちが魔族側に何を要求するのか、
それが分からない魔王ではなかった。
「……いいだろう。我らも戦争などという
品性のないことは好かん。
この道具をもらう代わりに、
人族への戦争はしないと約束しよう。」
「感謝する。」
「礼など言うな。助かったのは我らの方だ。
貴様らが生きている間に侵略できないとなれば
飢えで苦しむことになっていた。
誇れ。貴様らは今この瞬間、
魔族と人族の両方を救ったのだ。」
さすがは魔王。決断がいい。
これで魔族が人間の土地へ
攻め入る理由はなくなり、
平和な世界が戻ってくる。




