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戦場

荒野に散らばっているのは、

焼けた死体や魔族の残骸だ。

クヌシカ帝国の首都にまで

魔族の軍勢が押し寄せて、

100万を越える人々が死んだ。

彼女たちが産まれ育ったベオムールの街は

魔族による最初の襲撃を受けて半壊、

戦争によって様々な物を失った人間の

溜まり場のようになってしまった。


「……こうならないように、

あたしらって追い出されたんじゃなかった?」


変わり果てた故郷を見ながら、

クレアはポツリと呟いた。

クヌシカ帝国が力を持つことで

ブローゲルドとの関係に傷が入り、

そこから戦争に発展するのを防ぐために

4人の天才は存在を消されたはずだった。

だが、実際に起きた戦争では

そんなことは関係なかった。

相手は人間ではなく、魔族なのだから。


「えぇ、そのはずですわ…。」


人間の言い分などどうでもよく、

ただ自分たちの地域を広げるために

魔族たちは殺戮と破壊を繰り返してきた。

マリアが初めて人を治療した治療所、

マーシャが初めて大人に勝った道場、

ソマリが初めて湯を沸かした風呂屋、

クレアが初めてアイテムを売った店。

その全てはもう見る陰もない。


「みんな、死んじゃったのかな…。」


ソマリは魔術によって雨を降らせ、

あちこちで燻っていた火を消した。

生きている人間の姿はほとんどなく、

流れ者をはじめとした人間が

僅かな物資を巡って争っている。

どうしてこんなことになったのか。

考えても仕方のないことだが、

彼女たちがこれからどうするべきかを

考えるには、目の前の光景から

今後を見定める必要がある。


「いくら私でも死者を蘇らせる術はない。

今は失った物を嘆くより、

残っている命を救うことを優先するべきだ。

まだ魔族の軍勢は進撃を続けているからな。

私たちで止めるしかないだろう。」


戦争を起こさせないために

存在を消された少女たち。

だが、戦争は起こってしまった。

今更存在を隠し通したところで、

それは何の意味もないことだ。

ならばいっそ戦場へ赴き、

人間の未来と命を守るために

力を奮う方がいいだろう。


「セヴァル、君は他のロボットたちを率いて

急いで最前線に向かい、魔族を押し返せ。

私たちは後ろから魔族を叩く。」


「了解しました。」


クレアが作った最初のロボットは

セヴァルと名付けられ、

後にクレアが量産したロボットたちの

リーダー的存在となった。

いい素材が手に入らなかっただけに

セヴァルのような自我や

高性能な能力は持っていないが、

それでも生身の人間よりは

戦闘力を備えている。

その行動は実に迅速であり、

セヴァルと共にすぐに

戦場の最前線へと飛んで行った。


「いつまで泣いているのですかソマリ。

この惨状を広げないために

私たちは行動しなければならないのです。」


「うん……。」


ソマリはここにいる誰よりも

心根の優しい人間だ。

傷ついた人々を見て涙を流し、

同じ涙を流す人間を増やさないために

行動に移すことができる。


「さ〜て、それじゃあ行きますか〜。」


ベオムールの街を後にして、

彼女たちは魔族を追いかける。

クレアが開発した特殊な靴は

魔力を流すことで推進力を生み、

鳥のように空を飛ぶことができる。

人間たちの必死の抵抗によって

魔族軍の動きが早くなかったのもあって、

追いつくのは容易であった。

とはいえ、数日を要したが。

だが、その数日という僅かな間に

戦況は大いに変化していた。


「これはあたしも予想してなかったよ…。」


魔族の軍勢の総数は推定8万。

それぞれが人間とは比べ物にならない程の

魔力と戦闘力を持っているが故に、

人間たちはここまで追い込まれた。

そんな中でセヴァルたちロボットを送ったのは

戦線を少しでも留めるためだったのだが、

後方から彼女たちが魔族を倒しながら

追いついた頃には、

戦線を留めるどころか魔族のほとんどを

片付けてしまっていた。

製作者であるクレアですら、

ロボットたちがここまでの

功績を挙げるとは思っていなかった。

そして、その最前でロボットたちの指揮を取り

自らも魔族を屠っていたのが、

他の誰でもないセヴァルである。


「皆様、お待ちしていました。」


マリアから医術を教わっているからか、

セヴァルは返り血をほとんど浴びていない。

いつでも誰かを治療できるように、

清潔な体を保っているようだ。

だが、そんなセヴァルを見て

誰よりも衝撃を受けていたのが、

武術家であるマーシャであった。


「セヴァル、貴方はすでに私よりも

優れた武術家ですわ……。」


魔族の軍勢を相手に抑えるどころか

全滅寸前まで追い込んでしまうとは、

戦闘力という点においては

すでにマーシャに引けを取っていない。

さすがに正面から正々堂々と戦えば

今でもマーシャの方が強いだろうが、

セヴァルは医術、魔術、錬金術にも

玄人以上に精通しているので、

一人が持つ価値としては

セヴァルはマーシャを超えている。


「わ、私も負けてる…。」


そして同じような理由で、

ソマリも超えているだろう。

魔術の規模、影響力、範囲など

総合的な実力においては

まだソマリの方が上だが、

魔術師としての能力以外の力を

セヴァルは豊富に持っている。


「人間と違って限界がないのだろう。

そう遠くないうちに私たち全員を

超えるような存在になって、

私たちが死んだ後でさえ輝き続けるはずだ。」


ロボットに人間のような寿命はない。

内部に埋め込まれた機構によって

無尽蔵に魔力を作り出し、

半永久的にこの世界に存在できる。

もし彼の体が朽ちるなら、

全身をバラバラにされるか

機構がその機能を回せなくなった時くらいだ。

そんな未来がやってくるのか、

誰かに分かることではない。

彼がその機能を停止する日まで、

彼は自分を高め続けることだろう。

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