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天才と呼ばれた少女

大医術者マリア、大錬金術師クレア、

大武術家マーシャ、大魔術士ソマリ。

後に英雄として名を残す彼女たちが

ベオムールに産まれたのは

300年以上前もことである。

大きな争いも災害もなく

世界が平和に満ちていた頃、

ベオムールもその権力下にあった

クヌシカ帝国は大陸の外からも

貿易を持ちかけられるような

大国としてその地位を確立しており、

最大の同盟国であるブローゲルドと共に

とても発展していた。

世界の流行や文化を左右する程に

二つの国の影響力は絶大で、

クヌシカとブローゲルドの

均衡の取れた力関係のおかげで

平和が成り立っているとさえ言われていた。

だが、もしもその均衡を崩すように

どちらか一方が力を高めようとすれば、

それは戦争の意思があると

思われかねないことであった。

だから、4人の天才が同じ年に同じ場所で

産まれたなんてことは、

国の中でさえ秘密にしなければならなかった。


「マリア、クレア、マーシャ、ソマリ。

お前たちは最初から存在していない。

そういう決定が下った。」


帝国を支配している皇帝エードスの

使者が持ってきた勅命書には、

まだ14歳になったばかりの

4人の少女の名前があった。

彼女たちの名前が帝国でも

有名になりつつある中で、

これ以上名を挙げる前に

彼女たちの存在を消すことになったのだ。

いくら世界の均衡を保つためとはいえ、

あまりに無慈悲ではないかと

ベオムールの人々は声をあげたが、

エードスは聞き入れてくれなかった。

更には戸籍を消されるどころか

ベオムールの街から出て

シニーツィン大森林の中で

隠れ暮らすようにと命令され、

彼女たちはそれに従った。


「皇帝はもっと賢い生き物だと

思っていたのですけど、

どうやら私の思い違いだったみたいですわ。」


凶暴な魔物が住む森の中。

とりあえず周囲を見渡せそうな

大きな岩の上に乗って、

少女たちは顔を見合わせていた。

そこでまず口を開いたのは、

細く引き締まった身体に

雪のような白い髪をなびかせている

武術家のマーシャであった。


「分かる〜、偉い人って頭のいい人しか

いないって思ってた。」


マーシャの言葉に同調したのは、

気の抜けたような目をしているクレアだ。

朝焼け色の髪を弄びながら、

ここまで来る途中で拾った

ただの石を眺めている。

錬金術士である彼女は、

こうしたただの石からでさえ

様々な物を作ることができる。


「わ、私たち、これからどうなるのかな……。」


今にも泣き出しそうな瞳。

震えているのは声だけでなく、

雪山で遭難でもしているように

自らの体を抱きしめている。

ただ僅かに肩に手が届いていないのは、

ソマリの大きな胸のせいだろうか。

藤色の髪を伸ばしているのはいいが、

広い谷間を隠すには不十分だ。

彼女の魔術がどれだけ優れていようと、

そればかりはどうにもならない。


「別にどうなったっていい。

この森にいる限りは何もしないと

向こうから言ってきたんだ。

当面の間はここで生き延びるために

行動するべきだろう。」


女の子というには少しばかり

漢気のある話し方をするマリア。

14歳にしてすでに帝国でも

トップレベルの医術者に

引けを取らない実力を持っているが、

彼女の見た目はまさに歳相応の少女。

綺麗な翠緑色の髪を一つに結び、

真っ直ぐな瞳で前を見据えている。

同い年であるソマリと自分の胸を見比べて

時々自信をなくしてしまうのも、

まさに少女らしいと言えるだろう。


「生き延びるために、ね……。」


眺めていた石から視線を外して

岩の周囲を見たクレアは、

わざとらしいため息を吐いた。

そしてそのため息の理由を

他の3人も理解していた。


「ま〜とりあえず、片付けよっか。」


「そうだな。」


「え、わ、私、戦いたくない!」


「情けないこと言っていないで、

貴女も戦うのですよ。

私たちの中で最も殲滅力があるのは

魔術士である貴女なのですから。」


岩の周囲で蠢いているのは、

おびただしい数の魔物だ。

硬い皮膚に覆われているオークや

鋭い爪と仲間と連携する知能を持つ銀狼(シルバーウルフ)

一体ずつの能力は決して高くないが

とにかく数が多いゴブリン、

視界の上から痺れ粉や目眩しの

鱗粉を降らせてくる毒を撒く蝶(スノーバタフライ)など、

シニーツィン大森林に足を踏み入れた者を

いつも歓迎してくれる。

皇帝エードスが少女たちの存在を

抹消したいという気持ちは

疑いようがなかったが、

少しばかり少女たちを甘く見すぎである。

この程度、もはや危機とも言えない。


「ソマリ、火と風は私たちまで危なくなるから、

氷か水、土のどれかを使うといい。」


ここは木々の多い森の中だ。

火が燃え広がってしまえば、

舞い上がった灰によって

少女たちの呼吸器が焼けかねない。

それに、何かが燃える時というのは

生き物にとって有害な物質が発生してしまう。

これは雷属性の魔術にも言えることだ。

一方で虫型の魔物、特に蝶型の魔物が

相手の時に気をつけなければならないのが、

風魔術による攻撃だ。

虫型の魔物の体内には

空気中に霧散することで

仲間に危険を知らせる体液や、

死に際に周囲の生き物を巻き添いにするための

毒を含んでいることが多い。

故に、風魔術による攻撃をすると

そういった物を拡散させてしまうのだ。


「わ、私に拒否権は……?」


「ない。」


「ないね〜。」


「ないですわ。」


「……ひぐっ…。」


往生際の悪いソマリ。

胸は立派でもその中にある

心はとてつもなく小さいようだ。

だが、これが本来あるべき少女の

反応なのかもしれない。

4人の少女はそれぞれ、

人間離れした才能のおかげで

普通ではない育ち方をしている。

1歳の時に家の屋根を吹き飛ばし、

2歳の時に金属を溶かし、

3歳の時に大人を蹴り飛ばし、

4歳の時に不治の病を治した。

年齢が子どもであるにも関わず、

大人よりも結果を残している。

だから自然とその態度や言動も

大人と同じ物を求められるようになり、

見事にそれに応えてみせると

街を追い出されて森に軟禁だ。

泣きたくなるというのが

本来あるべき少女たちの姿だろう。


「…雪国の妖精が通った痕(ホワイトダンスホール)!」


抵抗虚しく、半ば脅迫でもされたように

ソマリは氷の魔術を使って

魔物たちの体を氷で覆い尽くした。

飛んでいた蝶の魔物さえ、

氷の像のように地面に刺さっている。

やがて体の芯まで氷になったら、

粉々に砕くだけで片がつく。


「さすがソマリだ。」


「もう帰りたいよ……。」


だが、もうしばらくの間は、

ソマリの涙は枯れそうになかった。

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