反撃
「テルーロ、お前の目的は何だ。」
殺伐とした空気が続く中、
カルムは次の質問をぶつける。
人質をどうするのかと同様に、
テルーロの共犯者の目的が何なのか
明確にしておく必要もある。
治療所に用があるのは間違いないはずだが、
その中のセヴァルかフィティーレ、
あるいは治療所にある医術の研究日誌や
薬を求めているのか。
「目的か…そうだな。
それは昨日、このお嬢ちゃんに聞いたことが
そのまま答えになっているぞ。」
「そんなことは分かっている。
俺が聞きたいのは、お前のような外の人間が
治療所の何を狙っているのかということだ。」
テルーロがいつから街に侵入していたのか、
それは分からないが、
共犯者がいるとすればすでに
治療所に向かっているはずだ。
もしかすると、もう到着しているかもしれない。
いくらセヴァルや武術部隊が
待機しているとは言え、
手配書の男が市場に現れたと知らせが入り、
それと同時に全く警戒していない顔が来れば、
簡単に治療所に侵入されることになるだろう。
「別に教えてやってもいいんだがな。
今ここでお前らが知ったところで
どうせもう間に合わないだろうし、
あいつが失敗するはずもない。
本当は成功の合図があるまで
何も言わずに黙っていろと言われているのに
こうしてお前たちに付き合っているのは、
単純に俺がお喋りな性格なだけだ。
まぁ安心しろよ。
目的が達成されればこの街に用はない。
お嬢ちゃんだってすぐに返してやるさ。」
どうやらお喋りな性格なのは間違いないらしい。
そのセリフの中に大きな情報があった。
そう、共犯者の存在である。
共犯者がいることはあくまでも
メアの推測でしかなかったが、
テルーロの言葉で確定した。
やはり他の侵入者がいて、
男はその陽動でしかなかった。
他の侵入者が治療所に向かっているなら、
ここに長居する訳にはいかない。
「まさか、お前以外にもよそ者がいるのか!」
ここまで明らかな言葉であれば、
メアやカルム以外の人間も
その存在に気づくのは当然だ。
テルーロはただの陽動で、
真の目的を果たすための人間が
街のどこかに入り込んでいる。
慌てふためく武術部隊員たち。
すぐにここから離れて
他の侵入者を探すべきではないかと
いくつもの声が飛び交う。
だが、隊長であるレンだけは
静かに状況を理解していた。
「───静まれ、お前たち。」
まさに鶴の一声。
レンの一言によって隊員たちは
落ち着きを取り戻した。
さすが、隊長を任されるだけのことはある。
「奴個人の目的が俺たち武術部隊の
足止めにあるのなら、
俺たちが迂闊に動こうとすれば
人質に危害を加えるつもりだろう。
それだけは避けねばならん。」
そう、テルーロが負っている役目は
ただ目を逸らさせるだけの陽動ではなく、
この場所に武術部隊を留めることだ。
人質を取ったのもそのためで、
市場を選んだ理由はおそらく、
ここが壁に囲まれた場所だからだろう。
「よく分かってるじゃないか。
その若さで隊長を名乗るだけはある。
そう、俺の任務はお前たちの足止めだ。
俺の相棒が目的を達成するまでの間、
お前たちにはここにいてもらう。
もしここから離れようとする奴がいれば、
お嬢ちゃんの命はないと思えよ。」
共犯者の存在は確定した。
だが、それを他へ知らせることができなければ
彼らの計画を止めることはできない。
人質を取るという極悪非道な行為は
たとえ人の道から外れていようとも、
絶大な効果を発揮している。
こうなってしまえば、武術部隊は動けずに
彼らの計画の前に屈するしかない。
それが彼らの思い描いた絵であり、
何の問題もなく目的を達成する。
……だが、おそらく彼らは知らない。
このベオムールという街が
世界から切り離された場所であるが故に、
医術、魔術、錬金術、武術の全てが
どこよりも発展しているということを。
そして、人質に取るべきだったのは
ノーナ以外の人間だったということも。
「カルム、うまくやれ。」
レンからの許可は降りた。
レンにはカルムの後ろにいる
メアの存在がしっかりと頭に入っている。
つまり、レンへの命令に見えるこれは
メアへの言葉でもあった。
そしてその言葉は、ノーナにも届いている。
「おいおい隊長さんよ。
俺が言えた義理じゃないが、
状況が悪いからって部下に
押し付けるのはどうかと思うぞ?
しかもそいつ、お前より歳下だろ?」
レンを嘲笑うのと同時に、
テルーロの視線がレンへと向いた。
その隙にカルムの後ろから顔を出したメアと
テルーロに捕まっているノーナの目が合う。
たった数秒にも満たない時間。
だが、それだけでメアの考えは
ノーナに全て伝わる。
テルーロがレンから視線を外し、
さっきまでカルムの後ろに引っ込んでいた
メアの方へ視線を移したその瞬間、
テルーロの足がチクリと痛んだ。
「ん?虫か?」
普通は虫に刺されたところで
別にどうということはないが、
それでも生物の本能としては
自然と意識してしまうものだ。
そして後になって、
その痛みが敗因だと悟る。
「……っ!?なんだ…!目が……。」
テルーロの視界が霞む。
まるで鈍器で頭を殴られたかのように、
突如として意識まで朦朧としてくる。
持っていた刃物を落とし、
捕まえていたはずの人質さえ手放す。
「おい…待て!逃げるな……!」
もはやテルーロは立っていられず、
力なくその場に膝を着いた。




