道
我々の行手は一本道なのか?
道には情理が落ちている。情とは1の背後に10を見ることであり、理とは10の背後に1を見ることである。収束と発散。1とは収束した10のことであり、10とは発散した1のことである。単数であり複数であるということ。つまり、1つか1つでないかを明らかにしようとするよりも、いかに上手く収束させるか、発散させるかに注力した方が良いということだ。
ひとつはふたつであり、ふたつはひとつであるようなもの。
集合と離散。
目。影。王。月。器。夢。祭。霧。
王の目。月の影。祭の器。霧の夢。
月の影に怯える王の目。霧の夢を模した祭の器。
霧の夢を模した祭の器は、月の影に怯える王の目を祀っている。
捕まえてはならぬ。白いウサギの後を追って。
丸い穴。折って畳んで丸めて溶かして。
長い長いおまじない。ひと呼吸おいて。
ヒビの入ったお面。隙間からはからっ風。
湖畔にぷかぷかと浮かぶスイセン。湖底に何があろうとも。
掴みどころのないラッパ。だんだんと近づく音楽団。
ひっくり返ったカエル。魔女の古びた錬金釜へ。
首を長くして待つヘビ。これにはコイも腰を抜かす。
切断したら、断面同士をぴったりとくっつけよう。忘れないうちに。切られたことに気づかないうちに。あっという間に元通り。空を揺るがす轟音は、空を裂く刃先の風切り音にひれ伏せる。
細い。病的なまでに細い道。今にも折れそうだ。思わず足がすくむ。頭を抱えて目をきつく閉じる。ぶるぶると震えていると、突然正面に白色の帯が現れる。辺り一面を覆い尽くすような光景に言葉を失う。所々うねっている。揺れては凪ぎ、凪いでは揺らぐ。うねりをもろともしない存在感に圧倒される。うねることが白さを強調しているとさえ言える。雲の上に乗っているみたいだ。柔らかくて軽そうなのに、なめらかでしっとりとしている。あんなに細かったのが嘘みたいだ。悠々と一歩踏み出そうとする。頭の中でけたたましい警報音が鳴り響く。これはこの場特有の現象だ。気に病むことなんて何ひとつとしてない。そう心に刻み込むように、小さくか細く呟く。どうしても足が前に進まない。蝋で固められてしまったかのようだ。これらの白い波が、全て足元から始まり足元に帰着していることは、もう疑いようがない。嘘だ。嘘だ。嘘だ。自分の嘘を暴くのが、まさか稀代の大嘘つきだとは。明滅する視界。剥がれゆく白い壁。黒く染まりゆく天女の羽衣。空目。空目の空目。今やすっかり元通り。足元には一本の道が。単数であり複数であるひとつの道が。