イルカとカワセミと無人島
高校一年の夏。
修学旅行で沖縄に来た時の話。
海山「海だー!泳ぐぞー!」
友人A「おっしゃー!競争しようぜ!」
友人B「行こう行こう!!」
先生「お前達、泳ぐのはいいがくれぐれも気を付けるんだぞ、泳ぎが上手いとはいえ自然を侮ってはいかん、特に海山」
海山「はーい!!」
先生「相変わらず返事だけはいいな、いいか、線より先は越えるんじゃないぞ」
海山「分かってまーす!!」
先生「はぁ、本当に分かっているのかあの三人は」
漂流。
岩場でゴミ拾いをしていた僕は急に高い波が襲ってきたことに気づかなかった。
夏坂「わ!?」
一瞬だった。あっという間に波に飲み込まれた。
視界は何も見えない。
"あ、やばい、死ぬ"
海山「夏坂!!」
遠くで誰かが僕を呼ぶ声がする・・・。
無人島。
海山「おい、夏坂!しっかりしろ夏坂!」
浜辺に横たわっている夏坂に声を掛けるが返事はない。
呼吸が止まっていた。
海山「くそっ、人工呼吸しないと」
海山は夏坂に人口呼吸をすべく口を近付けた。
夏坂「う・・・ん・・!?うわぁ!!」
ゆっくり口を突き出しながら夏坂に近付く海山と正気を取り戻しかけていた夏坂。
目を開けた瞬間、自分に迫ってくる海山が視界に入り思わず手が出た。
ゴッ!!
海山「ぐえっ!!」
海山は夏坂に殴られた衝撃で後ろの砂浜に倒れた。
夏坂は薄目を開けて確認した。
夏坂「え、海山君!?てゆーかここどこ!?」
5分後。
夏坂が事情を説明し、ようやく夏坂の混乱が解ける。
夏坂「ごめん、海山君は僕を助けてくれようとしたんだよね、身の危険を感じてつい・・・」
海山「夏坂が元気になって何よりだよ」
頬が腫れたまま怒りもせずに海山が言う。
海山君って見かけによらずいい人だな。
イルカとカワセミ。
夏坂「てゆうか溺れた時も助けようとしてくれたんだよね?」
海山「まあな」
夏坂「どうして?友達でもないのに」
海山「クラスメイトだし、俺水泳部じゃん?泳ぎ得意だし放っておけないじゃん
まぁ、結果的に俺も溺れたけど」
ヤンチャなグループに属してるから僕とは正反対で苦手なタイプだと思ってたけど意外と正義感強い人なんだな。
皆んなの人気者で明るくて優しくて・・・同じ人間とは思えないや。
その時、イルカが鳴く声が聞こえた。
気付くと浜辺のすぐ近くまでイルカが近付いてきた。
海山「あれ、イルカじゃん!」
夏坂「本当だ!」
海山「そう言えば俺、溺れた時に何かに運ばれたような気がしたんだよな」
イルカは二人をじっと見つめたままぷかぷかと海の上に浮いている。
心なしか目が笑っているように見える。
海山「ひょっとして君が運んでくれたのか?」
イルカは頷く。
海山「まじか、ありがとな」
夏坂「なんか意思疎通してるし・・・」
その時、鳥が一羽、イルカの背に止まった。
何やらまったりしている。
夏坂「なんかまったりしてるんだけどこの二人、人じゃないからイルカと鳥
海山「友達なんじゃね?」
夏坂「意外なコンビだね」
海山「あれ何て鳥だっけな」
夏坂「カワセミだよ」
海山「あー!カワセミか!図鑑で見たことある」
夏坂「それにしても意外な組み合わせだよね、イルカとカワセミって」
海山「まぁいいんじゃね?細かいことは気にすんな、ぐぅ・・・」
夏坂「ぐぅ・・・お腹空いたね」
二人のお腹が同時になる。
海山「うん、せめてご飯食べた後に漂流したかった」
そう言うとカワセミがイルカの背中から砂浜に向かって飛び、着地する。
口ばしで何やら合図をしている。
夏坂「何だろ」
夏坂が首を傾げる。
海山「ついて来いってことじゃない?」
夏坂「そ、そうかなぁ・・・」
何でこの人は動物の心が分かるんだろ・・・。
カワセミの後を付いて行くとそこにはバナナの木と、その奥に川があった。
川。
海山「川があるのありがたいな、ちょうど喉乾いてたんだよね」
夏坂「だね、それに体ベタベタで気持ち悪かったからね」
海山「そーそー、お!魚いるじゃん!捕まえて食お!てい!おりゃ!あれぇ?全然捕まらない・・・」
海山は必死になって水面に手を突っ込むがなかなか魚は捕まらない。
目の前には魚が沢山泳いでいるのが見えている。
夏坂「えいっ」
パシャっ。
夏坂はキョロキョロと水面を一瞬見た後、さっと手を突っ込んだかと思うと魚を捕まえた。
海山「え、凄くね?何でそんな上手いの夏坂」
夏坂「そう??」
海山「俺、木登りは得意なのに魚取りは苦手なんだなぁ」
夏坂「全部できたら凄過ぎるよ」
海山「良かったぁ、夏坂がいて」
夏坂「え」
海山「ん?どした?」
夏坂「別に・・・」
変なの、これくらいで嬉しいなんて。
その後、海山がバナナを取りに木に登った。
海山「おー!景色よ!!」
夏坂「海山君って猿みたい」
海山「何ってー?」
夏坂「何でもないよー!そのままバナナ落としていーよ!僕受け取るから!」
海山「おー!さんきゅー!助かるわ!」
何本か木からバナナを取り、夏坂に投げた後、すすすっと器用に降りてくる。
夏坂「お疲れ様」
海山「おー、ナイスキャッチだったな夏坂」
この人、サラッと人を褒めることもできるのか。
バナナと焼き魚。
バナナの皮を綺麗に剥いて食べている夏坂の横で海山がそのままかぶりついていた。
夏坂「え!?海山君ってバナナ皮ごと食べるの?お腹壊さない?」
海山「うん?いつもフルーツは皮ごと食べてるけどお腹壊したことないよ?あ、皮いらないならちょうだい」
腹の足しになるからと海山が手を出す。
海山君は僕からバナナの皮を受け取った。
夏坂「なんか海山君って原始人みたい」
海山「え、そう??」
海山君はバナナの皮をハムスターのように噛みながら返事をする。
海山「もぐ・・・てか、夏坂が焼いた魚うま!!そう言えば料理部だったよな、夏坂が作った料理美味そう」
夏坂「んーあんまり上達はしてないけどね」
海山「いやいや、魚を上手く焼ける奴は料理も上手い!」
夏坂「何理論それ」
海山「俺理論」
夏坂「海山君は料理しないの?」
海山「しないっつーかキッチンに入るなって母ちゃんに言われてる」
夏坂「え、一体何したの」
海山「レンジに生卵ぶっ込んで大爆発させて母ちゃんにめちゃ怒られた」
夏坂「それやる人本当にいたんだ・・・」
呆れる夏坂。
海山「あと、火力強すぎてだいたい焦げる、そんで肉が爆発した」
夏坂「え、何で肉が爆発??」
海山「フライパン洗った後に拭かずにそのまま使ったのが原因らしい、爆発したのは肉じゃなくて油だったんだって」
夏坂「ちょっ、水気はフライパンヤバいよ、はは」
海山「何で笑うのよ」
夏坂「だって慌ててる海山君の姿想像したらおかしくって、あはは」
海山「学校でもそうやって笑ってればいいのに」
夏坂「え?いやいや、できないよ」
海山「何で?」
夏坂「中学の頃、僕が笑ったら気持ち悪いから笑うなってクラスメイトに言われたんだ」
海山「そんなの気にすんなって」
夏坂「気にするよ」
海山「ま、俺らもう友達だし、これからは何かあったら俺が盾になってやるけどな」
夏坂「え、さすがにそれは悪いよ・・・」
とゆーかサラッと殺し文句。これが女子だったらキャーキャー言うんだろうな。
海山「俺が勝手にやるだけだから気にすんな」
夏坂「そ、そう・・・ありがとう」
2日後。ヘリで来た救助隊によって僕らは助けられた。
学校。
夏坂に話しかけている俺に二人が話しかけてきた。
友達A「あれ?海山、いつの間に夏坂と仲良くなったんだ?」
友達B「意外な組み合わせ」
海山「まぁ、一緒に無人島で過ごした仲だし?」
何でそんな自慢げなんだろう・・・。
友達A「あー、それで友達になったんか」
友達B「マジであの時はダメかと思ったよな」
友達A「ああ、二人とも助かって良かったよな」
夏坂「え、僕も?」
友達A「ん?クラスメイトなんだから当たり前だろ?」
友達B「前から思ってたけど夏坂って変わってるな」
海山「だろー?面白いんだよ夏坂は」
僕が思ってるより、この三人は良い人なのかもしれない。
夏坂「え、僕面白いことなんかしてなくない?」
海山「そうか?充分面白いけどな」
夏坂「どういうとこがさ」
海山「寝相で走ってたり?」
夏坂「え、そんなことしてないよ僕!」
海山「いやいやしてたよ!家で飼ってる犬そっくりだったもん!」
友達A「まじかよw」
友達B「見てみたかったわぁ」
夏坂「見なくていいから!」
友達A「あ、そういや俺今日授業終わったら用事あるんだった」
友達B「俺も!」
海山「そっか、じゃあ夏坂、今日は一緒に帰ろうよ」
夏坂「え?別にいいけど・・・」
帰り道。
海山「そろそろ別れ道だな」
夏坂「海山君」
海山「んー?」
夏坂「ねぇ、今度泳ぎ教えてよ」
海山「いいよ、その代わり俺に弁当作って」
夏坂「うん」
海山君は元気よく手を振りながら帰っていった。
卒業から四年後。
海山君は今、貯めたお金でアマゾンにツアー旅行をしに行っている。
送られてきた写真には豪快に丸焼きの肉に齧り付いている様子が写っていた。
しかも、上半身裸だ。
仕事が上手くいかず、鬱々としていた僕は久しぶりに笑いが止まらなかった。
その時ふと無人島でバナナを皮ごと齧り付いている海山君を思い出す。
夏坂「だから原始人みたいなんだってば」