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#28

 ついに、この時が来た。目の前の傀儡ベアトリスにとっても、そして、ルシエラにとっても、ターニングポイントとなり得る重要な時。


「……査問、という形式ではあるものの。実質的な断罪の通告ですね」


 ベアトリスの手元にあるのは王城への招集の手紙。

 彼女がつぶやいたとおり、手紙の内訳としてはベアトリスのサラ殺害疑惑における査問としているが。曲がりなりにも噂の張本人、犯人候補筆頭の侯爵令嬢を直々に呼び出しているあたり、お前が犯人であろうということの確認作業に等しい。


 噂が広まりだしてすぐさま呼び出されたのであればまだしも、時間が経っているあたり、応じれば証拠を突きつけられるのは必然。

 だからといって応じなければ、それは噂の正当性を保証する行動となってしまい、一気に彼女は札付きとなってしまう。


 つまり、前にも後ろにも動けない状態。

 そんな彼女が助かるためには、下に堕ちることだけだろう。


「もちろん、応じなさいな。ベアトリス」


「ええ、そういう計画ですから。ルシエラ夫人」


 実質的な宣告を突きつけられているというのに、ひどく落ち着いた様子でベアトリスはそう言う。

 ルシエラは、そんな彼女に不信からくる一抹の不安を感じるものの、しかしその可能性は棄却する。


 彼女の動向は、ずっとルシエラが監視していた。

 ルシエラ自身が動けるときは可能な範囲で伺っていたし、それが叶わないときにはルークが監視をしていた。

 私室やその他プライベートな状態のときはさすがにルークの監視の目も届いていないが、返していうと彼女が個人的に誰かと会談をするということもなかった。つまり、彼女が取った行動や会談の内容は、ルークを通じてその全てを把握でききている。

 そのルークからは、問題無し、の報告を受けている。

 ……まあ、彼自身が把握できていない高度な方法でやり取りをされていてはどうにもならないが。それにしても限度があるだろうし。


(それに。別に私の目はルーク(それ)だけではありませんしね)


 遠くにはなっている目が、もうひとつ。

 そちらはベアトリスのことを監視しているわけではないが、こちらもこの作戦に於ける重要な箇所を抑えている。

 そして、そちら側にもこちらの存在が抜けていないことが確認できている。


 計画は、首尾よく進んでいる。

 イレギュラーが発生したとしても、対処可能な範囲であろう。


 ――ついに、国がひっくり返る。


 甘ったれたことを考えている国のトップがすげ変わり、私たちが改革を行う。


 この組織に属している者たちは、それぞれ国に対して不平不満を持っている者たちだ。しかし、その方向性はバラバラ。共通しているのはそれぞれが自身の望むように改革を行いたいという理念。

 そうなるのは必然ではある。なにせ、自国に対して反旗を翻そうだなんて考える派閥は少数であり、そんな少数がかき集まったところでさしたる力は――変えるだけの力は得られない。

 だが、小さな不満であろうとも、かき寄せれば膨らんでいく。それぞれが少数であったとしても集まれば大きな数になる。


 だがしかし。つまりそれはひっくり返せば、発端の組織は小さな。だが、同じ意思を持つ者たちであるということであり。

 中核となっているルシエラたちの望みは、固まっている。


 穏便、平穏。そのような施策ばかりが中心であり、後手に回りやすい現在の体制、政策。

 それを打ち崩し、軍事力を確立。そして、諸外国に対して侵攻を行う。

 もちろん無闇に侵攻を行おうなどと、そんな蛮族のような考えで行っているわけではない。


 この国は比較的安定をしている。経済的にも、食料的にも。

 だが、それは他国でも同じであるということにはならない。むしろ、明確に転落している国こそなけれども、緩やかに坂を滑り落ちている国は存外に多い。


 国というものは生きている。環境も、人口も。時間とともに変化していく。

 だからこそ、それに見合った発展が必要になる。……が、その変化が緩やかであるがゆえに、今生きている人たちへの影響は少なく、近くも難しい。

 そうして徐々に停滞という名の後退を続けていき、いつしか、取り返しのつかないところまで落ちてしまうことは想像に難くない。


 他国が勝手に自滅すること自体は、然程問題ではない。

 問題なのは、そのせいである意味で最悪であり最強の国ができてしまう、ということだ。


 後先がなくなってしまった国は、もはや失うものが無い。

 危機感と生存意欲からくる底力はバカにできない。

 それゆえに、狂気を伴いながらに奪いに来る。


 もちろん、長期戦に持ち込めば持ち込むほどに頼るものがなくなってどうしようもなくなって、結果自滅するのは目に見えているのだが。その前に痛手を振りまきまくるのもまた予想ができることであり。


 なれば、そうした追い詰め切られてヤケを起こすよりも先に、こちらから攻めきってしまったほうが安全であろうと。


 幾度となく、そんな提言をしてきた。

 だがしかし、すなわち武力に訴えかける手法というだけあり、聞き入れられることはなかった。


 だからこそ。もう、私たちでやってしまおう、と。


 アデルバートとマリーの婚約は、想定外の事柄ではあったが。しかし、同時にコチラにとっては好機だった。


 特にベアトリスのような優秀な人物がその枠に収まろうものならば、こちらとしては動きにくいことこの上ない。

 だが、マリーという人物は良くも悪くも平々凡々な人物だ。


 ……さらには、裏切りを受けたベアトリスがこちるの味方についている。

 まだ、確実に信用ができているわけではないが。内通の手段は断っているし。現状はこちらの傀儡状態になっている。


 また、特に革命のあとは間違いなく世情が荒れる。

 そのときに彼女の力を借りられるのはこの上ない協力者と言えるだろう。


「さて、ベアトリス。今まで貴女の行動を警戒して伝えていなかったけれど。今から作戦のキチンとした概要を伝えるわね」


 さあ。革命の夜を始めようか。






     * * *






「ベアトリス・ナミュール。入れ」


 その言葉とともに、ベアトリスが玉座の間に入る。

 正面には国王と王妃。少し高い位置に誂えられた玉座からベアトリスのことを猊下しており、その脇には大臣や貴族などが並んでいる。

 中には、父やフォルテの姿も見える。……彼らに関しては観覧というよりかは、関係者として呼ばれているのだろうが。


(……巻き込んでしまう形になって、ごめんなさい。みんな)


 そんなことを思いはするが。しかし、フォルテの言っていた「ちょっとしたポカなら俺がなんとかしてやるから」言葉を思い出して。少しだけ、気が楽になる。

 ああ、本当に。優秀な人に恵まれたものだ。もちろん、フォルテだけではない。


「では、ベアトリス。現在世間で広まっている噂について、君の意見を聞かせてほしい」


 頭を下げながらに待っていたベアトリスに対して、代理で進行するのはギルス。

 ゆっくりとした所作で、ベアトリスは表を上げて。


 そして、ギルス閣下に視線を合わせると。彼が、小さく視線を動かしたのを確認する。


 どうやら、首尾はうまくいったようだ。


「その前に、ひとつ、よろしいでしょうか」


 ベアトリスがそう言うと。ギルスが振り返り、国王に承認を取る。


「ああ、構わない。述べよ」


「――では」


 サッ、と。腕を上げたベアトリス。それとほぼ同時。玉座の間に、大量の人がなだれ込んでくる。


 もちろん、叛乱を企てていた、彼らではあるが――、


「ど、どういうことだ!?」


「なんで、こうなっている!?」


 その声は、ひどく困惑に塗れていて。だがしかし、そうなるのも仕方がない。


 なにせ、彼らの身体は捕縛をされている。

 その中には、ルシエラの姿も見える。彼女はひどく驚いた様子で、なぜ、と。ベアトリスの方を見ていた。


 ――内通など、できなかったはず。

 なのに、王城に侵入した時点で。まるで、こちらの動きがわかっていたかのように、引っ捕らえられてしまった。


 そんな叛乱軍の軍勢を背に。ベアトリスは、降参の意を示すかのように、跪く。


「ベアトリス・ナミュールを始めとする、叛乱軍の構成員の首をここに用意いたしました」


 無論。自身も現在、叛乱軍の構成員。

 罪の、対象者である。

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