回天
「ダンジョンの中だけに存在する魔物。しかも、報告には二足歩行の人型の魔物も現れたととあります。その姿はジュンリルに似ていると王立ギルドの猛者が言ってます。今まで、何の手立てもなかったのです、確認する価値はあると思います。それに、ボクの勘がそう告げてきてます。」
物心ついた頃から、ショーンの勘は良く当たる。これは、ショーンの使い魔からもたらされた固有魔法の一つだと言ってよかった。
「そうでありんすね、けど、ダンジョンから持ち出せんのは、ドロップしたモノだけでありんす。その魔物を連れてくることは叶わんせん。」
サヤカ妃の言葉。
「母上、ボクら魔族の因子が強い者達は自身の因子と同族の魔物に出会えば、血が騒ぐことをお忘れですか?」
レンリルが言う。
「まさか、ソナタらは…。」
王子達がニッコリ笑う。不安そうなのはジュンリルだけだった。
「ダンジョンから持ち出せないなら、一番レベルの低い第一階層まで連れてきたらいい。第一階層なら、ジュンリルでも危険は少ないのではないですか?」
ルキリオの言葉。彼のひんやりした鱗の手がジュンリルの手を握る。
基本、変成期を終えていない魔族因子の濃い子供は外に出さない。子供を保護する使い魔の能力が強かったり、因子の後見人に恵まれていれば別だが。
「ジュンリルには、使い魔も因子の後見人もいない。そのことは、どう思っている?」
ミライア妃の問いかけに答えたのはジュンリルだった。
「油断はしませんけど、護衛騎士の腕利きとボクが行きますから。」
ショーンの言葉にため息を吐いたのはミライア妃だ。
「そなたは、王太子としての自覚を持っておるのか?」
母親の少し硬い言葉に弟達が身構えたが、
「王太子に正式に任命されるのは十五になってからですよ、母上。それまで、ボクはただの王子で兄なんです。」
ショーンは何でもないように答えた。
「ギルドへの参加条件を十歳まで引き上げるのであったな。」
再びのため息。
ラーネポリアには王(国家)がある程度の保証をしてくれるダンジョン探索、要人警護、魔物討伐などを専門に行うギルド(別称王立ギルド)と、全世界に支部を広げる独立法人としての冒険者ギルドがある。
「冒険者ギルドの方は、早目にそうして下さい。搾取される子供は少ない方がいいですからね。」
一瞬こめかみに青筋を見せた王妃はショーンに告げる。
「ダンジョンへの出発は一週間後とする。ダンジョンの領主であるスタインウェイ家へ王立ギルドだけでなく、王家介入があること、王家の者がダンジョンに潜るの期限は短くて十日、長くても一ヶ月とすること、その間、許可のない冒険者の介入を禁止を通達。王家として、この計画に参加し実際にダンジョンに潜るのはショーン、ルキリオ、ジュンリル、ケイリルとする。なお、第一階層以降に潜るのは、ショーンとルキリオのみ、ジュンリルとケイリルの第一階層以降への降下は禁ずる。」
ミライア妃の言葉に反応したのは、レンリルだ。
「ミライア母様、ボクも行きたいです!」
ダメだと分かっていても一応声を上げているのをミライア妃も分かっていた。
「そなたは、第二王子。第一王子が居ない城を守る役目がある。それに、そなたは、変成期であり、先日の無茶により使い魔が謹慎処分を受けて現世に居らぬだろう?無理を言うでない。」
バッサリと切られる。
「レンリルが兄弟思いなのは分かっている。けれど無茶はいけない。」
「そうよぉ、神様には怒られちゃったけど、自分のしたこと、願ったことに後悔はないのでしょお?」
「これも罰の一つや思うて、大人しゅうしとき、自分一人で魔力コントロールの訓練頑張っとるんやろ?」
母達に次々に言われてレンリルは半泣きで頷いた。
「ルキリオもまだ変成期を終えていないが、魔力コントロールはほぼ履修し終えているのに加えて、使い魔が弟達も含め守ってくれるだろう、ケイリルは、あのダンジョンに連れていかなければ、色々と問題が出てくることを想定し連れていくことを許可する。」
皆が頷いているが、ケイリルは両手を上げて喜んでいた。その姿に第四王妃マルティナが微笑みながら言葉をかける。
「ケイくん?良く聞いてね?母様達はぁ、ショーくんやぁ、るっくんがぁ一緒なら大丈夫かなぁって思うのだけどぉ、ケイくん?るっくんの言うこと聞ける?聞かないとお城に強制転送させちゃうんだからね、」
母の笑っていない目を見てケイリルは我に返り勢いよく頷いた。
ケイリルを見ていたルキリオ、そんな彼の頭をガシガシと撫でるのは実母のアヤカ妃だ。
「ルルと一緒に発散してこいってことだ。」
「えっ!いいの!」
途端に笑顔になるルキリオ。
まだまだ真っ黒なルキリオの肩に現れた小さくて真っ白な一匹の蛇も喜んいるようだった。
出発の日。
謁見の間にて簡単な挨拶がされた。国王はまず傍目から見てもウキウキしている五男に向けて言葉をかけた。
「いいかい、ケイリル。みんなの言うことをよく聞くんだよ、珍しい部品とかを見つけても皆に黙って拾いに行っては行けないよ。」
やってしまいそうなケイリルの性格に周囲から笑みが溢れる。
「あい!皆の言うことちゃんと聞きましゅ!」
実母のサヤカ妃がケイリルを手招く。
「手を出しなんし、」
素直に出した腕に組紐が巻かれた。
「これには、母の呪を掛けてありんす。ケイリルが母様達との約束を破ったら、直ぐに王城に戻るように呪をかけんした。」
母に先手を取られるケイリルであった。
「母様は、もちっとボクをしんようしてくらさい。」
憮然とした表情を見せるケイリルを優しく抱き止めるサヤカ妃に皆がほっこりした。
こうして、王子達は旅立った。