曇天
その日は、調子が悪かった。
兄弟達が過ごす部屋以外でこっそり歌っていたら周囲にいた数人の侍女と宮を守る衛兵の数人が魔力酔いを起こして倒れたと報告があった。
ボクは、お医者さんに怒られた。何で約束を破ったのかって。
サヤ母様は、お医者さんに謝っていた。母様に頭を下げさせてしまったことにボクは落ち込んだ。
けど、母様は笑って抱き締めてくれた。
「あちきがしっかりしてねえばかりに、ジュンリルに辛い思いをさせちまいんす。本当にごめんなんしね、ジュンリルがもっと自由に歌える世界になるよう、母は頑張りんす。」
母様の愛情を感じて泣きそうになった。
ある日から暫くして、あのお医者さんを見なくなった。
お城には王族を診る専門のお医者さんチームがある。チームのリーダーのお医者さんを始めとして10人ばかりのお医者さんと一人のお医者さんに三人の看護師さんが一つのクルーとなってローテーションで回っているんだって。ショーン兄上が生まれてから東宮を担当するお医者さんクルーが誕生したんだ。妖精族の因子を強く受け継いだ兄上に習って東宮クルーのリーダーは妖精族の因子の濃い人が選ばれたんだ。
けれど、その後生まれたのは、レン兄を始めとした魔族の因子を強く受け継いだ王子ばかり。クルーリーダーのお医者さんは、魔族の体質などにあまり興味を持ってなかたったから焦ったんだって。そこで、王家と言うか国で一番偉いお医者さんが、クルーのサブリーダーとして迎えたのは魔族の因子を強く受け継いだお医者さんで、彼は次々に生まれて来たボクらを良く診てくれた。特に何の因子か分からないボクが魔力暴走を起こさないための方法を懸命に考えてくれた。
一方で、クルーリーダーは主にショーン兄上専門になったみたいだった。兄上は次の王様になる人だからだって言ってた。
兄上をがっちり診てるのは、クルーリーダーを始めとした三人のお医者さん。レン兄、ルキリオ、ボク、ケイリルそしてタクリオを診てくれているのは、サブリーダーのタクトと部下のソータ。特にタクリオが生まれた時は何かと大変だった。ほぼ年子で生まれたボクらだからお医者さんが足りなかったんだ。だから、ミライア母様達がクルーリーダーのダグラスに東宮の健康を守る医官として、一つのチームとなり働くように言ったけど、ダグラスはボク達の診察に現れることはなかった。
タクリオが生まれた次の年、ミライア母様が双子を生んだ。ショーヤとショーセは妖精族の因子の濃い子供だった。ダグラスは妖精族の因子の濃い王子の誕生に喜びを隠そうともしなかった。ボク達を診なくていい口実が出来たのだろうと呆れたようにソータが言っててタクトに怒られてた。
ボク達兄弟はとても仲が良かったけどラーネポリア王国には妖精族の因子こそ相応しいと言う雰囲気があって、魔族の因子を強く持っているボクらへの風当たりは強かった。
特にレン兄、ルキリオ、ボクら年長組に対して。
ケイリルは、見た目は父上に似てるのせいか表立っては何にも言われない。
「気にしなくていいよ、ボクはこの姿を好きだって言ってくれる母上達や父上、兄弟がいるし。ショーくんは、ボクのモコモコ期が後一、二年で終わるのを残念がってるくらいだし。どんな容姿になるかなんて分からないから、頭と内面を磨けって母様も言ってただろ?」
レン兄は強いなぁ。
でも、それは因子が判明していないボクには持てない強さだ。
ずんと落ち込んでたら、ショーくんが乱暴に頭を撫でてきた。
「ジュンリルの因子は特別なんだと俺は思うよ。」
ニッコリ笑うショーくん。
「こんきょは?」
「難しい言葉を知ってんな、だってさ、ジュンリルの姿、カッコいいじゃん。」
えっ?
「うん、カッコいい!!」
そう言ったのはケイリルだ。
「特撮のヒーローみたいだし。」
ショーくんは、時々分からない言葉を話すんだけど声や表情で悪いことではないってのはわかった。
「これ、知ってる?」
ルキリオがタクリオを連れてやって来た。手には一枚の紙。
「広報課のチラシだね、」
それは、ラーネポリア王国に散在するダンジョンの案内だった。
「ボク、ここ知ってる!魔道具ダンジョン!」
魔道具好きのケイリルが叫んだ。
このダンジョンは、魔物を倒すと魔道具だったり、魔道具を組み立てるのに必要な部品とか時に魔石がドロップするコアなファンには人気のダンジョンだ。
現在第四階層まで解放されていたけど、一週間前に第五階層への階段が見つかったと話題になっていた。
「五階層から出てくる魔物が見たことない魔物になってるんだって。」
一週間前に解放された階層を先陣切って探索、調査してくれている冒険者チームからの報告が書かれていた。
「新たに解放された階層には魔道具と思われる金属で強化された魔物が出現。また、メタルスライム、メタルリザーモンなど地上ではレアと言われる魔物も現れ、冒険者は苦戦を強いられている。」
皆の視線が、ボクに注がれた。
「全身って言うか、メタル系の魔物ってのは聞いたことあるけど、魔道具で強化された魔物って、ジュンリルみたいだ。」
ケイリルの言葉。
「ボクの因子は、その階層に関係あるのかな。」
今まで何の手懸かりのなかったボクの因子。
「行ってみたい。」
まだ、五歳になったばかりのボクに許されるわけないけど何かのヒントがあればと思ったんだ。
「どう思われますか、母上。」
四人の王妃の前に並ぶのは、王太子であるショーンを始めとした五人の年長組の王子達。
「現れた魔物がジュンリルの因子に関係していると?」
実母の言葉にショーンはニッコリ笑った。