幸せになる為の涙
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狭い部屋の中、立会人と私と目の前の体格の良い男性
サインを交わしそれを確認した立会人が書類を持ち、
祝いの言葉もなく部屋を出ていった。
「貴女と心を繋げるつもりはない。」
旦那様になるだろう、その人はそう言葉を発した
「……… ……」
「何も言い返さないところをみると事情はわかっているのだな、こちらに契約の詳細を記してあるので目を通しておくように。私は城へ戻る。あとは私の侍従に従い、大人しく家にいてくれ、仕事が忙しい為屋敷には暫く戻らないが侍女長や執事の目があるから好きに出来るとは思わない事だ………」
「かしこまりました…」
私はそう答えるのが精一杯で、旦那様の顔をまともに
見る事も出来ず…そのまま頭を下げた。残された私は
外の馬車に乗り込み旦那様のいない公爵家のお屋敷に向かった。
実家である伯爵家から私は売られたのだろう…
閣下とお父様との間にどんなやり取りがあったのかは
わからないし、説明すらもなかった…
あの家での事で私の感情が動く事は…もうない。
ただ…婚姻届を見た時…期待してしまった…
血の繋がった肉親よりも、…初対面の他人に…
これまで閉ざしていた心が…縋ってしまった…
馬車の外を眺める気にもならず、閣下の侍従だという
目の前の男の人の話をぼんやりと聞くしかなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
『泣いていた…?』
城に戻ってきた私は困惑していた…
傲慢でプライドが高く、他人を気遣わない
冷たい女だと…聞いていた。なので婚約者もおらず、
自由に遊び回っていて伯爵家でも手を焼いていると…
そこまで考えてると王太子から声が掛かった。
「仮面令嬢の素顔はどうだった?」
「なんのことだ?」
「えー?テオバルト、君の結婚相手だよ〜。周囲を冷たく見下してて、何にも興味を示さないって噂だろ?
君の今回のカモフラージュに適任だと思ったんだよね!
契約内容には納得していた?どんな反応だった?」
「わかった…、と承諾はしていたようだ…」
「へー…素直に聞き入れたんだ少し意外だね、」
「あぁ……」
「もーいくら堅物のテオバルトでも一応君の奥方になるんだよ?……一年だけのだろうけど……せめて多少の興味ぐらいは持った方がいいんじゃない?」
「はぁ…ただでさえ爵位や見た目に群がって来るのが多いんだ、変に情をかけてすり寄ってこられても困る。
一年もあれば王女も他に目を向けるだろうからな、その為の一年だ。王女が諦めて、ほとぼりが冷めれば分家か領地に出す事にしている。だから俺は本当の結婚するわけではない!」
「いや…本当の結婚て…さっき婚姻届出したでしょ?
まぁ今回の事は私に原因があるから、君には強く言えないんだけどさぁ…
まっ今後の判断は君に任せるし、何かに困ったり、必要な時は手を貸すからいつでも言ってきてよ!」
「ああ…、例えあとからゴネたとしても、父親の伯爵とも契約を交わしているから文句は言わせない。心配するなルーカス、お前の手を煩わせる事はないだろう。」
「そういう心配だけじゃないんだけど…」
気安く話しているこの男は俺の従兄弟だ。そしてこの国の王太子であり婚約者もいる。そこへ隣国の王女が割り入ってきた、本来なら婚約を解消し王女を娶るべきなのだが…コイツは婚約者に愛を誓っている…
その為若くして公爵家を継いでおり、王族の傍系でもある俺がターゲットとなった…。
王女は来月にも視察と銘打って乗り込んでくるらしい…
完全にとばっちりだが、婚約の打診や群がって来る令嬢達に辟易していた事もあり偽装結婚に踏み切った。
従兄弟である王太子が持ってきたこの話の相手の事は興味がなかった。性格に難があろうが、どうせ一年だけだから、心を預ける事もないし後腐れなく条件をのんでくれさえすればそれでいい…
ルーカスもそんな人物を選別してくれているはずで、
俺は無事王女を回避してその後契約に基づき離縁する…そういう完璧な計画なんだ…。なのに…
あの女の涙を見てから何故かザワつく…
誤魔化すように俺は仕事をこなしていった…
〜〜〜〜〜〜〜〜
公爵家の大きさと優美さに足を踏み出せずにいたら
優しく声をかけられた
「さ、奥様参りましょう」と旦那様の侍従でリチャードソンと言うらしい。きっとこの人は事情を知っていて、同情をしているのだ…親に売られ、旦那様にも相手にされない…見窄らしい私を…。
屋敷に入り、家令と執事と侍女長、そして使用人の方達…
たくさんの人がいる。ここでも私は独りで耐えなければならないのだろうか…旦那様に気にも掛けられない契約妻だと…一年限りの余所者だと知っているのだろうか?……やけに喉が渇く…
不安と恐怖…緊張で息が苦しい………せめて…挨拶を…
「本日よりお世話になります…エミリーヌです…
よろしくお願い…しま……」
気がつくとベッドの上で、ドレスから肌触りのいいワンピースに着替えさせられていた。
着替えさせられて目が醒めないなんて…気を失ってしまったのね…みっともないと思われたかしら…
トントントン…
「奥様……失礼します。 !気がつかれたのですね」
静かにノックをして声を掛けながら部屋に入ってきた女性は私と目が合うと、水を渡してくれた後に家令達を連れて戻ってきた。
「奥様、お加減はいかがですか?よければご挨拶だけでもさせて頂いて宜しいでしょうか?」
柔らかいベッドに綺麗なお洋服、ノックをしてもらい
丁寧に目を見て優しく声を掛けてもらえる…。
それらの事が、とても…とても 嬉しかった…。
頬には涙が伝い流れていくが、その事にさえ気付かなかった。ただ茫然と涙を流す私を見た侍女長がそばに来て手を握ってくれた。
「大丈夫ですよ…、何も心配しないで下さいませ、
この屋敷の使用人達は奥様の味方ですから…」
そう囁いて、マーサと名乗った年配の侍女長は
もう片方の手で優しく背中をさすってくれた。
気持ちが落ち着いた私は挨拶を受けて食事を頂いた。
私専属だという、落ち着いた雰囲気の女性が部屋まで温かい食事を運んでくれたのだ。
ナタリーと自己紹介されたので、「ナタリーさん」と呼ぶと優しく注意された。公爵家の奥様なのだからと…
そう認めて貰えるのかと…また瞳が潤んでしまった。
温かくて美味しいスープとパンとお肉とフルーツを食べた、半分も食べられなかったが…食べながらその美味しさに涙が出てくる…次から次に出てくる……
私は壊れてしまったのだろうか?…
今までみたいに我慢が出来ない、おかしい…
実家を出るまではいつもと同じだったと思う…
閣下の前に立った時?サインをした時?閣下のお気持ちを聞いた時?期待をした…時だわ…あの時願ってしまったもの…漸く抜け出せると、旦那様となる人に…感情を、心を預けられるかもしれないと…
『そんなわけないのにね…契約だもの…』
せめてご迷惑にならないようにと、いつもの様に"無"になろうとしても感情がコントロール出来ない…
困惑しつつ…湯浴みに、髪や肌の手入れもしてもらい、私はベッドに入りナタリーに綺麗にしてもらったお礼を言うと、ナタリーは喜んでくれた。おやすみなさいと挨拶をすると、「おやすみなさいませ、いい夢を…」と返事をしてくれて上掛けをきれいに掛けてくれた。
私は胸のドキドキを感じながら目を閉じると、涙がつたう…そのまま私は眠りについた……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
暫く城に泊まるつもりだったが王太子であるルーカスに
新婚だから帰れ、と言われた。従うつもりはなかった…
しかし何故かあの涙が頭をよぎった…だが、
結局俺は屋敷に帰らず城に寝泊まりをして、王女が来る事で増えた面倒な仕事を片付ける事に専念した。
そして一週間後、屋敷に帰ってない事に気付いたルーカスに叱責され強制的に屋敷に帰される事となった。
城にいる間、屋敷からの報告や帰宅を促すような知らせが届いていた、あの女が倒れたとあったが伯爵から噂話とともに、"虚言で気を引こうとするから信じてはいけない"とも進言されていた。だから、早速か…と思い家令達に対応を任せ、執務関連の返答だけしをておいた。
屋敷に着くと使用人達と一緒にあの女も出迎えていた。
契約を交わしたあの日から一週間ぶりだが、話す事もない…そのまま通り過ぎようとしたら声がした。
微かに震え泣いている様な声に立ち止まり顔を向けると
一瞬目があったがすぐに顔を伏せて礼を言ってきた。
部屋や侍女、そして気遣いをありがとうございますと…
『また…泣いている…?すぐに屋敷に戻らなかった俺に怒ったりはしないのか…?』
「そんな事…貴女は気にしなくて良い…倒れたと聞いた、もう良いのか? 今後も何かあれば侍女長なり屋敷の者に言ってくれ」
そう言い捨て執務室に向かった、家令達や侍女長までも自ら報告に来たが後回しにして湯浴みをして食事を一人で済ませた。
何やら使用人達の様子がおかしいように感じる…
溜まっていた屋敷の執務に手をつけ、報告は翌朝に先延ばしした。あらかた片付いた時はもう夜も更けていた。
寝台に入り妻となった女の事を考えた。噂や伯爵が話していた人物像と実物では違和感があった…
『気が強くプライドの高い女が、喚かず涙を流すだろうか…?先ほども泣いているような声だった…礼を言っていたな……明日は少し話をしてみるか…』
あぁ…リチャードの話も聞かなければな…と明日やるべき事を考えながら眠りについた…
習慣で早くに目が覚めたので、部屋から庭を見下ろすと二つの人影が見えた。あの女が散歩でもして、侍従のリチャードが付いているのだろう…
リチャードは俺の侍従だが、契約期間は妻となる女に付ける事にしていた。
二人が近付き、リチャードがハンカチを女に渡している
泣いているのか…女がそのハンカチを目に当て言葉を交わしているようだ…。
俺は手早く着替えて庭に降りた
「何をしている、猫を被り…私だけでなく屋敷の人間も誑かすつもりか?」
俺が急に現れそう問い詰めると、顔を伏せ申し訳ありませんと謝り、言い訳もせずに部屋に戻ろうとする。
「待て、まだ話は終わっていない!」
そう引き留めようとする俺にリチャードが
「旦那様、私は主人である旦那様に何を言われても仕方ありませんが、奥様は違います。
その様に頭のおかしな発言で奥様を無闇に傷付けるのはおやめ下さい。」
「は?」
俺の乳兄弟で歳上のリチャードが、俺の事を旦那様と呼ぶ時は怒っている時だ…
「リチャード…やめて下さい…いいのです。部屋に戻ります…。閣下…朝早くに閣下の気分を害してしまい申し訳ございません。本日は城ではなくこちらにいらっしゃると聞いております…。マーサとナタリーが閣下との朝食をと準備をしてくれていた為、リチャードに付いてもらっていました…。閣下の侍従を私の用事に付き合わせてしまい申し訳ございません。リチャードはお返しします。…」
「リチャード、ナタリーに私の朝食は部屋に運んでくれる様、頼んでもいいですか?ナタリーにも手間をかけてしまうから謝っていたと伝えてください。私は一人で戻れますから二人への伝言をお願いしますね…』
「それでは閣下失礼いたします… 」
「エミリー様!こちらもお使い下さい、朝食と氷もお持ちしますからそれまで休んでいて下さいね、そうでないとあの歪んだ性格の旦那様を止められなかった事も含めて私がマーサに怒られてしまいますから。ね?」
「フフ…リチャードはマーサが怖いのですか?
でも閣下は何も悪くありませんから、マーサには何も言わないで下さい。それと…ハンカチを何枚もごめんなさい…。リチャード…こんな私の事を気遣ってくれてありがとうございます。」
そうリチャードに言って離れていく女の背中を呆然と見ていると、声を低く怒りを隠さない表情でリチャードから声がかかる。
「旦那様、朝食は後にして執務室に参りましょう」と
有無を言わせず静かに怒っている
「いや、待て、何が起きた?何故あの女はあんなに泣いていたんだ?…どうして…」
「あの女?…旦那様?旦那様は奥様の事をあの女と呼ばれているのですか……?」
「いや、ちょっと待て、どうしたリチャード何故そんなに肩入れしている?そもそもお前達は何故名前で呼び合っている?まさかっ…本当に誑かされたのかっ?」
そう言った瞬間俺の髪が凍った。リチャードが滅多に
使わない魔法を使ったのだ。
「テオバルト…勘違いするなよ、俺は魔法を発動させていない。怒りで漏れ出たんだ…わかるな?
今すぐその腐った頭と眼を正常に戻し、自分の眼で見て自分の頭で考えるんだ。さもないと次は俺は俺の意思で魔法を使う……。」
「わ、わかった!わかったから殺気をしまってくれ、……部屋で聞こう。」
執務室に入りメイドに茶を用意させていると、
リチャードが花を生けていた。何故お前がその様な事を?と聞くと、奥様に頼まれた事だと言う…。頼まれた?いつ?何故?……疑問が疑問を呼んでいると、家令と執事と侍女長が訪れた。
「さて、皆さん揃いましたから、頭の悪い旦那様にもご理解頂ける様に、私どもからご報告とご説明致します…お覚悟は宜しいですか?」
リチャードのやつ…皮肉なのか単なる悪口なのか…言い返したいところを我慢して、俺は皆の報告を聞くことにした。
契約を交わしたあの日馬車の中で静かに泣いていた事
屋敷に着いて倒れた事
着替えの際…身体中に傷跡があり、とても痩せていて肌も髪も手入れがされていなかった事
食事はほんの僅かで、残りを次の食事にしようとする事
手に何か物を持って近づくと震えて怯えてしまう事
夜中にうなされて、何かに泣いて謝っている事
そして、ほんの些細な事で常に涙を流している事
「 …虐待、… だな……」
「えぇ…奥様が急に倒れられ意識を無くされた時、楽な服装にと、私がドレスを脱がせ…その時に確認を…直視出来ませんでした…
とても古い傷もあり、新しい物は打撲痕で腫れも引いておらず熱をもっている状態でした…」
「医者は……」
「もちろん呼びました。マーサからその話を聞き、すぐさま専属医と薬師と治癒師を…慢性的な栄養失調、骨折の為の変形、火傷の痕、脱毛の痕、片方の視力は殆ど失われていたそうです…それから…」
「もういいっ!よせっ!」
「いいやテオ、聞くんだ…お前は知るべきなんだ、例え神の前で誓っていなくても…契約上のパートナーだけだとしても…あの優しくて弱い女性を…本当の意味で守れるのは、お前しかいないんだよ…。」
「…………………………」
「旦那様、リチャードの言う通りです。医者達は奥様の状態に言葉を失っていましたが、幸いな事に体調や体格以外の怪我や傷、視力はすぐに治して頂くことが出来ました。しかし…深刻なのは心のキズなのだと…治癒師の方が奥様の噂を知っておりました、そして納得したそうです。感情を消し、心を無にする事で…痛みに対抗していたのだろうと…涙が出るのはこれまでの反動もあり、これ以上我慢をさせるべきではないと仰っておりました。
奥様は今…嬉しい時も悲しい時も…食事や挨拶を交わす事でさえ、僅かな感情の動きで涙を流されているのです
おいたわしい…どんな幼少期だったのでしょう……
ノックをしてくれて……目を合わせてくれてありがとうと涙を流す奥様を見て…この爺は胸が張り裂けそうになりました…。」
「旦那様…私からも宜しいでしょうか?…奥様は最初、執事の私も含め、下級のメイドにまで敬称をつけそれはそれは腰を低く接しておりました…
それに気付いたナタリーとリチャードが名で呼び合う事を提案し、奥様との壁を取り払い、少しでも距離を縮め安心して頂こうとしていた矢先、私が納品された旦那様の狩猟道具と乗馬用の鞭をお部屋に運んでいた際…
奥様は表情を無くし背を向けドレスの裾を上げたのです…私は訳が分からず慌ててしまいました…
情けない事にその時改めて思い至ったのです。ご実家での奥様の境遇に…使用人達にまで、執事の名のついた人間にまで、酷く…深く傷つけられていたのかもしれないと……
旦那様、どうか、どうか奥様を…
差し出がましい事だとわかっておりますが、私達全員の総意としてどうか奥様に手を差し伸べてあげて下さいませ……」
「皆…顔を上げてくれ、すまなかった。俺が浅慮だった…噂と伯爵の言い分だけを鵜呑みにして、所詮一年だけだと、ルーカスが選んだ相手だからと…向き合おうともしなかった…自分の事であるのに、お前達に丸投げして……知らなかったでは済まされないないな…
俺の考えや態度は許されるものではない…」
「テオ…エミリーヌ様はな…とても優しくて、とても繊細なんだ…お前が今日屋敷にいると伝えたら、城で働き詰めで疲れているだろうからと、花をお前の部屋と執務室に飾ってもいいかと心配そうに聞いて来られたんだ。お前の為に自分でやりたいと、まぁ結局俺が引き継いだがな…」
「何故…?俺は初対面で非情に言葉を投げつけた、屋敷にも帰らず、昨夜も目も合わせず無関心を通した…」
「その初対面の時に"貴女"と呼んでもらったのが嬉しかったんだとさ、ベッドがあり、食事が3食出てきて挨拶や返事をしてくれる侍女を、自分の為に用意してくれていたと、とても驚いていらしたぞ…。」
「そんな…当たり前の事だ…ろ?」
「テオ、お前は事実を知った。この後どうするか…お前なら正しく行動出来るだろ?
エミリーヌ様は俺達の当たり前が当たり前じゃないんだ…心のキズも癒えるまで時間がかかるかもしれないし…噂の事や実家の伯爵家の事もある…でもな…
お前、自分の奥さんいつまでも泣かせてていいのか?」
「…俺が弱気になる訳にはいかないな…覚悟を決めよう!…伯爵とはキッチリ話をつける!…だが、それよりも俺は彼女の信頼を得られる様努力するぞっ!悲しませる様なことは言わないし、優しくする!お前達も引き続き協力してくれ!」
「「「 旦那様っ!!!!! 」」」
「噂を信じたり、偏見にとらわれず、彼女に接してくれて…寄り添ってくれた事…改めて礼を言う…。ナタリーにも他の使用人達にも後で直接話をしよう…それからリチャード…ありがとう、俺の腐った頭と歪んだ性格を、すんでのところで正常に戻す事が出来たよ…すまなかった。」
「テオ?根に持っているんだな?いいのか?俺達使用人はお前よりエミリーヌ様と多少は親しくなっているんだぞ?ここで俺に意趣返しをするよりもやるべき事があるのではないですか?テオバルト様。」
「そうだっ!…今すぐ謝って、泣くなと言ってくる!」
「………まずは先触れを出しましょう、一緒にお茶を召し上がるのはいかがでしょう?謝るのは正解ですが、例え奥様が涙を流されても、泣くな、ではなくお話を聞いて差し上げるのが宜しいかと…あとハンカチの用意を。リチャード、旦那様が暴走しない様あなたも付いて行きなさい。私は旦那様の代わりに執務に励みましょう…マーサとスチュワートは使用人達への今回の通達と本日の晩餐の手配を盛大に、頼みますよ。旦那様も宜しいですね?」
こうして家令による的確で抜かり無い指示で、改めて一致団結した使用人達と旦那様は、無表情で冷たいと呼ばれていた仮面令嬢から一転、泣き虫になってしまった弱弱奥様を国一番の幸せに者にするべく奮闘した。
エミリーヌの実家である伯爵家は文字通り跡形も無くなった…経緯はエミリーヌの精神衛生上よろしくないとして伝えられる事はなかった…。
エミリーヌの本当の旦那様になったテオバルトはエミリーヌの精神と身体を守り、これでもかと言うほど慈しんだ。
そうやって、お互いの心を預け合った二人は家族となり、子供達と公爵家の使用人達も共に笑顔で幸せな毎日を過ごした。
エミリーヌは自分の幸せの感情を噛み締めながら涙を流すのであった。
テオバルトの奮闘記や実家へのざまぁ、王太子の思惑など、続編か連載かこのまま完結か…
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気弱な少女が頑張るお話も連載投稿中です、お時間ございましたらお立ち寄り下さい。 雪原の白猫