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66.5.幕間

 朝方に通り雨があったようだ。

 異動している最中雨上がりの土の匂い特有の香りが、起きたばかりだと言うのになんだかノスタルジックな気持ちにさせる。

 

 今回の遠征の目的はユリシスから東に二日ほど離れた辺りでドラゴンの鱗らしきものが見つかったという報告があり、その確認の為である。移動門(マイグレーション)を使用できない為、少数精鋭で馬での移動してきた。


「ドラゴンの鱗という事でしたが、これはハズレでしたね」


 エドワルドは『赤い鱗のようなものが落ちていた』と報告を受けていたあたりにまばらに落ちているそれを拾い上げる。


「大きな動物が川からこれを取って、食べずにそこに置いて行ったものだね」

「うーん、どっちも同じように見えるけれど、なんでこんなに色が違うんだろう」

「確かにな。個体差があるのかな」


 ロッサムが手に取ったものは赤いと言えば赤いが、煌めくような赤……ではなくうっすらと赤い程度である。残念ながら、遠目で見たらもしかしたらなにかの鱗かもしれないと勘違いする可能性がかなり低いがありそうなぐらい、の赤さであった。

 

「それにしてもスキュラだったとはな」


 スキュラは川に住む甲殻類で、殻があって食べにくいのであまり一般には食べられていない。

 基本的には生で食べられているものでさらに傷みやすいために流通には向いておらず、知られていないから冷凍して仕入れても結局売れず……。


「スキュラはなー。美味しいんだけどむくのが大変なんだよな」


 エドワルド達からは少し離れたところでこの辺りに実家がある隊員が話をしているのが聞こえた。

 隊の半分以上がスキュラを食べたことがないので美味しさが伝わらないのが残念だと常々思っていると力説している。


 そんなに美味しいのであれば、やはりシズクにお土産に持って行ってもいいかもなどと考えているが、今は仕事中である。取り急ぎ現状の把握が最優先だ。お土産についてはまた後で、だ。


「まぁもうちょっと探してみようか」

 

 アッシュの一声で散り散りになっていく隊員たちは近くに大小の骨を見つけた。水辺であれば多種多様の生き物が来るのだが、それでもきらりと赤く光り輝くドラゴンの鱗は見つかることはなく、何となく赤いスキュラとの見間違えの可能性大とするがこのまま警戒は怠ることのないようにとして、早々に今回の調査自体終了とすることとなった。


「ドラゴンの所在は未だわからずですけれど、この間の件の後からは目撃情報すらほとんどなくなってしまったので、有力情報だと来てみたのですが残念でしたね」


 子ドラゴンを囮にして親ドラゴンを怒らせて街を襲わせるなどという恐ろしい計画があり、なんとか街への被害を出すことなく未然に防げたこともあったわけだが、あの日見送った親子ドラゴンのその姿を見ればどこかの街を襲ったりすることなどないだろうと確信めいたものがアッシュにはあった。

 なので元々なかった目撃情報が本当にこれっぽっちもなくなってしまったところで特段困ることはあまりないのだが、国に報告できる有益な情報がスキュラは新鮮であれば赤く光り輝く鱗を持ち、比較的美味しいというだけになってしまったのは残念である。


 ここまで馬で二日。帰りもさらに二日。


「さて、残念ですけれど今回は帰りましょうか。なんの手土産もないのは残念ですから、新鮮なスキュラを獲って氷漬けにしてから帰りましょう。この隊には何せ凍らせる天才がいますから」


 手土産もなく帰るだけ。本当に残念ではあるが、目撃情報のドラゴンの鱗も見つからず、さらに何の被害もなかったのであれば自分たちの徒労など大した問題ではないのだ。


「途中に村などはないので、帰りは馬達にも頑張ってもらいましょうか」


 水場に戻りスキュラを捕獲し始める。

 網だと外す際に足や髭が絡んで大変なので手づかみで捕まえたら壺に入れて氷魔法で瞬時に凍らせる。


 スキュラを氷の中に閉じ込めるような、何となく氷菓を作るようなイメージで一尾一尾丁寧に凍らせていると、ふとエドワルドは思う。


 見たことのない食材ならシズクもきっと喜ぶだろうな。

 このスキュラもきっと美味しい料理にしてくれるんだろうな。


 ワクワクとしながら、大量のスキュラの氷漬けをこなすエドワルドであった。

お読みいただきありがとうございます。


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