真夜中の来訪
「……っ!?」
日付が変わる寸前に自宅のベッドに横になると、白い影がベッド脇に立った。心臓が飛び跳ね、眠気が一気に消し飛んだ。
「弓弦くん、お茶をしに行こう」
「……あの、僕の今の状態はご理解していますか?」
聞き慣れた声を聞くと、僕はリモコンを操作し照明を点けた。白い影の正体は、不法侵入常習犯の陣貝教授であった。上半身だけを起こした姿で、教授を見上げる。
「ん? 嗚呼、勿論。就寝前だろう? 行ってみたい喫茶店があるから、お茶をしに行こう」
「いやいや……理解していないというか……これは聞く気がないのか……」
無邪気に悪びれる事なく笑顔で答える彼に、常識というものは存在しない。まるでこちら側が悪いことをしているかのような錯覚さえ感じさせる。完全に教授のペースだ。僕はこの状況から逃れる為に、枕に頭を沈めた。
「弓弦くんは、私と出かけたくないのかい?」
「……うぐぅ……。分かりましたから……行きます」
教授は寂しそうな色を菫色の瞳に浮かべる。此処で了承すれば確実に、睡眠時間を返上して付き合うことになるだろう。教授との信頼関係と、睡眠時間の確保どちらを優先するかといえば断然後者だ。
今日も最近起きている『連続カフェイン中毒事件』の捜査で、心身ともに疲れ切っている。しかしこの選択が教授の機嫌を損ね、後の事件の真相から遠ざかるような結果になれば怒られるのは僕だ。意を決し這いずりながら、ベッドから立ち上がる。
「わぁ! 嬉しいな!」
「……そうですか」
笑顔を浮かべて喜ぶ彼を他所に、せめて早く帰れるように努めてよう。閉じそうになる瞼をどうにか開けながら答えた。