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【10000PV 感謝】アリシアキャラバン漫遊記  作者: 武村真/キール
お姫様を目覚めさせる、三つの方法
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お姫様を目覚めさせる、三つの方法

 アリシアにあてがわれた部屋へと戻った四人はそれぞれソファーへと腰を下ろした。

 ちなみにフリッツの部屋にはソファーはなかった。

 階級社会の現実を思い知ったような気がして、フリッツはちょっと落ち込んだ。

 だがもちろん、周囲はそんなことはお構いなしに話を続けていく。


「それで、何故大がかりなことができないの?」


 ソファーに深く持たれ、長い脚を組んだアリシアの姿は、いっそ妖艶であるとさえ言えた。しかし、口から紡がれた言葉は厳しく、目はクリスを射抜くように細められていた。


「そ、それは……」


 常にクリスに対して穏やかに――多少脅す事はあったが――接してきたアリシアの纏う雰囲気が一変している。それに押されるように、クリスは口籠った。


「何故?」


 しかし、アリシアは容赦しない。その外見とお客への接し方から、クリスのように誤解する者は少なくないが、アリシアは、決して穏やかなだけの人間ではない。

 若くしてビットとフリッツを従え、世界を歩き、商売で身を立てる。

 それだけの強さを持っている。

 だから、彼女は必要であれば威圧することも躊躇しない。それが一番適していると判断すれば、そうする。


「クリスティーナ=シェルフェリア」


 アリシアが、名前を読んだ。びくり、とクリスが怯えたように反応する。


「貴方はわたしに助力を求めた。けれど、片手間でやるには大きすぎる」


 圧力を伴った空気が、クリスを圧迫する。

 フリッツは、そこでようやく気づいた。

 クリスは、剣技はそれなりであり、男装して一人旅をするという無茶な行動力こそあるものの――本質的には、弱い。お姫様であるということに

「知っていることをすべて話しなさい。でなければ、この話はなかったことにさせてもらうわ」

「アリシアさん」


 流石に言い過ぎだと思い、フリッツは声をかけた。報酬さえもらえれば、動くこと自体に問題はないと思っていた。


「フリッツ」


 しかし、制止の声はビットからきた。

 全員が驚いて、ビットを見つめた。ビットは臆することもなく、口を開く。


「フリッツ。それからクリスさん。夢魔についてどれだけ知っていますか?」


 その質問に二人はそろって首を横に振った。ビットはそうですか、とうなずいて続ける。


「夢魔は魔族と呼ばれる種族の一種です。かつて神話の時代に争いに敗れ、毒素に侵されているとされる彼らの中で唯一、外見では人間とまったく区別がつきません。それだけに人間社会には最も多くいる魔族です」


 すらすらと述べるビットに、フリッツとクリスは目を丸くするが、ビットは気にも止めずになおも続ける。


「彼らは決して強い魔族ではありません。それでも、人間とは大きな開きがあります。ですから、彼らを相手にせずに事が解決するならば、それに越したことはないのです」


 最後の一文の意味がわからず、フリッツは疑問の視線を向けるが、ビットは話は終わりとばかりに口を閉ざした。

 その様子を見たアリシアが、苦笑を浮かべて付け加える。


「夢魔の眠りを覚ます方法は、三つあるわ」


 クリスの瞳が大きく見開かれ、再びアリシアへと視線が動く。

 アリシアは視線を受けても動じることもなく、続ける。


「一つは、自分の意志で夢魔の魔法を破ること。まあこれは人間にはほぼ不可能ね。もう一つは、さっきから言っている通り、大きな神殿で解呪の儀式を行うこと。それから、最後の一つが……」

 食い入るように見つめるクリスの視線に、真っ向から視線を返し、アリシアは告げる。

「最後の一つが、術者である夢魔を、殺すことよ」


 フリッツにも不可能と思える、その方法を。

 しかしクリスは、福音を受けたかのような表情で、頷いた。


「では……」

「自分の実力をわきまえなさい」


 期待を込めて何かを口にしようとするクリスを、アリシアはぴしゃりと封じた。


「え? 貴方たちは依頼を受けてくれないのですか?」

「わたし達は商人が本業よ。理由も聞かされずに、危険な方法を取るつもりはまったくないわ」


 クリスがすがるような視線を向けても、アリシアは取り合わない。当然といえば、当然であった。


「だから、情報を出しなさい。商人風情と、考えるのはもうやめなさい」

「……」


 ついに口にする言葉を失ったクリスに、アリシアは少しだけ微笑んで言った。


「わたし達はしばらくこの街で仕入れをするわ。その気になったら、また来なさい」


 その言葉を最後に、部屋に沈黙が満ちる。


「……はい」


 うつむいて、拳を震わせながら、絞り出すように答えたクリスが、やけにフリッツの脳裏に残った。

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