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9話 奴隷の少女

 エリカはもともと辺境にある小さな村に住むごく普通の少女。家庭は貧しく食事も一日一食だけ。


 家は薄く安い木材で建築されたため、すきま風が入り、雨の日は屋根から水滴が床に滴り落ち、木材は雨に濡れ、水を吸収してはやがて腐っていく。


 そのたびに新しい木材を買い替え修繕する余裕はない。


 だけどエリカにとってはそんなことどうでも良かった――どんなに貧しくても優しい両親さえ自分のそばにいてくれれば。


 エリカの両親はとても優しく、他人に気遣いができ、村の中での評判は高かった。なにか困りごとなどがあれば村の皆は頼りにして寄ってくる。


 だが、そんな平穏で笑顔で満ちた生活は長くは続かず、人間と魔族との大規模な戦争が始まったのだ。


 それによって敗国の民は皆、奴隷落ちし、体に鞭を打ってでも働き王族はその場で処刑された。


 あえて奴隷落ちした民衆の前で公開処刑してはそれを見せつけ恐怖による政治改革を進める。


 この恐怖政治を始めたのは当時、魔王の座に就いたレイの方針だと言う者もいたが実際は違う。


 むしろレイはその真逆。世界中の誰よりも平和を望み、行動した。


 その行動に対し偽善者だの、なにかの罠と言う者までいる始末。


 この世界は腐っている。人間も魔族も両方。


 当時、子供だったエリカは両親ともはぐれ、その悲惨な状況を受け入れられず村から一人逃亡した。


 両親がどこに連れて行かれたのかはわからない。


 一つだけ言えることは、もうこの村に両親はいないということだけだ。


 あの時の記憶と気持ちは忘れられない。奴隷達を殴りつけ口もとに笑みを浮かべる大人の顔。激痛で泣き叫ぶ子供や女性達。そして、横たわる奴隷の悲惨な姿。頭部からは赤い血が流れ、身体中に殴られた跡がまだくっきりと残っている。


 それはものすごく痛々しく心の底から恐怖が込み上げてくる。


 自分も同じような目に遭うのではないかと……。


 それでもエリカには諦めきれないことが一つある――両親を探すことだ。


 勇気を振り絞り村から一人逃げ出したエリカは両親を探すため当時、大国だった『魔国サジル』を目指した。


 いつ逃亡したことを気づかれてもおかしくない。


 エリカはひたすら走り続ける――辺りには誰もいないはずなのだが常に監視されているような感覚。


 自分に植えつけられた恐怖によって地面に転がる小石にも恐怖を覚える。


 だが、進まない限りは両親との再会は果たせない。


 いるかもわからない場所を目指して走り続けるのもバカらしく感じる日もあった。


――だけど、だけど少しでもそこに希望があるなら。


 その思いを胸にエリカは走り続ける。


 そして、『魔国サジル』に辿り着いたと同時に空腹と睡魔に襲われ、エリカはひっそりと路地裏で眠りに就いたのだった。



 朝になり路地裏に太陽の光が差し込み、辺りを明るく照らし、大通りは活気に満ちていた。労働者達の掛け声が街中に響き、露店の店主なども声を張り上げ商品の説明を繰り返す。


 そよ風が吹くと飲食店が開店したのか、料理の美味しそうな匂いがエリカのもとに漂う。


 それに反応してかエリカの腹も鳴り始めるのだった。


「……おなかすいた……」


 エリカがそう呟いた時、目の前に一人の青年が突如現れ歩み寄ってくる。


「君、大丈夫かい?」


 この言葉だけでエリカは救われた気がした。


 誰かはわからないけど気にかけ心配してくれている。


 今まで両親以外に心配されたことなどなかったエリカにとっては、心の底から嬉しさが込み上げてはくるが所詮は赤の他人。


 本当に自分のことを心配しているのかもわからない――どうしても、そう思ってしまう。


 人は信用できない。


 自分の都合のいいように物事を考えるし、平気で人を裏切る者までいる。


 この人もなにかを企んでいるに違いない。


 当時のエリカはそう思っていたのだ。


 だけど……間違いだった。


 その青年は自分のことをレイと名乗り、当時ガリガリで痩せ細っていたエリカに食料を渡し、さらには両親まで一緒に探してくれたのだ。


 結果的に両親は見つからなかったが、エリカはそれでもいいと思い始めていた。


 レイは奴隷の自分に居場所を与え、二人で笑い合っては悲しんでさまざまな感情が交差するなかで生活し毎日が輝いていたからだ。


 そんなエリカにとってレイという存在は恩人でもあり、生まれて初めて恋心を抱いた男性でもある。


 エリカはレイのためならと剣の稽古や魔法の勉学などすべてに於いて全力を注いだ。


 だが、ある時――予想もしなかった出来事が訪れた。

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